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【シリコンバレー式 最高のイノベーション 要約】大企業の新規事業に役立つ内容や観点

シリコンバレーの著名アクセラレーター代表による、シリコンバレー流のイノベーションの生まれ方の書籍。スタートアップと成熟企業の新規事業では違いもあるため、成熟企業の新規事業に関係しそうなところを要約します。
アメリカ人が書いた書籍であり、激しい自己主張が普通のアメリカ人と、和を以て貴し集団思考の日本人では、やや解釈を変える部分もあると思われます)

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■1イノベーションのカギは多様性と模倣

■テクノロジーの罠にハマってはいけない

シリコンバレーの成功の秘訣は、テクノロジーではない。テクノロジーは重要だが、成功したスタートアップのほとんどは、起業した時点で独自のテクノロジーを持っていなかった。
・成功したスタートアップが利用するテクノロジーは、大抵既存のものかオープンソース。独自テクノロジーを開発したわけでなく、既存テクノロジーを、これまでにないやり方で応用しながら、ビジネスモデルとデザインのイノベーションに力を注いだ。

・独自のテクノロジーを持っていてもユーザーを理解できていないスタートアップは、何も持たずに仮説から始めたスタートアップと比べて、価値を生み出せずに苦労する。解決策から始めて、問題を探すからだ。
・独自テクノロジーがあっても、ビジネスチャンスがはっきり見えていない企業は、テクノロジーに合うソリューションを考えがちになる(テクノロジーの罠)。そんなソリューションは大抵の場合、そもそもありもしない問題を解決するようなものでしかない。
シリコンバレーは流行に流されがちで、魅力的な新しいテクノロジーが出現すると、みんな惚れ込んでしまうが、酔いはすぐ覚める。

・大企業もまた、テクノロジーの事業化が得意ではない(パロアルト研究所は顕著な例。様々な技術や発明は、ゼロックスの利益に貢献せず、ゼロックスの凋落を止めもしなかった)。

・テクノロジーの罠にはまらず、世界とその問題に目を向け、既存テクノロジーを利用し、その目的に合うよう仕様を変えて、需要があるか市場で試してみよう。そこから、その事業機会を深掘りする方が良い。

 

■違う考え方をする、反骨精神と異質性

シリコンバレーは、世間の除け者、ハッカー、ヒッピー、芸術家、技術者の集まりから始まった。シリコンバレーで創造性が爆発したのは、MBAと芸術家とオタクと科学者とクスリでイカれたヒッピーたちが、同じ場所でアイデアをぶつけ合ったから(1960年代70年代)。

シリコンバレーの人たちは、違う考え方をする(Think different)。反抗的であることを楽しみ、逆境を跳ね返し、現状に疑問を唱え、人の行かない道を行く。
イノベーションとは、新しい何かを創り出すこと。誰も見たことのない何か、誰も試したことのない何かを生み出すこと。

・世界のほとんどの地域と違い、シリコンバレーでは権威を無条件に尊重することはない。誰もが何かに貢献できるし、誰でも意見を言う権利がある、という文化。
・反骨精神と異質性がシリコンバレーの強みであり、人種と文化の多様性、移民への開放性、違いを受け入れる精神が、シリコンバレーの大きな競争優位性。
・アジアには優秀な人材も多いが、現状を変えようとする熱意、文化的多様性、非伝統的なアイデアやものの見方を受け入れる姿勢が、アジア人にはない。

・大きな飛躍はいつも、異分野のコラボレーションによって引き起こされる。
・同質の教育や人の集まりから、イノベーションは生まれない。

 

■パクリは賢い戦略

・成功したスタートアップの多くは、基本的に先人をパクリ、その上にイノベーションを積み重ねている。
・全てのイノベーションは、過去の何かのパクリから始まる。そしてパクるだけでなく、自分のものにする。

 

■2小さく、少なく始める

■小さなアイデアで始める

イノベーションを起こすには、大きなことを考えねばならないと思っている人が多いが、それは真実からほど遠い。多額の予算、大人数のチームのプロジェクトは、大抵失敗に終わる。
・本物のイノベーションを起こすには、大きく考えてはいけない。小さく考えなければいけない。大抵いちばん小さなアイデアが産業を変える力を持つ。
・3人のスタートアップでも、3万人の多国籍企業でも、イノベーションのプロセスはほぼ同じ。チームが小さく考えられるような環境と構造を創り出さねばならない。

 

■少ない人数で始める

・理想的なチーム規模は、大企業なら2人から8人。人数が少ない方が、お互いに協力し、意思を通わせうまく親密に仕事ができるから。少人数なら全員が親しくなり、お互いの長所と短所を理解し、より深い関係を築くことができ、チームワークは良くなりがっつり組んで仕事ができるようになる。
・チーム成功の鍵は、全てのメンバーが全力でプロセスに貢献できる構造になっているかどうか。少人数の方が動きが早く、逆に人数が10人を超えると仕事のスピードが下がる。
・全員が積極的にイノベーションのプロセスに貢献でき、意思決定に参加できるようなチームが良い。

・理想的なチームに必要なのは、ハスラーハッカー、ヒップスター、ホットショット。大企業ならこれに加えて、政治家とオーガナイザーが必要。
ハスラー:"ビジネス","顧客","市場"を深く理解している人。企業のビジョンとプロダクトを世界に売り込むリーダー。
ハッカー:テクノロジーに精通し、それを使って事業を変える人。テクノロジーオタク。
ヒップスター:クリエイティブ面のリーダー、デザイン思考はとても大切。
ホットショット:高度に専門的ことに挑戦する場合には、その専門家が必要。その領域や問題の仔細を深く理解する人。博士号を持つ研究者など。
政治家:大組織の中でプロジェクト支援し、リソース確保し、部署間の調整をする人。
オーガナイザー:プロジェクトへの支持を取り付け、プロジェクトを管理し、日々の経費に目配りをする人。

・ハングリーで野心があり、心が開かれていて、企業の伝統に挑戦し、限界を広げて、その途中で失敗することも厭わないような人。

 

■少ない予算で始める

・チームが多額の予算を要求する場合、その費用を正当化する提案や計画が必要。会社がその提案を認めると、チームはその計画を実行しなければならなくなる。そして、新しい道を自由に模索できなくなる。
イノベーションは模索そのものなのに、詳細な計画を出した時点で計画に縛られる。現実には、それが正しい計画かどうかわからないし、計画通りに実行できるかもわからないのに。新しい可能性を開くどころか、可能性を閉ざしてしまう。
・大きな予算のもう1つの欠点は、チームが大人数になってしまうこと。大きくなるほど、方向性の修正が億劫になってしまう。発見と実験、素早い方向転換こそ、イノベーションの真髄なのに。

・予算が限られていると、イノベーティブな考え方が生まれやすくなる。お金もリソースもないからこそ、野心的な起業家ならば、過激なアイデアを思いつくことがある。他の人が見落としたことや、無理だと思ったことに挑戦する。お金がなければ常識外のことを考える。
・お金ではなく、頭を使えば、何かいい方法を思いつくものだ。制約があると、工夫せざるを得なくなる。

・既存技術とサービスを組み合わせて、新しい何かを創りだせば、自分たちで開発するより安く早く市場に提供できるようになる。
・既存のテクノロジーは、新しいものよりも早く広く普及しやすい利点がある。既に検証され、ユーザーにも馴染みがあるため。
・お金がないことで、自前主義の呪縛から逃れられることもあるし、それが刺激となりより速く製品開発されたり、新しいアイデアが生まれたり、創造性が花開くことも多い。

 

■小さな範囲で始める

・成功するスタートアップは大抵、はじめは比較的小さな問題に取り組んでいる。
・1つのカテゴリに狙いを絞り、集中する。コアの機能から初めて、1つのことが本当にうまくできるようになったら、そこから外側に広げるべき。MVP開発のコツは、コアの価値だけに集中して、他に何もしないこと。
・本物の革新的プロダクトは、最初から完璧ということはない。何度も繰り返し修正を重ねるのが普通。

イノベーションは難しい。最初から全てをシンプルに留めることは欠かせない。ユーザーが本当に欲しいものを1つ見つけること。それだけでビジネスが成り立たねば、初めからやり直した方が良い。機能を増やしても、絶対うまくいかない。
・ほとんどの場合、イノベーションとは、斬新なアイデアを思いつくことではなく、むしろユーザーがプロダクトやサービスに求めているものを正確に把握することにある。

イノベーションが成熟するには時間がかかる。大きく考えながらも、小さく始めることが成功につながる。その逆ではない。

 

■3イノベーションのコツを知る

■自分たちの思い込みを疑う

・アイデアを思いつく一つのやり方は、自分たちの考え方・思い込みを疑うこと。
・思い込みを検証する方法は、自ビジネスについて真実だと思っていることを全て書き出し、項目の一つ一つに疑問を投げかけること。これは一人でやるのでなく、チームでやるのが良く、外部の意見も必要。
・刷り込みを覆すのは難しく、外部メンターが助言と分析と批判的な思考を提供し、これまでのやり方に異を唱えさせる。

 

■スタートアップは、うまくいかなくても失うものはない

・スタートアップにとって美味しい市場は「スタートアップには失うものが何もなく、既存企業には失うものばかりの市場」。
・破壊的ビジネスモデルでスタートアップが参入すれば、既存企業は価格を下げる他に対抗手段はなく、ゆっくり死んでいく。大企業は現状にあぐらをかき、自分たちが一番ではない世界を思い描けない。

・大企業の中でイノベーションを起こそうとしているなら、スタートアップのように考え始めた方が良い。自社事業とのカニバライズを心配する余裕はない。自社でやらなければ、誰かがそれをやるだけである。
・勝ちたかったら、自社の顧客を自分たちで奪うしかない。たとえそれが、短期的な損失につながったとしても。

 

■大切なのはテクノロジーよりデザイン力

・技術のイノベーションより、デザインのイノベーションから価値が生み出されている。
・デザインの本質は、そのプロダクトを使うとき、人はどう感じるか? 重要なのは体験であり、機能ではない。些細なことを見過ごしてはいけない。

・解決すべき本物の問題があるかは、既存プロダクトのどこがどうダメなのか、理解することがカギになる。
・これから10年、デザインにより数多くのプロダクトが作り変えられるだろう。デザインには莫大な費用が必要なく、ユーザーがプロダクトやサービスに何を求めているか見通せる、非凡な才能を持つ人たちがいればいいから。

 

■ビジネスモデルのルールを書き換える

・ビジネスモデルのイノベーションは、ルールを研究し、それを破ること。
・例えばクレイグズリストは、無料のクラシファイド広告から始まった。伝統的な紙媒体のルールを無視するやり方だった。

・1つのビジネスモデルがうまくいかない時は、別のモデルを試す方が良い。プロダクトと、ビジネスモデルを車の車輪と考え、どちらも同時にイノベーションを起こさなければならない。

 

■開発者の罠に気をつけろ

・初日からプロダクト作りに取り掛かってはいけない。時間の無駄なだけでなく、間違った方向に行き、失敗の可能性を高めることになる。
・数ヶ月もプロダクト開発に時間を費やすと、チームはそのプロダクトに執着するようになる。必死で努力したことを、諦めて捨てたい人はいない。
・失敗プロダクトに時間とリソースを注ぎ込むほど、真実を直視できなくなる。たとえユーザーがそのプロダクトを必要としていないと証明されても、チームにはそれが認められず、今あるものをどう改善しようかと考えてしまう。

