デジタルトランスフォーメーション主導部門とDX目的との成果(成功,失敗)の関係性
活発にデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業が多いそうです。
デジタルトランスフォーメーションは、大きく2タイプに分かれます。
①業務やプロセスの効率化・改善・高度化
②新規ビジネスの創出/ビジネスモデルの変革
"①業務やプロセスの効率化・改善・高度化" は、既存事業の既存業務やプロセスを対象とし、デジタル技術やデジタルデータを用いて、業務を自動化・迅速化したり、人手では実現できなかったことを実現したりします。
既存事業の業務やプロセスは、大まかに "社内"業務とプロセス、"顧客接点"業務とプロセスに分かれます。
"②新規ビジネスの創出/ビジネスモデルの変革" は、今まではできなかったけどデジタル活用で実現できる新サービスや事業を新たに創ったり、既存事業をデジタルで刷新・変革することを狙う内容です。
この2タイプは、目指すゴールや推進体制、アプローチや成功率・失敗率など、ほぼ全て異なります。
例えば、会社としては ②デジタルで新規ビジネス創出、を掲げていても、取り組むのが①のタイプ(RPAで自動化や、AIによる審査作業の時間短縮など)では、当然、②の成果を上げることは不可能です。
ちなみに、①業務やプロセスの効率化・改善・高度化 は "デジタライゼーション" と呼び、②新規ビジネスの創出/ビジネスモデルの変革 が"デジタルトランスフォーメーション" である、という定義をする人もいます。
(呼び方がどうであれ)デジタルトランスフォーメーションの成果は、それを主導する部門に依存すると考えています。
「デジタルトランスフォーメーションが上手くいかない」という声を見聞きしますが、失敗する理由の半分くらいは、"目標と主導する部門の不整合" にあるのではないでしょうか。
■デジタルトランスフォーメーションの狙いと推進部署の関係
デジタルトランスフォーメーション(DX)の目標と、それを主導する部門の関係はおおよそ次の通りではないでしょうか。
①既存業務やプロセスの効率化・改善・高度化
1.IT・情シス部門(社内業務・プロセス)
2.マーケ・ウェブ関連・顧客接点部門(顧客接点業務・プロセス)
3.事業部の企画部門
②新規ビジネスの創出/ビジネスモデルの変革
(3.事業部の企画部門)
4.新規事業部門
5.社長直轄・経営企画
「組織は、戦略に従う」と言われますが、デジタルトランスフォーメーションにおいては「実際の実行能力は、組織に依存する」ように思います。
"目標と主導する部門の不整合"とは、例えば、IT・情シス部門に「デジタル系の新規ビジネスを創出せよ」というミッションを与えてしまうこと。それは、相当無理があります。
IT部門の仕事の99%以上は社内仕事です。自社内の課題は知っていても、顧客の課題を知りませんよね。
(社内のユーザー部門ではなく)実際の顧客に会わずして、顧客の未解決の課題を見出せるわけがなく、新規ビジネスを作れるはずもありません。
付き合いある会社に相談しようと思っても、その相手は ITコンサルやSIer、システムベンダーなど。それら企業は、あなたの会社の要望(あなたの社内の課題)を聞き、あなたにシステムを売るのが仕事です。
最近では、CDO(チーフデジタルオフィサー)や、デジタル開発室 のような部署を設置する企業が増えているそうです。しかし結局のところ、CDOやデジタル部の構成員の職務経験に依存します。
(IT畑の長い人が中心なら、自ずとIT部門の思考のクセを持ち、新規事業や企画畑が長い人なら、自ずと新事業や企画の思考のクセが強い部署になります)
どういう経験・経歴の人をDX担当に充てるべき、というものでなく、
デジタルトランスフォーメーションで狙う成果や目標と、主導する部門の整合性が取れている必要があると思います。
①既存業務やプロセスの効率化・改善・高度化 を目的とするなら「1.IT・情シス部門」や「2.マーケ・ウェブ関連・顧客接点部門」に、DX推進の役割を担わせましょう。
そうではなく、②新規ビジネスの創出/ビジネスモデルの変革 が目的なら「4.新規事業部門」や「5.社長直轄・経営企画」に、DX推進の役割を担わせましょう。
