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悪化する企業の研究開発投資効率|どうすれば良いか、研究開発と新規事業創出

企業の研究開発投資効率は悪化の一途を辿っています。
新しい事業やビジネスを創出するために、新しいイノベーションを生み出すために、どうすれば良いでしょうか。

 

■日本企業の研究開発投資

日本の研究開発費は18兆円もあるそうです。(ベンチャーキャピタルの投資額の100倍以上!もある)

GDPに対する研究開発費率は3.5%ほどで、主要国の中でトップクラス。
研究開発に、十分お金を使っています。

 

ただ問題視されるのが、企業の研究開発投資効率。
企業の研究開発投資効率は、ここ30年ほど一貫して悪化し続けているそうで

悪化し続ける日本企業の研究開発効率

主要国の産業部⾨の研究開発投資効率の推移

 

■日本企業の研究開発投資の動向

経済産業省の報告書「日本の研究開発活動の動向」(平成30年2⽉)より、いくつかのポイントを紹介します。

・日本の研究開発費はおよそ18兆円
 ーGDP比3.5%ほどで、他の主要国より高い割合
 ー企業13.5兆円(開発研究75%,基礎研究7.5%)
 ー大学3.5兆円(基礎研究50%超)

日本の企業の研究開発投資効率は悪化傾向
 ー1990年は、他の主要国と同等もしくは高かった
 ー現在の研究開発投資効率は、1990年の半分以下に悪化

・日本の企業の研究費対売上⾼⽐率は3.3%ほど

・研究開発従事者は80万人ほど
 ー企業 50万人弱(研究者8割強,技術者と補助者2割弱)
 ー大学 30万人強(研究者65%,技術者と補助者35%)
 ー日本の企業は、他国より研究者割合高い(技術者と補助の割合が低い)
 ー従業員に対する研究者比率は9%ほど(調査対象では研究者49万人 従業員590万人)

国内で投入された新製品・新サービス割合は、日本は主要国中最低。特に新サービスが低い。
・企業の研究開発は、既存技術の改良が9割、市場開拓型が8-9%、非連続型の破壊的イノベーションの可能性あるものが1-2%

研究開発投資は既存技術の改良ばかり

出典:研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査 最終報告書

 

■ 研究開発投資効率が悪化した原因

新規事業創出を研究所に任せすぎ

R&D部門を持つ会社では「新しい事業を産むのは中央研究所・R&D部門の役割」とみなされることが多いそう。
1990年以前は、実際に多くの新規事業が研究所から生まれた。当時は市場やニーズが明確で需用量も多く、研究や技術発明が製品や事業に直結しやすかった。

しかし近年、研究開発活動と事業に仕上げる活動との間には、かなりギャップが生じている。昔のように技術や製品優劣ではなく、現在は事業成功要因は、顧客との関係性構築や、新たなビジネスモデルやエコシステム構築などが大きな要因となっている。

研究開発・技術と、新事業・市場と繋ぐには、研究開発活動とは異なる能力や役割が求められるが、その役割を担える人材が、企業内にいない・極めて少ない

ビジネスや事業化知見のない研究者が、事業開発に不慣れな担当者と、開発技術を用いて悪戦苦闘して結局事業化できずに失敗する、という事例が増えている模様。
新規事業創出の状況が変化しているのに、その状況変化に対応せず、研究所に「頑張って新規事業を作れ」と叱咤するだけの会社が多い。
富士通総研 オピニオン より)

 

技術神話が強すぎて、事業モデル構築を軽視しすぎ

新規事業創出を研究所に任せすぎ問題の背景には、技術があれば新規事業は作れると、比較的事業化を軽く考えている方が多い、という問題がある。

現在の企業の経営層が学校を卒業して新卒入社した1980年ごろは、日本の技術が世界を席巻し、日本の製造業が栄華を極めた頃。その成功体験の記憶のまま、技術神話から抜け出せない経営層や会社の上層部は多いと言われます。

また新規事業を、自前の研究所の技術から生み出そうという気持ちが強すぎる問題も。
継続的な研究開発の蓄積は重要な領域はありつつも、それだけでは、ダイナミックな環境変化・事業転換に対応できない足かせとなるリスクもあります。

破壊的イノベーションの研究開発

 

● 既存技術の改良に偏りすぎ

企業の研究開発の内訳は、既存技術の改良(事業化まで3年以内)(例:自動車のモデルチェンジ、携帯電話の春夏モデル)に9割投じられているとのこと。

例えば携帯電話の場合、今から20年前の携帯電話市場の成長期・拡大期であれば、技術開発と新モデル投入により、携帯電話市場の拡大・売上アップが見込め、研究開発投資効率は良かったと思われます。
しかし、携帯電話市場が成熟すると、新モデル投入しても、市場は既に飽和・売上も低迷します。研究開発投資効率は、かなり悪化します。

企業の特許の日米比較は、非連続型研究+市場開拓型研究の割合は、日本は31%に対して、アメリカは48%を占めます。
巷では、アメリカは短期利益重視で中長期的な投資は消極的と思われがちですが、特許を見る限り、全く逆のように思われます。
(2011年5月の経産省 資料「我が国の研究開発の状況について」より)

我が国の研究開発の状況について

 

■ 研究開発投資効率を向上させ、新規事業創出につなげるために

研究開発投資効率悪化の原因の、逆をすると良いのではないでしょうか。

 

●新事業開発部門の常設と、R&Dとの連動

研究開発活動と事業に仕上げる活動との間にある大きなギャップを解消するには、事業モデル構築や顧客視点を担う "新規事業開発部門" を常設で設置して、研究開発部門と常に連携させるのが良いのではないでしょうか。

