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【要約】イノベーションのジレンマ|大企業の失敗要因を知り、破壊的技術の新規事業創出に役立てる

クリステンセン教授の名著「イノベーションのジレンマ」。

優良企業・業界のトップ企業が、なぜ衰退してしまうのか。なぜ新興企業に負けてしまうのか。(破壊的変化に直面した際に)優良企業が全てを正しく行うが故に失敗してしまう、という、大企業のジレンマを解き明かした名著です。

大企業の新規事業創出に役立てることを目的に、書籍 イノベーションジレンマのポイントを要約します。

 

イノベーションのジレンマ 要約に先立つ留意事項

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イノベーションのジレンマ」は、極めて示唆に富む内容です。しかしながら、いくつかの点について、留意して読み解く必要があります。

● 時代背景の違い
イノベーションのジレンマは、インターネットが登場する前の内容(1997年)です。
書籍内容の時代(今から20年以上前)と比べて、現在は、破壊のスピードは早まっており、業界の壁が融解しつつあります(書籍で取り上げられる事例では、業界の壁は存在する前提の内容)。
20年以上前と比べ、現在はより複雑化しています。

● 「技術」中心の内容
当書籍では「技術」という単語が頻出します。
書籍の序章にて「本書でいう技術は、文字通りの"技術"ではなく、企業内の様々な業務やプロセスを包含する内容」と定義していますが、実際の事例は、文字通りの"技術"に関するものが大半です。そのため、「新技術に合う顧客を探そうという、極めてプロダクトアウトな論調」が本書全体を占めてしまっています。
要約にあたり、なるべく「技術」という単語の使用を避けたいと思います。

また「技術」中心で、業界の壁がある前提の内容のため、機能性能の良し悪し、上位・下位市場で多くが語られます。
しかし現実には、機能面だけでなく、社会面や感情面の観点もあります。市場は産業の壁を超えて上位下位ではないものもあります。現実はもっと複雑です。

●過去を調べるアプローチ
過去を調べるアプローチが故に、既存技術と既存顧客に対して、新技術が "現れる" という、極めて受身的な目線になっています。当書籍には「業界トップ企業が、どう自ら破壊的アプローチを生み出すか」という視点は皆無です。
自社自らイノベーションを生み出すアプローチ、技術起点ではなく顧客起点のアプローチは、同氏の書籍「ジョブ理論」に詳しいです。

【ジョブ理論 要約】ジョブ理論 フレームワークまとめ

 

よりわかりやすく要約するために、本書では曖昧・わかりづらい次の点を、明確に書き分けます。

●破壊的イノベーションと持続的イノベーション
当書籍では「破壊的イノベーション」「持続的イノベーション」という単語が頻出します。書籍名が「イノベーションのジレンマ」ですからやむを得ませんが、それにしても読みづらい。
わかりやすくするべく、当ブログエントリーでは次のように書き換えます。
・破壊的イノベーション → 新しい"クリエーション"
・持続的イノベーション → 既存の延長線上の"改善"

クリエーションは、過去の延長線上ではない、新しい価値をゼロから創り出します。カイゼンは、過去の延長線上に未来があるとして、既存の性能を良くします。

●「顧客」の定義
当書籍では「顧客」に触れることが多いですが、その定義が曖昧です。
わかりやすくするべく、当ブログエントリーでは「既存市場の既存顧客」と「既存市場と異なる、潜在的な顧客層」を明確に分けて、まとめます。

 

■優良企業が破壊的イノベーション(新しいクリエーション)に屈する理由

イノベーションのジレンマ 優良企業が破壊的技術にやられる理由

・「持続的技術」は、既存市場のメイン顧客が、今まで評価してきた項目・指標に従い、既存プロダクトの性能を向上させるもの(既存の延長線上の改善)。
・一方「破壊的技術」は、従来と全く異なる価値基準を市場にもたらし、既存市場では性能は悪い(既存顧客に評価されない)が、既存市場と異なる新しい潜在的な顧客層に求められる特徴・評価項目がある。

 

