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デザイン思考 うまくいかない典型的な14の理由|新事業創出や新サービス開発で留意すべきこと

新商品・サービス企画や、顧客体験向上プロジェクトなどで、デザイン思考を取り入れる企業が増えています。
デザイン思考は、顧客の状況を観察して問題定義をし、顧客の問題を解決するクリエイティブなソリューション(商品やサービス開発・施策)を生み出すユーザー中心の問題解決手法。

モノ売りのプロダクトアウト発想でなく、顧客課題から考えるため、うまく行きやすいと期待されますが、どうもうまくいかないケースも多いようです。

デザイン思考がうまくいかない典型的なパターンや理由と、どう留意すれば良いか紹介します。

 

■デザイン思考の基本ダイアグラム

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 観察/共感、問題定義、アイデア創出、プロトタイピング、検証

1. 観察&共感(Empathize)
ターゲット顧客を、観察を通じて理解します。常にユーザー視点を持つことが大切。

2. 課題定義(Define)
ユーザーが抱える課題やその背景や理由を明確にします。適切な質問と傾聴により、より深い、より本質的な問題を特定します。

3. アイデア創出(Ideate)
見出した課題を解消するためのアイデアを出します。思いつく限りのアイデア出します。 

4. プロトタイピング(Prototype)
イデアの検証のために、プロトタイプを作成します。アイデアが目に見える形になることで、より具体化でき、ニュアンスやイメージを共有しやすくなります。

5. 検証(Test)
プロトタイプを用いて、ターゲット顧客に向けて検証・改善を繰り返します。試行錯誤しながら、ユーザーの問題解決につながるアウトプットに近づけて行きます。

 

■デザイン思考がうまくいかない、典型的な14の理由 

デザイン思考がうまくいかない場合の、典型的な理由リストアップです。

【観察〜課題定義まで】

① 想定顧客を定義していない
② 課題の発見・定義が重要だと理解していない
③ ユーザー視点でなく、自社視点になっている
④ 思い込みで課題を妄想する/顧客の観察をしていない
⑤ 自分たちはなんでもわかっていると勘違いしている
⑥ 課題の発見・定義ができていない/浅い

 【アイデア創出〜検証まで】

⑦ 自社商品やサービスなど答えありき
⑧ プロトタイプが、完成系だと思い込んでしまう
⑨ 何のために何を検証すれば良いかわかっていない 

【全体的に】

⑩ 手戻りを許容しない/プロセスは進むものと思い込んでいる
⑪ デザイン思考を使いさえすれば、うまくいくと思っている。
⑫ 試行錯誤や失敗が許容される雰囲気がない。
⑬ 発散型の思考や自分の頭で発想するクセがない
⑭ 意思決定者やリーダーが、変革や新事業創出するつもりがない

過去に自分がやってしまった失敗だ!と身に覚えあるものも、あるかもしれません。
うまくいかない理由と、そうならないような対処・留意すべきことを説明します。 

 

■ 観察〜課題定義

日本人・日本企業の多くは、与えられた課題に対して、課題解決方法を考えたり、期限を守って実行するのは、非常に上手と言われます。

その一方で、何が課題であるか捉えたり、一見問題がないように見える中から新たに課題を見出すのは、不得意・不慣れな人が多い。

解決すべき「課題の定義」が上手くできなければ、デザイン思考でも他の考え方でも、当然上手くいきません。解決する対象がありませんもの。

 

① 想定顧客を定義していない

デザイン思考 上手くいかない 想定顧客を定義していない

新規事業に取り組む際、「誰が想定顧客層か」を最初に定義することが必須です。これをせずに、事業開発が上手くいくケースは稀です。

既存事業の場合、「誰が顧客か」気にする必要はありません。"既存" 事業ですから、想定顧客やユーザー層は既に決まっています。
しかし新規事業の場合、「誰が顧客か」を定めるところから始まります。「誰が顧客か」の定義なしに、課題の調査さえできません。

起業経験者や新規事業経験者は、「誰が想定顧客層か」を定義する重要性を経験を通じて理解しています。

ところが、新規事業に初めて取り組む人は、この点に気づかず、肌感覚で理解することが難しいようです。その結果、想定顧客定義の検討することなく、無自覚のうちになんとなく既存顧客の課題探しをしてしまい、デザイン思考を用いても上手く新事業を作ることができません。

 

② 課題の発見・定義が重要だと理解していない

課題解決するには、その課題を見出して課題を明確にしなければ、解決しようがありません。

日本は成熟社会で、物質的に十分豊かで、多くのことは既にある程度以上に解決されています。また日本人は環境適応力や忍耐力が高いため、不満があっても「そんなもんだ」と仕方ないものと受け入れる傾向にあります。

そのような中で、生活者やユーザーの不条理や不満、イライラや堪え難いストレスなどを課題として見出すのは、多くの人にとっては容易ではありません。
これまで認識されなかったことを解決すべき課題として見出し、解決できるプロダクトやソリューションを作り、市場や顧客に受け入れられれば、それはイノベーションと呼ばれるようになります。

デザイン思考は「問題解決の手法」と言われます。しかし、多くの人たちが見落としているのが、デザイン思考は問題解決よりも前からスタートする、ということ。いくら問題解決が上手でも、まず「何の問題を解決すべきか」を分かっていなければ始まりません。
身の回りの世界を観察し、問題を発見するセンサーを磨く。この意識こそデザイン思考に必要なもの。
「課題解決」の前に「課題発見」の手法:日経クロストレンド

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デザイン思考とは解決策を探すためだけのものではなく、解決策を探すのと同じレベルで、正しい「問い」を見つけることがデザイン思考の真骨頂。正しい「問い」を見つけること、それ自体ハイレベルなクリエイティビティを要するプロセスです。
IDEO ティム・ブラウンに問うデザイン思考|センタードット

多くの例を見てきて言えるのは、「問い」自体が革新的であるほど、答えも革新的になります。反対に、つまらない問いは、つまらない解決策しか生み出しません。
多くの企業は、つまらない、誰でも思いつくような問いしか思いつかないので、つまらないありきたりな解決策に落ち着いてしまう。
デザイン思考の重要な技術は、革新的な問いを思いつくことにあります。
IDEO ティム・ブラウンに問うデザイン思考|センタードット 

ソリューションやなくて、問題定義の方で差別化するねん。
ソリューションが画期的かどうかはユーザーにとって関係ない。なぜなら、画期的ソリューションであっても、自分の課題を解決しないプロダクトにユーザーはお金を払わないから。
新規事業にて、差別化すべき点は「その目の付け所、画期的やわ〜!」という問題定義の部分なのだ。
ここがちゃうねんデザイン思考

 

③ ユーザー視点でなく、自社視点になっている

デザイン思考 上手くいかない 自社視点になっている

課題の検討をするとき、「ユーザーの課題」ではなく、「自社や業界の課題」の検討をしてしまう人が多いです。それが無意識のクセとして、染み付いてしまっているのでしょう。
「ユーザー視点になる」「顧客視点で捉える」というのは、一見簡単なように見えて、極度に難しい行為です。なぜなら、自社視点が普通の状態になっており、そうなっていることに気づくことさえ難しいから。

ユーザー視点になる、とても簡単で効果的な方法は、ユーザーに10人以上会って、困っていることを伺い、日常の様子を観察することです。10人より30人、30人より100人の方が当然良いです。
困った様子や悩みを10人以上から伺えば、その状況に共感したり、どうにかできないものかと感じるものです。(サイコパスな方は除きます)

ビジネスパーソンの考え方は、利益や売上など自分たちのメリットにフォーカスして、事業モデルやサービスを構築(デザイン)します。
しかし、デザイナーの考え方は違います。ユーザーが価値を感じそうなことや、悩んでいることを主軸にしてデザインを考える。ユーザー視点でアイデアを出し、検証と改善を繰り返しながらクオリティーの高いものを生み出すのが「デザイン思考」。
なぜ日本企業では「デザイン思考」が浸透しない?|HIP

 

④ 思い込みで課題を妄想する/顧客の観察をしていない

デザイン思考というと、必ず、この様子の画像を目にします。ポストイットを使って、アイデア出し。

デザイン思考 上手くいかない ポストイット

もしも、課題定義の段階で、この画像のようにやってしまっていたら、上手くいくはずがありません。

おしゃれなオフィスでリラックスしながら、社員とコンサル会社のモデレーターとともに、思いつく限り、ユーザーの課題を洗い出す。
そこで洗い出された課題は、全て、勝手な思い込みの妄想課題です。

妄想課題でなく、実際の課題を見出す方法は、極めて単純明快。おしゃれなオフィスを離れて、ユーザーに10人以上会って、困っていることを伺い、日常の様子を観察すること。
自社の会議室でインタビューより、ユーザーの生活環境に赴き、その様子を観察する方が、はるかに有益な情報を得られます。

優れた問いを見つける方法は、顧客の視点に立つこと。部屋の中に閉じこもっているのではなく、外へ出て顧客となる人々に会い、何を欲しているのかを理解するべき。
IDEO ティム・ブラウンに問うデザイン思考|センタードット

オフィスの外に出て、ユーザーと時間を過ごし、馴染みのないことにも挑戦する。自分たちの課題の世界に主体的に没入し、直感的にユーザーの体験を理解し、共感することが目的だ。
人間中心の「デザインリサーチ」とは|Forbes JAPAN

 

⑤ 自分たちはなんでもわかっていると勘違いしている

特に大企業の人は、自社は何でもできる、自社は何でもわかっていると、誤って思い込んでいる方が少なくありません。
"今までと同じこと" をする場合は、確かに何でもわかっているのでしょう。

しかし、新商品・新プロダクト開発や新事業に取り組む際は、未知のことが多いです。「わかっていないことが沢山ある」という態度で臨まない限り、どれだけ顧客の様子を観察しても、まともな洞察は得られないででしょう。

歴史と実績を誇る大企業の場合、社内にほとんどの知見や情報があると信じ、まっさらな状態でインスピレーションを求めにいくことを、無駄だと感じてしまう人もいるようだ。だが、同じリサーチを過去に誰かがやっていたとしても、自分自身が主観を持って新たなインスピレーション探しを行う過程で得られる学びは計り知れない。
デザイン思考を プロセスより大事なこと|Forbes JAPAN

 

⑥ 課題の発見・定義ができていない/浅い

既述の①〜⑤の理由により、課題発見や定義ができない、ありきたりな課題で浅いままのことが多いそう。課題の定義がまともにできていない状態で、その課題を解決しようとするアイデア創出に進むと、その後の膨大な作業は、ほぼ無駄になる可能性が高い。解くべき課題が定まっていないのですから。

革新的なプロダクトを作ろうとするのでなく、「なんでその問題は、21世紀の今でも放置されたままになってるんだ!」と感じるような課題を見出したいところです。

デザイン思考を使うには、解決するべき問題やテーマの存在が不可欠であるにもかかわらず、往々にして解決するべき問題やテーマが見つからないということが起きる。
IDEO ティム・ブラウンに問うデザイン思考|センタードット 

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新しい物事を生み出そうとするとき、何が課題であるか見えていないことがほとんど。最初からアウトプットを出すことに意識を向けず、本当の意味で解決したいこと、提供したい価値を考えることで、正しいスタート地点に立つことができる。
デザイン思考を プロセスより大事なこと|Forbes JAPAN

日本企業は、課題さえはっきりすればそれを解くことは非常にたけています。ところが今、IDEOへくる企業の話を聞いていると、そもそも「お題」が見えていない。例えば「モビリティで何かをしたい」といった抽象的なレベルで、まだ「お題」になっていません。 
日本には「変化のためのデザイン」が必要:日経クロストレンド

新規事業やイノベーションとなると、今までにない新しいものを作らなければ、新しいアイデアを考えなければ、と思い込んでしまうかもしれません。

しかし実際にはそうではなく、今まで解決されていない問題を捉え、それを既存より素晴らしい方法で解決できるプロダクト創出を目指すべきです。
集中すべきは、今までにないアイデア・プロダクトではなく、今まで解決されていない問題です。

未解決課題を解決できるプロダクトは、これまでの延長線上にない、今までにないプロダクトに、自ずとならざるを得ません。
それが市場や顧客に受け入れられたならば、結果として人々からイノベーティブなプロダクトと呼ばれるものになります。

 

■アイデア創出〜検証まで

⑦ 自社商品やサービスなど答えありき

成熟企業には多くの自社商品やサービスがあり、顧客はそれを買うものだという認識を、無意識のうちに思っている方が多いです。そのため、アイデア創出までは自由にできた場合でも、その後に具現化する段階で、無意識に自社商品ありきになってしまうことが少なくないようです。
"アイデア創出〜プロトタイピング〜検証" は、アイデアを素早く形にし、ユーザーに見せて/体験させて、そのフィードバックを得て検証と改善を繰り返し、よりユーザー課題解消につながるもの・クオリティーの高いものを生み出す狙いです。

デザイン思考を10年前から取り入れてきたのに、実業では直接目に見える成果が出ていない。
日本のメーカーは課題設定をした後、ある程度の答えを先に決め、一生懸命その答えに向かってアプローチしがちです。デザイン思考をやったつもりでも、実は表面的な問題解決にとどまってしまう。
話せば生まれるコラボ 富士フイルム流のデザイン思考|NIKKEI STYLE

新しいものを生み出そうとする取り組みは、事前に答えは分かりません。しかし日本企業では往々にして、先に「落としどころ」を求められます(落とし所があるものだと思い込んでいる)。落としどころが見えていたら、そもそもプロジェクトをやる必要がありません。
デザイン思考の実践へ、6つの壁を乗り越えろ:日経クロストレンド

デザイン思考 うまくいかない理由

 

⑧ プロトタイプが、完成系だと思い込んでしまう

課題解決のアイデアと、それをある程度の具体的な形にするプロトタイプは、「こういうサービス・製品だったら、ユーザーの課題解決できるのでは」という仮説、正確に言えば、妄想や思い込みを目に見える形にしたものに過ぎません。

人間は、目に見えないものにはコメントできませんが、プロトタイプにして目に見えさえすれば、様々な感想や意見、文句や感情表現をしてくれます。
ユーザーの感想や意見、文句や感情表現を引き出すために、目に見えるプロトタイプが必要です。上記の目的を達成できる最低限のレベルを、最小のコストと時間で作るのがプロトタイプ制作です。

日本人は完璧主義になりがち。日本の物作りの巧妙さや美しさは素晴らしいことだが、反面、て新しいことをやろうとする際には、足枷となる。
プロトタイプを展示会に出展しようとすると、日本人は不安な反応を示す。実験の意図はユーザーからフィードバックを受けること。本格的に製品化して市場に出す前に、改善すべき点を知れることは素晴らしい。
デザイン思考を プロセスより大事なこと|Forbes JAPAN