■既存業務やプロセスの効率化・改善・高度化 ー 1. IT部門主導のデジタルトランスフォーメーション
IT部門・情シスが主導するデジタルトランスフォーメーションは、①業務やプロセスの効率化・改善・高度化 を目的とする内容になり、"社内"の既存業務やプロセスが対象となるでしょう。
日本のIT市場規模は18兆円以上と巨大なこともあり、日本国内でDX推進事例として知られるものは、ほぼIT部門が主導する業務改善・プロセス効率化の事例です。
IT部門の発注先である ITコンサル会社やSIerは、IT部門主導の既存業務やプロセスの効率化・改善DXが、もっと増えて欲しいと思っています。
あるITコンサル会社のお偉いさんは、DXは改善だと言い切っています。
レイヤーズ コンサルティングのDX事業部 統括マネージングディレクターは、このように述べました。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57256?page=3
私は、DXとはカイゼンするための手段としか捉えていません。
「カイゼンネタの探し方」について、業務効率化を行うためには、業務を棚卸し、整理、可視化する必要があります。「カイゼン」ネタは、いわゆる個人業務や部門業務などの業務と業務の境界線に隠れています。
別のITコンサルのベイカレントコンサルティングは、既存業務やプロセスにデジタル要素を統合する「デジタルインテグレーション」を、日本企業が到達すべきステップとしています。
(言い換えれば、②新規ビジネスの創出/ビジネスモデルの変革 には触れていません)
https://digital.baycurrent.co.jp/aboutus
日本企業がDXを推進する戦略として「デジタルパッチ」「デジタルインテグレーション」「デジタルトランスフォーメーション」という3ステップを提唱しています。その中で、2番目のデジタルインテグレーションは全ての日本企業が到達すべきステップであり、ベイカレントのデジタルに関する提言を象徴する概念。
ITベンダーのマイクロソフトは、DXの本質はデジタル技術による日々の業務課題の解決だと言い切っています。
マイクロソフトのビジネスアプリケーション事業本部本部長は、HBRの広告記事でこのように述べました。
https://www.dhbr.net/articles/-/6142
自分たちの経験とスキルを生かし、日々の業務課題をデジタル技術で解決することがDXの本質です。
ITベンダーやITコンサルは、対象が巨大になる既存業務やプロセスに興味があります。逆に、対象が微々たるサイズにならざるを得ない新規事業には、興味がありません。
ITベンダーやITコンサルの立場に立てば、当然に顧客企業の"業務やプロセスの効率化・改善・高度化"がビジネスの対象範囲となります。
IT部門・情シスが主導する、①業務やプロセスの効率化・改善・高度化 を目的とするDXは、具体的には次のようなパターンが多いです。
ⅰ 効率化・自動化により、人を減らすことができる
ⅱ 効率化・自動化により、今より少人数で必要とされる業務量に対応できる
ⅲ 数値モニタリングにより、予防やコスト削減できる
ⅳ アナログ情報のデジタル化により、人が減ってもノウハウを将来に繋げられる
ⅴ 高度化・歩留まり向上により、売上や成果が増える
■ ⅰ 効率化・自動化により、人を減らすことができる
例えば、ホワイトカラーの事務作業(人手作業)へのRPA導入による効率化・自動化により、人員を削減(人件費の削減=利益の向上)できます。
○○時間削減、○○人をリストラ・配置転換など、目に見える数字で成果を提示できるため、IT部門主導のDXで取り組みやすい内容です。
例:メガバンクに業務自動化の波、数千人規模の人員削減 - Bloomberg
例:100超の業務効率化「RPA導入」45万時間の創出 | 損保ジャパン
損保ジャパン ITで効率化、4000人削減、介護分野などに配転
■ ⅱ 効率化・自動化により、今より少人数で必要とされる業務量に対応できる