優良顧客の失敗は、収益性の高い既存市場の既存顧客が求めるプロダクトに、積極的に投資することから始まる、イノベーターのジレンマ。

イノベーションのジレンマの原則

①企業は既存顧客に資源配分の意思決定を依存している。
・優良企業は、持続的技術の新しい波が来ても対応して頂点を守るが、破壊的技術の波が来ると、必ずつまずいている。
・優良企業ほど、既存市場の既存顧客が望まないアイデアを排除するシステムが整っている。結果、既存顧客が望まない、破壊的技術に十分な投資をすることは、極めて難しい。

 

②小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない。
・破壊的技術・新しいクリエーションは、既存市場に求められず、新しい市場を生み出す・新しい市場の要請によるのが普通である。
・そのような新しい潜在市場に、いち早く参入した企業は、大きな先行者利益があることが実証されている。
・大企業は、新しい潜在市場が「うまみのある規模に成長する」まで待つことが多いが、その結果は大抵うまくいかず、失敗する。
・大企業は、暗黙のうちに持つ資源配分プロセスのため、その市場がいつか大きくなるとわかっていても、小規模な市場に十分な人材やリソースを投資することが困難。

 

③存在しない市場は分析できない。
・既存市場では、確実な市場調査と綿密な計画・確実な実行が、合理的なアプローチであり優れた経営である。このような暗黙の慣行は、既存の延長線上の"改善"を力強く推進する。
・しかし、新しい"クリエーション"・新しい市場につながる破壊的技術を扱う際は、市場調査と事業計画が役に立った実績は、ほぼない。
・過去事例から確実に言えるのは、新しい市場がどの程度の規模になるか、専門家の予測は必ず外れるということだけ。
・新しい"クリエーション"において、先駆者が圧倒的に有利である。
投資プロセスで、市場規模や収益率を数値化してからでなければ、市場参入判断ができない企業は、破壊的技術に直面した時に、取り返しのつかない間違いを犯す。データがないのに市場データを求め、収益やコストもわからないのに(架空の)財務予測に基づき判断する。間違えるに決まっている。

 

④組織の能力は無能力の決定的要因になる。
・人間は柔軟性が高く、訓練次第で様々な物事にうまく対処できる。一方で、社内のプロセスと価値基準に柔軟性はなく、既存ビジネスに最適化されている。
・例えば、ミニコンの設計管理に有効なプロセスは、パソコンの設計には不適切。収益性の高い商品開発案件の優先順位を決める際の価値基準は、収益性の低い商品に当てはめることができない。
・既存市場の既存事業に最適化されたプロセスや価値基準は、状況が変わると、役に立たないどころか、それ自体が悪害を生む要因になる。

 

⑤技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない。
・優良企業は、既存市場の既存顧客のニーズに応えようと改善を進める。時として、性能改善そのものが目的化され、既存顧客のニーズを超える場合がある。
・そのため、低価格ローエンドの分野に空白が生じたり、従来と全く異なる価値基準が生じても気づかない。

 

■なぜ優良企業が失敗するのか

イノベーションのジレンマ

■既存顧客による束縛により、破壊的技術の評価を誤る

・優良企業は既存顧客による束縛を、無意識のうちに積極的に受けるようにできている。
・優良企業は、破壊的技術を生み出す技術力がないのではない。その技術力は十分ある。
・既存プロダクトが、既存顧客に評価され、受け入れられているから、業界トップの状態にある。既存顧客の声に耳を傾け、その要望に応えようと、既存の延長線上の"改善"を進める。

・破壊的技術・新しい"クリエーション" を生み出した時、既存顧客に見せて意見を求めると、彼らは大抵は関心を示さない(なぜなら、既存顧客は既存プロダクトの価値軸・性能を評価しているから)。
・その顧客の声(本来聞くべきではない、既存顧客の声)を受け、破壊的技術担当マネージャーは、売上予測を引き下げ、経営陣は破壊的技術への投資を減らす、もしくはプロジェクトを中止する。担当マネージャーや経営陣は、極めてまっとうで合理的な判断をする。(既存)顧客が、要らないと言っている声に従ったまで。