イデアを試すとき、プロトタイプに完璧を求めてしまう。「完璧なプロトタイプ」はそもそも矛盾しているんですけどね。原因の1つはプロトタイプにお金をかけすぎること。プロトタイプ製作に2000万円もかけてしまっては、もはや否定するわけにはいきません。
デザイン思考の実践へ、6つの壁を乗り越えろ:日経クロストレンド

もっと実験上手にならなければいけない。コストかけずに小さい失敗をしやすくし、実験の数を増やすこと。コンセプトやアイデアを試すプロトタイプ段階では、段ボールのモックアップでも意図するところは検証できます。仕上げやリスクなど、後で考えればよいことを早くから心配し過ぎ。
デザイン思考の実践へ、6つの壁を乗り越えろ:日経クロストレンド

 

⑨ 何のために何を検証すれば良いかわかっていない 

"検証"や"評価は"、その作業自体が目的ではなく、ユーザーの様々な感想や意見、文句や感情表現から情報を収集し、プロトタイプに修正を加え、それを繰り返すことで、販売できるレベルまでプロダクトをブラッシュアップします。

場合によっては、修正では済まず、アイデア創出フェーズまで戻る必要があるかもしれません。この段階まで来てから、そもそもそのユーザーにそんな課題はなかった、となってしまうのは、できれば避けたいもので、そのためには、最初のユーザー観察と共感・課題定義が極めて重要になります。

 

■全体的に

⑩ 手戻りを許容しない/プロセスを進むものと思い込んでいる

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デザイン思考の説明図がいつもこの六角形だからか、プロセスだと思い込む人が多く、プロセスが直線的に進むものだと勝手に思い込む人が多いそう。

既存事業では、何をやれば良いか決まっており、物事はプロセスに沿って、期限を守って進められます。
しかし、新しい取り組みは、新規事業のようなゼロイチはもちろん、あやふやな状況から始まり、時間通りプロセスに沿って物事が進む、いうことは現実にはありません。(時間厳守に進めることを目的・最重要とすれば、もちろん進みますが、その結果は推して知るべし。)

問いの定義づけをし、外へ出て顧客を観察したり、時にはリサーチします。こういう作業を繰り返すと、当初とは異なる問いが生まれることも。問いを進化させていくうちに、解決策にたどり着くこともありますし、更に新しい問いを発見することも。このように、解決策と問いの間を行き来するのが、イノベーションのプロセスには重要なのです。
IDEO ティム・ブラウンに問うデザイン思考|センタードット

プロセス重視はプロセス厳守とはちゃうねん。
プロセス定義されていると、プロセスをフォローすることに気持ちが行ってしまうが、プロセスをこの順番通りに行えという訳では無い。実際は、このプロセスを行き来することもあれば、全く違うプロセスに飛ぶことだってある。デザイン思考の原則を重視して取組でいるのであれば、何も問題はない。
ここがちゃうねんデザイン思考

プロジェクト体制が「リレー式の役割分担」になってしまう問題があす。仕事の結果だけを次プロセスに渡し、最初に関わった人は「手離れ」する。しかし新しいものを生み出すには、異なる立場の関係者を、初めから終わりまで巻き込む方がうまくいきます。視野を広げる上でも効果的だし、後工程の関係者とプロセス共有することで意識を共有でき、共感による大きな波及効果を望めます。 
デザイン思考の実践へ、6つの壁を乗り越えろ:日経クロストレンド

 

⑪ デザイン思考を使いさえすれば、うまくいくと思っている。

デザイン思考は簡単に身につき、簡単に使え、簡単に上手くいくと思い込んでいる人が多いそうです。

ものごとの考え方・取り組みの考え方ですから、ワークショップ参加や本を読むだけで、使いこなせるはずがありません。何度何度も実地で経験し、失敗を繰り返しながら、身につけていくものです。
ゴルフやテニスなどのスポーツも、楽器や絵画や書道も、テキストを読むだけで、体験スクールに参加するだけで、十分上手になりませんよね。デザイン思考もそれと同じです

デザイン思考 うまくいかない

書籍を読んで、ワークショップに1、2度参加して、次に自分でやったらうまくいかなかった──それで当たり前。
ワークショップがデザイン思考そのものだと思わないでほしい。ワークショップは、人工的なセッティングで、仮想テーマによる実験で、リハーサルです。肝心なのはそれを、自分の現業に生かしていくこと。
デザイン思考使いこなすのに時間がかかる:日経クロストレンド

理解することと実践することの間には、大きなギャップがあります。デザイン思考はあくまで道具。よい家を建てるためには、よい大工道具は大事ですが、それ以上に腕のよい職人、正しい道具の使い方、ハードワークが必要なのです。
何回か実践して、小さな成功体験を重ねていくことが大事です。
デザイン思考は使いこなすのに時間がかかる:日経クロストレンド 

デザインシンキングのワークショップが流行っており、「ブートキャンプ」と呼ばれる1〜2日間の催しに、企業は何百ドル、何千ドルも払って参加している。
こんな短期間に容易に学べるメソッドで、参加者は本当に問題を解決できるのでしょうか? 私にはまるで、トレーニングはしたくないけれど、オリンピック選手になりたいと言っているように聞こえます。
「デザインシンキングなんて糞食らえ」|AXIS

 

⑫ 試行錯誤や失敗が許容される雰囲気がない。

既存事業では、何をやれば良いか決まっており、失敗が許容される雰囲気ではないでしょう。当然です。効率的に進めて合理的に判断し、90-100%の成功率が求められて当然です。

一方で、新しい取り組みは、何が正しいかわかりません。例えば新規事業のようなゼロイチは、そもそも成功率は10%未満と言われます。

参考:新規事業の成功率は10%未満 ◉新規事業 成功確率を上げるため大切なこと

失敗が許容される雰囲気かというレベルの論点ではなく、そもそも90%は失敗。普通にやったら90%は失敗です。
10%未満の成功率を、何とかして高めようとする試みです。アイデアを素早く試して、アイデアの拡散と収束を繰り返して試行錯誤する以外に、選択肢がないという状況があります。

日本企業の多くが、初期段階で最も抵抗を感じやすいのが「不確実な状況」をよしとすること。デザイン思考において、様々なインスピレーションを得る過程で生まれる非連続の思考を大切にし、結論を急がない。
デザイン思考を プロセスより大事なこと|Forbes JAPAN

「デザイン思考」で大事なのは、「失敗する自由」「探検する自由」を与えること。新しい価値がどこにあるのかは、誰にもわからない。勇気を出して踏み込んでも、見つかる保証はありません。それでもチャレンジしなければ、新たな発見を見出すことはできないのです。失敗は新しい価値を生み出すプロセス。
だからこそ、日本の企業には、もっと失敗を許容する土壌が必要です。
なぜ日本企業では「デザイン思考」が浸透しない?|HIP

デザイン思考はメソッドちゃうねん、マインドセットやねん。
デザイン思考は、プロセスや「メソッド(やり方)」と捉える人も多いが、読んで字のごとく「思考」のこと。つまり「マインドセット(考え方)」のことを指している。
ここがちゃうねんデザイン思考

現在の組織の多くが、組織体制から評価方法、意思決定の手順まで、すべてロジカル思考、つまり「絞り込む」ための手法に合わせて出来上がっている。その環境の中で新しいアイデアを出しても適切に評価されず、つぶされてしまう。
日本には「変化のためのデザイン」が必要:日経クロストレンド

難しいのは中間層と、中間から少し上にいる人たち。今までずっと上から「本当にうまくいくのか?」「裏付けは?」「実例は?」と言われ続けてきたのに、急に「もっと実験せよ、失敗を積め」と言われても、動けませんよね。上からは「新しいことをしろ」、下からは「あなたのやり方は古い 」と言われて、今、最もつらい立場の人たち、かつ変わることを求められている人たちです。
デザイン思考の実践へ、6つの壁を乗り越えろ:日経クロストレンド

 

 発散型の思考や自分の頭で発想するクセがない

大企業に勤めると、"上司が答えを持っている"と思い込む、外注先企業に企画から丸投げするクセ、外注先から複数提案された中から"選べば良い"という思考回路になるのが、典型的だそうです。
また、成熟した事業では様々な業務内容やプロセスは、ほとんど20世紀のうちに整備済みで、その業務やプロセスがなぜそうなっているか考える必要がなく、既存ルールを遵守するよう指導教育されるそう。

どれだけ優秀な人であっても、そのような環境に数年いると、それが当たり前になります。むしろ環境順応性も高いから、優秀なのです。そのような中で "自由に発散して考えろ"、"自分の頭で考えろ"、といきなり言われても、何をどうすれば良いかわからないのは無理もありません。

デザイン思考(クリエイティビティに必要な発散型)を進める大きなネックになっているのが、これまで収束型の行動原理を身につけてきた人たちが、なかなかそれを変えられないこと。特に意思決定の仕方が問題です。
日本には「変化のためのデザイン」が必要:日経クロストレンド 

インプットを咀嚼してインサイトを導きアイデアにつなげる際には、抽象的なふわふわした思考が必要です。ところがそこで「これ本当に着地するの?」と不安になってしまう。あいまいさが苦手で、具体的な結果を急いでしまう。
 デザイン思考の実践へ、6つの壁を乗り越えろ:日経クロストレンド 

 

⑭ 意思決定者やリーダーが、変革や新事業創出するつもりがない

"デザイン思考 うまくいかない典型的" に限らず、手法や目的が何であれ、新しい取り組みがうまくいかない典型的な理由です。

ただ実際には、社長など経営トップが事業変革や新事業創出するつもりがないことは少なく、その下の執行役員・事業部長・部長クラスがそのつもりがないことが多いそう、失敗すると昇進に響くからです。

あなたの変革や新事業創出への熱意が本物ならば、直属の上司や意思決定者がやる気なくとも、変革や新事業創出のあなたの熱意は消えることはないでしょう。経営トップや変革に熱意ある別部門の役員・部長クラスと連携を図りたいですね。

参考:イノベーション創出に必須の 失敗・継続性・独創性・異端

組織のリーダーが強い信念を持つことです。リーダーが本心から変革が必要だと思っていなければ、実現することはできません。リーダーは、変革が必要だという信念を、はっきり表明する必要があります。
IDEO ティム・ブラウンに問うデザイン思考|センタードット

イノベーション創出プロジェクトには、うまくいくものも、途中で頓挫してしまうものもある。頓挫してしまうケースは、決定権者が不在の場合がほとんど。リーダー不在のイノベーションの実現はありえない。
IDEO ティム・ブラウンに問うデザイン思考|センタードット

新しいアイデアを生むのはそれほど難しいことではありません。一方で、それを実行に移すのは時間もリソースも必要ですし、リスクを伴った行為なので、多くの会社が躊躇してしまう。実行に移す勇気が必要です。
IDEO ティム・ブラウンに問うデザイン思考|センタードット

経営層の関わり方は、一番良いのはトップがプロジェクトの一員として参加する形。フルコースでの参加が難しくても、少なくとも「トップは最後に評価・判断を下すだけ」という形は崩していく必要がある。 
デザイン思考の実践へ、6つの壁を乗り越えろ:日経クロストレンド

 

 

 

【ゼロイチ 要約】"0"から"1"を生み出す思考法|ソフトバンクpepper, 家族ロボットLAVOT(ラボット)を生み出す思考法

「今までになかったものを作りたい。」

企業における新規事業、その中でも世の中になかった新しい価値を生み出すゼロイチ新規事業。トヨタ社でスーパーカー「レクサスLFA」に携わり、ソフトバンクで「Pepper」開発責任者として牽引した林氏の、ゼロからイチを生み出す思考法のサマリーです。

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 ・ゼロイチ仕事に必要なのは、"才能" でなく "練習" 。ゼロイチを成し遂げる唯一の方法は、ゼロイチにチャレンジし続けること。
・ゼロイチをやろうと、実際に行動を起こすことによって、ゼロイチに必要な回路を脳は自ら作り上げる。「知識」だけでは弱く、実際に「経験」することで、脳の回路が大きく変わる。
・その一歩はもちろん怖く、組織で共有されている "常識の外" へ踏み出すため、必ず批判や軋轢が生まれ、必然的に社内では "非主流" になるため、孤独や不安と戦うことを強いられる。
・ゼロイチを成し遂げてきた人は、例外なくリスクを恐れずゼロイチに挑戦し続けている。つまり、枠をほんの少し飛び出す練習を重ねているかどうかが、ゼロイチの成否を分ける。

 

■「失敗」の向こうにゼロイチはある

●優秀なエース級は、ゼロイチに向かない。
・エース級の優秀な人は、守るべきピカピカなキャリアや社内からの評価がある。そのため、失敗可能性の高い、新規事業含めた新しいことに挑戦する心理的抵抗が強くなる。
・実際に、2番手3番手以下のグループに属する人に、ゼロイチ新規事業プロジェクトが回ってくること多い。既存部門の責任者は、エース級を新規事業に差し出すメリットがない。エース級を手放さないのは、極めて合理的なこと。

●少々バカでも、とにかくやってみて、失敗できる人が強い。
・深く考えすぎずやってみるからこそ、いろいろな経験ができる。特に重要なのが、失敗体験。失敗は痛みが伴うため、そのときの学びが深く身体に刻まれる。
・手痛い失敗経験をもとに、他の経験においても「このまま進めたら危ない」というアラームが無意識的に鳴るようになる。そのような経験の積み重ねにより、新しいことにチャレンジするときの「勘所」を体得できるようになる。

・ゼロイチを生み出すプロセスでは、とにかくやってみるが威力を発揮する。なぜなら、ゼロイチには「用意された答え」がないから。探しても答えがないなら、試行錯誤を繰り返して、答えに「にじり寄っていく」ほか無い。
・次から次に思いついたものをやり、その結果からフィードバックを受け取って、次のチャレンジに活かす。このプロセスの繰り返しが、ゼロイチの成否を握っている。

・失敗リスクがあることに努力を惜しまず、とにかくやってみることで、無数の失敗から学びっつ、ゼロイチの「答え」を見出すことができる。
・「賢いけど失敗のできない人」より、「ちょっと ”おバカ” でも失敗できる人」のほうが、ゼロイチでは圧倒的に大事。「失敗」に対する姿勢こそが、本質的に重要なポイント。

ゼロイチ ソフトバンク GrooveX

●「コンフリクト」を恐れては、ゼロイチは生まれない。
・ 自分が正しいと思ったことは、少数意見であっても強く主張する。自分なりによく考えたうえで「これは、いける!」というアイデアであれば、堂々と口にするべき。
・アイデアは「批判」によって鍛えられる。新しいアイデアは、上司や同僚の常識、業界の常識から外れているケースも多く、批判されない程度ならゼロイチではないとさえ言える。