・開発者の罠を避けるのに一番効くのは、簡単なプロトタイプを作ってみること。簡易プロダクトは、作るのに時間も労力もかからないが、そのビジネス案の基本的な前提が正しいかどうか検証するのに役に立つ。

・消費者がそれを買うかどうかを検証したければ、半日でウェブページを作り、ウェブ広告を使ってターゲット層を誘導し、注文を取る。そうすれば、人々があなたのプロダクトにお金を払うかどうか、手っ取り早く検証できる。
・ある会社が靴販売サイト立上げた時、その案を検証するために、まず簡単なウェブページを作り、靴の画像に地元の靴店の販売価格をつけて掲載した。そのサイトで注文を取り、自分で地元の靴店でその靴を買い、ユーザーに発送していた。そうすることで、時間もお金もかけずに市場を検証できた。サプライチェーンを築いたり、倉庫を借りたり、在庫を持つ必要もなく、検証できた。その後、社名をザッポスと変更した。
・ある会社が、レストラン厨房をシェアするサービスを思いついた。本格的な開発に取り組む前に、簡単なウェブページを作り、レストランオーナーと料理人に電話し、営業時間外に厨房をシェアする/借りれるサービスに興味あるか聞いてみた。すると、問題が多すぎるとわかり、このビジネスは到底うまくいきそうもないとわかり、時間とお金を無駄にせずに済んだ。

・簡易プロダクトタイプは、プロダクトではなく、実験プロセスである。何がうまくいくか、いかないかを学ぶために行う。
・「新しい仮説」→「簡易プロトタイプ作成」→「仮説検証(顧客提示とヒアリング)」→「結果の確認と、仮説の微修正」の循環を繰り返す。
・プロトタイプは、ハードウェアもソフトウェアも使わない簡易プロトタイプが最も役立つこともある。データを集め、検証できれば、どんなものでもいい。
・早い段階からたびたびユーザーを巻き込むことがカギになり、ユーザー相手にアイデアを試し、検証と修正を行う。プロトタイプを作り直し、他のものを試す。ユーザーとか変わる度にチームは何かを学び、解決すべき問題をより深く理解できるようになる。

 

■4ユーザーを観察し、顧客データを集めて、価値を提供する

■コアの強みを活かして優位性を広げる

・自社に、世界的な流通網や独占的な販売チャネル、名のあるブランドや成熟した生態系があるなら、それを活用する方が良い。専門性や競争力のない分野、自社の優位性の外で成功することは難しい。
・成熟企業は、コアの強みの外で勝負する場合、コア事業と100%方向性が同じでない事業で失敗が続くと、ほとんどの会社は耐えられなくなる。
・コアの外で勝負するときは、自社の進みたい道だとはっきりさせておく方が良い。失敗が続き、時間を失い、費用が膨らむことを覚悟しておく必要がある。コア競争優位の外で成功することがどれほど難しいかは、理解しておく必要がある。

・新たなコアコンピテンシーを獲得することは誰にとっても難しい。だから、ほとんどの企業にとっては、コア事業に近い領域でイノベーションを起こす方が良い。
・コア事業から周辺領域に拡大した時に、利益と継続的な成長が生まれやすい。
・最高のイノベーターは、コア事業の強みの上に新たな優位性を築き、それ自体が新しいカテゴリーとなるような製品やサービスを周辺市場に持ち込んでいる。

 

■ユーザーは最高の情報源

・スタートアップに必ず聞くのは「ユーザーは誰か?」ということと、「ユーザーとどのくらい時間を過ごしたか?」。
・スタートアップの大半が軌道に乗れない理由の1つは、最初の段階でユーザーと時間を過ごしておらず、ユーザーを十分に引きつけていないこと。

・オフィスを出て、ユーザーの現場に入る必要がある。ユーザーの不満がイノベーションのチャンス。ユーザーが普段はあまり口にしない「満たされない欲求」を理解しなければ、何もデザインできないし、創れない。
・ユーザーの元に行き、ユーザーと話し、ユーザーが毎日何をしているか学ぶことに、できるだけ多くの時間を費やすべき。自分の直接の経験が何より役に立つ。その手のインサイトは、本や会議やアンケートでは生まれない。現場にいて初めて出てくるもの。

・ユーザーに欲しいものを聞くのは、改善アイデアには役立つが、革新的なイノベーションや新規事業となると話は別。

・何を質問するかと同じくらい、どう質問するかが重要。ユーザーに「何が欲しいか」聞いてはならない。「何に困っているか」「製品に何をして欲しいか」「なぜそうして欲しいか」「それがどう役立つと思うか」問う必要がある。
・どう質問するか以上に重要なのは、誰に質問するか。自社の得意客にフィードバックを求める企業は多いが、そのフィードバックは、ユーザーの大半にとってどうでもいい場合が多い。
・ユーザーを巻き込むのは大切だが、本当に有効なのは、適切な人たちに、適切な質問した場合だけ。

 

■ユーザーを観察して、学ぶ

・ユーザーを観察するのに一番良い方法は、彼らがプロダクトを初めて使うのを、何も言わずに肩越しに眺めること。
・ユーザーに知識を見せ付けようとするな。口を閉じて黙り、相手に話を続けさせる必要がある。あなたのプロダクトをどう使うか、どこに不満を感じるか、注意深く見よう。
・自分たちのソリューションが正しいという確証を得ることに必死になってしまい、観察も学習もできなくなると最悪だ。
イノベーションとは、あっというアイデアを思いつくことではない。探求であり、証拠集めであり、ユーザーへの聞き取りであり、隠れた真実を表に出すことだ。

・大抵の場合、チームの最初の思い込みやアイデアは間違っている。自分たちの無知を認め、発見し続けることに力を入れよう。観察と質問が大切。
・優秀な人は次から次への仕事を処理し、作業の生産性という点ではそれでいい。しかし、「学び」の点では悪害でしかない。観察は、急いではいけない。
・観察するということは、正しい人に、正しい問いを投げ、聞くだけではない。どのように質問するか、どう観察するかも重要になる。さりげなく、アドリブのように自然な形で重要な質問をすると、バイアスが減る。
・観察をしたら、チームで振り返りのプロセスが必要。時間を取り、細かいことをあれこれ思い返すことで、人々の発言や行動の背後にある隠れた意味が理解できることが多い。

 

■データを集める

・プロトタイプ的作業を通じて、特定の顧客データを早期に集めることが、最も効率的なプロダクト開発法。
・キーワード検索、グーグルトレンド、ユーザーへのインタビュー、SNS、競合サービスの情報。ランディングページで注文を取る、事前注文ページ、動画説明、簡易プロトタイプ、フェイクMVP(ホームページだけあり、裏側の業務は全て手作業)など。
・プロトタイプ施策やホームページ作成前に、早いうちに集めるデータほど役に立つ。そのプロダクトを開発しない方が良いことがわかったり、競合が見つけていない手法を確認できるかもしれない。
・データがビジネスプランの土台になる。「僕はこう思う」じゃなく、「証拠をお見せします」と言えれば勝てる。データの裏付けがなければ、アイデアが創造性に富んでいても、意味がない。

 

■5不安要素を取り去る

■「恐れ」との戦いに勝ち、失敗を汚点としない組織文化に変える必要がある

・人間は不確実性を好まない。ほとんどの人が、不確実な結果より確実な結果を選ぶ。大抵の人は、本能的にリスクや失敗を避けたくなるもの。
・VCが出資するスタートアップの大半はいずれ消え去る。企業内のイノベーションプロジェクトも大半は失敗する。イノベーティブであるほど失敗する確率は高い。

・科学者が失敗と向き合う姿勢には、学ぶところがある。科学者は仮説を立て、一連の実験を行い、ダメな場合は次の実験に向かう。科学とは、何度も試して何度も失敗することに他ならない。実験の結果が仮説と違っていても、それはプロセスの一部だ。

・成熟企業では、イノベーション成功から得られる見返りより、失敗で受ける罰の方がはるかに大きい。そのような組織構造の中にいれば、創造的な人材でさえ、リスクをとって革新的なプロジェクトに参加することが、バカバカしいことはすぐわかる。

・研究開発部の科学者だけでなく、社内の全ての改装でイノベーションを起こすためには、失敗をありがたく受け止め、それを汚点としないような組織を築くことが必要。
・ほとんど全てのイノベーションは、失敗からの学習によって生まれてきた。失敗が学びと反復と適応につながる。

・失敗の恐れを取り除かなければ、組織はいつまでたっても段階的なカイゼンに留まる。社員はカイゼンに精を出し、これまでにないものを生み出すことはない。シェア維持はできるが、市場を作り替えたり、生み出すことはできない。

 

■新しいものを受け入れる文化を創る

・まず、受容の文化を創り出すこと。受け入れるのは失敗だけでなく、バカバカしいアイデアも、つまらない失敗も、矛盾する考え方も、金のムダ遣いに見えることも。
・チームメンバーのアイデアが、どれほど突拍子なく、とんでもないものに思えても、アイデアを出した人を批判してはならない。歴史を少しでも振り返れば、突拍子もなく現実味もないアイデアが、未来を創ってきた。

・大きく飛躍したいなら、周りに染まらない変人が必要になる。先を読む目を持った人材を外に追い出さないために、伝統に逆らうような意見や、口に出せない考え方を、安心して発言できるような企業文化がなければならない。
・イノベーティブな企業と、そうでない企業を分ける一番の要因は、組織文化。

【イノベーティブな企業文化6点】
・価値観:企業の価値観を決めるのは、経営トップやリーダーの行動。言葉ではなく、行動。創造性の育成や、新しい起業家的プロジェクト立ち上げに投資している。
・振る舞い:経営者が意図的に自社の既存事業を破壊し、聖域を排除し、顧客に耳を傾けていること。それが重要。
・環境:学習を育み、社員同士の信頼を築き、独立した思考を促すような心理的安全な環境。
・リソース:イノベーションの先頭に立てるような人材、資本やプロジェクト。
・プロセス:アイデア提案し、検証し、それを実現する、イノベーションプロセスが確立されている。
・成功:仕事に対する評価の仕方。

 

■失敗を褒める文化を作る

集団思考や同調欲求は、イノベーションの的である。先人のやり方に従うと安心し、他の人が信じることを自分も信じる方が簡単で、一般的に真実とされることに歯向かうより信じる方が簡単だ。
・しかし、組織の中の人の考え方を変えるには、既成概念を疑わなければならない。

・フォーシーズンでは、企業文化を変えるため、「失敗」「間違い」といった言葉を禁止し、「不具合」と言うことにした。言葉を変えるつまらない方法と思うだろうが、それが問題の核心である。言葉が変われば、考え方や行動が変わる。
・グーグルXでは、失敗を褒めており、早めに失敗したチームにはボーナスや休暇を与えている。早めに失敗することを目標にすれば、安上がりで、成功の可能性のある他のことに挑戦できる。最後に失敗すると高くつく。自由に新しいことに挑戦できる道が開かれる。

・誰もが現状を打破するように励まされ、新しい発想を奨励されるような、寛容で開かれた文化を創ることがカギになる。
・不可能を可能にできると考える人たちが、受け入れられるような環境を作らなければならない。

 

■学びに集中して、不安を払拭する

・プロジェクトが失敗するたびに、学びの価値が生まれる。チームがプロジェクトの経験から、学ぶことの中に価値がある。
イノベーションチームの取り組みを全て分析し、顧客や市場、プロセスなどの学びを社内に共有できたら、それは失敗ではなく、前進になる。
・過去の失敗から得たデータや知見が、次の大きなブレークスルーに繋がることは多い。失敗が大きいほど、学びも多い。
イノベーションチームは、自分たちが経験して学んでいることを、逐一社内に伝えなければならない。