本来は、破壊的技術・新しい"クリエーション" を求める、既存市場と異なる、潜在的な顧客層を見つけ出し、その声を聞かねばならなかった。しかし、優良企業は既存顧客こそ顧客であると思っている(無自覚的に、何の疑いもなく)ため、それができない
・これが、優良企業は、既存顧客による束縛を無意識のうちに積極的に受け、破壊的技術・新しい"クリエーション" に対処できない、構造的な問題・ジレンマである。
・ほとんどの場合、市場規模が小さく、顧客の需要もはっきりしない(誰が顧客か、どういう用途かわからない)破壊的技術・新しい"クリエーション"より、優良企業にとって最も有力な既存顧客の需要に応える、既存の延長線上の"改善" への投資が優先される

・「顧客の意見に耳を傾けよ」とよく言われるが、これはいつも正しいとは限らない。
むしろ、既存顧客は、企業を既存の延長線上の"改善"に向かわせ、新しい"クリエーション"(破壊的イノベーション)のリーダーシップを失わせ、率直に言えば、間違った方向に導いてしまう

 

■優秀な中間マネージャーによる束縛により、破壊的技術の評価を誤る

・優良企業は優秀な中間マネージャーによる束縛を、無意識のうちに積極的に受けるようにできている。

・一般に、研究・技術開発がうまくいかないプロジェクトは、失敗とみなされるとは限らず、学ぶものもあるし、研究開発は一般に一か八かの試みとみなされている。
・一方で、市場がなかったために失敗したプロジェクトは、マネージャーの評価に深刻な影響を与える傾向にある。その失敗が顕在化するのは、製品企画や開発、マーケティングや販売など全面的に投資(新規事業開発に必要な投資)した後だから。
・そのため、自分の評価と会社の利益を考えるマネージャーは、確実に市場の需要があるプロジェクト(つまり既存市場の既存ニーズ)を支援する傾向にある。そして、自分の選んだプロジェクトが上層部の承認を得やすいように、上申する企画案をまとめる。
・上層部は、自分が資源配分の決定を下したと考えるかもしれないが、実際には、上層部が関与するはるか以前に、どのプロジェクトを支援するか、中間層のマネージャーが決めている。

・既存の顧客が明確に示すニーズに応えるプロジェクト(既存の延長線上の"改善")と、存在が不明瞭な市場向けの新商品開発プロジェクト(新しい"クリエーション")の選択肢がある場合、合理的に判断すると、必ず、既存の延長線上の"改善" プロジェクトが選ばれてしまう。
・優れた資源配分システムは、収益性や大きな市場が見出せないアイデアを、適切に排除するからだ。資源を、新しい顧客のまだ見ぬニーズに向ける、システマティックな手段を持たない企業は、破壊的イノベーションに対処できずに失敗する
・マネジメントで最も悩ましいのは、優秀なマネージャーほど、この問題を解決できないことにある(これこそが、イノベーションのジレンマ)。

・ある大手ディスクドライブメーカーは、1993年当時、破壊的技術として登場した1.8インチドライブを開発した。市場ができれば、販売できる状態にあった。1994年、そのCEOは「まだ1台も売っていない、まだ市場がない」と言った。
・その頃ホンダは、カーナビの地図データ記憶のために、1.8インチドライブを使っていた。その彼は「おかしなことに、大手メーカーからは買えない。小さなベンチャー企業から買っている」と言った。
・あの大手メーカーCEOは、次の破壊的技術を捉えようと決断し、見事に1.8インチドライブ開発を成功に導いた。しかし同社の従業員は、既存顧客の既存市場を見ており、ニッチな潜在市場に力を入れても意味がないと考えた。
・その結果、(売れていないから)CEOは市場がないと頑固に言い張り、ホンダの彼は、大手メーカーからは買えない状況にあった。
実績ある企業を既存市場の既存ニーズに貼り付けているのは、既存顧客だけでなく、合理的に判断する優秀なマネージャーや組織文化にも束縛されている

 

■既存顧客の要望・既存の延長線上の"改善" が優先される、典型的な意思決定パターンの流れ

STEP1:破壊的技術は、まず既存企業で開発される
・破壊的技術の商品化は、新規参入企業が進んでいるが、技術開発段階では、優良企業の技術者が、密かに作ったケースも多い。
・会社の上層部の指示・正式プロジェクトとして開発されることは滅多になく、こっそり開発されている。