人手不足の業界では、今より少ない人手で、今の業務量をこなす必要があります。そのための効率化・自動化ニーズの必要性が高いです。
■ ⅲ 数値モニタリングにより、予防やコスト削減できる
それまで勘や経験に頼っていた領域にて、数値把握することにより、より効率的な対応(コスト削減)が期待される領域です。
例:水道管監視とメンテナンスにAI・IoT利用
例:ヤンマー 農機のIoT遠隔管理システム「スマートアシスト」
■ ⅳ アナログのデジタル化により、人が減ってもノウハウを将来に繋げられる
職人など経験則に基づく領域に、デジタルを活用によりそのノウハウを把握・形式知化します。それにより、経営の安定や事業コア情報の柔軟な適応が可能になります。
例:「獺祭」ブラックボックスだった酒造りノウハウをデジタル管理
例:日本航空へHoloLens使用 MR保守技術者研修|MoguraVR News
■ ⅴ 高度化・歩留まり向上により、売上や成果が増える
人手では不可能であった領域に、デジタルが取り組むことにより、より高度な成果を生み出したり、売上アップにつなげます。
例:AI画像解析によるガン・脳腫瘍・に認知症の早期発見
例:黒毛和牛の発情期をIoT検知
例:中国平安保険の1日 3万件の保険金支払いを支えるAIエンジン
■事例:本格的に業務やプロセスの効率化・改善・高度化に取り組む関西電力
DX加速させる目的でアクセンチュアとK4 Digital設立した関西電力(関西電力80%、ACN社20%)。
当該会社の取り組みは「設備関連業務の効率化・高度化」「顧客接点業務の効率化・高度化」「オフィス業務の自動化・効率化」とあり、
つまりは「既存業務やプロセスの効率化・改善・高度化」であると、極めて明確に定義されています。
当該会社の経営陣は、代表取締役:関西電力のIT戦略室、取締役1:同 IT戦略室、取締役2:関電システムソリューションズ常務取締役、取締役3:アクセンチャ と、完全にIT畑な方々です。
"IT部門・情シスが主導するDXは①業務やプロセスの効率化・改善・高度化 を目的とする内容になる" というセオリー通り、組織の実行能力と事業の目的や戦略とが、きちんと整合されている、素晴らしい事例だと思います。
(仮にもし、この体制で「新規ビジネスの創出/ビジネスモデルの変革」が目的にされてしまうと、わけがわからないことになり、組織が生まれながらに失敗を義務付けられているような状態になってしまいます。)
新会社 K4Digital株式会社 設立について|関西電力.pdf
インタビュー記事では、副社長は「第一に、業務プロセスのデジタル化による「生産性の向上」、第二に、エネルギー・非エネ領域における新サービス開発や新規事業立上げなどの「新たな価値の創出」に取り組みたい」とコメントしています。
新サービスや新規事業に取り組む時には、当該会社の経営陣もおそらく刷新(IT畑の人でなく、新規事業畑の人に)されるのでしょう。
関西電力 デジタルトランスフォーメーションへの挑戦|アクセンチャ
2019年公表の中計には、4つの大方針の一つとして「新たな価値創出に向けてDXを実現します」とあり、DX取組状況を社外に知らせるPDFまであります。
実施中プロジェクトは、既存業務やプロセスの生産性向上380件、新たな価値創出20件あるらしいです。設備のIoT遠隔監視や数値に基づく最適化は、社内目的ですが、将来的に他社への外販も目論むそう。
■既存業務やプロセスの効率化・改善・高度化 ー 2. マーケ・ウェブ関連・顧客接点部門主導のDX
マーケ・ウェブ関連・顧客接点部門が主導するデジタルトランスフォーメーションは、"顧客接点" における ①業務やプロセスの効率化・改善・高度化や、既存ビジネスの販売貢献を目的とする内容が中心でしょう。
■ 販売接客員のデジタル活用
例:店頭販売員向けiPadアプリ(全チャネルの全顧客データが一元管理)
例:住友不動産販売のVR内見
■ 問合せ対応のデジタル活用
例:富士通のコンタクトセンターのAI活用
例:三井住友銀行ののチャットボットによる自動応答
■ 新規ビジネスの創出/ビジネスモデルの変革 ー 4. 新規事業部主導のデジタルトランスフォーメーション