・個々のプロジェクトの成功や失敗より、学習のプロセスの方が大切。イノベーションチームは学びのプロセスに集中して、その発見を社内に伝えることに力を注ぐ必要がある。
・学びを制度化するには、チームで毎週、最新の失敗を教え合い、どうしてそうなったのかと説明すると良い。みなの目が失敗ではなく、新しい知見の獲得のプロセスに向くようになる。グループとして学び、事業のあらゆる側面を問い直せるようにしたい。
・失敗にはいくつもの理由があり、わざと失敗する人はいない。失敗を責めても問題は解決せず、悪化させるだけだ。問題を正しく認識し、正しい質問をする方がはるかに役に立つ。

 

■成熟企業でイノベーションを進める8つのルール

・成熟企業では、社内政治が関わってくるのは間違いない。どの部門の管理職も、本社の管理部門は新規事業チームの手綱を握っていたいと考え、事業部門は自分の縄張りが荒らされ、権力が弱まることを嫌がる。しかしそれではうまくいかない。
イノベーションチームが特殊であることを、社内の全ての部門に知らしめる必要がある。イノベーションチームは、既存事業の部門と同じルールは当てはまらない。

・社内イノベーションの道を開くことを助ける8つのルール。

イノベーションを最優先する
イノベーションの重要性を社員全員に認識させ、イノベーションの列車に乗るか、そうでなければチームの邪魔をしないように、社内に周知徹底しよう。

2協力体制を敷く
既存事業部門の管理職とイノペーターの協力体制を築こう。イノベーターを仕切りに囲い入むと、全社にその恩恵が行きわたらない。全ての人が参加する必要がある。

3ビジョンを掲げる
未来へのビジョンがなければ、チームの支えがない。明確で説得力あるビジョンを土台に、使命を築き、プロジェクトを立ち上げると良い。

4志願者を募る
優れた志願者は社内にいる。彼らがプロジェクトに志願するのは、そのビジョンと使命を信じるから。それが会社の未来だと信じ、その実現に貢献したいと思っている。彼らに協力する手段を与え、障害を乗り越える助けや、問題解決の手助けをしてもらおう。

5新しい道を開く
既存事業の厳格な手続き・命令系統とは別に、イノベーションチームのための道を作る必要がある。イノベーターに裁量を与え、禁じられた領域を横切る権限を、彼らに与えなければならない。

6現実的な目標を定める
イノベーションは視界不良で苦しい旅だ。道標となる小さな目標を設定して進歩を測り、チームで学びを共有しよう。チームに短距離走を走らせ、仮説を検証する。カギになる社内の参加者と、発見を共有しよう。成功も失敗も組織全体の学習機会として捉え、賞賛しなければならない。

7最後まで諦めない
最初は勢いのあったプロジェクトも、数ヶ月もすると勢いがなくりがち。しかし、そうさせてはならない。CEO以下の全員に、旅の最後まで参加してもらわなければならない。

8変化をありがたがる
これらが実現されるには、企業が劇的に変わらなければならない。長く続いた伝統を覆し、確立された手続きを書き直す。その途中で、多くの人を怒らせることになる。しかし、それがイノベーションの本質である。

 

■おじさん悲観論者がイノベーションを殺す

・成熟企業でのイノベーションの取り組みや、若手社員を自由に独立スタートアップのように活躍させる考え方は、机上では、魅力的に見える。
・しかし、誰かが現状を変えようとすると必ず、否定的な意見が出る。特に20代30代の若手が変えようとすれば、否定的な意見が出る。変化を嫌い、嫉妬の炎を燃やすのは、大抵おじさん悲観論者(上層部や50代60代)。
・人は誰しも縄張り意識を持ち、自分の縄張りを支配したがる。若い人が来て変化を起こし、何かを要求されたり、計画を混ぜ返されて、嬉しい人はいない。しかしそれが、イノベーションチームの仕事である。

・悲観論者はイノベーションを殺す。そのような姿勢を許してはならない。

イノベーションチームにあった組織構造や独自の評価過程を設置しなければ、失敗は避けされない。おじさん悲観論者のかっこうの餌食になる。
・法務部が障害になり、プロジェクトを殺すこともある。法務部や社内弁護士の目的は、本社を守ることと、クビにならないこと。イノベーションチームが社内弁護士を迂回できるような計らいが必要になる。
・広報が障害になることも。本社のプロダクトと区別できるよう、別ブランドなどが求められる。

・スタートアップには、大企業のような制約はない。いつも危険と隣り合わせで、行き止まりで戻ったり、フェンスをよじ登ったり、フェンスの下に無理やりトンネルを掘ったりする。成熟企業のイノベーションチームにも、同じ自由を与えなければ成長できないし、物事を最後まで成し遂げられない。 

 

■6大きなリスクを取って大胆に挑戦する

イノベーションは速さが命

イノベーションは速さが極めて重要。スタートアップが置かれる環境は、半年ごとに変わる。たった数ヶ月で時代遅れになるスタートアップも少なくない。
・小回りの効くスタートアップは、そのスピード感を心得ている。成熟企業のイノベーションにも同じスピードが求められる。重荷がなく、しがらみがない方が良い。完了手続きを取り除き、加速させなければならない。

・いつも新製品やサービスをいち早く市場に出し続けている企業は、リーダーとみなされる。ブランドイメージへの影響は大きく、消費者はパクリ品ではなくイノベーターの製品を買いたがる。

・スピードは、大企業は不利だ。社員の大半はそれほど必死に働きたがらないし、リスクも取りたがらない。大企業の社員は、スタートアップのようなプレッシャーはなく、何をしなくても給料をもらえるので、スピードより注意深さを優先する。

・極めて重要なことは、挑戦に背中を押されるような人だけをイノベーションチームに入れよう。評価やボーナスを気にする人はダメだ。怠けのもはダメだ。タダ乗りしようとする人もダメだ。口先だけの人間もいらない。
・正しいDNAを持つチームができたら、追越車線を設ける必要がある。そして誰にも邪魔させてはいけない。
・承認に数日以上かけてはいけない。数日以内に承認か否認されなければ、自動的に青信号とすれば良い。他の部署でやっている書類の処理は免除されるべき。必要な物を購入する権限が与えられ、説明や清算は事後で良い。信頼できるリーダーがいることは、欠かせない。
イノベーションチームは、他部署の縄張りに入ったり、ルールを破ったりする特権を与えられなければならない。
・競合を手を組む必要があるなら、そうする権限を持ち、外部のデザイン会社を社内の倍の値段で発注する必要あるなら、それが許されるべきである。
・追越車線は必要だとしても、イノベーションを既存事業部門と完全に切り離してはいけない。心理的な分断が起こり、自分には関係ないし、チームに参加も協力もしなくていいと思われてしまう。

・高速化のもう一つの方法は外注。自分たちが最高で最速でなければ、最高最速の誰かと探す方が良い。自前主義は、追越車線に置かれた信号のようなもので、渋滞を引き起こす。

 

■素早く失敗し、反復検証する

・速さを極めるということは、反復検証改善サイクル数を増やすということ。プロダクトを繰り返し検証し、変更し、変更箇所をまた検証することで、初めて進歩できる。
・新製品のほとんどは失敗する。しかも大ゴケする。プロダクトを市場に出せるかどうかは、それほど重要ではない。学習スピードが重要。
・学習と発見のプロセスを加速させるためには、反復スピードに注目すべき。反復サイクルは毎回、チームの前提を検証する機会であり、何がうまくいって何がうまくいかないかを発見する機会。

・スピードとは、例えばプロトタイプ制作とか、自分たちの勝手な目標やスケジュールのことではない。その事業についての深い知見を得られなければ意味がない。
・大切なのは、そのビジネスの隠れた真実を見つけ出すことであり、ユーザーがプロダクトに何を望み、何が爆発的なリターンにつながるかを理解すること。
・不格好でもプロダクトを世に出して、すぐに学習を始める方が良い。時間をかけて開発しても、どうせユーザーの望むことはできないから時間のムダ。
・ユーザーの手にプロダクトを委ねないと、本当の反復プロセスは始まらない。調査やプロトタイプでは、ユーザーの欲しいものはぼんやりとしかわからない。口ではなんとも言えるが、本当の学びが始まるのは、ユーザーがプロダクトをどう使うか見たときである。

・例えばネットフリックスは、進みながら色々作っていく。予測してもバイアスがかかるだけ。うまくいくものは残して、うまくいかないものは捨てる。試したものの9割はうまくいかない。
・グーグルも同様で、例えば1週間の試作で5〜10個のアイデアを試しても、1つしかうまくいかない。だからアイデア検証期間をできるだけ短くし、多くのアイデアを素早く検証している。
・素早く失敗することは、シリコンバレーの常識として受け入れられている。

・ある新事業アイデアが軌道に乗らないとわかった時は、さっさと諦めた方が良いか、挑戦を止めてはいけないということ。後戻りしていると感じても、新しい道を切り開き続けなければならない。
・リリースしたプロダクトがうまくいかない場合も、ユーザーの行動を注意深く観察しよう。特に予想外の行動をするユーザーがいたら、そこを深掘りする。気づいていなかった、新しい機会を発見できることもある。
・プロダクトの価値がどこにあるかは、顧客に教えてもらう。

 

■大企業に必要なイノベーション人材

・他人と違う考え方が必要なら、変わった人を雇わなければならない。賛成する人のいないアイデアや意見を持ち、変化のきっかけを作るのは、そうした人たちである。
イノベーションチームには、トップの優秀な人材だけを暑得てはいけない。変わった人こそチームに必要。
・大企業のイノベーションチームに必要なのは、ハスラーハッカー、ヒップスター、ホットショット、政治家とオーガナイザーだが、何より大切なのは、コアメンバーの中に、中途半端な気持ちで取り組む人がいないこと。
・チームが非常にうまくいっていて、目覚ましい結果を出しているなら、口を出してはいけない。勝利の方程式を見つけたら、勝手にメンバー変更しないほうがいい。

 

■新しいアイデアの生まれ方

・新しいアイデアは、突然どこからともなく現れるものではない。あなたが学んだこと、経験したこと全てが意識によって関連づけられ、一つになってそこから新しいアイデアは生まれる。組み合わせの妙からアイデアは生まれる。
イノベーションの多くは、ある分野の既存事業アイデアを借りてきて、別の分野の事業にに当てはめることから生まれている。古いアイデアを掘り出して、新しい問題に応用する。例えばIDEOはこの方法を使っている。
・起業家はビジネス書ばかり読んではいけない。普段あまり関わりない分野の情報、多様な情報源から新しいことを発見し学ぶことが、実は最も価値がある。自分が知らない情報だからだ。
・ある分野からアイデアを借りてきて、別の分野に当てはめることでイノベーションが生まれる。

 

■大当たりが1つだけ出ればいい
・世の中にはビジネスモデルは2つしかない。ユーザーが金を払うか、広告主が金を払うか。それ以外にはない。
・ユーザーが支払う場合、それぞれのユーザーが生涯に渡りたくさんの小額取引をするか、数回の多額の取引をするかどちらか。
・広告モデルで儲けるには、莫大なユーザー参加が必要。アクティブユーザーが100万人かそれ以上の規模に達しない場合、広告モデルは成り立たない。
・ビジネスモデルは複雑だと誰もが思っているが、そんなことはない。これ以外の方法でお金を儲けている会社はない。
・新しい事業が倍々ゲームでのビルには、ライバルを寄せ付けないような参入障壁、不当な優位性が必要だ。かなりの不当な優位性がなければ、価格競争に陥る。