STEP2:マーケ担当が、既存顧客に意見を求める
・技術者はプロトタイプをマーケ担当に見せ、破壊的技術を用いた商品に市場があるかどうかを尋ねる。
・いつもの手順にならい、既存市場の主要顧客にプロトタイプを見せ、意見を求める。
・既存市場の既存顧客は、大抵興味を示さない。
・マーケ担当は、顧客の関心が低いため、悲観的な売上予測を立てる。
・上層部は、悲観的な情報をもとに、破壊的技術の商品化を棚上げする。

STEP3:優良企業が、既存の延長線上の"改善"を優先する
・STEP2の一方で、大企業は、既存顧客の要望に応えるために、既存市場の他社との競争に勝つために、既存の延長線上の"改善" にリソース投下する。
・優良企業内のこのような合理的判断プロセスにより、破壊的技術の製品化は、ストップされる。

 

STEP4:新会社が設立され、試行錯誤の末、破壊的技術の市場が形成される
・破壊的技術に可能性を見出す人たちが、新会社を設立し、破壊的技術・新しいクリエーションの製品化を進める。
・既存市場の主要顧客層は、この破壊的技術に興味がないため、新しい顧客を探す。
・明確に定義された顧客やマーケ戦略は、当初ない。とりあえず製品を売り始め、買ってくれる人に売り、試行錯誤を繰り返し、新しいクリエーションを求める「既存市場と異なる、新しい顧客層と用途」が生まれる。

STEP5:新規参入企業が上位市場へ移行する
・新会社は、破壊的技術・新しいクリエーションの新しい市場に事業基盤を見出すと、破壊的技術の改善や、用途拡充・新顧客層の拡張により、新しい市場を広げる。

 

STEP6:優良企業が、顧客基盤を守るために、遅まきながら参入する
・新会社による新しいクリエーションにより、優良企業の既存市場分野を侵食することに気づくと、優良企業はSTEP3で棚上げしたプロトタイプを持ち出し、製品化する。
・その頃には、新会社による試行錯誤や学習蓄積により、新会社による新しいクリエーションが圧倒的な先行者優位を築いているため、市場から撤退せざるを得なくなった優良企業(元優良企業)も多い。
・新会社は、粗利率が低くても収益を上げるコスト構造を持っている場合も多く、プロダクトに有利な価格設定ができ、守る側の(元)優良企業は熾烈な価格競争に巻き込まれる。

  

■既存顧客による束縛により、破壊的技術の評価を誤った実例

掘削機業界のイノベーションのジレンマ

【掘削機業界における破壊的イノベーション

①破壊的技術は、既存市場の既存顧客に求められない。
・当時の主要企業の技術(ケーブル駆動システム)の主要顧客は、土木建築業者・下水配管業者・露天採鉱の3つだった。大型掘削機で「一気にたくさん掘れる」ことが重視された。
・破壊的技術(油圧駆動システム)を用いた「小回りの利く」掘削機が、新規参入企業により新しく"クリエイト"された。
・「小回りの利く」掘削機は、一気にたくさん掘れなかった。そのため、破壊的技術は既存市場の既存顧客(土木建築業者・下水配管業者・露天採鉱)にとって意味がなかった。新規参入企業は、プロダクトの新しい用途・新しい顧客を開拓せねばならなかった。

 

②新興企業は、新しい顧客・新しい用途を開拓する必要がある。
・「小回りの利く」掘削機は、小規模な住宅工事業者が、狭い溝を掘るために購入した。その細かい作業のために大型掘削機を使用するのは、費用面でも時間面でも無駄なため、以前は手作業で溝を掘っていた(無消費状態がそこにあった)。
・当時の住宅ブームも相まって、住宅工事事業者の間で「小回りの効く」掘削機は、大きな人気を呼んだ。
・「小回りの利く」掘削機は、既存市場の販売チャネルでは販売されず(既存顧客に売れないから)、小口顧客の扱いに慣れている農機具ディーラーにより販売された。

新しく"クリエイト"「小回りの効く」掘削機は、既存市場の既存顧客とは、規模も、利用ニーズも、販売チャネルも、全く違っていた
・「小回りの利く」掘削機の評価尺度・アピールポイントは、速度と操作性、ショベルの幅(狭い溝も掘れる)、小回りの良さ。このような評価尺度は、既存市場の既存顧客には無価値であることは言うまでもない。

 