新規事業部が主導するDXは ②新規ビジネスの創出 を目的とする内容が中心になるでしょう。
DXで期待される「デジタル技術を活用したビジネス変革」は、まさに②新規ビジネスの創出でしょう。
デジタル新規事業は、これまでは実現・提供できなかったが、新しいデジタル技術活用により、既存の延長線上にない新ビジネス創出を狙います。
デジタル活用 新規事業は ①世の中にない新しいビジネス、②世の中的に新しくないけど自社では新規事業、の2パターンに分かれます。
① 世の中にない新しいビジネス
過去になかったサービスや商品で、人々の生活をより良いものへと変革するような、デジタル新規事業。
過去にない事業は、ビジネスモデル自体の検証や、顧客定義や需要創造から行う必要があり、新規事業を成功させる確率は極めて低く、ほとんどが失敗に終わります。
しかし、うまく需要と市場を切り開くことができたならば、新しい市場で大きく事業を伸ばすことができます。
自社の産業や市場にて、これまで取り組んでいない領域に、これまでの常識を覆す新しいサービス、革新的なプロダクトを投入したデジタルトランスフォーメーション事例です。
■事例:リクルート社「エアレジ」
飲食店の集客広告(ホットペッパー)を提供するリクルートライフスタイル社。ネット&リアル接点があり、領域(飲食、美容など)をまたぐ新規事業のエアレジ。
Airレジの構想と誕生秘話を探る | ウェブ電通報
Airレジ開発のこだわりと今後の展開 | ウェブ電通報
プラットフォームとしてのAirレジの可能性 | ウェブ電通報
ちなみに、事業立上げ前、社内では何年も前からレジ事業は何度も起案され、その都度却下され続けていたそうです。
無料レジから始まったエアレジは、店内注文システムや受付管理、予約管理やバイトシフト、お店の売上管理など、飲食店の様々な業務支援に領域を広げています。
■事例:寺田倉庫社「minikura、TERRADA WINE MARKET」
BtoBの物流倉庫業の寺田倉庫が、BtoC向けの様々な保管サービスや、シェアリングサービスの倉庫機能の新規事業を次々立ち上げています。
倉庫会社が倉庫を手放す理由とは|LivingTech
TERRADA WINE STORAGEに感じる「嗅覚とセンス」の良さ|ECのミカタ
■事例:IDOM社「NOREL、ガリバーフリマ、GO2GO」
中古車 買取&販売大手のIDOM社(ガリバー)による、月額定額制の自動車レンタルサービスNORELや、中古車の個人間売買サービスのガリバーフリマ、個人間カーシェアGO2GO を新サービスとして展開。
新規事業必要なのは「突破力」新規事業開発室|ITmedia
新スタイル提案 超短期カーリース「NOREL」
農業機械メーカー大手のクボタ。農業機械の製造販売ビジネスから、農業全体のソリューション提供に広げます。まず農機の自動運転。GPS自動運転農機(耕うんトラクタ・田植機・刈り取りコンバイン)。
クボタの「農機自動運転」 農業の未来を担う実力|クボタプレス
農業の「入口から出口まで」のソリューションを提供する企業へ|日経xTECH
レシピサイト大手 クックパッド社による、実際の生鮮食品を扱う新規事業のクックパッドマート。生鮮食品をスマホ注文し、自宅に宅配ではなく、自宅近くの店舗や施設ロッカーで受け取れる生鮮食品ネットスーパー。
デジタルトランスフォーメーションというと、フィジカルな実業を持つ企業がデジタル 活用が多いですが、もともとデジタル企業(ネット企業)がフィジカルに参入するチャレンジです。
新規事業「クックパッドマート」の立上げの話
新規事業のIoTプロダクト開発に必要なこと
クックパッドマートの舞台裏--新規事業における組織づくり手法
超大手企業ソニーにて、スマートホーム領域参入となる、デジタルIoTデバイスのQrio Lock(スマートキー)。
ベンチャーキャピタルWiLとの合弁会社でQrio開発した後に、完全子会社化。
ソニーがスマートホーム事業に参入「MANOMA」ライフスタイル提案|CNET Japan
フランスに本社を置く航空機器メーカーのエアバスは、マイクロソフトのMRデバイス「HoloLens」用アプリーケーションを、JALに販売。