 

【新規事業の実践論 要約】新規事業の立上げ方

リクルート社にて新規事業立上げて子会社社長を務め、その後新規事業開発室長による、新規事業の実践論(新規事業立上げ手引書)の内容を要約します。

およそ5年強の間に、同社で1500件の新規事業支援、300社の起業家の卵の支援、独立後は大企業の25社500新事業の支援をした著者。
単純計算すると、1年間に450件ほど新規事業支援をしているとのことで、一つ一つ中身の深い支援やプロダクト販売開始前後の支援は非現実的と思われ、おそらく新規事業プランコンテストや企画支援の色が強めの内容だと想像します。

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■1章:日本人は「社内起業」が向いている

・日本の大企業311社の中で、その94.2%が中長期で取り組む重点テーマとして「新規事業」を掲げている。ただ、昨今の日本企業からイノベーションが生まれていないと言われて久しい。
・日本企業がイノベーションを生めなくなったのは、ここ20〜30年の話。1980年代までは、日本企業が世界で最もイノベーティブだった。
・ここ20〜30年、イノベーションが生めなくなった理由は、単に、新規事業をやらなくなった・新規事業に投資をしなくなったから。

・投資余力を持つ大企業がすべきことは、自らの社員への、社内プロジェクトへの新規事業投資である。
リクルート社は、1兆円を超える借金を返し終わった2000年代半ばから、膨大な金額が新規事業に投資され続けた。
リクルート社は新規事業が特別得意な会社だから、と言われるが、そうではなく、社内の新規事業に、大量の投資をし続けただけ。

・大企業で新規事業が生み出せるかどうかは、新規事業に取り組んでいるかどうか、新規事業に投資をし続けているかどうか、に尽きる。

私見著者は「全てのサラリーマンは、社内起業家として覚醒できる」と主張するが、私の見解は違う。
著者が接した人は、リクルート社で新規事業提案をするような人、起業家の卵、大企業の新規事業提案するような人。つまり、野心的な人を採用するので有名なリクルート社の中で新事業提案をするような人、自ら起業するような人、大企業で新規事業提案をするような人であり、その時点で普通のサラリーマンと随分違う。
一方、新規事業に適する志向性・素養を持つ人は、どの企業にも7〜9%くらい存在するらしい。私の考えは「サラリーマンの7〜9%くらいは、全て社内起業家として覚醒できる」というもの。その7〜9%は社内のエース級・優秀社員とは、やや異なる思考回路や物事の捉え方をする人が多い。
参考:成熟企業内で、新規事業に向く人の見分け方・選び方

 

■2章:社内起業家に覚醒するWILLの作り方

・普通のサラリーマンが社内起業家になるために、最初にやるべきはWILL(意志)の形成。
・WILLとは、①誰の、②どんな課題を、③なぜあなたが、解決するのか、について、あなたが力強い回答を持てる状態に至ること。
・①誰の、②どんな課題をは「取り組む領域の明確さ」であり、③なぜあなたがは「使命感や圧倒的当事者意識」である。

・WILLは後天的に形成することができる。「ゲンバ」と「ホンバ」に行くことで、それを私がなんとかしなければならない、という圧倒的当事者意識・内から湧き出るWILLが形成される。
・「ゲンバ」とは、課題の根深い現場のこと。「困っている人や現場を見てしまったら、放っておけない」という責任感を起点とするWILL形成方法。困っている現場は日本には溢れている。
・「やりたいことはどう見つけたらいいか」と言う人ほど、ゲンバに全く足を運んでいないことがほとんど。単に「見ていないから、知らない」ということ。
・「ホンバ」とは、新規事業開発の最前線のこと。ホンバの人や環境に触れ、刺激を受けることはWILL形成を大きく助けてくれる。

 

■3章:最初にして最大の課題「創業メンバーの選び方」

・新規事業リーダーの最初の課題が「創業メンバーを選ぶ」という意思決定。
・重要な観点は、人数と、役割の2つ。WILLが同じで、役割の異なる、少人数を選ぶのが王道。
・人数は3人までが良い。新事業開発では、メンバー間のコミュニケーションのスピードと濃度が極めて重要。事業立上げ時のコミュニケーションはリアルタイムが原則。メンバーの数が増えるほど、コミュニケーションのスピードと濃度を阻害する。
・新事業立上げは、チームとしての精神的回復力が求められる。失敗ばかりで、社内から否定に次ぐ否定があり、極めてストレスが大きいのが新事業開発。「絶対うまくいかない」と否定される状況が続くと、1人だと簡単に折れて挫けてしまう。
・過去の経験から、チーム人数は2人がベストだという感覚。それほどまでに、新事業開発ではコミュニケーションスピードは重要。
・4人を超えるチームはほぼ機能しない。それほどまでに新規事業の立上げ期に置いて情報共有は重要。

【新事業立上げチームに必要な3つの力】
・全ての新事業立上げチームに必要な3つの力は、異分野を繋ぎネットワークする力、あらゆる業務を圧倒的に実行しやり切る力、深く広い教養と知識。
・「異分野を繋ぎネットワークする力」昨今の世界では、新しい価値創造は「これまで交わらなかった組織・産業・セクターの "間"」で起こるケース増えている。
・産業の垣根の融解する部分こそ、ビジネスチャンスであり、新規事業が狙うべき領域。・産業の垣根を融解させる事業を立ち上げるために必要な力がネットワーク。
・「あらゆる業務を圧倒的に実行しやり切る力」どれだけ大きなビジョンを語り、魅力的な事業アイディアを考えても、それを形にする過程は、「あらゆる細かな作業」と「局地戦での勝利」の積み上げに他ならない。
・業務を圧倒的に実行し、やりきる力なくして、新規事業が形になることはありえない。
・「深く広い教養と知識」自分・自組織が「これまで手がけたことのない領域」にて何かを生み出す活動である新規事業開発は、「無知の知」つまり自分が「何を知らないのかを知る」ことができる力が重要となる。

 

■4章:新規事業 6つのステージ

・新規事業開発には、適切な手順・ステージがある。
・新規事業立上げでは、ステージによりやるべきことは完全に切り変わり、事業に対する判断基準も完全に異なる。
・そのステージでやるべきこと「のみ」やり、他のステージでやるべきことを、決してそのステージではやってはいけない。また、各ステージで目指すべきは「次のステージへの昇格」。そこには飛び級もなければ、近道もない。

新規事業の実践論 新規事業6ステージ

■1エントリー期
・このステージで目指すべきは「検証可能な事業仮説を構築する」こと。
・「事業仮説」とは、「顧客」「課題」「ソリューション仮説」「検証方法」の4点セット。

・「顧客」は、顧客は誰か、確かにそういう人や企業は存在するか。
・顧客は誰か。現実に存在する、その「誰か」を定義することが、全ての新規事業の出発点。雑な定義ではなく、具体的な人や企業の顔が見えるレベルの細やかな粒度であるべき。

・「課題」は、課題は何か、確かにそういう課題はあるか、どれほど根深いか。
・顧客候補が、お金を払ってでも解決したいと願う、根深い課題を捉えなければならない。
・「ソリューション仮説」は、その顧客のその課題はその方法で解決できるか、確かに解決できそうか、代替手段はないのか。
・顧客の課題を解決できるソリューション仮説を捻り出す。・解決策の検討時に、やってしまいがちな失敗は、「自社リソースでできること」を考えてしまうこと。エントリー期に大切なのは、実現可能性ではなく、「それをやったら本当に課題が解決できるのか」である。

現代社会では既に便利なサービスが豊富で、そんな中で、まだ解決されずに残っている課題は「すぐにできそうなことでは、決して解決されない課題」のはず。
・「検証方法」は、顧客・課題・ソリューション仮説が成立するための検証方法は何か、検証は期間・予算内でできそうか。
・仮説定義した「顧客の課題と、その課題を解決するソリューション仮説」のセットを、検証するためのプランを提示する。エントリー期の事業仮説は、極端なところ、ただの妄想や空想で構わない(顧客の観察やヒアリングをしていなくても構わない)。

・次のステージであるMVP期にて、その妄想や空想を、検証を通じて確証と現実に変える必要がある。
・検証方法の検討にあたり、予算と期間という制約条件をクリアしている必要がある。エントリー期には、検証そのものは不要だが、検証方法の方向性が見えていることは求められる。

【MVP期への昇格基準】
・「顧客」「課題」「ソリューション仮説」「検証方法」の4点セットの「事業仮説」が揃うこと。
・決裁者が質問しがちな、市場や競合、実現可能性、事業計画、収益性などの要素は、一切必要ない。これらは次ステージ移行で加えるべき内容。

私見このステージは顧客と課題を見出すのが大変。ソリューション仮説は、既存ビジネスと異なるモデルのソリューション案を大半の人が考えられないことを、どう乗り越えるかがキモ。この段階では、完全に机上の空論で、単なる妄想で構わない。
ただ現実には、顧客か、技術か、対応領域の方向性か、何かしらが多少なりとも具現化イメージが持てる状態にないと、4つセットの事業仮説自体が作れない。

 

■2MVP期
・MVP期は、事業性を伴う魅力的な事業計画の提示を目指す段階
・MVP期でやるべきことは2つ。1つは「エントリー期の事業仮説を実証すること」、もう1つは「事業計画として成立させること」。
・MVPとは、Minimum Viable Productの頭文字で、検証可能な最小限の製品という意味合い。このステージではプロトタイプ(試作品)を作り、仮説検証を行う。

【事業仮説を実証する】
・エントリー期に構築した事業仮説は、どれほど検討されたものでも、ただの「妄想かつ空想」である。
・事業仮説の実証のためにやるべきことは2つ。1つは、課題を持つ顧客を実際に見つけてくること、もう1つは、その人や企業に対してソリューション仮説の検証をさせてもらうこと。

・エントリー期に考えた事業仮説が正しいならば、どこかにその課題を持つ顧客が存在する。MVP期では、その顧客が確かにいると証明(事実として存在すると実証)しなければならない(=存在しないならば、ただの妄想に過ぎなかったとわかる)。
・見つけた顧客に、ソリューション仮説の検証をさせてもらい、検証を通して、確かにそのソリューションにより課題が解決され、お金が支払われるかどうかを検証する。

【事業計画として成立させる】
・事業仮説の実証に加えて行うべきは、実証した事業仮説が、投資可能であり将来的には儲かる構造を持つものだと証明すること。つまり事業計画の作成。
・具体的には ①売り方の設定と値付け、②コスト構造の見積もり、③時間軸を入れて数値計算シミュレーションをする、の3つ。

・①売り方の設定と値付けは、顧客へのヒアリング・検証を通じて明らかにする。
・②コスト構造の見積もりは、そのソリューション提供のためにかかる費用構造。変動費と固定費、原価と販管費など明らかにし、値付けとのバランスが成立するか見極める。
・③時間軸を入れて数値計算シミュレーションは、どのくらいの顧客数になったら固定費をまかなえるか、利益が出始めるか、その顧客数は到達可能かなどをシミュレーションする。

【昇格基準】
・事業仮説が実証され、投資可能な事業計画が成立すれば、次のステージに進む。
・「顧客・課題・ソリューション仮説」が、確からしいと実証され、「顧客がソリューションに支払う金額が、コストより大きく、顧客数を拡大できれば利益を生み出せる」というシミュレーションが成立するかどうか。