③主要企業は、破壊的技術の重大性に気づけない。
・破壊的技術の台頭に気づいた主要企業もあった。その主要企業は、「小回りの効く」掘削機をもつ新興企業を買収したが、新しい顧客に気づかなかった。既存市場の既存顧客に販売しようとし、(当然だが)関心を示さなかった。10年以上販売を続けたが、(当然だが)ついに成功しなかった。

 

④新興企業により、旧来の主要企業が破壊される。
・破壊的技術の進歩により「一気にたくさん掘れる」ようになると、新興企業は旧来の既存市場(土木建築業者・下水配管業者・露天採鉱の3つ)に参入した。
・「小回りが利き」かつ「一気にたくさん掘れる」新しい掘削機は、ついでに「故障しづらい」という利点があったため、旧来の既存市場の既存顧客からも選ばれるようになった。こうして旧技術の主要企業は、駆逐された。

 

●まとめ
・破壊的技術は、既存顧客に必要とされない、既存顧客にとって使えないものだった。
・当時の主要企業は、既存顧客からのニーズから目をそらせば、競合に負けてしまう。競合に勝つためにも、主力の大型掘削機をより大きく、高性能にする方が、増益チャンスが遥かに大きいことは明らかであった。

・主要企業がその後失敗したのは、技術力などの不足ではなく、経営陣の怠慢や傲慢のせいでもない。既存顧客のニーズに速やかに対応した。
破壊的技術が、既存市場の既存顧客の役に立たないから、そして、新市場や用途に気づいた時には遅すぎたから、失敗したのである。

・優良企業が破壊的イノベーションに直面した際の失敗パターンは、優れた経営の当然の結果である。だからこそ、破壊的技術・新しい"クリエーション"はこのようなジレンマに陥れる。
一層の努力・(既存)顧客の声に耳を傾ける・積極的な投資は、既存の延長線上の"改善" には極めて有効である
・しかし、これら安定経営のパラダイムは、破壊的技術・新しい"クリエーション"を扱うには役に立たず、それどころか、悪害を与え、元優良企業を破滅に追いやることが多い。

   

■破壊的イノベーション(新しいクリエーション)への対応

優良企業は、既存顧客の将来のニーズを理解し、それらニーズに応えるための技術を見極め、その技術開発と商品化に投資することに関しては、優れた実績を持つ
失敗したのは、破壊的技術・過去からの延長にない新しい"クリエーション" に遭遇した時だ。
・破壊的イノベーションに直面した時、優良企業の経営者や優秀なマネージャーが、いつも判断を誤る理由は、優秀な経営陣そのものにある。合理的な意思決定プロセス・資源配分プロセスこそが、破壊的技術・新しい顧客向けの新しい"クリエーション"を拒絶するプロセスである。
既存顧客の意見に耳を傾け、既存市場の競争相手の行動に注意し、既存プロダクトの収益性を高める高性能・高品質の設計開発(=既存の延長線上の"改善")に資源を投入する。これらのことが、破壊的イノベーションに直面した時に、優良企業がつまづき、失敗する理由である。

 

イノベーションのジレンマ」第二部は、破壊的イノベーションに遭遇した時に成功したわずかな例と、失敗した多数の例に関する詳しい事例研究の結果。
成功した経営者は、失敗した経営者とは全く別の法則に則って、経営を行っていた

 

■組織の性質に関する5つの基本的な原則

①資源の依存。優良企業の資源配分パターンは、実質的に顧客が支配している。

②小規模な市場は、大企業の成長需要を解決しない。

③破壊的技術の最終的な用途は、事前にはわからない。失敗は成功への第一歩である。

④組織の能力は、組織内で働く人の能力と関係ない。そのプロセスと価値基準にある。その2つが、破壊的技術に直面した時に、無能力の決定的要因になる。

⑤既存市場では評価されない破壊的技術の特徴が、新しく生まれる市場では大きな価値を生むことがある。

 

■成功した経営者の、破壊的イノベーションへの断固たる対応

成功した経営者は、これら企業内に存在する無意識の原則に抗い、次のような対処をした。

破壊的イノベーションへの断固たる対応

破壊的技術を開発し、新しい"クリエーション"を商品化するプロジェクトを、それを必要とする新しい顧客を持つ組織に任せた。経営者が、破壊的技術を「適切な」新しい顧客に結びつける。