研究者や技術者は、他社の研究者や大学研究機関など、研究や技術の切り口では、社外との連携・交流をすることは多いです。しかし、世の中の社会動向や、消費者ニーズ、他社からの新規事業レベルのでの検討は、研究者や技術者は、苦手とするところでは。

研究開発・技術と、新事業・市場と繋ぐには、事業開発の能力と役割が必要です。
研究開発部門とタッグを組む、事業開発に慣れた担当者・市場や世の様々な業界動向を広く捉える役割がいて初めて、新規事業創出へ進むことができます。

研究開発投資効率を改善するのに、新規事業開発部門設置が良い

その役割を担える人材は、自社に少ないかもしれません。
ただ、これまでやっていないのであれば、そのような人材がいないのは当然。仕方がありません、これから始めましょう。

研究開発部門・研究開発費が毎年計上されるのと同様に、新規事業開発部門・新規事業開発費を毎年計上して、継続的に新規事業を作り続けるのが良いのでは。
日本の企業の研究費対売上⾼⽐率3.3%のうち、例として、研究費率を下げて2.8%ほどにし、新規事業開発費0.5%くらいに分配し直してはどうでしょう。

新規事業 向いている人の見分け方|大企業の社内新規事業 担当者の選び方

 

研究開発部門と、新規事業開発部門の常設と連動

新規事業開発部門も、複数のチームに分かれることでしょう。
・自社技術を、買ってくれる新しい市場・新しい顧客を探すチーム
・自社やグループ内で、技術が役立ちそうなプロダクトや部門とつなげるチーム
・顧客起点で解決すべき課題・困りごとを特定し、自社で事業を開発するチーム

例えばこの3つのチームは、担う役割や目的、日常の仕事も全く変わってきます。
またいずれのチームも、自社内の全体像(様々な技術や商品・顧客層)を把握する必要があり、他社からの持込提案の窓口ともなります。

 

●補足:営業部やマーケティング部との連動では上手くいかない理由

顧客ニーズに合わせた新規事業が上手くいくなら、常設の新規事業部門ではなく、営業部やマーケティング系の部門(営業企画,販促,宣伝,商品企画など)と連動すれば良いではないか、と思うかもしれません。

<特定カンパニーに紐付くR&Dの場合>
例えば、特定カンパニーに紐づくR&D部門の場合、特定の事業領域・営業とも距離が近く、連動しやすいでしょう。
しかし一方で、現在の事業や製品に近すぎて、既存製品の改良ばかりになってしまいがち。既存製品の改良は、R&D部門ではなく、既存商品企画・開発部門の役割では。既存製品の改良では、R&Dから新たな付加価値創出は難しい(だから研究開発投資効率が悪化する)。

<営業部門と連動する場合>
営業部門は、特定の顧客層に、特定の商材群を、今売るのが役割です。
商材群を売るために必要な顧客ニーズは把握する一方で、そうではない情報収拾をするほど余裕?のある営業は少数です。また、大きな会社になるほど、業種や領域、企業規模や取扱商材などにより、営業部門は分化されます。
その結果、営業部門と連動すると、"顧客ニーズ" と言いつつも、その営業部門が今売っている製品改善に関するものが中心になってしまいます。

<販促や宣伝などのマーケティング系と連動する場合>
一般に、既に売る商品がある前提で、これらの部門は機能します。
言い換えれば、売るものがない状態(新規事業をこれから作る)では、残念ながらこれらの部門は機能しません。

「顧客ニーズに合わせた新規事業」は、確かにその通りです。
ただ、どのユーザー層を顧客層と定義するか、その顧客層がどういう課題があるかを探り当てることは、想像するよりもずっと難易度が高い作業です。

既存の営業部やマーケティング部門に片手間で協力してもらうのでは、新規事業創出につながる確率は限りになくゼロに近いでしょう。

 

●研究者・技術者から見て、新規事業開発がうまくいくために

日経ものづくりより

出典:https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/mag/15/318382/201603/

日経ものづくり 「技術を価値に変える」2016年3月号 のアンケート、新規事業開発がうまくいった理由、うまくいかなかった理由を紹介します。

<新規事業開発がうまくいった理由>
 ・顧客ニーズとの高い適合性
 ・経営トップの意識・意欲が高い
 ・技術力の高さ
(アンケート回答者は、新規事業がうまくいっている会社)

<新規事業開発がうまくいかなかった理由>
 ・新規事業開発の進め方や方法が不適切
 ・顧客ニーズに適合しない
 ・販売力の弱さ
 ・新規事業開発を推進する組織・体制の欠如
 ・技術力の低さ
(アンケート回答者は、新規事業がうまくいっていない会社)

「新規事業開発の進め方や方法」「新規事業開発を推進する組織・体制」は、うまくいった会社では重要視されず、うまくいかなかった会社では重要視しています。

想像するに、新規事業がうまくいく会社では、新規事業開発を推進する体制や進め方が、当たり前のものとして社内に定着しており
逆に、新規事業がうまくいかない会社は、新規事業開発の組織がなく、研究者が四苦八苦してうまくいかずに失敗に終わるのではないでしょうか。

  

●非連続型研究+市場開拓型研究の割合を高める

具体的な研究テーマは、私は門外漢のためわかりませんが、中期を見据えるリスクの高い研究・市場創出型テーマの研究の比重を、もう少し高める方が良いのではないでしょうか。

一にも二にも、社長の哲学と勇気次第だと考えます。

"非連続のイノベーション" を生み出すために|社長に 先見性・哲学・覚悟はあるか