・批判を受けるのは苦痛だが、ゼロイチにとっては、この批判を受けるプロセスが不可欠。
・すべてのゼロイチの種となるアイデアは「仮説」に過ぎず、批判にさらされ、率直な議論をかわすことで、「仮説」を検証して精度をあげるプロセスが絶対に必要。
・そのために、まず周囲の思惑を度外視して、自分が正しいと思うアイデアを堂々と主張してみることが大切。批判を恐れて、"尖ったアイデア” を丸めてしまっては、正しい検証プロセースを経ることができなくなってしまう。

・批判や意見は一度すべて受け止め、冷静に状況を認識する。その上で、批判や意見をひとつずつ検証していく。自分が見過ごした観点を得られる場合は、相手に感謝し、アイデアに修正を加えれば良い。一方、じっくり考えた結果、「その批判はあたらない」と思える場合は、批判者が上司や多数派であろうが、その批判に負けず、しなやかに自らの主張を貫く努力をすべき。
・一度、客観的な検証を経たアイデアは、必ず、その強度を高めてい流。

 

■ゼロイチの主戦場は「無意識」である

●「不満」や「違和感」を感じて、何とかしたいと動ける人はゼロイチ向き
・「不満」を感じるのは、世の中に対して「違和感」を感じるセンサーが鋭敏な証拠。
・「何かが足りないと」か、「何か余分なも のがある」とか、とにかく不合理的で不便だったり、その場に相応しくないからこそ、不満や違和感を感じるわけで、その「何か」を最適な形にすればいい。
・不満や違和感を解消するモノやコトを作り上げたとき、それをゼロイチと言う。

・不満を掘り下げると、アイデアが生まれる。
・自分の肌感覚からの不満や違和感から出発した企画は、実感を込めやすい。そのような新事業プランは、人々の共感を得やすい。

・自分が感じる不満を大事にせず、「こういうものだから、仕方がない」 と考えてはならない。こういうものだと考えた瞬間に、その先に何も生まれない。
・特に、個人的な「不満」や「違和感」こそ重要で、値打ちがある。個人的な不満や違和感こそが個性だから。そのような違和感にこそ、他の人が気づかないヒントが隠されており、ゼロイチに通じる道がある。

参考:"ハッスル" こそ需要創出の要:【需要創出】ディマンド創出のフレームワーク

 

●制約条件こそアイデアと創造性の源。
・制約があるからこそ、脳が動き始める。その制約を起点に、制約をクリアする新しいアイデアを強制的に考えざるを得ない。
・いくつかの制約条件の積み重なりによって「思考の焦点」が定まり、強制的に考え続けるコトで新しいアイデアが閃く。

・ゼロイチに着手するときは、まず「制約条件」を明確にする。ゼロイチは前例がないため、一見自由に見え、あらゆる可能性があるように見えるが、その結果、アイデアの方向性が定まらず、プロジェクトが迷走しがち。
・制約こそが創造性の源泉。制約を明確にすることで、はじめて質の高いクリエイティビティが発揮される。

ゼロイチ ゼロからイチを生み出す思考法

●ブロフェショナルな「素人」が最強
・ゼロイチの場では、中途半端な「専門家」ほど厄介な存在はない。「これまでとは違うことをする」のがゼロイチで、単なる経験則は何の役にも立たない。ゼロイチのプロジェクトは、中途半端な専門家は害悪をもたらす。
・「これまでとは違うこと」だから、当然、失敗リスクが高い。専門家は、専門的見地からリスクがよく見える。これはいいことで、事前にリスク洗い出して、しかるべき対策を打てるから。
・厄介なのは中途半端な専門家で、「できない理由」を並べ始める。
・ゼロイチは、そもそも成功するか失敗するかギリギリの挑戦。失敗するリスクないゼロイチなど、ありえない。まずは「できる可能性」をとことん追求する姿勢が重要であり、「できない理由」を並べても、何かを生み出すことなどできるはずがない。

・専門家には 「思考の死角」が生まれる。自分の専門によって、知らず知らずのうちに発想を縛られてしまう罠がある。
・多くの場合、この「思考の死角」にゼロイチのアイデアは眠っている。このことを自覚できなければ、自分の専門性がむしろぜロイチ創出の阻害要因になりかねない。

・専門性があるが故に、思考の死角が生まれるというジレンマを突破するのは、素人目線しかないだろう。素人目線は、お客様目線と同義。
・専門的知識+素人目線の二重人格性が大切。プロフェッショナル意識持つ素人こそ最強。

●「偏った経験」が独特のアイデアを生み出す
・ゼロイチのアイデアは、ひらめきによって生まれる。ひらめきは、経験を通じて学習した膨大な「無意識の記憶の海」を土壌にして生まれるため、様々な経験を積み重ねることが大切。
・ゼロイチを生むのに必要なのが「偏った経験」。つまり、他の人にはない経験の組合せがあること。アイデアは、異種の経験が結びついたときに生まれることが多い。

 

■「アイデア」だけでゼロイチは不可能

●「イノベーションのジレンマ」がゼロイチの出発点
・会社でゼロイチに取り組む際、「イノベーションのジレンマ」を企業が抱えていることは、前提であると覚悟しておくべき。
・成功した既存事業がある成熟企業にて、 ゼロイチを成功させるのは確かに難しいが、それを嘆いても仕方なく、むしろ、それを出発点にして覚悟を決め、準備をする べき。

・その企業が存在するのは、保守本流の「古いもの」で成功し、安定した収益を確保しているから。
・ところが「新しいもの」は多くの場合、「古いもの」を否定する側面があり、そこに強い抵抗力が働くのは当然。
・会社では常に「古いもの」が力をもつ。「古いもの」こそ会社の収益源で、「新しいもの」は常にバクチ。「古いもの」が圧倒的な発言力を有するのは当然で、常に「新しいもの」は「古いもの」より劣勢に立たされる。

・成熟企業でゼロイチを実現させたければ、経営トップが相当の思い入れを持ち、強いリーダーシップを発揮するのが不可欠。
・ただし、たとえトップリーダーに恵まれたとしても、ゼロイチのプロジェクトメンバーは、社内で劣勢に置かれることに変わりはない。

・成熟企業では、ゼロイチは「未来を担う屋台骨」などではなく、いわば「例外処理」に分類される。
・何か「新しいこと」に取り組む際、他部署の仕事にも影響を与えるが、他部署の立場に立てば、それは標準業務フローから外れた、追加の「例外処理」に他ならない。仕事が増えることは敬遠されて当然。しかも「例外処理」には未知のリスクがあり、容易に認めないのも当然。
・ゼロイチの過程では、このような局面が次々と現れる。ひとつひとつ突破していくのは骨が折れ、理不尽だと感じるときもあるが、そのような状況にあることを前提に、こちらが仕事の進め方を工夫していくしかない。

参考:イノベーションのジレンマ大企業の失敗要因を知り、破壊的技術の新規事業創出に役立てる

 

●トップからの魂のこもった無理難題こそチャンス
・経営トップからの無理難題により、現場の発想が強制的に切り替えさせられる。これがゼロイチを生み出す大きな原動力になる。
・妥協しないトップこそ、ゼロイチのエンジン。
・誰でも成し遂げられる仕事が、ゼロイチであるはずがない。無理難題だからこそゼロイチ。

●理想のゼロイチの実現には影響力と情熱
・素晴らしいアイデアがあっても、その大きさに相応する「影響力」が伴わなければ、実現することはでできない。
・結局、人々を動かすのは「情熱」以外にない。情熱に突き動かされて、上司や他部署に熱く語りかけることで、力を貸してくれるようになる。情熱なしには、誰も力を貸してくれない。

 

■「物語」がゼロイチのエンジンである

●ユーザーの「隠れた願望」をゴールに設定する。
・「願望」が主で、「技術」が従。何らかの願望を実現させるために、技術を使う。
・ゼロイチのゴールは、必ず、ユーザーの「隠れた願望」をゴールにしなければならない。人間としての「実感」の伴う感情を揺さぶるゴール。
・「隠れた願望」とは、ユーザーに聞いても出てこない、だけど見たり経験したら欲しくなるようなもののこと。

・ついつい、新技術を投入すればゼロイチが生まれると考えがちだが、技術を出発点としたゼロイチは難しい。新技術を投入すれば「これまでにないもの」はできるかもしれないが、市場や顧客に受け入れられなければ、ただの自己満足。
・大切なのは、あくまでユーザーの願望に応えるためであり、ユーザーが求めているのは「技術」ではない。

ゼロイチ ソフトバンク GrooveX

●魅力的な物語があれば、必ず「協力者」は現れる
・ゴール設定がゼロイチの成否を決める。ゴール設定がユーザーにとって魅力的でなければ、最新鋭技術でも、新しい世界観でも、その成果物は市場に受け入れてもらえない。
・加えて、魅力的で説得力のあるゴール設定ができなければ、社内の協力を得ることも難しい。ゼロイチは、他部署にとっては通常業務外の、追加の「例外処理」を強いる存在。十分な根拠なければ「例外処理」に時間をかける理由がない。
・悲しいかな、新しいことをやりたいのはゼロイチ担当部署だけ。他部署の人々は「自分のところには火の粉を飛ばさないでよね」と見張っているものである。そんな彼らの協力を取り付けるには、魅力的で説得力のあるゴール設定が絶対に必要。

●誰もが「物語を生きる」ことを求めている
・ゼロイチを実現するうえで、他部署の協力を取り付けるには、正当性を訴えるだけでは足りない。共感できるゴールがあり、そのゴールに到達するまでの「物語」を語る。そして、その「物語」に加わってほしいと訴える。これが、人を動かす大きな力となる。
・なぜ動くのか。それは、誰もが「物語を生きる」ことを求めているから。
・自分のやろうとするゼロイチのゴールは何か?、そのゴールは、ユーザーはもちろん、社内の共感を得られるような「実感」がこもっているか?、そのゴールに到達するための「物語」を熱く語れるか?

●ゼロイチという 視界不良な仕事をいかに進めるか
・ゼロイチは常に視界不良だから、進行管理も難しい。
・ゴール地点までの推定距離と時間的制約から逆算して、到達すべき一歩一歩の「飛び石」を小刻みに置いていくのが良いと考えている。
・もちろん「飛び石」は "仮置き"で、目指すゴールは堅持したうえで、状況次第で「飛び石」の位置は臨機応変に変更する。そんなゆるやかな計画を元に進行管理するのが、日々状況が変わるゼロイチプロジェクトでは現実的だと思う。
・ゼロイチは、ゴールの着地点も、着地方法も不明確なため、そこに向けて一直線の工程を組立るのが難しい。にもかかわらず、無理に詳細計画を作り、上層部の承認を得てしまうと、後々それが足かせになりかねない。計画遵守が目的化してしまう恐れがあり、本末転倒になる。
・「飛び石」は必ず「ゴール」から逆算して設定する必要があり、プロジェクトリーダーが、自らの責任と裁量で「飛び石」を設定し「それを達成しなければならない理由」を示さなければならない。

●経験と練習を重ねて非論理的な「勘」を磨く
・適切な「飛び石」を置くかが、ゼロイチ進行管理のキモとなるが、これが難しい。ゴールから逆算するといっても、そもそもゴールが具体的に見えていない
・飛び石の置き方は、プロジェクトリーダーの「相場観」に依存する。相場観は、過去のトライアル&エラーの経験でしか磨かれない。
・やったことない分野の場合、悩んだところで答えはないため、やってみるしかない。エイやで「飛び石」を置いてしまう。メンバーに無茶と言われても、仕方がないと腹をくくるべし。失敗することもあるが、授業料として割り切るしかない。
・ゼロイチは誰もやったことないため、参照できるものがない。頼りになるのは、無数の経験によって身体で覚えた非論理的な「勘」しかない。 

 

■「効率化」がゼロイチを殺す

●「効率性」は危険な言葉である。
・ハードワークなくしてゼロイチなし、身もふたもないが、これは真理だとおもう。
・ゼロイチの成否は、意味のある無駄を厭わず、いかにそれを積み重ねることができるかにかかっている。
・ゼロイチは、膨大な「無駄」の果てに生まれる。そうせざるを得ないのは、ゼロイチは「誰もやったことがない」ことだから。それゆえ様々な可能性があり、その可能性をどれだけ試すことできるか、ありうるべスト「解」を見出すことができるか、ここにチャレンジることこそゼロイチ。

・そこには必然的に「影大な無駄」が生まれる。その「99%の無駄」がなければ、ベストの「1%の解」は得られない。この「無駄」は「意味のある無駄」ということ。その「膨大な無駄」を受け入れるためには、ハードワークでカバーするほかない。
・ゼロイチには用意された答えはなく、答えを自ら見つけ出すのがゼロイチです。「最高の答え」を見出すためには、できるだけ多くのトライ& エラーを見繰り返すほかない。「効率的」にゼロイチを生み出すことは不可能。

●ゼロイチの開発は必然的に失敗の連続になる。
・成功には気の遠くなるような失敗が必要。失敗、修正、失敗、修正、、、
・だから「失敗への耐性」がなければ成功できない。ゼロイチに必要なのは「失敗への耐性」である。・何度も失敗することで、ゼロイチのプロジェクトの「勘所」を体得できるようになり、失敗するからこそ「超えてはならない一線」がわかってくる。

●「言葉」で議論するより「モノ」で議論する
・「言葉」に頼りすぎるから迷走してしまう。同じ言葉であっても、受け取るイメージは人によって異なり、ズレが生じるのは必然。
・言葉によるコミュニケーションだけで、なんとなくメンバー同士でイメージを共有したつもりになってしまうが、これが地雷原になる。プロジェクトが進むにつれ、ィメージの組幅が大きくなってしまう。
・見たことがないゼロイチは、言葉で表現することは不可能。「言葉」ではなく、「具体的なモノ」で見せればいい。
・絵画レプリカでも、写真でも、動画でもいい。紙と糊の試作品(工作レベル)でも、寸劇でもいい。言葉だけで議論するよりは、よほど質の高い議論をすることができる。
・特に「感性領域」の問題を、言葉だけで議論しても絶対に埒があかない。できるだけ早い段階で「具体的なモノ」にしてみることが重要で、関係者がイメージを共することが、ゼロイチを成し遂げる絶対条件。