同アプリケーションは、元々は自社の研修用であったが、それを外販する。MR(Mixed Reality)研修,リモート協業,保守作業に関するアプリケーション。
■事例:ストライプインターナショナル社「メチャカリ」
30以上のブランド展開するアパレル企業ストライプインターナショナルの、ファッションIT新規事業 メチャカリ。スタートアップ企業エアクロ社が切り開いたファッションレンタルサブスクに、真正面から既存アパレル企業が競合して市場創造する事業です。
月額5800円 ファッションレンタルサブスクリプション | PRESIDENT
ファッションサブスク「メチャカリ」有料会員1万3000人突破 | WWD JAPAN.com
業界初ファッションサブスクリプション 「メチャカリ」
■STARTUP事例:シェアメディカル社「ネクステート」
過去200年大きな変化のなかった聴診器をデジタル化した、聴診器デジタル化ユニット ネクステート。聴診データをデジタル化することで、データ保存・共有が可能となり、医療教育や遠隔治療への利用が期待されます。医者への負担軽減やスピーカー出力などの効果も。
“聴診器”をデジタル化すると何が変わるのか|CNET Japan
■STARTUP事例:マイシェフ社「マイシェフクイック」
マイシェフ株式会社の出張レストランサービス「マイシェフクイック」。
飲食経営者の暗黙の前提である「お客がレストランに来る」を疑い、「レストランがお客の家に行く」という常識の真逆のパラダイムで提供するマイシェフクイック。
飲食業界 × デジタルの新しいサービスです。
1食4000円 出張シェフ 家族の記念日需要を獲得:日経クロストレンド
デジタル活用した新規事業の創出事例は、まだ非常に少ないです。
取り組む企業がまだ多くないという理由に加え、新規事業の成功率は極めて低く、情報が一般公開される前に、社内で失敗に終わることがほどんとだからだと思われます。
新規事業の成功率は10%未満|大企業の新規事業 成功確率を上げるため大切なこと
② 世の中的に新しくないけど自社では新規事業
既に先行企業のデジタル関連のサービス・商品があっても、後発として市場参入する新規事業デジタルトランスフォーメーション。
市場があると証明されてからの参入、市場が成長期であったり明らかに巨大市場への参入、後発からトップを狙う場合や、自社の強みが明らかにいきる場合、その事業を立上げ自体が求められる場合など、背景は個々の企業によって異なるでしょう。
後発として 新ビジネス創出・市場参入するメリットは、先行企業を調査できること。
先行企業を徹底的に調査してパクリ、資本力や営業力で攻めるのも、大手企業の新規事業のよくある攻め方です。
フィジカル産業にデジタルを導入し、過去はできなかった事業(デジタルなしでは出来ない内容)を実現させようとする、新事業開発のデジタルトランスフォーメーション事例です。
■事例:オンワード樫山社「KASHIYAMA the Smart Tailor」
スタートアップが切り開いた D2Cオーダーメイドスーツ市場。アパレル大手のオンワード樫山(オンワードパーソナルスタイル社)が2017年10月にD2Cオーダーメイドスーツ事業を開始して新事業を垂直立上げし、19年2月期売上高は37億円に。
新規事業立上げ時は、同社社長と生産部長の2人で推進し、事業立上げ時でも5人くらいの少人数体制だったようです。
戦略ケース KASHIYAMA the Smart Tailor
オンワード樫山の資産をベースに創りあげた「オーダーメイドスーツ」|FORZA STYLE
最短1週間で届くオーダースーツKASHIYAMA the Smart Tailor|BI JAPAN
■事例:家庭教師のトライ社「Try IT」
リクルート社の受験サプリ(スタディサプリ)が切り開いた、スマホ映像塾。2015年7月に Try IT開始し、大手家庭教師の知名度とコンテンツ力にて猛追。
■事例:コニカミノルタ社「ケアサポートソリューション」
複合機や産業用光学システムの技術を生かした新規事業として、2013年ごろより介護事業に取り組むコニカミノルタ。
