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イノベーション創出に必須の 失敗・継続性・独創性・異端

旭化成フェロー吉野彰氏がノーベル化学賞を受賞。リチウムイオン電池は、紛れもないイノベーションで、世の中を大きく変え、今後も変えていくでしょう。

このようなイノベーションを、結果として生み出すことができる企業や人は、そうでない企業や人と何が違うのか。

「失敗」「継続性」「独創性」「異端」あたりではないかと、個人的には思います。

 

イノベーションとは

イノベーション創出に必須の 失敗・継続性・孤独・独創性

物事の「新結合」「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」(を創造する行為)のこと。
新しい技術革新はもちろん、既存とは異なる新しいアイデアによる新たな価値創造、社会的な大きな変革、それまでのモノや仕組みと異なるパラダイムによる新たな価値創出など。

(ちなみに、日本ではイノベーションを "新しい技術革新" と誤った解釈をする人が多い。1958年『経済白書』で、イノベーションが「技術革新」と翻訳されたためだと思われる。当時の日本は発展途上であり、欧米に追いつくために、新技術・技術革新・技術の改良が極めて重要だった時代背景がある。)

 

イノベーション創出に必須の 失敗・継続性

イノベーション創出には、経営者が「失敗・継続性」を積極的に認める価値観・哲学、それを実行に移す「勇気」を経営者が持っていることが必須だと考えます。

過去の延長線上であれば、やり方もわかっており、課題も既知の存在で対処法も既知でしょう。
しかし、過去にない新しい切り口・新しい結合を作り出すイノベーションは、わからないことに取り組むため、必然的に失敗ばかりになります

 

イノベーションに必須の失敗 継続性

一般に、新規事業の成功率は5%程度と言われます。20回挑戦して、19回は無残に朽ち果てます。
基礎研究も同様で、10個に1つ当たれば良い方(成功率10%なら御の字)だそうです(吉野氏のコメント)。実際に吉野氏も、リチウムイオン電池の研究に取り組む前に、3つ連続で基礎研究で失敗されました(1案件2年 × 3件 = 6年はひたすら失敗続き)。

この失敗確率の高さ。20個挑戦して、19個は無駄に朽ち果ててしまうこと。
イノベーション創出の試みは、ほとんどの失敗の中から、生まれる可能性を持つことを、積極的に認める価値観・哲学を、企業の経営者が持っていることが必須です。

「失敗・継続性」を積極的に認める価値観・哲学を、経営者が持っているか、そのような哲学は持ち合わせないかが、イノベーション創出に決定的に重要です。

 

また、ほとんど失敗することを理解した上で、新規事業の取り組みや研究開発の取り組みを継続的にやり続けると、経営者が決めて実行に移す「勇気」も極めて重要です。

例えば、新規事業を生み続ける会社の一つであるリクルート社は、新規事業提案制度 Ring を1982年から35年以上やり続けています。
「どうしたら新規事業がうまく作れるの?」などと、甘っちょろい質問をする前に、35年やり続けたら、組織として新規事業創出に慣れて上手になるのでしょう。

継続して個人にやらせ続ける重要性も同様で、吉野氏も手がけた研究テーマは3つ連続で失敗し、ただその間の試行錯誤から教訓を得て、4つ目の研究テーマに生かしました。

 

■経営者の価値観・哲学・勇気が決定的に重要な理由

かつての日本では、不確実性の高い領域に、長期投資を続けた企業も少なくないと聞きます。想像するに、日本株式会社の成長期で、売上も利益も右肩上がり、株主の発言力が現在より弱く、利益を上げろと社外からとやかく言われることが、少なかったからではないでしょうか。(もっと単純に言えば、社長が社外から怒られなかった。)

 

しかしバブル崩壊からの日本株式会社の自信喪失、金融ビッグバンの自由化などを経て、なんとなく、利益と時価総額が重要、EBITDAやROE重視など株主最重要で短期視点の雰囲気が、過剰に広まった気もします。
(上場企業の)経営者からすると、単純に言えば、利益と株価が上がれば褒められる、利益が下がれば怒られる、利益が目標を下回れば怒られる

上場企業の経営者といっても、社長になる前の数十年は、上司に評価され続けてきたわけです。社長になったら、自分を評価するのが、株主や経済メディアに変わっただけ、という無意識の感覚は当然あるでしょう。

出世し続けて社長になるくらいですから、社内で数十年 評価され続けてきた(褒められ続けてきた)わけです。そりゃ社長になってからも(社外からも)褒められたいと思うのが、普通の人間の当たり前の感情です。
株主に怒られるようなことは、社長は普通したくありませ。わざわざ利益を減らして、社長は怒られたくないのです。

 

この、普通の人間なら誰もが持つ感情をコントロールし、
一見無駄に見える「20個挑戦して、結果として19個は無駄に朽ち果ててしまう」ことに継続的に投資し続ける、つまり、目の前の利益を下げて、将来のために、ほとんど失敗することに資金を投じることは、「経営者としての価値観・哲学・勇気」以外の何者でもないのではないでしょうか。

 

2019年現在、不確実性の高い領域に、長期投資を続けると明言する企業の一つは、サイバーエージェント社。
スマホインターネットテレビ「アベマTV」を立上げるべく、年間200億程度の投資を続ける(200億程度赤字出し続ける)と、藤田社長が言い続けています。
(アベマTVに限らず、次の事業に投資し続けるから、必ず中長期で考えてほしいと株主に言い続けている。)

実際に、2016年から 3年連続で200億円の赤字。藤田社長がアベマTV 立上げ 総責任者となり、陣頭指揮をとっているそうです。
営業利益 2015年9月期 330億円、2016年 370億円の企業体が、200億円の赤字を出す新規事業を始めるのは、「経営者としての価値観・哲学・勇気」としか言いようがない気もします。