私見このステージは、顧客と課題の定義(検証・実証)と、MVP作成と事業計画作成は、別ステージとして捉える方が良いと思う。
ほとんどの人は、顧客と課題の発見ならびに定義を、軽くみすぎる傾向にある。またソリューション検討は楽しいので、顧客と課題よりも解決策を考えたくなる人が極めて多い。その当然の帰結として、課題のない顧客に対して、ソリューションを作るから、売れないものが作られてしまう失敗が量産される。
上記の典型的すぎる失敗を回避するために、顧客と課題の定義を、敢えて別ステージに分ける方が良いと思う。

また、顧客と課題の定義期・MVP期は、実証されない(例:そんな顧客や課題は存在しない)場合や、プロダクト作る目処が立たない(例:現在の技術レベルでは実現不能)、事業計画が成立しない(例:原価超過で計画上でもずっと赤字)場合には、検討ストップの判断がなされ、振り出しに戻ったり、前ステージに戻ることも多いことは、織り込んでおく方が良い。

 

■3シード期
・シード期は、商用レベルでの事業の成立と成長ドライバーの発見を目指す段階。
・シード期でやるべきは、大きく分けて2つ。実際に商売を成立させること、グロースドライバーを発見すること。

【製品を開発し、販売開始し、商売を成立させる】
・実際にサービス・製品を開発し、新規事業として世の中にリリースし、販売を開始しましょう。
・MVP期に事業成立すると判断したものでも、いざ売り始めたら「買ってもらえない」「課題が解決されない」という事態に幾度となく直面する。
・感覚としては、MVP期を経て、シード期にてプロダクト販売を開始し、事業として成立しないとわかるものは、およそ半分ほど。
・販売開始後に直面した課題に対処したり、サービスや計画を修正して事業成立まで持っていけるケースもあれば、あえなく撤退となるケースもある。

・「どう提えるか」の問題だが、著者は、MVP期にて確かな実証を行い、シード期で撤退となったチームには、心からの賞賛を贈ってよいと思う。
・実際の販売開始に至る前に終わるケースが多い中で、「実際に販売開始し、そして成立しないと判明した」フェーズまで至ったことは、それ自体が大きな学びで、その後の会社の資産にもなり、その段階まで事業仮説を磨き上げたチームは人材として育っているため。

・シード期にたどり着き、プロダクトを作り、販売開始し、顧客から売上が立ち、商売として成立させられること。この段階が、新規事業開発6ステージの「中間ゴール」である。

【グロースドライバーを発見する】
・実際に商売を成立させられた事業には、実際に販売されているプロダクト、初期の顧客、初期の売上があるはず。次に目指すべきは顧客数の拡大。
・より具体的には、「顧客を拡大するための方法=グロースドライバー」を見いだすこと。

・営業や広告宣伝を行う形だが、重要なのは「LTV>CAC」が成立する方法を見つけ出すこと。(LTV:顧客の生涯価値、CAC:顧客の獲得単価)
・最初期の顧客は、CACや採算度外視で買ってくれるだけで非常に大きな価値があるため、それでよい。しかしそれ以降は、CACを考慮して顧客を獲得していく必要がある。
・新規事業では、よほどの高単価・低原価率の製品でない限り、「LTV>CAC」が成立せず、営業や広告宣伝においても、何かしらの「発明」が必要になるケースが多い。
・ここまでは、新規事業とは「顧客・課題・·ソリューション」のセットを成立させることに集中してきたが、シード期以降は「営業・広告宣伝手法の考案」も加わる。
・製品やサービスと同じかそれ以上に、営業・広告宣伝手法にもユニークさが求められることも少なくない。

【昇格基準】
・実際に商売が成立し、グロースドライバー(成長のための拡大方法)が発見できていること。
・販売開始された製品やサービスが存在し、少数でも確かにお金を払った顧客が存在し、小さくとも売上が立っていて、それを拡大するための営業、広告宣伝手法が考案できていること。この基準をクリアすれば、大きな事業投資に踏み込む判断ができる。

私見このステージは、プロダクト開発&販売開始と、シード期は、別ステージとして捉える方が良いと思う。
プロダクト開発は確かに「一旦やるだけ」ではあるが、事前の見積もりの甘さから、発売開始で求める品質水準から「開発期間が異常に伸びる」「開発期間が以上に伸びる」「開発が途中で頓挫する」という失敗に陥りやすい。このステージで頓挫すると、精神的なダメージが大きくなるため注意したい。

成熟企業において難しい判断となるのは、リリース販売開始時点のプロダクトに、どこまでの品質と機能を盛り込むか(どこまで機能を外して、スピード重視でやれるか)。また、企業の考え方に加え、新規事業責任者の価値観や哲学が反映されるのが、どのレベルまで攻めるか・自制するか。画期的な事業であるほど、その線引きの判断は個人の哲学に依存するように思います。
余談ながら、スタートアップあるあるは、システム開発者が蒸発してしまいリリースが遅れる。

販売開始後は、幸いにして売れ始めると、問題が噴出するのが一般的。その問題を淡々と処理して進め、プロダクトや体制にフィードバックすることで、良い製品・サービスに変容なっていく。(売れないと、問題も噴出しない。)
発生する問題は多種多様で、プロダクトの品質に限らず、製造・提供体制、サポートや提供プロセス、システム不具合や使い勝手の悪さ、契約面や事務面の整備漏れなど、想像しうる以上の問題が発生する。(新規事業の経験者は、この辺りの勘所と不確実性への対処が強い。)

販売開始すると、当初想定してなかった顧客が、想定しない用途で使うことがわかることも少なくない。それを経て、もしくはそのサイクルが落ち着きはじめてから、ようやくLTVやCACなどを考えられる状態になっていく。

 

■4アルファ期
・アルファ期は、実際に大きく資金を投下して、顧客と売上・利益の拡大を実現することを目指すステージ。
・「LTV>CAC」が成立する手法に、資金投下すれば顧客拡大し、売上と利益が積み重なるはず。ためらわず資金投下し、ひたすら顧客数を拡大しよう。

・ただし注意すべき点が3つある。1つは、CACの悪化。顧客拡大につれて、CACが悪化するのが通常。
・2つ目は、組織の疲弊・成長痛。シード期はメンバー数は1桁だが、アルファ期には30人くらいになるだろう。組織の成長痛が起こるため、情報共有やマニュアル整備など、業務フローや機能を型化していくことが求められる。
・3つ目は、競合の出現。CACの悪化や計画の事業計画の前提が覆されることもあり、リスク察知とスピーディーな計画修正・意思決定ができる状態にしておくこと。

【昇格基準】
・事業が成長状態に入ったか、組織戦略と対競合戦略が現実的か。

 

■5ベータ期
・成長率を落とさず成長を続け、既存事業と比較議論できる最小規模に到達し、既存事業と遜色ないガバナンスをの構築を目指す段階。

【昇格基準】
成長率を落とさず成長状態が続くか、既存事業と遜色ないガバナンスか

■6イグジット期
・新規事業の枠組みを卒業し、成長投資を獲得し、企業戦略の一部となることを目指す段階。

【昇格基準】
・社内での位置づけ整理、IR方針、既存事業を凌駕する規模への投資戦略。

私見アルファ期を乗り越えてベータ期に至れるのは、おそらく1〜3%くらい (100立上げ中 1〜3回)と思うため、 最初から考えておく必要がない。 残念なほどに、このステージまで到達しない。もし到達できたら、諸手を挙げて喜べる。

 

■5章:新規事業の立上げ方(エントリー〜MVP期)

・エントリー〜MVP期は、とにかく重要なのは「顧客起点」であること。
・アイデアでも、ビジネスモデルでも、技術でもなく、「顧客」を中心に据えて進められるかどうかが、全てを決める。

【優秀な人ほどやってしまう、間違った新規事業開発作業】
・優秀な人ほどやってしまうのが「確認・事例・調査・会議・資料」を「社内・上司・先輩・競合」に対して行う。
・単語「確認・事例・調査・会議・資料」と、単語「社内・上司・先輩・競合」を結ぶと、無限に作業が生まれる。これをやると、一生新規事業は生まれない。
・既存事業では、これらこそが大事だが、新規事業開発の立上げ期では、これらは1つもやってはいけないことである。

【新規事業立上げ期にやるべき、仮説と顧客】
・仮説を顧客のところに持っていき、顧客の反応に応じて仮説を修正する。修正仮説を顧客のところに持っていき、再び仮説を修正する。そして再修正仮説を顧客に持っていき・・・。このサイクルをひたすらやるのが、エントリー〜MVP期にやるべき唯一のこと。
・「仮説を顧客に持っていく」を、300回やると、立ち上がる新規事業案が出来上がる。「300回 顧客のところに行け」。
・仮に与えられる期間が半年の場合、1ヶ月で50回顧客に会う必要があり(300÷6ヶ月=50回)、1日あたりでは2.5回(50回÷20営業日=2.5回)。これが、新規事業が立ち上げられるチームが目指すべき、平均的なペース。
・1日2.5回顧客に会い続けようと思ったら、上司と会議したり、競合を調べる暇などない。

・仮説と顧客サイクルを300回やると、導かれた新規事業案は、ほとんどの場合は、最初の事業仮説からは、原型を留めないほどに変化した案になっている。それが正しい進め方である。
・そのため、新規事業開発プロセスでは、手段(ソリューションやプロダクト)が固定されてしまうと、立ち上げられる確率は下がる。手段ではなく、顧客と顧客課題に対して強いWILLを形成できれば、WILLの範囲内で大きな仮説変更を繰り返していける。

【プロトタイプの6つのレベル】
・仮説検証では、MVP(検証可能な最小限の製品)に限定して作り、顧客にぶつけて検証する。
・仮説が緩い最初の段階ほど、高速かつラフなプロトタイプを作り、仮説が検証されるにつれ徐々に作り込んでいく。MVPにも6つのレベルがある。

レベル1:ペーパー
・「コンセプトを表した30文字の言葉」にして、想定顧客にぶつける。
・少し作り込む場合でも、画面を手書きで紙に書いたものなど。この段階では、とにかく高速で作れる形にこだわるべき。

レベル2:アナログ
・手作業で課題解決をしてみる段階。大切なのは、プロトタイプと言いつつ何も作らないこと。
・想定顧客を人力で集めて、課題に対するソリューション作業を全て手作業で行う。これにより、そのサービスが本当に価値があるか擬似的に検証できる。

レベル3:コンビネーション
・ありものを組み合わせてプロタイピングする。この段階でも自分では何も作らない。
・ありものとは、現存する他社製品で、FacebookやLINE、ブログなど。それらを組み合わせるだけで立派なサービスになります。

レベル4:ビジュアル
・レベル3のありものの組み合わせに、表面上のデザインをオリジナルにして提供してみる。ホームページのトップページだけ、デザインしたチラシを使って提供してみる。
・顧客からすると、最終プロダクトに近いイメージで捉えてもらえる一方で、裏側は人力やありものの組み合わせの段階。

レベル5:プロトタイプ
・この段階で、ようやく一般にイメージする「試作品」に近いものを作る。
・ただこの段階でも、できるだけ作らず済む方法を模索する。ワードプレスやペライチなど作成サービスを使い最低限のものを作る。かけて良い時間は、せいぜい3日ほど。