ゼロイチ

●「ユーザーの声」からゼロイチは生まれない
・ ユーザーが教えてくれるのは、「すでにあるもの」に対する要望や不満。その改書に活かすことはできるも、そんな「ユーザーの声」を集めても、「誰も見たことのないもの」を生み出すことはできない。
・ただ、開発が進み「見せられるモノ」ができてくるとフェーズが変わり、最後の “煮詰め" のために、ユーザーの反応を確認することが不可欠。ユーザーの感じる違和感を知り、その違和感を潰していけばいい。
・ただその時も、ユーザーの声を表面的に聞くのは危険。ユーザーの思いのすべてを、言葉で表現することなど不可能だから。ユーザーの言葉の奥にある「想い」を自分の頭で考える必要がある。
・そのためには、ユーザーの反応をじっと観察する。ユーザーの反応を五感で感じるように神経を集中させる。コアメンバーも、できるだけ同席してもらう。同じ経験をして、同じものを身体で感じて初めて、メンバー同士で「ユーザーが何を求めているのか?」について、本質的なコミュニケーションがとれるようになる。

 

【富士フィルム オープンイノベーション】独自技術に裏打ちされた、顧客との共創によるイノベーション創出

2000年代のデジタルディスラプションに直面するも、経営大改革により、奇跡の事業構造転換を遂げた富士フィルム

2014年に「Open Innovation Hub」を開設し、日本でオープンイノベーションが最も得意な大企業と言える、富士フィルム社のオープンイノベーション

 

■オープンイノベーションを志向する理由

富士フィルム オープンイノベーション

富士フイルムのオープンイノベーションは、共創的なイノベーションであり、選び抜いたパートナーと共に、互いの技術やアイデアを融合することで新たな価値を作っていくこと。顧客の声を聞き、共創するオープンイノベーション

富士フィルム社が、オープンイノベーションを志向する理由は2つ。
・1つ目は、様々な領域の社会課題の解決のために、パートナーと志を共有し、「共創関係」を構築することが有効。共創により自社単独では成し得ない大きなイノベーションを起こせる。具体的には、重点領域のヘルスケア事業・高機能材料事業で、画期的な新商品やサービスを世に送り出し、新規事業を創出することに重きを置く。
・2つ目は、自社技術は、材料化学・画像処理・光学など写真フィルム事業で培われた技術が大半。写真フィルム時代のビジネスは自社内で完結し、世界で数メーカーが、独自技術で品質改良を徹底追及して競争していた。その後ヘルスケア、高機能材料など新規分野へと多角的に発展し、現在は、写真で培った技術を新分野で活用する機会が増えている。技術から新たな価値を導き出す機会を的確に捉え、その可能性を高めるには、幅広い分野と融合すること、つまり開かれた世界で未知のニーズやシーズと組み合わせることが不可欠である。

・オープンイノベーション は今に始まったものでない。同社が2000年頃からのデジタルディスラプションへの対応の中で、2000年代から取り組んできた、異分野との「融知・創新」による新たな価値の創生 を重んじる姿勢の延長線上。

https://www.fujifilm.co.jp/rd/laboratory/pack/images/index_img_01.jpg

 

私見:数十年に渡る技術投資と事業転換経験があるからこそ

富士フィルムのオープンイノベーションは、顧客と実用性の高い、画期的製品・サービス創出をし続ける、非常に素晴らしい仕組みだと思います。

「選び抜いたパートナーと、互いの技術やアイデアを融合する」とトップメッセージで2度も強調。富士フィルム社が選び抜いた優れた企業と、富士フィルム社の優れた技術の強者連合・強者共創で、過去にない新しい価値・画期的な新商品やサービスなど新規事業を創出するという、強い意思の現れ。

 

富士フィルム社に、次のような背景や理由があるが故に、実現できていると思われます。

・2〜2.5兆円の売上と1500億円前後の営業利益。その財務規模と超優良状態を長きにわたり継続。
・1500億円の研究開発投資を続けた技術力の蓄積(研究開発投資は世界トップ150以内に入り、日本では研究開発投資17位。日本の研究所だけで2000人の研究者)。
・写真フィルム関連技術の特殊性。写真フィルムメーカーは世界4社のみで、独自技術を追求し、世界で前例ない研究開発を続けるR&Dや開発生産技術の本質追求性。

・2000年頃から続く事業大転換の努力と激闘経験、現場に根付いた変革気質。
・2006年〜2009年で、およそ1万人の大リストラ。会社として大危機状態にある中での、"攻める or 死ぬ" という背水の陣。

・2000年頃から、異分野との「融知・創新」による新たな価値創出を行う、多数の成功と失敗の組織的な経験の蓄積。
・化粧品の新規参入時など、顧客と一緒に作らないと使える価値が作れないと、社内の多くの人が実体験を通じて具体的に理解している。

(言い換えれば、大多数の会社がこのやり方をそのまま真似しようとすると、失敗するのは火を見るより明らか)

 

■社内の研究者の知恵の融合

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・2006年に富士フイルム先進研究所を開所。専門別だった研究室を、200人規模の大部屋に集め、異分野の交流を促すよう工夫した。
・研究者の考え方を変えるには相当時間がかかった。専門技術を守ることを何十年も続けてきた為、コミュニケーションをとる心構えにすぐ切り替えられない。

・20~30代の若手研究者を対象に、デザイン思考を応用したワークショップを始め、徐々に対話を促進。技術展示コーナーを所内に作り、社員や来訪者に視覚的にわかりやすく技術を伝えることを始めた。
IDEO流デザイン思考法を自分たちでアレンジし研究開発向けに工夫。2006年から6年間続け、4~5人規模で年4~5回会合を開いた。

・社の研究発表大会で、研究成果を平易な言葉で伝え、サンプルを一緒に置くように(目に見える形で、わかりやすく伝える)。すると別の専門分野の人から質問がきたり、連携につながったり、ということが徐々に起きるように。
・外部展示会でも同様の工夫をして、研究者が来訪者と直接コミュニケーションする機会も増やした。
・オープンイノベーションの考え方を深め、2014年のオープン・イノベーション・ハブ開設につながった。コア技術の展示を通じて、顧客の知恵と自社の技術を融合する共創の場をつくりたいと考えた。

・現在はデザイン思考の他、バックキャスト手法(未来変化を予見して課題逆算して考える)を取り入れている。というのが、デザイン思考を10年前から取り入れてきたのに、実業では直接目に見える成果が出ていないから。
・日本メーカーは課題設定をした後、ある程度の答えを先に決め、一生懸命その答えに向かってアプローチしがち。それではデザイン思考をやったつもりでも、実は表面的な問題解決になってしまう。そうしたこれまでの経験から、最も重要なのは本来の課題は何か、課題設定を突き詰めることだと考えている。

 

■Open Innovation Hub

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・オープンイノベーションハブは「富士フィルムの技術的アプローチから、新たな価値を "共創" する場」。

富士フイルムのコア技術とその応用展開事例を示し、技術を体感しながら顧客とのコミュニケーションを深め、顧客やビジネスパートナーが持つ課題やニーズを結びつけ、課題解決やアイデアの具体化を進める、新たな価値を“共創” する場。未来を拓く重要拠点となっている。

 

・オープンイノベーション活動促進のため、同施設を2014年1月に開設し、2019年秋までで約3000社が来場。
イノベーション戦略企画部を2015年に設立。事業戦略と技術戦略の機能集結することで、新規事業創出のスピードを加速化させ、オープンイノベーションのグローバル展開を推進する部門。
・オープンイノベーションハブ責任者は、経営企画本部 イノベーション戦略企画部に在籍。また、化粧品事業立上げ時の開発責任者も同部門に在籍。 

富士フィルムのオープンイノベーション  コア技術

  

・同施設の利用は、富士フイルム社員の紹介による完全予約制。富士フィルムが選び抜いたパートナー企業と共に、BtoBのオープンイノベーションに取り組んできた。
・一般見学は受け付けない。

・オープン当初のターゲットは、技術に詳しいCTO(最高技術責任者)が多かったが、現在は技術系以外の経営層、研究開発の担当者、新規ビジネス担当者など広がっている。
・同施設により、出会ったことのない企業とビジネスできるようになり、それが非常に加速している。 
富士フィルムの技術資産を利用して、お客様の課題にどう役立てることができるのか?などを議論し、新たな価値の共創を狙う。

・オープンイノベーションハブは最初の出会いの場で、その後は、社内の適切な部門につなぎ、次のステップに進む形になる。
・2019年秋までで約3000社が来場し、次のステップに進めたのは、全体の15%くらい。"強み"×"強み"で、パートナー企業の強みが一言で言えないパターンは、うまく進まない。

 

■Open Innovation Hub 以外のオープンイノベーション

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・コア技術の進化はもちろん、それ以外にAIやICT技術の強化をし、既存強みのフィジカルと新しいサイバー・アカデミアをどう結びつけるかを今後進める。(AIやICTに関する拠点 Brains)
・自社の生産プロセス技術を活かすオープンイノベーション ものづくり共創FACTORY。"顧客のフィルム製品や開発品" × "富士フイルムの生産プロセス技術" で、早期の量産および受託製造を実現するプロジェクト。  

 

富士フイルムのオープン・イノベーション|産学官連携ジャーナル
先進・独自の技術力|富士フイルムHP
お客さまの声を聞き共創するオープンイノベーション|富士フィルムHP
Open Innovation Hub|富士フイルムHP
話せば生まれるコラボ 富士フイルム流デザイン思考|NIKKEI STYLE
富士フイルムが描く理想的な“共創”のカタチ|JBpress
世界中が注目する“奇跡のイノベーション” 富士フイルム変革の舞台裏|FastGrow
ものづくり共創FACTORYとは|富士フイルムHP

smasa0810.hatenablog.com

研究開発から新規事業を作るために必要なこと

「研究開発から新規事業を作る・技術力を活かした新規事業を立上げる」
研究開発・技術に力を入れる会社で、このように考えない企業はありません。

しかし、企業の研究開発投資効率は、30年に渡り悪化の一途をたどり、研究開発起点の新規事業開発がうまくいかない会社が大半のようです。

研究開発から新規事業を作るために必要なことをまとめます。

 

■新規事業がうまくいく企業は8.3% 

研究開発から新規事業を作るために必要なこと

日経ものづくり 2016年3月号 のアンケートによると、新規事業がうまくいく会社はごくわずか、過半数の会社が新規事業はうまくいかないそうです。

・ほぼ失敗する・うまくいくの少ない:67.7%
・ほぼうまくいく:1.5%
・うまくいくの多い:6.8%

新規事業がおおよそうまくいくのは、100社中 8社のみ。

 

同調査によると、成功する確率が高いのは、顧客からアイデアを得ながら、既存の商品・サービスをベースに新たな市場・顧客を開拓する方法とのこと。
成功のカギは顧客ニーズ、既存商品をベースに新市場狙え|日経 xTECH

同調査記事ではさらっと書かれていますが、 "新たな市場・顧客を開拓する" は、既存のあらゆる業務と異なる性質の内容で、新規事業立上げの大きな産みの苦しみを伴います。

https://news.mynavi.jp/article/20191225-945767/title_images/title.jpg

例えば、産業用ロボットを製造販売するデンソーウェーブ社は、人協働ロボット(既存の製品)を、オフィス・研究施設など(新たな市場と顧客)への販売を目論んでいます。

この野心的な新規事業を成功させるのに、技術力は大した問題ではありません。

問題なのは、技術や製品以外を、ゼロから新たに検討・構築する必要があること。顧客発見・顧客の課題発見(≒用途開発)、販路開拓、料金帯や提供形態の整備、販売後のサポート保守体制など、産業向けロボとは、ことごとく異なるはず。

この点を明確に理解し、推進体制を作っているか否かが、"既存の商品・サービスをベースに新たな市場・顧客を開拓する" タイプの新規事業の成否を握っています。

 

■新規事業立上げに必要な "組織・人" 観点

研究開発から新規事業を作る

研究開発起点か否かに関わらず、新規事業立上げに必要な組織的な観点、人(担当者)の観点を説明します。

新規事業は、大まかに次の3要素に分けて考えられます。
 "①どういう組織枠組みで" × "②誰が" × "③何をどうやるか" 

 

①どういう組織枠組みで

既存事業が中心の成熟企業で、新規事業をどう作っていくか、組織的な観点です。
詳細は複数の別記事の通りですが、新事業の目的の明確化、既存事業と予算や評価軸を明確に分ける&変える、権限と意思決定の委譲、小規模組織など、新規事業立上げのための組織的なセオリーは、ある程度決まっています。

【企業内の新規事業開発】成功率を高めるための組織的観点
失敗確率を下げるために必要な組織的観点
イノベーションのジレンマ|大企業の失敗要因を知り、新規事業創出に役立てる
 画期的な製品やサービスを繰り返し創り出す企業内イノベーター 

 

②誰が

新規事業は、「新規事業に向く素養」を持ち、「新規事業の経験のある」社員を充てるのがセオリー。
日本の大企業で、新規事業に適した志向性や資質で、かつ既に何かしら挑戦や行動を起こしている「イノベーター人材」は2〜2.5%程度だそうです。
ほとんどの人にとって新規事業が難しい最大の理由は、やったことがないからです。2度3度と経験すると、直感が冴えるようになり、過去に見たことある光景が増えて、新規事業の成功率が高まります。

新規事業 向いている人の見分け方|大企業の社内新規事業 担当者の選び方
"非連続のイノベーション" を生み出す人材になるために

 

③何をどうやるか

具体的に何をやるかは、完全に個別事案となるためセオリーはありません。

その一方で、どうやるかは、過去の成功・失敗事例から、学べるところが多いように思います。日経ものづくりのいくつかのアンケートから読み解きます。

【新規事業がうまくいく要因】

https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/column/15/263432/030200014/GW9.jpg

「新規事業開発で、うまくいったものは、次のどれが当てはまるか」の問いに対し、新規事業が上手な会社は、次の3点をあげます。
 ・顧客ニーズとの高い適合性
 ・経営トップの意識・意欲が高い
 ・技術力の高さ
 

【新規事業がうまくいかない要因】

https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/column/15/263432/030200014/GW10.jpg

逆に「新規事業開発で、失敗したものは、次のどれが当てはまるか」の問いに対し、新規事業が下手な会社は、次の5点をあげます。

・新規事業開発の進め方や方法が不適切
・顧客ニーズに適合しない
・販売力の弱さ
・新規事業開発を推進する組織・体制の欠如
・技術力の低さ

 

「顧客ニーズへの適合」「技術力」は、新規事業が上手な企業も、下手な企業も重要視します。
その一方で、差が出るのが「新規事業開発の進め方や方法」「新規事業開発を推進する組織・体制」「経営トップの意識と意欲」です。

想像するに、新規事業が下手な企業では、経営トップの新規事業への意識・意欲が低いがゆえに、新規事業開発の組織や進め方への理解がなく、研究者が孤立無援状態になり、四苦八苦してうまくいかずに失敗に終わるのではないでしょうか。