②破壊的技術・新しい"クリエーション"に関するプロジェクトを、市場規模に合わせ、小さな機会や小さな勝利にも前向きになれる、小さな組織に任せた

③破壊的技術の市場を探る過程で、失敗を早い段階にわずかな犠牲でとどめるような計画を立てた。市場は、試行錯誤の繰り返しの中で形成されていくものであると、知っていた

④破壊的技術に取り組むため、社内主流組織の資源の一部は利用するが、主流組織のプロセスや価値基準は利用しないように注意した。組織内に、破壊的技術に適した価値基準やコスト構造を持つ違ったやり方を作り出した。

⑤破壊的技術を商品化する際は、既存市場の既存の延長線上の"改善"として売り出すのではなく、新しい"クリエーション"の特徴が評価される、新しい市場を見るけるか、新たに開拓した

 

■対応① 破壊的技術は、 それを求める顧客を持つ組織に任せる

・企業に何ができて何ができないかを、実質的に決定するのは、企業の「顧客」である。
既存顧客が求めていない、新しい破壊的技術が出現した時、経営者がすべきは、独立した組織を作り、破壊的技術・新しい"クリエーション"を必要とする、新しい顧客の中で活動させること
・実務レベルで大変なのは、そのような新しい顧客は目の前におらず(目の前にいるのは既存技術を評価する既存顧客)、試行錯誤を通じて探し求めたり・新たに開拓が必要であること。

・企業の資源配分プロセスは、顧客が望まない案は排除するようにできている。顧客が望む製品には、資金が割り当てられ、顧客が製品を望まなければ、その製品に資金は割り当てられない。
・仮に、経営者に先見の明があり、破壊的技術に資源分配し、新しい顧客を探索する判断をしたとしても、優秀な既存組織の現場マネージャーはそうは考えない(既存顧客が求めない製品に、資金と労力を投入する意味がないと、合理的に考える)。

単一の組織で、既存市場の競争力を保ちながら、一方で、破壊的技術を的確に追求することは、不可能である。(この結論は、意欲的な経営者にとって厄介で、大抵の経営者は、既存市場に力を入れつつ、同時に破壊的技術も追求しようとする。その努力は滅多に成功しないことは、歴史が証明している)
・別々の組織で、別々の顧客を追求しなければ、うまくいかない。単一組織の中に、異なる収益モデルが平穏に共存できることもない。

 

■対応② 組織の規模を、市場の規模に合わせる

イノベーションのジレンマ 小さい別組織に任せる

・破壊的イノベーションに直面した経営者は、いち早く破壊的技術・新しい"クリエーション" を商品化する必要がある。
・それには、そのプロジェクトを、対象とする市場に見合う、小規模組織に組み込む必要がある。新しい"クリエーション"の対応は、既存の延長線上の"改善"以上にリーダーシップが重要であること、小規模な新市場では大企業の短期的な成長・利益ニーズを満たせないため。

・既存市場において、持続的技術でリーダーシップを取ることは、あまり優位性はないが、破壊的技術においては、リーダーシップを取ることは極めて重要である。つまり、後から参入したのでは、追いつけず、負けるだけである。
・破壊的イノベーションにおいては、破壊的プロダクトを先に販売すること、その販売対象となる市場開拓をリードすることが、極めて重要。これをしない後発参入企業は、ただ負ける。

破壊的イノベーションに勝利した企業は、破壊的技術の新しい市場が、発展せずに終わる可能性があるリスクと引き換えに、新市場で圧倒的に勝利する可能性を得たことになる。(参入リスクを引き受けず、様子見をした優良企業は、新市場で敗北することが確定している)

・破壊的イノベーションで、先に市場参入してリーダーシップをとれば、大きい見返りがある。 優良企業にとって難しいのは、破壊的技術は新しい市場の誕生を促すが、最初から1000億円規模の市場など、ない。大企業にとって、ほとんど魅力がない市場規模のうちに、参入することが極めて重要であるというジレンマ
・破壊的技術で新しい"クリエーション"の商品化する役割は、初期の小さな新市場による売上や利益を、わずかな注文を十分業績に活かせる、小規模な別組織に任せる必要がある。