介護業界 IoTで改善 コニカミノルタの新事業|ITmedia NEWS
■事例:三越伊勢丹社「Your FIT 365」
3D計測機で足型を計測し、木型を基にデータ化した靴情報とマッチングさせ、おすすめのパンプスをレコメンドしてくれるYour FIT 365。自宅でリピート購入できるようアプリも用意されている。
伊勢丹新宿店の新サービス「Your FIT 365」|Precious
■撤退事例:AOKI社「suitsbox」
スーツのサブスクリプションサービスを始めるも、サービス開始から半年で事業撤退。
AOKIが半年でサブスク撤退 新社長による事業見直しか:日経クロストレンド
■撤退事例:リクルート社「カジアル」
リクルートスタッフィングのインターネット予約家事代行サービスは、サービス開始から1年半で事業撤退。
■撤退事例:ソフトバンク社「SoftBank HealthCare」
スマホ健康管理「SoftBank HealthCare」は、サービス開始から3年強でサービス終了。
「SoftBank HealthCare」サービス終了のご案内|ソフトバンク
■ 新規ビジネスの創出/ビジネスモデルの変革 ー 5. 社長直轄・経営企画主導のDX
新しい事業の柱(新規ビジネス群)の創出や、自社ビジネスモデルの変革 を目的とする場合、社内外に全社的なDXの必要性を繰り返し訴え、DXの一連の取り組みを社長が主導する必要があります。
デジタルによる変革をやり遂げなければならないと、断固たる決意と勇気を持つ社長か、そうではないかが、運命の分かれ道。
よく "創業者・創業家社長は思い切った戦略を打ち出しやすい(サラリーマン社長は株主を気にせざるを得ず、短期的なPL思考になりやすい)"と言われますが、事例を見ると、創業者社長 or サラリーマン社長というのは、あまり関係がないとわかります。
■事例:ブリジストン「B-TAG、TreadStat、Tirematics」
良いタイヤ製造の時代から、技術成熟によるタイヤ単体のコモディディ化・低価格化になり、デジタル技術を使うソリューション提供にビジネスの軸足を移すうという経営判断に。
価格ではなく、タイヤ関連のトータルコストやパフォーマンスで勝負する作戦に。
顧客にタイヤをレンタルし、メンテナンスや管理、適切なタイミングで表面ゴム張替えする。安全性も向上し、非稼動ロスも削減。顧客はタイヤ在庫やローテーション・修理を考えなくて良い。
データ収集と分析により、タイヤの故障原因や傾向を捉え、タイヤ使用の提案や商品開発にも生かしている。
南米や豪州の巨大鉱山の超大型トラックタイヤ向けに、IoTセンサー「B-TAG」と、使用状況に応じたメンテナンスプログラム「TreadStat」を提供。
バスやトラックにも装着できるようB-TAGを進化させ、車両位置情報などリアルタイムモニタリング「Tirematics」を提供。
ブリヂストン タイヤ製造販売からタイヤソリューション事業者への変革|日経xTECH
ブリヂストンの変革 「タイヤを売らずに稼ぐ」ビジネスとは|ITmedia
IoTの進化 がもたらしたタイヤのイノベーション|ビジネス+IT
■事例:コマツ
製造業のDXで、日本で最も進んでいるコマツ社。1999年開始の機械稼働管理システム「KOMTRAX」でGPS管理するコマツ建設機械はいまや世界で30万台以上。
1990年代後半、盗難油圧ショベルによるATM破壊強盗が多発し、その盗難対策としてGPSを付ける案から始まったそう。2001年に、標準装備で2%の利益が消えるが、KOMTRAX標準装備すると社長が決断(当時は会社は800億円赤字)。GPS有償オプションでなく、標準装備として新しいビジネスモデルを作った。
2008年には世界初の無人ダンプトラックシステムを開始。
2015年に自動化ICTブルドーザーやICT油圧ショベル、ドローンなどを活用するスマートコンストラクション開始。
2017年に建設生産プロセス全体をつなぐIoT基盤プラットフォームIoT LANDLOG開始。
2020年までに、建設会社向けにダンプトラック配車サービスも開始する予定。
いずれも、インダストリー4.0やIot、DXといった流行り言葉を意識したものでなく、顧客の問題解決を起点とする新規事業やサービス。