 

【新規事業開発に関する特別な仕組みや取り組みあるか】

https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/column/15/263432/030200014/GW7.jpg

新規事業が上手な企業は、「資源(人、モノ、金)の優先的投入」「新規事業開発リーダーへ権限委譲」などの割合が高く、 

当記事の "①どういう組織枠組みで" のセオリー通り行っています。

 

【新規事業開発の企画担当メンバーをどう選定するか】

https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/column/15/263432/030200014/GW5.jpg

新規事業が上手な企業は、公募に応募した人(やりたいと自己アピールする人)の割合も高い。 

 

【新規事業開発のリーダー育成の仕組みや取り組み】 

https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/column/15/263432/030200014/GW8.jpg

新規事業の上手な企業・下手な企業で差が大きいのが、「社員に新規事業開発を経験させる制度や体制がある」。

新規事業が上手な企業は、当記事の "②誰が" のセオリー通り、「新規事業に向く素養」を持ち、「新規事業の経験のある」社員を充てる傾向がありそうです。

新規事業開発は希望者に任せるのが一番 | 日経 xTECH

 

■研究開発の範疇を超える新規事業創出

研究開発部門は、研究を極め、その技術を開発する役割を担っています。

戦後〜1980年頃までは、研究技術開発 ≒ 新事業開発・新製品開発だったようです。当時は、欧米に追いつけ追い越せで、極論すれば、顧客や市場ニーズを考えて何を作るか考える必要がありませんでした。欧米の製品を、もっと小さく、高品質に、高速に、安く作る。
戦後の日本人は、豊かな欧米への憧れ・物の豊かさへの渇望から、企業の製品を大量購入・大量消費しました。

しかし1990年を過ぎ、欧米に追いつき、先進国は物質的に十分豊かになりました。顧客のニーズや望みは何で、顧客価値は何で、何を作れば良いか、考えなくてはならない時代に突入。

これは、研究開発部門の役割範疇を大きく超えています。この領域を担い、技術と繋げる役割が、1990年代以降、製品メーカーにも求められるようになっています。

 

このような歴史的な流れや変化を受け、「新規事業開発の進め方や方法」「新規事業開発を推進する組織・体制」を構築する必要があります。

 

■ 研究開発と並列の、新事業開発部門の常設を

研究開発活動と新事業に仕上げる活動との間にある大きなギャップを解消するには、事業モデル構築や顧客視点を担う "新規事業開発部門" を常設で設置して、研究開発部門と常に連携させるのが良いのではないでしょうか。

研究者や技術者は、他社の研究者や大学研究機関など、研究や技術の切り口では、社外との連携・交流をすることは多いです。しかし、世の中の社会動向や、消費者ニーズ、他社からの新規事業レベルのでの検討は、研究者や技術者は、苦手とするところでは。

研究開発・技術と、新事業・市場と繋ぐには、事業開発の能力と役割が必要です。
研究開発部門とタッグを組む、事業開発に慣れた担当者・市場や世の様々な業界動向を広く捉える役割がいて初めて、新規事業創出へ進むことができます。

研究開発投資効率を改善するのに、新規事業開発部門設置が良い

その役割を担える人材は、自社に少ないかもしれません。
ただ、これまでやっていないのであれば、そのような人材がいないのは当然。仕方がありません、これから始めましょう。

 

研究開発部門・研究開発費が毎年計上されるのと同様に、新規事業開発部門・新規事業開発費を毎年計上して、継続的に新規事業を作り続けるのが良いでしょう。

新規事業を思いついた時にやるのでは、新規事業の経験者の蓄積ができません。
新規事業開発部門が常設でないと、いつも素人が新規事業を担当する事態になってしまいます。

また世の中や社会との連携は、社外から見て常に窓口があるからこそ、既存顧客や既存製品に限定されない、多様な情報が入ってくる可能性を持ちます。

 

その新規事業開発部門は、複数のチームに分かれることでしょう。
・自社技術を、買ってくれる新しい市場・新しい顧客を探すチーム
・自社やグループ内で、技術が役立ちそうなプロダクトや部門とつなげるチーム
・顧客起点で解決すべき課題・困りごとを特定し、自社で事業を開発するチーム

例えばこの3つのチームは、担う役割や目的、日常の仕事も全く変わってきます。
またいずれのチームも、自社内の全体像(様々な技術や商品・顧客層)を把握する必要があり、他社からの持込提案の窓口ともなります。

 

 

【シリアルイノベーター 要約】画期的な製品やサービスを繰り返し創り出す企業内イノベーター

重要な課題を解決するアイデアを思い付き、その実現に欠かせない新技術を開発し、企業内の煩雑な手続きを突破し、画期的な製品やサービス(ブレークスルーイノベーション)として市場に送り出す。
この過程を何度も繰り返せる人材が、シリアルイノベーター。

組織に属するシリアルイノベーターによる、革新的イノベーション創出の実態を明らかにした、新規事業担当者にとっての名著です。

大企業の新規事業創出に役立てることを目的に、書籍 シリアルイノベーターのポイントを要約します。

 

■ シリアルイノベーター 要約に先立つ留意事項

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/411fNOxFOdL._SX350_BO1,204,203,200_.jpg

「シリアルイノベーター」は、極めて示唆に富む内容です。しかしながら、いくつかの点について、留意して読み解く必要があります。

● インターネット前・モバイル前

当書籍の原著は2012年の発売で、著者らによる10年の調査の集大成です。調査時の2000年代に、成熟企業であり、その企業にてブレークスルーイノベーションを複数回成し遂げた方へのインタビューを元にしています。つまり調査対象は、インターネット前・モバイル前の事例です。
シリアルイノベーターの"特性" "素養" といった個人に関することは、20世紀と現在で、おそらく大きな違いはないでしょう。

"ブレークスルーイノベーション"は、20世紀は技術研究&開発のイノベーションとほぼ同義でした。それにより1980年代の日本のモノづくりは世界で勝利しました。
しかし、21世紀になり、ブレークスルーイノベーションと呼ばれる事例は、インターネット・モバイルを活用した、新しいビジネスの仕組み創出・新しい顧客体験のイノベーションに軸足を移しています。(当書籍では、インターネット後・モバイル後のブレークスルーイノベーションについての考慮がないことは、留意すべき点です)

● ブレークスルーイノベーションと段階的イノベーション

当書籍の原著の副題は「How Individuals Create and Deliver Breakthrough Innovations in Mature Firms」です。
日本の書籍や記事では「イノベーション」という単語が、何にでも使われがちです。
しかし、英語では「Breakthrough innovation」と「incremental innovation」は、明確に区別されます。「ブレークスルーイノベーション」と「段階的イノベーション」で、当書籍は「Breakthrough innovation」についての内容です。
(有名な「イノベーションのジレンマ」では、「破壊的イノベーション」「持続的・効率化イノベーション」と言われます。)

● シリアル・イノベーターは超希少人材

シリアル・イノベーターの特性を有する人材は300人中1人ほど(技術専門スタッフの50人〜200人に1人ほど)しかいない、超希少人材だそうです。
当書籍内容は、"超希少人種によるブレークスルーイノベーション創出" のため、この書籍内容を、そのまま参考にすることは、ほぼ不可能だと考えるのが真っ当です。

● "invent"≠"技術開発"

当書籍は、イノベーションを"創り出す" ことへの言及は多いです。原著では "invent" と書かれ、"創案する" "新しいものを初めて作り出す" という意味合いで表現されます。
しかし当書籍では、なぜか "技術開発" と誤った単語で表現されています。
当書籍を翻訳された方は、翻訳と並行して、花王トヨタなどのメーカーの方と研究会に取り組まれたそう。そのため、過度に製品開発に引きずられてしまい、誤って "技術開発" という単語を選んでしまったかもしれません。

 

シリアルイノベーター 破壊的イノベーションの担い手

よりわかりやすく要約するために、本書では曖昧・わかりづらい次の点を、明確に書き分けます。

●ブレークスルーイノベーション = 新しい"クリエーション"

"イノベーション" という曖昧な用法を避け、わかりやすくするべく、当ブログエントリーでは、次のように書き換える、もしくは "革新的イノベーション" と書きます。
・ブレークスルーイノベーション → 新しい"クリエーション"
・段階的イノベーション → 既存の延長線上の"改善"

● 新しいビジネスの仕組み創出・創案

インターネット後・モバイル後である21世紀の現状に合わせ、"画期的な製品開発" ではなく "新しいビジネスの仕組み創出" と捉えます。
またそれを生み出す主要素の一つ "invent" は、"技術開発" という技術偏重の捉え方ではなく、 "創案" と捉えます。

● シリアルイノベーターの行動を、10人に1人の人材なら適応できるように

当書籍のブレークスルーイノベーション創出は、シリアル・イノベーターのやり方です。
300人に1人しかいない超希少人種・超異端児のやり方を、組織内の誰でもできるとは、決して思いません。
しかし、そのやり方は、顧客課題に立脚する、地に足のついた、極めて真っ当なやり方です。成熟企業に存在する縦割り組織・既存の延長線上の"改善"中心の組織ルールに合わないだけとも言えます。
成熟組織にて、革新的イノベーションを創出するやり方のエッセンスを残し、かつ、新事業向き人材(10人に1人くらい割合で存在する)なら活用できるよう、要約します。

 

■成熟企業のブレークスルーイノベーション 

ブレークスルーイノベーション

・「シリアルイノベーター」は、組織内で革新的イノベーションを複数回(シリアルに)生み出す人物。重要な課題を解決するアイデアを思いつき、必要に応じてその実現に必須の新技術開発や社外からリソース確保をし、企業内の手続きを突破して、画期的な製品やサービスを具現化し、市場に送り出す。
・組織内のサラリーマンに、どの製品を開発するか自ら決定する権限はない。そのため、自らのビジョンを製品として実現するには、ビジネスや技術に関する観点だけでなく、人的ネットワークや車内政治力の観点も動員する必要がある。

・シリアルイノベーターの動き方は、一般的な企画や開発担当者と随分異なる。社内の標準プロセスに身を任せたりせず、それゆえ、巨額の売上を生むブレークスルーイノベーションを創り出す可能性がある一方で、組織の中で問題を引き起こす可能性も秘めている。彼らは、製品群や事業企画を変え、頻繁に組織のルールを破る。

 

■段階的イノベーション(改善)と革新的イノベーションの違い

・企業には2種類のイノベーションが必要。
 ー段階的イノベーション(改善)
 ー革新的イノベーション

・"段階的イノベーション"は、既存製品を継続的に改善する、既存製品群に新製品を加える(製品群の拡張)など、既存の延長線上の改善・変化を目的とする。事業&技術開発プロジェクトの75%以上を占める。
・既存顧客・市場・競合があり、データも十分あり、開発業務は予測がつきやすいものがほとんど。そのため開発プロセスは標準化でき、ステージゲートプロセスを採用する企業が多い。

・"革新的イノベーション"は、既存製品パフォーマンスを5倍以上向上、新しい市場に進出できるような革新的な製品開発・新規事業など。事業&技術開発プロジェクト全体の25%以下を占める。
・25%の内訳は、15%は既に他企業が販売する製品の追随(モノマネ新製品・モノマネ新事業)。
・真に市場を切り開くブレークスルーイノベーションは10%にも満たない。市場に出す上で、前例は存在せず、競合は存在せず、市場や技術に関する未知の部分や不確実性が高く、そのリスクを乗り越える必要がある。

■革新的イノベーション創出に、ステージゲートプロセスは有害

シリアルイノベーター ステージゲートは有害

ステージゲートプロセスは、ブレークスルーイノベーションの創造では、うまく機能しない。ステージゲートプロセスは、製品企画が既に固まっていて、技術開発がある程度終了していることが前提になっている。

・新製品開発の最初段階は、"FFE"という機会発見や創案(fuzzy front-end 曖昧な初期段階)である。
・既存製品の改善では、FFEがほぼ存在しない。何をすべきか関係者はよくわかっているから。また15%を占める他社のモノマネ新事業開発でも、他社や市場の情報を元に、FFEは簡単に終わらせることができる。
・対してブレークスルーイノベーションでは、未知の市場や技術に取り組むため、またどこを市場とし、どの顧客にどういう課題があるか幅広く理解が必要なため、FFEはかなり膨大な作業となる。

 

■技術主導型イノベーションと市場主導型イノベーション

・成熟企業がブレークスループロジェクトを展開する際、技術主導である場合が多い。機会の発見ではなく、企業の研究開発部門からスタートする。このやり方で革新的な製品を生み出すことは困難。
・技術主導型の多くが、技術の有効な応用の仕方を探し出せず、また企業に利益をもたらさない「打つ釘がない金槌」を作っているから。
・研究開発部門は、革新的な技術開発には熱心だが、事業化に押し進める組織構造や仕組みがないために失敗する(事業化のためには、営業やマーケ、製造や流通などの役割が統合的に必要だが、それらは既存事業のために忙しいのが一般的)。

・市場の要請から生まれる市場主導型もあるが、市場ニーズは十分定義されていても、技術的な難易度により実現困難で、棚上げになってしまうケースが多い。

・革新的プロダクトを生み出すには「潜在顧客にとって価値があり、かつ重要な課題と、優れた技術的解決策・自社の強みが生きる解決策とを組み合わせる」ことが重要。問題は、それを成し遂げる標準的なプロセスは存在しないこと。

 

■誰が新製品開発を担うのか

シリアルイノベーター 新製品開発担当者

・革新的プロダクトを生み出すには、多くの業務遂行が必要で、異なるスキルや能力が必要。
・FFE(曖昧な初期段階)では、技術開発には技術的能力が必要で、顧客ニーズの発見や把握・市場に関することはビジネス的な能力が必要。プロジェクト推進には、社内政治的スキルから、実務的なプロジェクト遂行・具現化能力も必要。

・技術主導の場合が多く、典型的には、大きくは 1技術開発、2チャンピョン、3製品開発担当者 の3つの役割。
 1技術開発:発案者だが、技術開発者は技術革新にフォーカスするきらいがある。
 2チャンピョン:事業と顧客に関する知見があり、社内政治手腕に優れる。
 3製品開発担当者:製品開発プロジェクトを遂行する能力に長ける。
・問題は、これら役割はブレークスループロジェクトの異なる段階を担当するが、誰もFFE(曖昧な初期段階)にて顧客ニーズの発見と把握に責任を持たない。その結果、「打つ釘がない金槌」が作られて失敗する。

・シリアルイノベーターは、この3つの役割を全てこなす。ただ存在は極めて希少で、技術スタッフの50人〜200人に1人ほどしかいない。かなり稀な存在。
・シリアルイノベーターは、顧客ニーズの精緻な理解と、技術的解決策の探求との間を、何度も繰り返し行き来する。自ら顧客の元に出向き、市場に関する詳細な知識を得て、研究中の課題や解決策に市場が関心を持つかどうかを判断する。