 

イノベーション創出に必須の 独創性・異端

経営者が「失敗・継続性」を積極的に認める価値観・哲学、それを実行に移す「勇気」を経営者が持っていることが大前提。
それに加え、イノベーション創出には、「独創性・異端」な人材を組織内に抱え続け、イノベーション創出のタネ仕事に当たらせる 必要があります。

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過去にない新しい切り口・新しい結合を作り出すイノベーションは、一般に、新規事業の成功率は5%程度、基礎研究も同様で成功率10%なら御の字です。
「過去にない新しいことに」「20回挑戦して、19回は無残に朽ち果てる」ことを厭わない、それを経てでもイノベーション創出に意義を感じる人間でなければ、とてもやっていられません

実際に吉野氏は、リチウムイオン電池の研究に取り組む前に、3つ連続で基礎研究で失敗(1案件2年 × 3件 = 6年ひたすら失敗続き)。リチウムイオン電池の研究開発から製品化まで10年、その後全然売れない5年の苦渋を舐め、ウィンドウズ95・IT革命で、リチウムイオン電池についに注目が集まったのだそう。
リチウムイオン電池が売れるまで 6年+10年+5年=20年以上。こんな長期間にわたりまともな成果を出せない状態にあっても腐らないのは、常人の精神ではありません。

大企業には「優秀な人」がたくさんいます。
しかし、そのような優秀な人は「基礎研究を3つ連続で6年も失敗し続け」「会社の金食い虫と10年言われ続け(≒ 研究から製品化の10年)」「製品がぜんぜん売れない5年」は、耐えきれません。社内で失敗者と呼ばれ、後ろ指を指され、全然売れないなと影で悪口を言われる。
逆説的には、失敗しそうなことを避け、本業で成果を出すから、優秀な人と言われるのかもしれません。

「優秀な人材」と「独創性ある異端人材」は、実際には相容れない特性です。「独創性ある異端人材」とは、誤解を恐れず言えば、組織内の異常者・狂人といって差し支えありません

 

過去にない新しい切り口・新しい結合を作り出すイノベーションは、必然的に、過去の延長線上ではない、新しい必要があるため、当然に独創性が必要とされます。

ほとんどの日本人は、和を持って貴しと為し、ルールを守ろうとする精神が潜在下にあります。現在の平和で成熟した日本では、ゼロから物事を作り上げる経験を人生でしない(必要とされない)ため、独創性を求められ、前例ないことを求められるのは、ほとんどの日本人にとって苦痛です。

一方で、過去にないことを求められて、俄然やる気になる人材が、ごく一部にいます(イノベーター人材,イノベーター候補人材は、組織内に8%ほど存在するそう)。その中で、内から湧き出る独創性を持つ人材に、イノベーション創出を期待する研究開発や新規事業に当たらせましょう。

内から湧き出る独創性を持たない人材、つまり上司の指示を仰ぐ癖があり、自らの頭で生み出せない人材に、イノベーションが生み出せるわけがありません。
(そのような優秀な人材は、既存業務・本業でしっかり抜群の成果を上げてもらう方が、会社に取っても本人にとっても幸せです)

 

ゼロイチに向く人材は、次のような生い立ちや特徴があるそうです。

・ずっと花形部署にいる人は、ゼロイチ人材になりにくい。
左遷されたような辺境部署、中途社員、外国人など、保守本流から離れた所にゼロイチ人材はいる

・ゼロイチになりやすい人の判断基準
 ーやんちゃな人。誰もが無理と思った案件を、無理を通してやりきってしまう人。
 ー破天荒だけど、なんか憎めない。荒削りだけど、実行してしまう人。
 ー視点に特異点があり、物事を進められる。

・ゼロイチの共通項
 ー幼い頃に両親が離婚したなど、家庭に何らかの不具合があったケースが多い
 ーこういう人は、若いうちから自分のために動き、自分なりの物差しを持ち、自分の幸せを自分で決めようとする。
 ーどこかで満たされない飢餓感や欠乏感があり、それが原動力にもなる。

・挑戦の数を死ぬほど増やすことで、何かを生み出す。ゼロを100回繰り返したら、やっと1が生まれるかどうか。
 ー重要なのは、逃げ場のない立場で、意思決定の場数をいかに踏ませるか

business.nikkei.com

世界中のノーベル賞受賞者は田舎育ち。田舎の子は何もないから、自分で考えて決める。都会の子は、親が与えてしまうから子供が自分で考えない。

シリコンバレーでゼロイチから成長した会社の共通項は、創業社長が不良であること。つまり外部が規定する生き方に縛られずに、物事をゼロイチで考えられる。

logmi.jp

このような人材は、組織の中・特に大企業の中では完全に「異端児」でしょう。
("誰もが無理と思った案件を、無理を通してやりきってしまう人" なんて、ただのルール違反で面倒な人です、笑)

通常業務では、ルールを守れないこのような人材は、周囲の反感を買ってしまいます。
しかし、そのような異端な立場・視点が、イノベーション創出に繋がる可能性を持ちます。

 

起業家でない限り、入社して勤める企業には既存業務があり、出来上がったルールやプロセス、取引先や販路や、様々な組織体制や業務があります。
過去にない新しい切り口・新しい結合を作り出すイノベーションは、大なり小なりこれらを無視し、新たに作り上げる作業に他ならず、ほとんどの日本人にとっては直感に反する動きとなり、普通の日本人には苦痛を感じる動き・作業です。

これに苦痛を感じない異端、ルールを無視してゼロから作ることに楽しみを感じる組織内の異常者に、イノベーション創出の役割を与えましょう。