建設機械の革命「KOMTRAX」誕生の足跡|by iX
無人ダンプトラック運行システム10周年 稼働台数100台超達成|小松製作所
コマツ、建機のIT化から見える自動運転の未来|日本経済新聞
コマツが描く「未来の建設現場」、ドローン測量や建機の遠隔操縦で「現場」はどう変わる? - INTERNET Watch
IoTで日本企業は今後の成長戦略をどう描くべきか | SAPジャパン
コマツのIoT戦略は「顧客志向」が成功の源泉|MONOist
日本発IoTの進捗度は10%、ランドログ社長が語る現在地と覚悟|日経xTECH
コマツ、ダンプの配車サービス 建設会社向け3年以内に|日本経済新聞
日本を代表する大企業 NTTドコモは、2018年5月に会社の方針変更をしました。
「回線契約数から会員数へと舵を切った」と言って過言ではない、大きなレベルの方針変更。
具体的には「dポイントクラブ」をリニューアルし、回線契約ではなく、「dポイントクラブ」の「会員基盤」を軸とした事業運営に。
「dポイント」は以前よりありましたが、ドコモ回線契約者のおまけポイント的な位置付けでした。それが、ドコモ回線契約の有無と切り離され、独立した「dポイントクラブ会員」の会員データ事業・決済・パートナー企業向けのデジタルマーケティング事業に。
簡単に言えば、ツタヤのTカードの事業を丸っと奪い取り、さらに幅広いデジタルマーケや決済まで取り込む形だと思われます。
2016年3月時点で dポイントクラブ会員数5800万・dポイントカード登録数366万だったのが、わずか3年後の2019年3月時点で クラブ会員7000万突破、dポイントカードは3年前の9倍の3372万と急増。
1億人の最強会員基盤を目指すドコモ
ドコモの新たな挑戦 キャリアフリーの会員獲得戦略へ|ロボスタ
dポイントクラブをリニューアルし、dポイント共有グループを新設|NTTドコモ
■事例:SOMPOホールディングス
「事故後の保険会社」から「安心・安全をプロアクティブに提供する」方向に全社的に舵を切ったSOMPOホールディングス。
デジタルトランスフォーメーション責任者(CDO執行役常務)は、三菱商事出身でシリコンバレーのスタートアップで12年間活躍した人を外部から招聘。
CDO配下にデジタル3部門を設置。デジタル戦略部はデジタル技術を担い、ビジネスデザイン戦略部ではデジタル技術用いる新ビジネスモデルの具現化、ビジネスクリエーション部では生命科学やロボティックスなど5分野の技術で大学と提携などオープンイノベーションで新たな事業を模索。
このデジタル3部門と、SOMPO Digital Lab(東京、シリコンバレー、テルアビブ)が、過去の延長線上にないDXを推進している。
2016年からの2年で、損保事業の延長にある”持続的な事業創出”は、事業アイデア1000件以上検討し、実際に担当部署と商品化を目指すまで進んだのが42件、商品として世に出せたのは10件(ドライブレコーダー付き保険、AIスピーカー用いる保険料見積もりサービス、ウェアラブル端末用いる健康増進型保険など)。
一方で、"破壊的な事業創出"は1件のみ(イスラエル企業と協業しサイバーセキュリティ事業)に止まってしまったと。
その後は、LINEと業務提携したLINE保険や、個人間カーシェアリング事業「DeNA SOMPO Mobility」マイカーリース事業「DeNA SOMPO Carlife」という2つの合弁会社をDeNAと設立、駐車場シェアakippaを関連会社化。シリコンバレーのビッグデータ解析Palantirと日本合弁企業を設立なども。
デジタル技術で新商品・サービス続々|週刊エコノミスト
デザイン思考とアジャイル経営が企業活動の根幹になる|@IT
未踏の領域を進むSOMPOホールディングスデジタル戦略部
デジタル戦略 | SOMPOホールディングス
事業モデル自ら壊す損保改革、“壊し屋”はシリコンバレー仕込み | BI JAPAN
損保ジャパン日本興亜がデジタル顧客基盤|日経クロストレンド
SOMPOホールディングス|CDOインタビュー
DeNAと損保ジャパンが異色タッグ 「0円マイカー」の衝撃:日経xTrend