レベル6:MVP(ミニマムバイアブルプロダクト)
・ここまで検証が進んだら、ようやく必要機能を揃える開発を初めて良い。
・それでも、「検証すべき項目を検証するため」に限定した開発にし、できるだけ作らず済む方法を模索する。

・プロトタイプといっても、段階がある。
・日本の新規事業を担当する人のほとんどは、顧客ー検証の回転速度があまりにも遅い。一つ一つの検証に、あまりにも時間をかけ過ぎている。
・いかに作らず、いかに高速に検証することが、新規事業立上げの初期ステージの要諦である。

【顧客へのヒアリング】
・顧客に会うとき、次に会うべき顧客を見つける力が求められる。ヒアリングを通じて、より課題を持っている対象顧客を見つけることもある。
・目の前の人の課題についてヒアリングすると共に、その課題の発生する構造や関係者が誰かも合わせて聞き出すことで、課題の理解をより深く進められる。
・対象関係者を広げるには、当事者の周囲を洗い出すのは有効。例えば、介護なら、介護当事者の周囲には、配偶者や家族、介護施設の経営者・職員・納入業者、薬剤師・医師、介護関係当局などがいる。

ヒアリングでは、相手の深い情報を引き出す。仮説を押し付けたり、相手を説得するのは厳禁。
・プロトタイプを見せ、反応をじっと見る。

私見優秀な人ほど「確認・事例・調査・会議・資料」を「社内・上司・先輩・競合」をやってしまうのは納得。優秀な人ほど業界ルールを深く知り、社内ルールをきちんと守る傾向にあるため、既存と異なる事業案が出ず、推進スピードが遅くなりがち。
また優秀な人ほど、考えを否定されること・邪険にされることに心理的拒否反応を示してしまいがち。

 

■6章:新規事業の立上げ方(シード期)

・シード期は、実際に商売を成立させ、グロースドライバーの発見を目指すステージ。サービスを開発し、実際に販売し、顧客に価値を届けていく。
・シード期に陥りがちな罠で、最も気をつけるべきは「サービスの販売開始しただけの段階で、成果を上げたと勘違いしてしまうこと」。

・販売開始直後は、マーケティング投資に力を入れてはならず、プロダクトをブラッシュアップし、LTVを高めなければならない。
・販売開始直後の新規事業が向き合うべきは、Primary Customer Success(最初の顧客の成功)である。プロダクトを修正し、一番最初の顧客が「買ってよかった」と感じる体験を作り上げること。

・Primary Customerは、他に誰も顧客がいない段階で、お金を払い、製品を購入し、顧客となってくれた、兆候リスクで何もわからない状態のものに手を出す、ある種クレイジーな方である。
・Primary Customerは、次の条件を満たさなければならない。身内や関係者でなく、初めてその商品を知り、正規料金で購入し、購入後に使用し、使った結果「支払ってよかった」と満足してくれること。

・新規事業リーダーが肝に銘じるべきは、販売開始直後の新規事業に対して「世間は驚くほどにネガティブ、もしくは無反応である」ということ。そういうものである。 

 

■7章:社内会議という悪魔を攻略する

【社内会議の意義と、そのための準備】
・そもそも「新規事業案を正しく評価する」ことは、誰にもできない。経営陣も投資家も、立ち上がっていない新規事業を正しく評価するなんて芸当はできない。
・自分たちが確信している可能性が「そのまま全て伝わることはあり得ない」という腹づもりで、社内会議に臨むのが良い。
・立ち上がっていない新規事業を評価できる唯一の存在は、経営陣ではなく「顧客」である。経営会議や事業化審査会の場には「顧客」はいないはず。だから正しく評価されることはあり得ない。
・社内会議には、社内会議を攻略するための準備が必要。新事業プランが良くて、社内会議が通らない場合は、ほぼ100%提案する側の準備不足が原因。
・新規事業が、投資を仰ぐための重要な決裁の場である社内会議には、これ以上ないほど入念な準備をして臨むべき。

・社内会議とは、重箱の隅をつつく会議である。
・多くのサラリーマンは、社内会議とは「よい提案をすると、それが評価され、決議される場」と、勘違いしている。社内会議の構造や位置付けを理解していなさすぎる。
・重要な会議にかけられる案が良いことは「当たり前」である、というのが前提。そのため「その案が良いかどうか」の質問は、当然出てこない。
・その案が「本当に良いのか」について質疑が少ないということは、その良さに対する疑義が少ないということ。むしろ、サービスモデルや顧客価値の質疑が多発する場合は、社内会議の前提である「提案の内容が良いこと」に疑義が生じている状態である。

・社内会議とは、何を議論する場であり、どんな基準で決議されるのか。それは 「決議したことを、上司に説明できること」である。
・会社とは「所属する全ての人に、上司が存在する」という組織形態。社内会議の決裁者にも、必ず上司が存在し、その上のレイヤーの意思決定機関が存在する。だから全ての決裁者は常に「自分が決議した案件を、上司に説明できるか」を念頭に置いて決議を行う。経営会議や取締役会、社長でも同じである(オーナー社長除き)。
・上位レイヤーの会議になると「議事録」が存在するから、なおやっかい。審議内容に対して、誰がどう発言し、どう決議されたか議事録が残ってしまう。だから「重箱の隅をつつく」わけである。
・社内会議の「重箱の隅をつつくような質疑」は、質問する方も「本当はそんな重要じゃないかもとわかっていても、聞かざるを得ない」ことも多い。
・これら質問に対して重要なのは、明確に回答できること、そのための準備が万全であること。「誰にでも説明可能である」という状態が作れれば決議されるもの、それが社内会議。

 

【社内会議を通すための準備6点セット】
・特に、MVP期とシード期の境目で設けられる「事業化判断を行う審査会議」において機能する6点セット。

1数値口ジック
・重箱の隅をつつこうとする人にとって、もっとも指摘しやすい材料が「数字」。
・数字とは、事業案や顧客の中身がわからずとも、誰でも指摘が可能なものである。質問に対する回答が不明瞭なら、それだけで「通さない理由」となるほど強力。だからまず、数値ロジックを入念に準備する必要がある。
・立上げから数年の損益計算を作っているはずだが、用意すべきはその数値自体ではなく、「その計画を作った数値ロジック」。
・「数値ロジック」とは、全項目の数字の理由。「なぜその数字なのか?」という質問に「〜〜だから」と答えられる日本語を用意しておくこと。
・具体的には「売上の根拠は?」「人員計画の根拠は?」「家賃はどういう数字か?」「広告宣伝の内訳は?」などの質問に答えられること。
・最も汎用的で有効なのは、数値を分解しておくこと。例えば売上について聞かれたら「売上は、顧客単価と顧客数に分けてシミュレーションしている」「顧客単価は、基本料金とオプション課金から構成される「顧客数は、店舗当たり来店者数と店舗数から構成している」と答える。
・数字に関する「重箱の隅をつつく」質問に対しては、きちんと考えていること自体を示すのが有効。きちんと考えていることを印象を与えるのに「分解という数字ロジック」は有効。
・数字の分解は最終的には「非常に細かい現場の数字」に行き着く。細かい数字に質疑を持ち込めれば、実証実験で得た顧客インサイトの話になり、事業の本質に関わる議論に持ち込むことができる。
・作り上げた事業計画の、全数値項目を分解して説明できるようにしておく必要がある。エクセル参照せず、把握していることを見せることも、安心材料になる。

2顧客の生の声
・立ち上がっていない新規事業を正しく評価できるのは、顧客だけ。顧客では内情長や経営陣が「実感が持てない」のも当然。
・上長側も、実はツライ。なんとなく理解でき、信じてあげたい気持ちもあるが、自分は詳しくない領域だから、実感が持てない。納得がいっていないものを決議するわけにもいかない。納得してないのに決議したなんて、上司に説明できないから。
・この状況で有効なのは「顧客の生の声」。
・映像や手紙で顧客から応援メッセージをもらうなど、「顧客の生の声」をプレゼンに持ち込むべき。

3リスクシナリオと撤退ライン
・事業進捗の計画スケジュールはきちんと作る上で、その上で、「それでも遅れたらこうなる」というケースをシミュレーションしておくと良い。
・「遅れないから大丈夫」とアピールするのではなく、「遅れた場合の策も想定している」と示せることが重要。

4関連諸法規の提示
・新規事業の場合、会社にとって新しいことのため、過去事例が参考にならず、商習慣や法規制などに関する知識も不足する。「不足している」状態自体が「説明できない」に繋がり、却下の理由になる。
・自主調査、社内法務部、社外の専門家にアドバイスもらうの3段階で、新事業が抵触する可能性のある法律や規制を調べる必要がある。
・これら調査内容は、そのままプレゼンの添付資料に加える。量が多ければ良く、「必要十分なだけ、ちゃんと調べている」と伝わることが社内会議攻略上は重要。

5社内キーマン・社外権威者のコメント
・出島や別組織で新事業を進める際、「既存事業の事情を考慮しなくて良い」わけではない。
・関連する既存事業部があれば、その事業部長には事前に話をしに行くべき。応援されることも、妨害されることもある。
・それをそのまま「社内キーマンコメント」として、プレゼンに加えるべき。既存事業を無視しておらず、やりとりしていると伝わることが重要。
・実際には、社内キーマンはネガティブな反応を示すことも多い。その状態を考慮し、社外権威者のコメントも得ておきたい。社内の閉じた話でなく、会社を超えた社会的な動きを捉えて意思決定するために、気持ち的に材料になる。

6空気を読んだ戦略図
・「その新事業を自社でやる意義」に答える為に、会社の戦略的な意味合いとの連動が求められる。
・事前に、戦略部門や経営企画メンバーと議論し、自社の全社戦略や長期ビジョンと、新事業のどういう点が強い意味合いを感じるシナリオにできそうか、議論をしてプレゼンに加えたい。

 

■8章:経営陣がするべきこと、してはいけないこと

【画期的な新事業は、経営陣には判別できない】
・新規事業創出には、新規事業の担当者の頑張りと同じか、それ以上に重要なのは、新規事業が生まれる気運に対して、経営陣が呼応し、適切に判断を行い、仕組みを作っていくこと。
・経営陣がなすべきことをなされなければ、社員が可能性あふれる新規事業を提示し、立ち上げようとしても、それを形にしていくことはできない。
・新規事業アイデアは、画期的であるほど理解できない。
・そもそも、世界にまだない画期的なアイディアを、「説明できる」と思っていること自体が大きな間違い。実際に、世界を変えた画期的事業の多くは、世界を変える前には、ほぼ事業内容は理解されない。
・「画期的なアイデア」は、画期的なほど、そのアイデアは理解されない。しかし、その画期的かもしれないアイデアが「世界を変える前」に、「画期的だと評価してくれる人」が1人だけ存在する。それが初期顧客である。
・世界の誰も解決してくれない課題を抱えた顧客だけは、そのアイデアを素晴らしいと評価してくれる。
・上司も、会社も、同僚も、チームメンパーも、もしかしたら新事業リーダー自身でさえ、半信半疑でしっくりこないそのアイデアの価値を、顧客だけは「画期的で価値がある」と評価してくれる。

【経営陣は、事業アイデアを評価しないでほしい】
・画期的なアイデアは幻想に過ぎず、説明も評価もできないものであるにも関わらず、未だに根強く存在するのが「立ち上がっていない事業アイデアを良し悪しを、経営陣が評価してしまう」という問題。絶対やめてほしい。
・立ち上がっていない新事業の価値を、適切に評価できる唯一の存在は、顧客である。顧客ではない経営陣には、評価できなくて当然なので、評価できるフリをして、それらしい質問をして、「評価したつもりになる」のをやめてほしい。
・別の観点では、「顧客のところに300回行く」中で、アイディアは顧客との対話を通じて見る影もなく形を変えていくものである。だから、最初のアイデアを評価をしても、そもそも意味がない。
・最初段階の新規事業プランで評価すべきは、アイデアではなく「人と領域の相性」である。