 

私見
・本書の後半にて、シリアルイノベーターの特定・育成の内容があるが、個人的には、シリアルイノベーターを見つけ、革新的プロダクトのプロジェクトを任せるのは、あまりに "運頼みが過ぎる" と考えます。
・個人的には、"研究開発者とチャンピョン(新規事業担当者)の2人1組でタッグ"を組み、FFEのフェーズを担当させるのが、多くの企業で実施できる、現実的な解だと考えます。
【研究開発者が主導する、破壊的技術シーズ起点の場合】
技術研究段階から、新規事業担当者が当該技術が解決しそうな課題を、社内・社外に広く探求しに行く(最初期から、打つ釘を探しに行く)。
【新規事業担当者が主導する、市場や顧客課題起点の場合】
企画初期段階から、具現化のための技術難易度や実現性について、研究開発者とコミュニケーションし相談する(最初期から、どういう金槌なら具現化できそうか、大まかなあたりをつける)。
・社内政治手腕は、研究開発者の上司(R&D部長など)、新規事業担当者の上司(新事業担当執行役員など)が社内調整力を発揮するのが、基本的にはよろしいのでは。

参考:悪化する研究開発投資効率|研究開発と新規事業創出はこうすべき 

 

■シリアルイノベーターの能力と特性

・シリアルイノベーターは、成熟企業の一般的に優秀な技術者やマネージャーと、異なる特性や能力を持つ。

・シリアルアントレプレナーは、①パーソナリティ、②パースペクティブ、③構え、④モチベーション にて、次のような特有の特性を持つ。

①パーソナリティ:
決定的な特徴は「システム思考」をするということ。個々の事象に目を奪われず、各要素間の関連性に注目して、全体像を捉えようとする思考傾向が強い。

パースペクティブ(独特の視点):
仕事中心で理想主義者。人々の課題を解決し、世界をより良い場所にするべきと思っており、そのために技術活用し、同時に所属する企業に利益をもたらしたいと考える。
技術は重要であるものの、目的を達成する手段に過ぎず、新製品は売れなければならず、利益を出さなければならないと考える。同時に、非常に倫理的な態度も示す。

③構え:
生涯を通じての学習者であり、技術やビジネス、市場など複数領域で行われる。仕事をしながら学び続け、知識領域を拡大する。

④モチベーション:
新しいものを生み出そうとするシリアルイノベーターのモチベーションは、大きく二つの要因から構成される。1外的要因:緊急かつ重要な課題を抱えた顧客や企業の存在こそが、彼らのモチベーションを高めている。2内的要因:未解決の課題に取り組みたいという創造への欲求、課題解決の達成感。この外的要因・内的要因の強固な相互作用によって、モチベーションがもたらされる。

・シリアルイノベーターは、革新的イノベーションを想像できる確率を高めるようなプロセスを開発し、必要社内リソースを確保すべく社内政治を行う。

・プロセス:シリアルアントレプレナーのプロセスは、ステージゲートと異なり、ユニークな点が3つある。
1顧客と技術、市場の間を行き来する。最初に取り組むのは顧客の真の課題を見つけること。機会があれば、開発中技術を市場に持ち出し、メリット享受する潜在顧客が市場に存在するか捉えようとする。
2直線プロセスではなく、重複や反復、フィードバックで戻すことが頻発する。
3製品販売後も、顧客がどう思うか、次に自分は何をすべきか知ろうとする。

 

■イノベーター主導型プロセスとは

・革新的プロダクトを作るには、FFE(曖昧な初期段階)は非線形状で反復も多く、単純な循環ではない。課題解決方法を変えたり、取り組む課題自体も変えてしまう。途中までで判明した成果を投入し、さらに循環する。

・革新的プロダクト創出の過程において、必ず実行する5つの大タスク。
 1適切な課題の発見
 2課題の把握
 3Invent & 評価(技術開発と評価)
 4実際のプロダクト開発
 5市場での普及促進
・この5つのタスクは、一度どころか、何度もいずれかのタスクに立ち戻ることもあり、シリアルイノベーターがこのモデルを通過するルートで、同じものは一つとしてなく、異なる道筋を歩んでいた。

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・シリアルイノベーターは、革新的プロダクトを作るのだというモチベーションが、もともとある。顧客が抱える真に重要な課題の解決策を創造し、その新製品が確実に上市されるよう取り組む。

・生まれながらのモチベーションのおかげで、彼らは興味深い課題を見出し、理解しようとする。膨大な時間を使い、最初に頭に描いた課題像を書き換えていく。何ヶ月、何年といった長い時間(6〜9ヶ月か、それ以上の時間)をかけ、課題の発見と把握から、ようやく解決策の創造へとシフトする。
・ 1適切な課題の発見、2課題の把握、3Invent & 評価(技術開発と評価)の3つが、シリアルイノベーターのFFE(曖昧な機会発見と創案の初期段階)を構成する。

・3Invent & 評価 にて、解決すべき課題への妥当かつ実行可能な解決策アイデアを創造できたら、次の段階へと移る。4プロダクト開発は、会社の標準的な新製品開発プロセス・新事業立上げプロセスに沿って、プロダクトを具現化させる。
・製品のリリース・販売後も、そのプロダクトが市場で普及するための取り組みも行い、市場と顧客のフィードバックを元にプロダクトのブラッシュアップにも立ち会う。

・このプロセスは、典型的な新製品開発プロセスと、次の3点で大きく異なる。

①非直線的にアプローチ
まず "1適切な課題の発見" と "2課題の把握" との間を、その先に進めるだけの情報を得るまで旋回し続ける。また "4プロダクト開発" と "5市場での普及促進" の間も、繰り返し旋回する。

②後半の遂行よりも、前半のFFEにエネルギーを集中させる
"1適切な課題の発見" に時間をかける。まだ発見した課題を完全に理解したかどうかを確認するのにも、時間をかける。多くの月日を費やして、広範なFFEを実施して、新製品開発に移れるだけの十分な解決策アイデアを作り上げる。
なぜなら、FEEが不適切だったならば、その後に何をどう努力しても、失敗するしかないから。

③市場に製品の普及を促すために、自ら動く
典型的な新製品開発プロセスでは、この段階はマーケと営業の役割だが、シリアルアントレプレナーは、営業担当と顧客の両者が、新プロダクトの持ち力を正しく理解できるように尽力する。なぜなら、新プロダクトを成功させたいから。

 

■1適切な課題の発見

シリアルイノベーター 課題の発見

・「興味深い課題」を発見するのは極めて重要。
・"機会"ではなく、"アイデア"でもなく、"課題設定"でもなく、「課題の発見」。
・顧客となり得る人々が苦痛を味わっている課題、それの解決策に顧客が進んでお金を払ってくれそうな課題、を見つけ出そうとする。

・「興味深い課題」は、①課題の解決により、会社に大きな財務的インパクトが得られる可能性がある、②解決策を見つけられそう、③課題と解決策が、顧客と経営陣の双方に受け入れられそうである(顧客の課題を解決し、会社の戦略にも合致する)、の3つの条件を満たすもの。

・シリアルイノベーターは「誰も買わないイノベーションは開発したくない」。技術は、課題解決という目標における手段でしかないと、十分理解している。また会社が事業から収益を得る必要があり、顧客の課題を解決して利益を生み出すしかないことも理解している。

・「興味深い課題」候補を発見するアプローチは様々だが、重要なのは、課題発見においてほぼ例外なく、顧客の視点から出発している。広く深く当事者に聞くことで、本人にも見えていないニーズを探し出す。
・シリアルイノベーターは、既によく知られている課題を、全く新しい枠組みで捉え直す能力に、不思議なほどに長けている。また複数の異分野の情報や知見を活用して課題を見つけ出すことも多い。

・どのようなアプローチで適切な課題を発見しようとも、次の段階に進む前に、継続的に課題を吟味し続ける。興味深い課題かもしれないと気づくと、その評価のために、顧客候補となる人も含めて様々な人から意見を聞く。

シリアルイノベーター 5つのタスクの流れ

 

■2課題の把握

シリアルイノベーター 課題の把握

・興味深い課題を発見したら、その課題を深く理解しようとする。何を知るべきか明確にし、その知の獲得に協力してくれる人で非公式チームを作り、その人たちの力を借りる。
・まず「顧客視点」と「技術的観点」の間を行き来して課題の理解を深め、また未解決課題であるか・取り組むに足る課題であるか確認するために「市場機会」や「競合他社」についても学んでいく。複数の領域をまたいで情報を統合し、複眼的な思考で課題を理解しようとする。
・4つの領域から十分な情報が集まり、どこかの時点で、未知の事柄が少なくなり、解決すべき課題と判断したら、課題の解決策の検討へと進む。逆に、課題把握を通じて、取り組むに足らない課題とわかった場合は、前のステップ(1適切な課題の発見)に戻る。

・解決すべき課題と判断するタイミングでは、シリアルアントレプレナーは、具体的に課題を解決する技術的な策はまだないが、市場と顧客に関する膨大な情報を持つに至り、イノベーションへの道筋を切り拓くだけの包括的な情報を獲得した状態にある。

・シリアルアントレプレナーは、ここまで(1適切な課題の発見・2課題の把握)に非常に多くの時間を使う。

シリアルイノベーター 5つのタスクの流れ 課題の理解

 

■3Invent & 評価(技術開発と評価)

シリアルイノベーター 技術開発と評価

・適切な課題を発見し、課題を把握した後、その課題を解決するための具体的な解決策に落とし込んでいく。
・解決策の複数の道筋を示し、それぞれの実現可能性を見定め、モデル化して評価し、課題を包括的に解決する方法を特定する。

・課題の解決には複数の方法があることを十分認識し、最初に思いついた特定のアイデア・解決策に固執しないよう、複数を並行して検討する。科学的に異なる方向、質の異なる解決策の検討を行う。

・モデル活用し、実験を通じてモデル検証を行う。仮説を立てて、実験やヒアリングなどで仮説検証を行う。実験が複雑・高コスト過ぎる場合は、シミュレーションソフトで実験することも。プロトタイプを作成し、目で見て判断できるようにする。

・技術開発・Invent(創案)とは、一見すると無関係に見える概念や技術を関連付けて組合せ、既存の延長線上にない、これまで存在しない解決策を生み出すこと。

smasa0810.hatenablog.com

シリアルイノベーター 5つのタスクの流れ 技術開発

 

■4実際のプロダクト開発

・実際のプロダクト開発は、自社内の正規の新製品・新事業開発プロセスによって、製品・事業開発を進める。様々な職務を担う人や多くの関連リソースが必要となるから。
・シリアルアントレプレナーは、このフェーズに入っても手を引かず、製品開発にも、発売開始後の市場における製品普及にも、積極的な役割を果たす。

・開発に着手する前に、チーム編成とプロジェクト計画立案をする。シリアルアントレプレナーは、チーム編成も自分の責任と信じており、懸命に立候補者を募る。自ら手をあげる人の方が、会社辞令で担当にあたる人より、優れた仕事をするからだ。
・彼らは必ずしもリーダーシップを取るのが好きなわけではなく、プロジェクト開発段階では、専門のプロジェクトマネージャーに喜んで任せる。しかし、初期段階で何を行う必要があり、どんな種類の機能やリソースが必要そうか、誰よりもよく知っている。

シリアルイノベーター 5つのタスクの流れ 製品開発

 

■5市場での普及促進

・一般に、新製品開発チームの責任は、製品の発売開始までだが、シリアルイノベーターは、発売開始後も製品を追って市場に入っていく。
・市場に入って、製品の普及を促進するとともに、まだ解決されていない課題の情報を詰め、新たなチャンスを探る。彼らは潜在顧客と直に接する機会を持つ。

・シリアルアントレプレナーにとって、新製品が顧客の元に到達し、期待された売上を達成するまで、課題は解決されていないに等しい。製品開発チームを率いると同時に、市場での普及を促進し、製品と市場と顧客の間を行き来するように仕事を進め、新プロダクトが「高い完成度で発売」できるようになるまで続けられる。

シリアルイノベーター 5つのタスクの流れ 市場啓蒙

 

・シリアルアントレプレナーは「1適切な課題の発見」のために、多大な時間を使う。
・解決された場合に大きなインパクトが期待され、実現可能そうで、顧客と経営陣の両方に受け入れられそうなものが、適切な課題である。
・また、その課題を理解することにも多くの時間を使う。課題発見と、課題把握を行き来しながら、課題の定義と理解を書き換え続け、やがてイノベーションへの道筋を切り拓いていく。
・課題解決のための技術開発・Inventは、社内の技術だけでなく、むしろ社外にも目を向ける。

・シリアルアントレプレナーの新プロダクト開発は、一般的な新製品開発プロセスより、ずっと前から始まっている。またその終わりも、一般よりもずっと後まで続く。

 

■顧客とのエンゲージメントを築く

シリアルイノベーター 顧客とのエンゲージメント

・シリアルアントレプレナーは、本能的に顧客の課題解決に惹きつけられる。
・「顧客」とは、"自社の既存製品を利用している人々や会社" に限らず、解決されるべき課題を抱える人や企業全てを指す。競合企業の顧客、現時点で無消費状態の人なども当然含めてとらえる。

・まず「重要な課題」は何か、幅広く探索する。解決策の開発・製品開発に取り掛かる前に、課題探索と課題の理解にかなりの時間を費やす。

 

■顧客の課題を見出し、理解する

・シリアルイノベーターは、顧客の課題探索は、他人が集めたデータを使わない。顧客と直接かつ真摯に向き合い、自ら課題を見つけ出す。
・"顧客や製品を知り尽くしている" と思っている人たち(マーケティング部)が集めたデータやまとめたリストは、意味がない。

・一般に "顧客志向" という企業は、既に提供している製品の価値を維持するために、顧客への理解を深めようと努力する。意識の中心は "既存製品" にある。一方でシリアルアントレプレナーの関心は製品になく、課題を理解することにある。意識の中心は "顧客の課題" そのものにある。

・顧客の課題を見出す最初のステップは、課題を抱える人や企業を探すこと。既存製品・サービスの利用者とは違った人、より重要ニーズを持っている人を探す。
・企業の場合はより複雑なものに。自社の営業は、自社製品の既存客は知っているが、残念ながらシリアルイノベーターが話したいと思う顧客とは違う。自社の営業は、おそらく役に立たない。