駐車場シェア参入 akippaを関連会社化|ITmedia NEWS
データ分析企業「Palantir」がSOMPOと新会社設立|CNET Japan
■トヨタ
デジタル化の大波がやってきた自動車業界。GAFAとの直接的な競合関係になるトヨタも、食われる前に食ってやる勢いでデジタルを取り込みます。
「自動車会社」から、「モビリティカンパニー」にモデルチェンジすると社長が明言し、ソフトバンクとの提携をはじめ、トヨタコネクティッドやトヨタ・リサーチ・インスティテュート、シリコンバレーのトヨタAIベンチャーズや北米DX&モビリティなど、コネクティッド・自動運転・電動化に向けた多領域の取り組みを進めています。
技術中心・トヨタ本体の内容のみならず、トヨタグループとしてシェアリング系サービスも進め、自動車サブスク「KINTO」、トヨタ販売店によるカーシェア「TOYOTA SHARE」、トヨタレンタカーによる無人貸渡しレンタカー「チョクノリ!」、社用車のシェアリング「MONET Biz」なども開始。
100年に一度の大変革の時代「モビリティカンパニー」にモデルチェンジする
トヨタとソフトバンク提携、避けられぬ製造業のサービス化|DIGITAL X
「CASE」が自動車産業にもたらす脅威とビジネスチャンス|HBR
トヨタ×自動運転、ゼロから分かる4万字解説 | 自動運転ラボ
「TOYOTA SHARE」/「チョクノリ!」の全国展開を開始
法人向けサービス「MONET Biz」の提供に向けた実証実験|MONET Technologies
トヨタがここまで振り切れるのは、創業家社長という理由の他に、豊田章男氏が20世紀末のインターネットのフロンティアに、いち早く飛び込んだ一人だったから、だと想像します。
トヨタの顧客向けインターネットサービスGAZOOを主導したのが豊田章男氏。1998年サイトオープン(楽天創業の翌年、サイバーエージェント創業と同時期にGAZOO.comを開設)し、2000年にはなんと旅行や書籍、家電やゲームなども売っていた。
ちなみにGAZOOショッピングでは、今でも米が売られており、随分前からサブスクリプションモデルが採用されているようです。
GAZOO.comが目指すもの|GAZOO
GAZOOショッピング お米定期便 ショップ | GAZOO.com
そのようなデジタル化の流れと並行して、その流れに逆行するように、スポーツカーのスープラを17年ぶりに復活させました。
時代に逆行するような、スープラ17年ぶりの復活。その一番の理由は「クルマが好きだから」だそうです。控えめに言って、最高ですね。
新型スープラがデビュー!豊田章男社長のアツいプレゼン|MOTA
「私の最も親しい友」“カーガイ”豊田章男社長が熱く話す、新型スープラへの思い
就職情報リクナビや中古車情報カーセンサー、結婚情報ゼクシイや飲食ホットペッパーなど、数十種類のメディア事業を持つリクルート社。
2000年ごろは全て紙媒体でしたが、2010年には全ての事業がWebサービスになり、今から10年以上前に、コア事業群のデジタルトランスフォーメーションを終えてしまっています。
その上で、既存デジタル事業でのAI活用や、既存ビジネスとは異なる新しいデジタルビジネス(エアレジとかスタディサプリとか)も多数生まれています。
2011年には、自社コア事業のディスラプターとなる可能性のある米国indeedを「誰かに破壊されるくらいなら、自分たちで壊しに行け」とばかりに買収。自社のコア事業である人材採用広告市場の競合となるindeedを日本でも展開し、大きく事業を伸ばしています。(実際に競合のバイト情報 an は2019年に事業終了)
2018年には、求人企業レビューサイトGlassdoorを買収。
リクルートが "デジタル","グローバル" に舵を切った契機|ビジネス+IT
世界で生き残るためのデジタルトランスフォーメーション|MarketingBase
【日本 成功事例】デジタルトランスフォーメーション 成功事例15選
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