【決裁権限を降ろしてほしい】
・経営陣にとっていつもの「社内会議」を新規事業開発プロセスに持ち込むことは、「本質的でない非常に大きな負荷」を、現場に押し付けることになる。
・新規事業開発における決裁権限を、できる限り、経営会議からその下に降ろしてほしい。事業化判断や追加投資決裁といった大きな意思決定にまつわることだけでなく、事業化判断後も絶え間無く訪れる予算執行・契約締結・採用や評価・広報や会計ルール策定など、事業を立ち上げて運営するために必要なあらゆる事柄に関する権限。
・決裁権限を降ろすポイントは、個人決裁権限として降ろすということ。できる限り「新規事業担当役員」か「新規事業開発部長」の個人決裁権限として降ろすこと。
・決裁権限を降ろす単位とタイミングは、個々のプロジェクトに対してではなく、新規事業開発部全体に対する形が良い。

【新規事業に規模を問わないでほしい】
・巨大な事業を営む大企業にとって、新規事業とは、単体では小さくて当然の活動なのである。・例えば「日本で新規事業を最も成功させた企業たち」と言えるマザーズ上場企業群を見ると、「創業から上場までは12.3年」「上場直前期の売上46億円」「上場直前期の営業利益は3.3億円」。
・つまり、全く新しいビジネスをゼロから立ち上げ、10年強かかって、ようやく年間3億円ほどの営業利益。これが、日本で最も成功した新規事業の水準。

 

【イノベーションパス 要約】成果を出すイノベーションプロジェクトの進め方

イノベーション教育・研究を行う東京大学i.schoolによる、イノベーションイデア創出するプロジェクトの進め方を要約します。東大の先生らしく多くのセオリーが引用されています。 

「成果を出す」とありますが、同社では「アイデア創出を0→1と定義」している(実現して市場投入までは 1→10)そうで、i.school・i.labではアイデア創出までを支援しているそう。アイデア創出に特化した書籍内容であることは、留意して読み進めるべきでしょう。

 

https://cdnshop.nikkeibp.co.jp/0000/catalog/255450/255450_thumb_pc.jpg

 

■1イノベーションの新潮流

イノベーション創出には、目的意識を持った創造性と、多様な協調性が鍵になる。
・創造的な活動の際、どのような社会を作り出したいか、どういう動機で自分やチーム、会社は頑張ろうとするかという、創造的努力の向かう先(目的意識を持った創造性)を設定することは、とても大切。

イノベーションとは「新結合」であり、必ずしも「技術の発明」ではない。
・しかし、特に大手メーカーは、高度成長期からのものづくり分野の「技術革新」での成功体験を引きずり、人間中心アプローチを軽視しがち。

・デザインシンキングは、ざっくり言えば「技術から発想するのではなく、まずはフィールド観察に出かけて、ユーザーを観察しよう。ユーザーへの共感からアイデアを生み出そう」というもの。「ユーザーへの共感」という、シンプルながら強力なもの。
・技術中心、人間中心のどちらが優劣か、という議論ではなく、技術中心で考えてきた新製品・サービス創出の取り組みに対し、イノベーションの意味合いに立ち返り、人や社会の洞察にも注力する捉え方が必要になってきている。

・技術中心に対する、人間中心の方法論の特徴は、次の表の通り。

https://businessecosystem.unisys.co.jp/wp-content/uploads/2017/02/re-5-2.jpg

イノベーション創出プロセスでは、実際の製品開発より上流工程の「コンセプト」創出が必要。しかし日本メーカーの弱点は、新しい市場創出するような「コンセプト」に踏み出せないところ。
・今の日本の大手企業に求められるのは、新しいコンセプトの事業を世界へ提案すること。

 

■2イノベーションを起こす人材に育つ・育てる

イノベーションの道のりは、アイデア創出:0→1、実現して市場投入:1→10、市場投入から普及:10→100と定義しており、東大i.schoolの教育は、アイデア創出:0→1を対象にしている。
・東大i.schoolでは、人間中心イノベーションを重視し、理解フェーズではフィールド観察などを行い、人々の行動や価値観、社会変化などに対する洞察を、アイデア創出や実現に生かすアプローチをとっている。
イノベーション人材の持つ能力は「価値発見力」が高い。挑戦する力、観察する力、関連づける力、人と繋がる力、捨てる力、試す力、おかしいと思う力が、平均的なビジネスマンと比べて高い能力を持つ。

私見この方の組織では、アイデア創出:0→1と定義しているが、私の定義では、アイデア創出からローンチ・プロダクトが売れ始めるまでを0→1と定義している。
私の定義の0→1と、この方の組織でいう0→15くらいまでが、同じフェーズを意味していると思われる。

 

■3既存事業とはコンセプトの異なるアイデアを生み出すには

■4つのアイデア創出アプローチ

・アイデア創出アプローチは4つあり、技術起点、市場起点、社会起点、人間起点。それぞれ一長一短ある。

【技術起点】
こういう技術があるから、そこからアイデアを考えようというもの。大企業メーカーでよく見られる、研究開発の文脈に合わせる形の新事業開発。エンジニア主導で検討する場合、概ねこの思考パターンになる。
メリット:技術的な優位性を確保しやすい。また、当たるとでかい。
デメリット:社会潮流やユーザーニーズを軽視しがちで、失敗する場合が多い。

【市場起点】
この市場がホットだからそこで何か考えようというもの。その市場が熱いですね、何かアイデアないですか?という言葉がお決まりパターン。戦略コンサルの得意方法で、経営企画系が主導する新事業開発の場合、概ねこの思考パターンになる。
メリット:事業性の見極めを早期に行う点は優れている。
デメリット:議論が抽象的すぎる場合が多く、いつまで経っても具体的な事業案にならない。
特徴:経営層には受ける。経営層が気にする規模感や市場トレンド中心の議論なので。(ただし、何も具体的なアイデアにつながらない)

【社会起点】
社会トレンドや社会課題にまず注目する思考パターン。これまでは行政やNPOの人の思考パターンだったが、最近ではグローバル企業の次期経営層が好む思考パターンでもある。
メリット:共感や市場性は早期に確認できる。
デメリット:その課題が複雑で解決しづらいから、社会課題として認知されているわけで、そうそう具体的なアイデアが出せない。

【人間起点】
ユーザーインタビューなどから、これまでの見方と異なる洞察を得て、アイデア創出につなげようとする思考パターン。ユーザーの潜在ニーズ発見を目的とすることが多い。デザインコンサル会社が得意とする方法。
メリット:最初からユーザー起点で考えるため、ユーザーにとって魅力的なアイデアが出るのが優れた点。
デメリット:ユーザー視点のため、特定企業でそのプロダクトを実現する必然性がない場合も多い。ユーザー調査から洞察を得る場合、デザインや使い勝手が良い既存プロダクトの改善アイデアになりがちで、既存と異なる潜在的な機会領域の中での新事業を見いだすのは不得意。

■アイデア創出する範囲の枠組み

・製品やサービスのアイデアは、目的と手段の関係性として存在する。
・例えば「目的:洋服の汚れを落とす」に対して、「手段:水と洗剤で洗い落とす」を取り、具体的な「製品アイデア:洗濯機」。仮に「手段:空気で洗い落とす」にすると「製品:空気オゾンで洗浄するエアウォッシャー」となる。
・アイデアに新しさを求めると、目的と手段のいずれか、もしくは両方が新しい必要がある。アイデア創出は、この「目的」と「手段」の情報を収集・分析・ぶつけあうことで、新しい結合「アイデア」を生み出す枠組み。

私見イデア創出は「目的」「手段」のいずれかが新しい必要があるという主張は、私とは考え方が異なる。「顧客・顧客の課題」が新しい必要がある。未解決な課題、捉えようとする範囲を変化・拡張する、など。

・アイデア創出する「機会領域」を設けるのは実務上有効である。アイデア創出時、いきなり具体的な事業アイデアを考えるより、「この辺り」と思考の方向性を指し示す「機会領域」を設定すると良い。
・「機会領域」を設定するメリットは複数あり、まずプロジェクトメンバーの意識の方向性、アイデア創出の方向性や範囲が揃いやすくなる。
・「機会領域」は、最終的な事業アイデアと異なり、論理的な事実の積み上げ・分析的な思考でも説明が可能。そこまで経営陣に説明して、機会領域を理解・共感しておいてもらうことを1つの中間ゴールに設定すると、その後も進みやすい。

■よく知られるアイデア創出方法論

1人間起点:エクストリームインタビュー
2未来起点:シナリオプランニング 、未来洞察、社会シフト
3市場起点:ブルーオーシャン、ブレイクザバイアス
4技術起点:先端技術の新たな価値を探索するテクノロジーシフト

私見未来起点の考え方は、私は反対派。未来を予見できる情報は人口動態だけ、とはよく知られるところ。また、専門家ほど未来予測を大きく外すのが、過去の実例(例:1980年代に、2000年のアメリカ携帯電話需要を90万台と予測したマッキンゼー。実際には、2000年の携帯契約件数は1億強)。
未来予測系の情報は関連書籍を2〜3つ読めば十分。また経営陣や中期計画を取りまとめる経営企画部には、事業周辺環境の将来見通しに関する情報はあるもので、それに目を通せば十分。

 

■4アイデアを収束させ、品質を高めるには

イノベーション創出プロジェクトでは、機会領域の検討、アイデア創出、アイデア品質向上の際は、常に「発散」と「収束」を繰り返す。
・収束プロセスは、本質的にとても創造的で、アイデア品質や実現性を大きく飛躍させるプロセスでもあり、アイデア発散よりも収束プロセスの方が難易度が高い。

【アイデアを選抜する】
・まず客観的観点で絞り込み、その中から主観的観点で絞るのが一般的。
・定番となる客観的観点は、新規性、有効性、実現可能性、賛否両論ある議論の発生、強い価値感の内包など。
・忘れてはならないのは、真に客観的な評価はあり得ないと理解しておくこと。評価の観点は客観的に設定されても、その観点での評価は極めて主観的にならざるを得ない。
・よくあるパターンは、プロジェクトメンバのお気に入りのアイデアが評価を得ず、無難だと思っていたアイデアが評価を得るケース。意思決定者の評価に依存する。
・主観的な観点は、メンバーの思い入れそのもの。

【アイデアを精錬する】
・最初のアイデアは、コンセプチュアルで具体的に欠けるものがほとんど。アイデアの具体性を高める作業を通じて、アイデア品質を高める。
・アイデアの早い段階で、プロトタイプにして形に見えるようにするのが良い。プロトタイプを、製品だけでなく、サービスやビジネスも拡張して利用する。

■プロトタイピングの4つの観点

・プロトタイピングは、ヒト(ユーザー像)、コト(利用シーン、体験)、モノ(製品・サービス内容)、ビジネス(モデル、関係や、規模感)の4つの観点。
・「ヒト」プロトタイプは、アーリーユーザー像、ユーザーの課題認識、アイデア利用でユーザーの感じる価値、ユーザーの行動や価値観の変化、を具体的に妄想する。
・「モノ」プロトタイプは、拘り出せばキリがない。ユーザーから手にとって目で見て解釈できる、実用最小限のプロトタイプに留めるべき。
・「コト」プロトタイプは、ユーザーがそのアイデアを、どのようなシーンで、どう利用し、どのような関係者で、その利用体験がどのような流れかを、可能な限り具体的に書き出す。