・課題を抱える人や企業を見つけたら、その人をよく観察して、質問を投げかけて話を引き出す。観察により、その人の困りごとの細かな部分や状況への理解を深めていく。発言に内包される意味を解明しようとする。
・観察は、その人が普段いる場所で行うことにこだわる。顧客の置かれる状況をきちんと理解するには、そうすることが必須。その場所で、課題を「見る」ことで課題をがよりリアルに浮かび上がり、解決したい欲望が高まる。

ヒアリングや観察の際は、聞き手は、思い込みや自分の先入観、自分の勝手な判断や持論などに、囚われないよう、細心の注意を払う必要がある。
(人間は、ゼロベースで人の話を聞くことが困難。自身がどういうバイアスやパラダイムに捉われているか、自身を調査して、具体的に理解しておくと良い)

 

■シリアルイノベーターへのアドバイス

シリアルイノベーターのアドバイス

・シリアルイノベーターの活動は、顧客に始まり、顧客に終わる。行動は全て、顧客が抱える課題の把握と解決を基軸としている。

自分で顧客調査・市場調査をすべき
・顧客の理解は、"自分で" 顧客ニーズについて情報を集めることから生まれる。残念ながら、マーケティング部の情報は同様の効果は期待できない。
(マーケ部は、既存製品を販売するために必要な、顧客や市場・競合の情報を持っている。既存製品では解決できない"非顧客の課題" についての情報をマーケ部は持ち得ない。)

顧客が過ごす場所に赴こう
・顧客が日常的に時間を過ごす場所から学ぶことは多い。その環境で課題どう発生するかという状況を理解できるから。また、解決策の有効性に影響を及ぼす可能性のある、周辺の興味深いポイントも見いだすことができる。
・顧客とその状況を、自身の目で見ることで、課題はより深く理解できる。

問いを立て、傾聴しよう
・顧客に"なぜ"と問いかけ、顧客からより深い話を引き出そう。
・相手に対する思い込みを控えることで、相手の話をきちんと聞くことができ、その情報を適切な文脈に位置付け、課題を根底から深く理解することができる。

顧客の真の理解には時間がかかる
・顧客を理解し、本当に理解し合うには、時間と労力が必要。急いでできるプロセスではない。
・企画を固めようと焦って前に進めば、理解が不十分となり、革新的プロダクトを創り出せる可能性が下がる。
・課題が自分のものとなった時、その課題を解決したいというモチベーションは増大する。

顧客データの力
・顧客データは、社内の人々を説得する強力なツールとなる。顧客データは人々の心をゆり動かし、顧客を味方につけるのは、会社を動かすうえでとても力になる。

製品と関わり続ける
・製品発売した後も、顧客から学ぶことは沢山たくさんある。
・革新的プロダクトは、初代製品ですべてが完全に理解され、実装されることはまずない。顧客の反応やフィードバック、購入データが、将来の製品の方向性を決めるために重要となる。
 

■信頼と尊敬で組織を動かす

この章の内容は、シリアルイノベーターでなくとも、新規事業・非公式な革新プロジェクトを進める際に、一般的に必要とされる社内調整・社内政治力に関するもののため、当まとめでは割愛する。

 

■シリアルイノベーターの特性

・シリアル・イノベーターの出現率は、技術専門スタッフの50人〜200人に1人ほど。超希少人材。

特性①パーソナリティ:
生まれながら備わっている特性のパーソナリティは、2つのグループがある。
1"好奇心","直感","創造力","システム思考"。斬新な技術やプロセスを創造する源となる。決定的な特徴は "システム思考" 。個々の事象に目を奪われず、各要素間の関連性に注目して、全体像を捉えようとする思考傾向が強い。
2"自立心 ","自信","リスクの選択能力","忍耐力"。これらは長期に渡りプロジェクトを続けるうえで重要となる。

特性②パースペクティブ(独特の視点):
ものごとの見方・世界を見る"レンズ"であるパースペクティブには、次のような特徴がある。
・顧客や企業、チームなど関係者全員に共通する価値(共通善)を尊重し、自分自身よりも優先させる。
・関心は顧客にあり、技術は顧客ニーズを満たすための手段、技術はあくまでも事業の成功のための手段と捉える。
・複数の事象の関係性を見出し、システム全体を見通して書き換え、目に見える結果を追求する。

特性③モチベーション:
シリアルイノベーターのモチベーションの源泉は、課題解決への好奇心や技術分野での熟達、発見の喜び、そして新しいものを創造することで人々の暮らしをよくしたいという内発的報酬である。

シリアルイノベーターの独自の視点

 

■パーソナリティ①課題の発見と理解に役立つ特性

●生まれついての好奇心
・シリアルイノベーターは、好奇心が旺盛な関心領域の広さに加え、興味を持つとそこに深く飛び込んでいく並外れた探求力に特徴がある。
・その探求は時に純粋な知的好奇心から始まるが、動機が何であれ、その後彼らの努力は事 業を改善したいという、より強力で抗し難い欲求へと変化を遂げていく。
・シリアルイノベーターが抱いた好奇心は、やがて抑えがたい衝動へと変化し、謎は解明せねばならず、解明したらその新たな知識に基づいて事業を改善しなければならない。

●経験に基づく直感的思考
・シリアルイノベーターは、自身がそのアイデアに対して抱くピンとくる感情や感覚・優れたアイデアや課題への有用なアプローチを感じとる自身のセンスを信じている。
・自身の直感を信じることで、他人やデータがいまひとつと示唆したアイデアでさえ、追求していく。
・技術が十分開発されていない新領域での仕事や、会社の旧来プロセスと異なるクリエイティブなアイデアを提案するときなど、直感的思考は重要スキルとなる。

●多くのアイデアを産み出す創造力
・シリアルイノベーターは、自分が同僚より創造力があると自覚している。
・アイデア創出時、一旦は "実現性の棚上げ" をし、理想的な解決策を "妄想する" ことに専念する。その後で、実行可能な解決策にするためにはどの制約を緩和すればいいのかを判断する。
・彼らは課題に異なる観点からアプローチし、そのフレームワークを変え、課題を再定義する。それにより、非凡な解決策を創造する。
・課題を全く別の角度から捉えることで、パラダイムシフトを起こし、彼らは、他の人と同じデータを見ても、見逃されたパターンを見出す。そのパターンがブレークスルーイノベーションに導く。
・シリアルイノベーターの創造力は、他の人には見えないものを見えるようにし、課題を再構成することを可能にする。

●分散した情報を統合するシステム思考
・好奇心により難しい課題を解決策へと導く「点」を見つけ、システム思考によりそれぞれの点から物事の関係性を導き出し、複雑な状況に意味を持たせることに意識を集中させる。

以上の4つの特性、"好奇心","直感","創造力","システム思考" のが組合せにより、興味深い課題を認識し、状況における全体と構成する要素を理解し、ブレークスルーとなるアイデアを創造できるシリアルアントレプレナー

 

■パーソナリティ②プロジェクトの完遂に役立つ特性

●自分で考え、自分で学び、全体を見通す自立心
・特に自立心は、シリアルイノベーターにとって欠かせない特性。
・彼らは自ら進んで人とは違う考え方をし、組織に挑み、自分のアイデアの完成に向かって突き進む。指示や指導を待つことなく、自ら動くことを選ぶ。
・ブレークスルーには何年もかかることがあるが、その間ずっと個人で行動する。何をすべきか他人に尋ねることはせず、自分で判断を下す。
・シリアルイノベーターは、自分で考え、自分で学び、全体を見通す、自立した精神を持っている。

●自分のアイデアやプロジェクトに対する自信
・この自立心こそ、プロジェクトに対する自信と大きく関係している。ここでいう自信とは、自ら行動し、何を行うかを決め、時には他者が下した決定にさえも挑む自信。
・尊大になることなく、他人の判断に依存し過ぎることなく、自分の進んでいる方向に自信を持っている。

●リスクの選択能力
・たとえ他の人が高リスクだと判断したことでも、自ら検証し、適度なリスクだとわかったら、そのリスクをとる。その判断は、自ら顧客や課題、所属組織の研究と理解を怠らないからこそ下せるもの。
・彼らは、顧客がその製品を求め、必要としているとわかれば、開発に伴う組織上リスクは何とか対処できると考える。

●結果が出るまであきらめない忍耐力
・開発という仕事の性質上、必要となるのが忍耐力。ブレークスルーイノベーションでは、すぐに結果が出ることなどまずありえない。
・そのため長期に渡り忍耐力が試されることに。粘り強く、決意が固く、忍耐力が求められる。

"自立心","自信","リスクの選択能力","忍耐カ"は、革新的プロダクトを市場にもたらすまでの長い間、諦めることなくアイデアに向き合い続けるため欠かせない能力。

 

■モチベーション

シリアルイノベーター モチベーション

・シリアルイノベーターは、多様さや挑戦を求め、深く理解したい欲求が強く、顧客の興味深い課題を解決したい、自らの製品にて顧客の生活を変えたことを見届けたいという、内側から湧き上がるモチベーションがある。

・彼らは、課題が困難なほど駆り立てられる。これまで誰もやったことがないことに取り組みたいと思っている。
・しかしそれと逆に、先が予測できる仕事やルーティンには退屈し、全くと言って良いほど忍耐力がない。

・大きな障害があっても、解決策を見つけるための観察や学び、理解を進め、その結果「発見した喜び」が、彼らをさらに前へと動かしていく。発見を促すのは好奇心である。
・困難な課題と発見の喜び。この2つが彼らを「深い理解の追求」へと向かわせる。ブレークスルー新製品の創造には、課題に完壁に熟達する必要があ理、その完壁な熟達が、生来的なモチベーションに欠かせない要件である。

・彼らは、課題の理解もって役立つ結果を生み出し、課題を解決したいと思うのと同じくらい、会社と社会にインパクトを与えたいと考えている。
・彼らは、開発から販売までの段階に関わり、自らが計画し創造したものが実を結ぶのを自分の目で確認する。製品がつくられ、販売されることは、彼らのアイデアや情熱、創造力、インベーションの証明なのである。

 

■シリアルイノベーターはどこにいるか?

潜在的シリアルイノベーターを特定するには、1人の人に次の重要な5つの特性が全て現れていることを認識する。
①システム思考:異なる分野にある膨大な情報から、無関係に見える点同士を結びつける能力
②平均以上の創造カ(ただし極端に高い水準である必要はない)
③複数の知識分野にまたがる好奇心
④深い専門知識をベースに直感を働かせる力
⑤物事を「よりよくしたい」というモチベーション

・シリアルイノベーターとしての特性を備え、ポテンシャルがある場合、あるいはシリアルイノベーターとして貢献したい強い決意を持っている場合には、それ以外に必要なのは、政治的に会社と渡り合う機会である可能性がある。

 

私見

・シリアルイノベーターは極めて希少で、技術スタッフの50人〜200人に1人ほどしかいない。かなり稀な存在。
・この章で、シリアルイノベーターの育成・採用について書かれているが、技術スタッフの50人〜200人に1人しかいないシリアルイノベーターを特別扱いするのは、日本の成熟企業では非現実的だと思います。。

・個人的には、シリアルイノベーターに拘るのではなく、"研究開発者とチャンピョン(新規事業担当者)の2人1組でタッグ"を組み、新規事業や革新的イノベーションの初期フェーズを担当させるのが、多くの企業で実施できる、現実的な解だと考えます。
【研究開発者が主導する、破壊的技術シーズ起点の場合】
技術研究段階から、新規事業担当者が当該技術が解決しそうな課題を、社内・社外に広く探求しに行く(最初期から、打つ釘を探しに行く)。
【新規事業担当者が主導する、市場や顧客課題起点の場合】
企画初期段階から、具現化のための技術難易度や実現性について、研究開発者とコミュニケーションし相談する(最初期から、どういう金槌なら具現化できそうか、大まかなあたりをつける)。
・社内政治手腕は、研究開発者の上司(R&D部長など)、新規事業担当者の上司(新事業担当執行役員など)が社内調整力を発揮するのが、基本的にはよろしいのでは。

参考:悪化する研究開発投資効率|研究開発と新規事業創出はこうすべき 

 

■才能のマネジメント

シリアルイノベーターのマネジメンt

・シリアルイノベーターをマネージする最良の方法は、「鳥は自由に飛ばせよう」。

・極めて有能なシリアルイノベーターの上司は、シリアルイノベーターの「手錠を外し」、自由を与える。
・シリアルイノベーターを特定し、成熟企業の官僚主義の枠外で、クリエイティブに働ける場所を提供した。制約を最小限にする一方で、課題をより幅広い観点から見るよう求め、先見性を持ち、製品企画として開発できるような新技術を創造し、その製品が顧客の抱える課題を他のどの解決策よりも優れた方法で解決することを求めた。
・ただ完全に放っておくのではなく、彼らと定期的にプロジェクト検討会を開き、進捗状況を把握して、よい状況であればさらなる調査を促した。厳格になり過ぎないようにした。

・シリアルイノベーターから最大の成果を引き出すため、彼を管理業務から解放し、ブレークスルー製品の開発に集中させ、彼を守っている。

・個人間関係に基づいたフレキシブルなマネジメントが良い。彼らは、革新的イノベーションを創造するよう動機づけられている。
・特に、彼らは自分が創造したもので顧客の生活が変わるのを見て、モチベーションを得る。シリアルイノベーターは、顧客の重要な課題を解決したい生来的モチペーションを持っており、課題を解決して顧客が喜ぶのを見たいのだ。
・彼らは、努力に値する課題探索に多くの時間を費やし、その課題を深く理解するのに更に多くの時間を使う。リソースや時間を制約しないよう、また、経営陣がシリアルイノベーターに成果を出せと急かせないよう、注意を払い、彼らを守る必要がある。

・シリアルアントレプレナーではなく、技術開発者として成功した人は、課題を組織から与えられ、チャンピョンや製品開発担当者と組んで活動している。その場合、技術開発者以外の人が顧客の課題と技術的な解決策とのつながりを見出す責任を担い、最終的に利益を創出する新製品につながる道筋を示す。

 

 

【富士フィルム 新規事業 事例】化粧品事業参入の失敗と成功の事例

デジタルによる産業破壊に直面するも、経営大改革で事業構造転換とその後の飛躍を成し遂げた富士フィルム
現在から過去を振り返って、第三者の立場で見れば、素晴らしい成功ストーリーです。

しかし当時の当事者は、コア事業の急激な縮小の不安の中、相当ハードな状況を前に進めたのだと想像しますし、一歩間違えたら転げ落ちた可能性も十二分にあったと考えるのが、普通です。
あまり知られていませんが、アスタリフトの前に、最初に出した化粧品はさっぱり売れず失敗していた

世の中に衝撃を与えた、富士フィルムの新規事業「化粧品事業」立上げについて、経営トップの立場、新事業担当役員の立場、新事業立上げ責任者の立場から、当時の戦略や作戦、成否を分けたポイントを振り返ってみます。