・大企業の成績志向の社員に、小規模で不明確な市場をターゲットにした破壊的プロジェクトのために、必要純分な資源やエネルギーを傾けることを期待するのは、無理がある。
・そのような無理を説得してやらせるのではなく、初期の破壊的技術によって生じるチャンスが、動機付けになるほど小規模な組織に、新しい"クリエーション"を任せる方法を選ぶべきである。それには、独立した組織をスピンアウトさせるか、新興企業を買収すれば良い。

 

■対応③ 試行錯誤と学習できる資源配分をする

・破壊的技術の用途となる市場は、開発の時点では単にわからないのではなく、知り得ない。
・破壊的技術・ 新しい"クリエーション"を推進する戦略と計画は、実行するための計画ではなく、学習し、発見するための計画であるべきである。
・市場と顧客の将来は(既存市場のように)わかっていると思い込んでいるマネージャーと、発展中の市場の不透明さを認識しているマネージャーとでは、当然、計画や投資の仕方は全く異なってくる。

・優良企業の大半は、既存市場の既存顧客に、既存技術による既存プロダクトを扱うもので、優秀なマネージャーのほとんどは、既存の延長線上の"改善"の環境の中で、持続的イノベーションについて学び、それを当然と思うようになっている。
・しかし、優秀なマネージャーのほとんどは、破壊的イノベーションに関する経験をしたこともなく、意識さえしたことないのが普通。
既存の延長線上の"改善"に関する意思決定プロセスを、新しい用途を生み出す破壊的技術に適用してしまうとき、企業に致命的なダメージを与えかねない

・破壊的新技術の用途や市場規模の予測は、必ず外れるということだけが、過去事例から確実に言えることである。
・市場予測は必ず外れるため、予測(と言う名の楽観的妄想)に基づく積極投資は控えるべきである。設備投資にしても、実地に様子を見ながら試行錯誤を繰り返し、柔軟なアプローチを取る必要がある。
・手探りで市場参入し、必要ある場合はプログラムの方向修正ができる十分な資源を残しながら、参入課程で学ぶことをもとに、修正しながら将来を築いていくのが好ましい。

・成功した新規事業の大多数は、最初の計画を実行し始め、市場で何がうまくいき、何がうまくいかないかわかってきたときに、当初の事業計画を放棄しているという調査結果がある。
・成功する新事業と失敗する新事業の違いは、当初の計画の正確さではない。計画を進める中で、二度三度と試行錯誤できるように、十分な資源を残しながら進めること。
・試行錯誤を繰り返して、適切な市場や用途、戦略を見つける前に、資源や信頼を失った場合は、新事業として失敗する。

 

【事例:ホンダの北米オートバイ業界への参入】

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・1950年代、ホンダは日本市場でスーパーカブで大成功。
・北米に参入したいと考えたが、スーパーカブに相当する市場が、北米にはなかった。
・調査の結果、北米での評価項目を把握し、馬力ある大型オートバイを開発し、北米に拠点を設けた。

・北米事業は最初から難航。ホンダバイクは安いだけがウリで、バイクディーラーは実績ない製品取り扱いを拒否した。
・努力の末、ようやく数百台販売したが、故障しまくりで惨憺たる状態で、会社は沈没寸前。

・北米駐在員3人は、気晴らしにスーパーカブでツーリングしていた。完全なる気晴らし。
・その様子を見た人が、その小さなバイクはどこで買えるか尋ねてくるようになり、都度、日本から輸入した。こうして2年はプライベートで利用されていた。ホンダは依然として、大型オートバイ販売を重視していたため、このチャンスに気づかなかった。

・ホンダの小さなバイクで、ツーリングを楽しみたい人は増え続け、ホンダ米国チームに、偶然にも、全く別の市場の可能性が開けた。全くの偶然であった。
・ホンダ米国チームはついに、日本の経営陣を説得し、大型バイク戦略は失敗だが、全く新しい市場分野をスーパーカブで開拓するという、別のチャンスにかけることにした。
・小型バイク戦略が正式に採用された後、販売店開拓の困難さに直面した。ようやく、数件の「スポーツ用品店」を説得して、スーパーカブ製品を引き受けてもらい、その宣伝に成功し始めた時、ホンダの革新的プロダクトの破壊的戦略が生まれた。

・ホンダは、北米オートバイ市場がどのような市場か正確に予測できなかっただけでなく、潜在市場の規模も予測できず、その用途も予測できなかった。

 

・多くの企業では、適切な戦略を追求する過程で、大抵のマネージャーは「失敗はできない」と考えている。それは正しくもあり、間違ってもいる。
・破壊的技術の最初の用途と市場を探すには、失敗がつきものである。マネージャーは、既存の延長線上の"改善" とは、全く別のアプローチを取る必要がある。
・破壊的イノベーション・新しい"クリエーション" の場合は、慎重な計画を立てる前に、行動を起こす必要がある。どこに市場があるかわからないという心構えで、行動することで初めて学習ができる。
計画は、実行のための計画ではなく、発見志向の学習のための計画であるべき
・例えば、最初から高機能高品質にしすぎて(つまりお金をかけすぎて)、新しい市場が求めるものを見出したときには、コスト高すぎて後戻りできない、というのは大企業がやりがちな典型的な失敗。

・破壊的技術の市場は、たいていの事前の計画とは異なる、予想外の市場・成功から現れることがある。そのような発見は、顧客の「声」に耳を傾けるのではなく、人々が「実際にどのようにプロダクトを使うか」見ることによって得られることがある。
・破壊的技術の新しい市場を発見するアプローチは、新しい"クリエーション" が、誰にどのような用途で、どのくらい使われるか、またそもそも新市場があるかどうか、使って見るまで誰にも、企業にも顧客にもわからないという、明確な仮定に基づくマーケティングをするのが好ましい。

優秀なマネージャーは、このような不透明な状況に直面すると、どこかの誰かが、市場の輪郭をはっきりさせるまで、待とうとする傾向にある。それが取り返しのつかない失敗につながる
・破壊的イノベーションでは、先駆者が圧倒的な優位に立つことを考えると、破壊的技術に直面したら、実験やグループインタビューなどするのではなく、市場への発見志向の探索に出かけることによってのみ、新しい顧客と新しい用途に関する知識を、直接身に付けることが可能となる。

■対応④ プロセスと価値基準を本流組織から切り離す

破壊的技術への対応に成功した企業は、すべて、機会の大きさに見合った規模の独立組織を新設している。 

・優良企業から変化対応力を奪うプロセスは、多くの場合は慣例に従い、市場調査をし、分析結果を財務予測に反映し、事業計画と予算を協議し、数字を伝達して実行に移すといったプロセスである。そのプロセスは大抵柔軟性がなく、破壊的技術への対応にも誤って適用してしまい、多くの企業で変化に対応できず苦しみ、失敗する。

・破壊的技術への適応のため、スピンアウト組織を設立する際、主流組織の価値基準やプロセスから分離する必要がある。その際に、別組織が物理的に分離しているかどうか重要ではなく、資源配分プロセスが独立しており、主流組織のプロジェクトと資源の奪い合いをしないのが重要
・これは、CEO自らが注意して監督しない限り、主流の価値基準に反するような対応ができた企業は1社もない。それほどに、既存プロセスと価値基準の力、通常の資源配分プロセスの論理は強力である。
新しい組織が必要な資源を確保し、新しい課題に取り組むため、必要なプロセスと価値基準を自由に作るよう指示できるのは、CEOだけである。

 

■対応⑤ 新しい成長市場を見つけて、開拓する

・破壊的イノベーション・新しい"クリエーション"で成功する企業は、既存技術やプロダクトとは異なる特性を評価し、受け入れる新しい市場を見つけるか、開拓しようとする。
・逆に、破壊的技術に追い落とされた元優良企業は、既存市場の既存ニーズを当然の物と受け止め、破壊的技術が主流市場でも十分評価されるまで、破壊的技術を販売しなかった。

 

■業界トップ企業が、どう自ら破壊的アプローチを生み出すか 

書籍「イノベーションのジレンマ」には、業界トップ企業が、どう自ら破壊的アプローチを生み出すか という視点は皆無です。
自社自らイノベーションを生み出すアプローチ、技術起点ではなく顧客起点のアプローチは、「イノベーションのジレンマ」の20年後に出版された、同氏の書籍「ジョブ理論」に詳しいです。

http://smasa0810.hatenablog.com/entry/jobs_to_be_done_summary

smasa0810.hatenablog.com