 

■経営トップの環境把握と構想と決断

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・有事に際して、経営者がやるべき何よりも重要なのは「絶対に成功する」という気迫と勇気。経営者の気迫と勇気が、全てのスタート地点。

・デジタル化が来るというのは1980年頃から言われており、70年代からR&D投資を始めていた。88年に世界初のデジカメを開発、98年に他社に先駆けて150万画素デジカメ発売、2002年頃までデジカメのトップを維持していた。
 (つまり、俗に言うイノベーションのジレンマを、非常にうまく乗り越えていた。)
・デジタル製品への対処だけでは、写真フィルムの利益を確保できず、写真フィルムの予想以上のスピードでの縮小が明らかに(年率20-30%減少)。そのままではダメになると思った。

・2003年に CEO就任し、改革を実行。有事に際して経営者がすべきは「読む」「構想する」「伝える」「実行する」の4つ。そして何より「成功させる」という強い思い。
・経営トップが自ら企業改革の計画を考え、改革に取り組む姿勢を示し、会社の現状と課題、及びその対応策・解決の指針を、様々な場面で発信した。現場の危機に対する認識の違いは、社員との対話や現場視察などを通じてギャップを埋める努力をした。
・事業構造の大改革は、自社技術の棚卸しを行い、「成長市場か」「技術はあるか」「競争力を持てるか(勝てるか)」という3つのポイントから、重点事業分野の策定を実践した。

・大きなことをするときは、勝算が6割あればやる。努力で補い、なんとか成功させる。
・決断したら成功までやり抜く。そのためには勇気と気迫が必要。

奇跡の改革を成し遂げた果断の経営|ダイヤモンド・オンライン

 

私見
経営の勇気と気迫と決断が必須なのは間違いない。
ただ、この事業構造転換を支える背景に、約2.5兆円の売上と1500億円前後の営業利益という財務規模と超優良状態と、継続して1500億円以上の研究開発投資をし続けた広範にわたる技術力(日本の研究所だけで2000人、研究開発投資は世界トップ150以内に入る)、富士フィルムというワールドワイドブランドがあったことは、間違いない。
(言い換えれば、大多数の会社がこのやり方を真似すると、失敗するのは火を見るより明らか)

また当時、2006年当時1万5000人いた写真関連分野の従業員のうち、約5000人削減(別部門異動含む)という、大リストラ実行したことも忘れてはならない(2009年度には間接部門などで5000人削減)。
会社としては、それほど大危機状態にある中での、"攻める or 死ぬ" という背水の陣での新事業展開。

https://www.fujifilmholdings.com/ja/investors/individual/history/img/index/pic_04.jpg

 

■新事業担当役員

富士フイルムは、高機能材料と三次元構造化技術をコアコンピタンスと定義し、生かせる分野としてヘルスケアを選んだ。その先にバイオ薬品もある。
・新事業は「やれそう」「やるべき」「やりたい」で考える。最初に「やれそう」を考え、自社技術とコアコンピタンスから発想。次に「やるべき」で、市場候補と参入領域を決め、既存プレイヤーが実現できない価値創出を狙う。「やりたい」は社会的視点が大切で、大義ある利益を。
・フィルム事業の根幹である抗酸化技術を突き詰め、それを人間の肌に応用する化粧品事業がやれるのでは、というアイディアが生まれた。

・ヘルスケアにつながったのは、オランダ研究所時代に事業化した再生医療に。
・オランダ赴任時、バイオ技術が進んでいると感じた。そして細胞とカラーフィルムが似ているとも。こういうことを言っても、日本の研究者は取り合ってくれないが、オランダ研究者には賛同者が多かった。
・日本は知識詰込み教育で、横並び志向が強く、突飛なことを言いにくい雰囲気。細胞とカラーフィルムの類似性も、日本の技術者は根拠がないと否定する。そのため自由な発想ができていないことに、気がついていない。一方オランダを含め欧米は、進取の気性が尊ばれる。独創的なことで、それが社会の役に立つことであれば「すごい」と言って育てられる。
・オランダ研究所長をやっている頃、化粧品ーサプリメントー医薬品ー再生医療という流れの設計図ボヤッとながら描けていた。

・若い頃、写真フィルム工場勤務時にあるトラブルに直面。その解決に乳化やコラーゲンの勉強が必要だった。その時、役立ちそうな論文や学会のほとんどが化粧品や医薬品分野のものだと気づいた。それくらい化粧品や医薬品と写真フィルムは似た技術を使っている。

イノベーションを起こして新規事業を立上げるリーダーに求められるのは、課題創出力。そして周りから反対されても、諦めずに続けることが大切。
・戸田氏の性格や経験として、人にゴール(目標)を決めて欲しくない、最初に製造から入ったことで全体感で見る力が養われた、高度成長期で急成長する製造現場で挑戦する喜びを得た、素材担当からタンク洗浄・顧客折衝まで全体が見える部署、材料と装置の境界など多くの境界領域を経験・発見して数多くの越権行為をした、複数の体験や事象を原理化・普遍化を繰り返した。

「事業大転換」成功に必要なもの 富士フイルムCTO|日本経済新聞
富士フイルム、新ビジネス請負人の上司論|東洋経済
「越権行為」からイノベーションが生まれる|東洋経済オンライン

 

■新事業立上げ責任者

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富士フィルム、2006年に化粧品事業に参入。入社から一貫してフィルム開発に携わった中村氏が化粧品開発の責任者に。

・当時、新事業領域としてライフサイエンス事業・ヘルスケア分野参入が経営レベルで決定された。その中で、具体的に事業化は、比較的ローリスクで確実に立ち上げられそうだということで、化粧品事業に。
(既存技術を元に商品を作るというシーズ発想型だったと、失敗を通じて後に気づいた。「この技術はこのような商品に転換できそうだ」と技術ベースの議論が多かった。)

・初期投資はせずに始め、自社にこだわらず、外部の力を活用。製造、営業、マーケッター、PRともに外部と協創。

・いざスタートしたら、想定外の事態が続出。
 ー製造を専門製造会社に委託したが、なかなかできない。
  → 社員がその会社にラインに張り付くことに。
 ーダイレクト通販でコールセンター立ち上げたが、うまくいかない。
  →社員がコールセンター常駐し、トークを開発せざるを得なかった。

・2006年9月 エフ スクエア アイ シリーズを販売したが、さっぱり売れなかった。
・2007年1月発売の美容液「エフ スクエア アイ インフィルトレート セラム リンクル エッセンス」は、抗酸化作用があり美肌パワーを持つ赤い天然色素「アスタキサンチン」液をナノ化し、極小の粒子が素肌の奥まで素早くしっかり浸透し、内側からふっくら明るいハリ肌を導き出す美容液。

富士フィルム 新規事業 化粧品

富士フィルム 化粧品 失敗

・さっぱり売れなかったが、開発チームはめげなかった。
 (私見:背水の陣で、なんとかするしかなかったのが、現実ではなかろうか。)
・1つだけ売れた製品があり調べたところ、40〜60代が肌のしわ改善に役立つという理由で買ってくれていた。
・かつてのフィルムの愛用者であり、富士フィルムブランドを信頼し期待感を抱いている(富士フィルムの技術ベースのストーリー)ので、化粧品も買ってくれ、使ってみたらその効能に納得してくれたのではないかという仮説を立てた(唯一売れた製品の成功要因を探った)。

・既存技術を元に商品を作るというシーズ発想型から、顧客価値から発想し、それに既存技術を展開するやり方に転換した。顧客の声を積極的にきき、顧客が気づいてない本当に欲しいものは何かを考えた。そこから自分たちなら何ができるのかに目を向け、スモールチームで柔軟に対応した。
・「お客さまにとって、この商品の価値はどこにあるんだろう」と考え、それを基本に商品企画・開発のやり方を根本から変えたことがイノベーションにおいて非常に重要。

・赤いボトルは、業界では非常識。機能訴求や富士フィルムというメーカー名明記も、コンサルからは絶対やめた方が良いと言われた。しかし、業界常識に縛られず、自分たちも知らないから市場やお客様に学ぼうと真摯に取り組んだことが結果につながったと思う。

・2007年9月、別ブランドのスキンケアシリーズ「アスタリフト」を発売。テレビCMには同世代の松田聖子さん・中島みゆきさんを起用。

www.youtube.com

・新規事業に大切なのは、経営のコミットメントを得ること、想定外事態に臨機応変に対応できる独立した小さな組織で動くこと、素直に顧客や市場から学ぶこと、自前主義を捨て信頼できるパートナーと組むこと、の4つだと学んだ。
・経営のコミットメント:長期的戦略の枠組みを先に示し、その一部として事業を展開することが大切。
臨機応変に対応できる組織:凄くスモール組織で、柔軟に対応。社内で独自領域であることも良かった、社内に化粧品に詳しい人はおらず、あれこれ言われなかった。
・素直に顧客や市場から学ぶ:顧客と共創で価値作るならば、素直にお客様から学ぶ姿勢が必要。
・自前主義を捨てる:できるだけ初期投資は抑え、身軽にやることが大事。設備投資なんて最初から重い荷物を背負っちゃダメ。

・「やるべき(求められる)」、「できる」、「やりたい」の3つの重なりあったところで「やる事業領域」を決めているが、個人的にはもう一つ要件があり「なるほど」と思ってもらえること。「なるほど富士フイルムだ」と思ってもらえるものでないと顧客にも支援してもらえない。

・本業消滅という危機に瀕した富士フイルムにおける、新しい化粧品事業の位置付けが、その困難を軽減せしめた。"写真に代わる新しい事業を育てる"という図式はニュースバリュー抜群で、マスコミの関心を引くことができた。

富士フィルムの化粧品事業立上げと人事|RMS
新たな価値を創造するトップイノベーター 富士フィルム|VSN
時代の変化が生む危機と変革の機会

 

私見
製造がうまくいかない、コールセンターがうまくいかない、何より売れなかったのが "想定外" と感じていた、ということが、初期の最大のリスクだったのではなかろうか。
(新規事業の成功率は10%そこそこなのに)

ただ"失敗を生かす"という技術中心の会社特性、直販だったため売れた製品の成功要因を探りやすかったこと、会社の大危機状態の中での "攻める or 死ぬ" という背水の陣での新事業展開、が新事業の立上げと成長に繋がったのではないだろうか。

 

【製品メーカー 新規事業 事例】壊れない製品・丈夫なモノづくり技術力を活かす新規事業

高品質がウリと言われる、日本メーカーの製品。

ただ、顧客により重視する "高品質の定義" は異なり、また "高品質" なほど値段も高くなる傾向に。

 

高品質の中でも "壊れない"・"丈夫" を価値とする、製品販売 ではない新規事業を展開する企業もあります。
製造業も "モノづくりからコトづくり" 。事業成長に寄与する製品メーカー 新規事業 事例を紹介します。

 

ダイキン工業 レトロフィットシステム

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【事業内容】

・レトロフィットシステムは、設置済みビル用マルチエアコンの、圧縮機と制御基盤を高性能品に入れ替えるだけで、故障リスク低減、快適性の向上、年間約15%の省エネを実現するサービス。
・メンテナンスで機器寿命も延び、機種取り換え工事に比べ、費用は5分の1、施工時間も数時間程度に短縮できるのもメリット。

【新事業立ち上げの背景】

ダイキンは国内の業務用エアコントップ企業。中でもビル用マルチエアコンは、国内稼働中の約180万台のうち半数近くをダイキン製が占める。
・市場が飽和状態になっていく中、突破口を開く手立てとして既設エアコンに目を向けた。
・ビル用エアコンの使用年数は約15〜20年とされ、保守メンテナンスの充実が、他社との差別化のカギを握る。ダイキン製のビル用エアコンの中で、メンテナンス時期の既設機種は85%ほど。
・業界として機器性能が高度化し、製品がコモディティ化している。それを打破する付加価値・差別化が求められていた。

・レトロフィット事業を始めるきっかけは、圧縮機と制御基盤を最新技術に交換することで、より長い期間安心して使えることが、お客様のためになるはずだという、メンテナンス現場を担当するサービス部門からの発想。
・エアコン専業メーカーとして新事業として、新製品の販売だけでなく、既存の製品性能をアップし、長く使っていただく事業が可能なのではと考えるようになった。

【新事業立ち上げの苦労】

・事業企画時、社内の設計・製造・販売・営業の各部門からは否定的な反応が多くあった。「空調の更新が遅れてしまう」「新製品が売れなくなる」「採算の取れる売上確保が難しい」などの意見。
・そもそも、マルチエアコンは一度販売したら、レベルアップできないものと考えられてきた。よって、誰もできると思っていなかった。
・コンセプト・方針が固まってからも、開発現場から「開発リソースが足りない」「既設機器の品質・信頼性の担保ができない」など、シビアな意見が数多く出されまた。
・新事業を企画したサービス部門の現場でも、「これは良いね」という反応と、「お客様が求めているのは省エネだけではない」という反応に分かれていた。
・しかし、我々は既に世に出ている製品の多さに着目した。製品に付加価値をつけることで、他社より優位に立てる。つまり「レトロフィット」は大きなビジネスチャンスになる。
・他のメーカーが手を出さない分野に敢えて挑んだからこそ「レトロフィットシステム」の成功したと思う。
・技術はもちろん大事だが、大切なのはお客様。そこからの発想がなければ、何も進化しない。

ダイキン工業「レトロフィットシステム」|新価値創造PORTAL
空調メンテナンスに新サービス「レトロフィットシステム」

 

■ホンダ 純正部品のバラ売り でベトナム市場奪還

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【事業内容】

・中国製バイクは、品質が悪くすぐ壊れてしまい、修理が必要だった。ホンダはここに目をつけた。
・「純正部品のバラ売り」という新事業にて、中国製バイクの壊れたパーツをホンダの純正部品に徐々に取り換えを促すことで、市場の奪還を試みたの。
・「純正部品のバラ売り」作戦が功を奏して、日本製バイクの壊れにくさが知れ渡り、低価格帯製品の販売も開始することで、2014年には市場が逆転。シェア7割を占めた。
・「純正部品のバラ売り」という、新しいカタチの分割販売で、ベトナムの人たちの潜在的なニーズに応えることができた。

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【新事業立ち上げの背景】

ベトナム市場にて、ホンダは当初、中国製オートバイとシェア争いをしていた。
・しかし2000年頃、ホンダ製イミテーションである、中国産オートバイが大量にベトナムに入りこみ、市場独占するかの勢いで追い上げてきた。
・それにより、ホンダのオートバイは激減し、中国製がシェア80%を占めるまでに。

「新しい価値」に着目し、潜在化している価値を具現化する |新価値創造PORTAL