・プロトタイプができたら、想定アーリーユーザーにインタビューを行う。プロトタイプは、仮説アイデアという名の単なる妄想の塊。ユーザーから様々なフィードバックを得ることがインタビューの目的。
・インタビュー対象者は、プロジェクトメンバーが直接探すべき。調査会社などに丸投げすべきではない。

・「ビジネス」プロトタイプは、ビジネスモデルキャンパスは使い勝手が良い。
・ビジネスプロトタイプの検証は、社内の専門家やキーマンへのインタビューや相談となる。

■意思決定者への上申

・経営層は、本来は10年以上先を見据えた会社の持続的成長に責任を持つ立場だが、現実には、無意識のうちに既存事業や比較的短気に成果創出が見込めるプロジェクトを優先しがちになる。
・経営層にプレゼンする際は、事業の経済的規模感や見通しに関して「経営層が自分自身の肯定的な意思決定を後押しできる理屈を提示する」というやり方は、テクニック的に有効な場合がある。
・人は必ずしも合理的な理由の積み上げで意思決定するのではなく、意思決定後に、それをサポートする合理的な理由を探す場合も結構ある(つまり、自分の意思決定は正しいものだと、後から思い込みたい)。

・イノベーティブな新事業が、本質的に不確実なことは当然としても、それでも、経営上の意思決定の際には、定量的な議論は避けて通れない。
・期待市場規模と、期待売上は推計しておきたい。仮説の精度や数字は粗くなるが、精度よりも、「自分自身を納得させられる理屈を見つけてもらう」ことも意識したい。

 

■5イノベーションプロジェクトの設計

・i.labは、東大ischool教授によるコンサル会社。一般的な経営コンサル会社は、課題解決のプロジェクト設計とマネジメントをするが、i.labはアイデア創出も範囲とする。プロジェクトごとにプロセスを個別設計せず、アイデアを成果物として提案することを得意とする。
・i.labプロジェクトで多いのは、新市場・新カテゴリーを生み出すような新コンセプトを持つ製品・サービス・ビジネスのアイデア創出を狙うもの。

三菱重工グループでの事例

・「未来の都市生活において循環型で高効率のエネルギーライフを実現する製品やサービスを考え出す」ことを目標に、30代中盤社員がリーダーの、8ヶ月プロジェクト。
・生活者視点と、技術視点の評価を並行して行い、新事業アイデアを創出。

【課題の洗い出しと、機会領域の判断】
・生活者調査では、国内4カ所と海外3都市でフィールド調査し、生活者視点から未来の都市生活の課題を洗い出した。
・技術視点調査では、社内外の先端技術・製品を300品目ほど分析。プロジェクトで注目した技術テーマに関連する先端技術・製品を人間側から見た価値と、それを実現している機能・形状の概念に分解・分析した。
・技術や製品分析は、後続の創造作業に使えるよう、1つの技術・製品につき写真やシステム図・キーワードからなるカードとして整理を実施。その思考作業を通じて、技術や製品の本質的価値が頭の中に体系的に整理された状態で、後続フェーズのアイデア創出に臨むことができた。
・人間側、技術側から調査するプロセスを通じて、最も有望な機会領域は「未来の新興国都市部の急速な人口過密化に伴う種々の課題」と判断した。

【ビジネスアイデア創出】
・生活者視点と技術視点の調査と分析を行い、具体的な未来の都市生活像と活用可能な技術の掛け合わせで事業アイデアを発想した。
・起業の成功率「千三つ」にちなみ、1000個アイデアを考え出せば3つは成功するはずだと考え、1040個のの事業アイデアを創出し、40人の社内部門のレビューを経て、先に設定した機会領域「未来の新興国都市部の急速な人口過密化に伴う種々の課題」は、「成長および縮退する都市における小規模分散型のフレキシブルなインフラ」という表現に、発展的に精錬された。
・日本の地方都市のような所には「縮められるインフラみたいなものがあると便利」となった。逆にジャカルタなど人口急増地域は「増えたら増えただけ増設できるインフラ」が良いとなり、より具体的に考えてみることになった。

【ビジネスモデル構築】
・絞り込まれた事業アイデアの中の1つは、都市部における数千人規模以上のビル・宅地を対象にした、民間事業会社による未来型上下水道インフラ。
・アイデア作り込みの最終局面でも、そのアイデアによって人々の考え方や行動をどのように変え、社会にどのようなポジティブな変化が起こるのか、その変化を実現する具体的製品やビジネスの仕組み、事業戦略が何かを複合的に考えて洗練させていく。
・事業アイデア2つに対して、国内で20件の特許出願を行い、15件の権利化が確定している。
・プロジェクトはメンバーは延べ32人、レビューは40人に実施し、多くの社員が関わった。社内広報活動を積極的に行った。プロジェクト規模感を小さくするとスピード感は出るが、組織としてのモメンタムはいつまでたっても大きくならないため。

 

 

■6イノベーションプロジェクトで成果を出すために

■必要な権限とリソースを、事業責任者に十分与えるべき

経産省による大手企業向けの新事業調査(2012年)によると、「新事業創造の推進体制」は、「社長直轄で推進:20.6%」、「経営層の責任下で推進:54.5%」、「事業部長クラスの責任下で推進:13.9%」とのこと。
・新事業創出の取り組みに対し、トップマネジメントである社長がコミットしている割合が少なすぎ。わずか2割の企業のみ。
・新事業創出を任せた人材に与える権限は、「社長に提案できる:78.5%」、「プロジェクトや業務への担当者の配置・割当をする権限:50%未満」「社外の協力者と協働する権限:50%未満」。わかりやすく解釈すれば、社長としては「とりあえずアイデアは持ってきていいよ」ということかと。

【著者はこのように解釈する】
・ほぼ全ての社長は「イノベーションが大事」と発信するものの、ほとんどの社長は自分ではコミットせずに他の経営層に任せている。
・他経営層は社長にアイデアを持っていく「権限」が与えられるも、プロジェクト実施に必要となる充分な権限が与えられているわけではない。
・他経営層は責任はあるが権限がないので、同様に部下に「イノベーションは大事。いいアイデアが出たら持ってきて」というメッセージを発するか、自分の権限の範勝で少しだけ着手してみる。
・結果として、「アイデアを提案できる権限」だけが連鎖し、現場社員から「いいアイデア」が上がってくるのを待ち続け、組織としての新事業創出の仕組みはいつまでたってもできない。

→ 経営トップの責任下で新事業創出に取り組むか、他の経営層に任せるならば、アイデアを提案する権限だけではなく、プロジェクト立上げや人材配置、社外協力者と共同するための権限とリソースを配分すべき。

■新事業創出のための組織・ルール・体制・プロセス

・既存企業と新規事業開発のマネジメントは根本的に異なっており、別組織を作ってでも、別にマネジメントする方が良い。

・ただし組織が別なだけではダメで、よくある失敗は、新事業開発組織を新設して優秀な社員を集めたものの、何をすれば良いか分からず、立ち往生してしまう。
・組織だけ先にできて、配属された人が充分モチベーションが見出されてない状況では、あまり良い結果を期待できない。社長もしくは経営層がリソースとともにコミットする形で、まずはプロジェクト型の取り組みを立ち上げると良い。
・そのプロジェクト実績と経験を基にして、徐々に組織体制を構築するアプローチが適当ではないか。初めは、モチベーションやマインドが適切水準にある人材が、まずは既存業務の兼務として集まり、組織的モメンタムが生まれた結果として、正式部署として本格スタートを切るのも遅くはないだろう。

私見プロジェクト的な兼務で集まって始める形は、私は異論あり。このような取り組みは、楽しいだろうが、いつまで経っても成果(新事業の立上げ)は生まれない。
どの企業にもイノベーター人材(新規事業に適した志向性で、かつ何かしら挑戦を起こしている人)は 100人中2人ほどいる。その2%の人材を、できれば2〜3人以上、新事業部門に異動させたい。加えて、イノベーター候補人材(新規事業の資質はあるが、未経験者)は 社内の5〜7%くらいを占めるので、その人たちを新事業部門に異動させたい。
逆に言えば、新事業に向かない90%以上の人を、誤って新規事業部門に異動させると、本人とチームのモチベーションを下げてしまい、失敗のリスク要因となる。
参考:成熟企業内で、新規事業に向く人の見分け方・選び方

 

【イノベーション5つの原則 要約】顧客が欲するものの生み出し方

世界最高峰の研究機関SRIが生み出した、イノベーションの実践理論を要約します。

原著の副題「The Five Disciplines for Creating What Customers Want」の通り、"顧客が欲するものの生み出し方" 5つの原則です。決して "技術革新" などではありません。

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(原著の出版は2006年であり、事例にはインターネットやモバイルなど、21世紀に起こっていることがほとんどありません。時代背景が少なくとも15年以上異なることを考慮して、読み解く必要があります。)

 

■はじめに

イノベーションを生み出す5つの原則。
①顧客と市場にとって重要なニーズに取り組む
②有用なッールを活用し、顧客価値を迅速に生み出す
イノベーションを率いる「チャンピオン」となって、価値創出プロセスを推進する
④多様な分野の専門家を集めた混成チームによって、天才に負けない集合知を実現する
⑤チームの方向性を定め、価値の高いイノベーションを体系的に生み出す

 

■何年にもわたる統合プロセスを駆動させる「ストーリー」
・統合プロセスを駆動するのは「ストーリー」。イノベーションのカギを握るのは多様性」ではない。その後にくる「統合」にこそ、イノベーション·マネジメントの本質がある。
・アイデア創出を受けて市場化し、市場で成果を出すまで何年もの時間をかけて、多くの有能な人材が助け合いながら働かなければならない。ランダムに生まれるアイデアを、市場での具体的な成果に向けて統合することこそ、イノベーションに突きつけられた課題である。

イノベーションの責任者は、客観的な物差しのない世界で、自分なりの基準で物事を判断するセンスが求められ、つまりは直感や好みに根ざすが、それだけでは人々は動かないし、プロセスを駆動できない。
・そこで不可欠になるのが、未来の顧客価値を想定した「ストーリー」。責任者は、アイデアが様々な活動と組み合わさり、それがどのように消費者に受け入れられ、世の中を変えるに至るのかというストーリーを構想する。このストーリーが、イノベーションに関わる全ての人々の共有される事によって、統合のプロセスが動き出す。

 

イノベーションとはアイデアを顧客価値に変換すること。顧客に焦点を当てるべき
・何がイノベーションを成功に導くのか、多くの人が誤解をしている。イノペーションというのは「技術的に優れたガジェットの発明」などではない。「発明」だけでは不十分。「発明を世に出すこと」に成功して初めて、イノベーションは成立する。
・言い方を換えれば、イノベーションとは「アイデアを顧客価値に変換すること」であり、それが結果として、継続的な利益を企業にもたらすものである。
・「改善」「改良」レベルのイノベーションもあれば、物事を一気に様変わりさせてしまうようなイノベーションもある。いずれにせよ、「市場に新しい顧客価値をもたらすこと」こそが「イノベーション」である。

・新製品や新サービスの80-90%が1年ほどで失敗に至っている。これらの失敗の原因は、技術やリソースの問題ではない。失敗の主因は、顧客の欲しいものを提供できなかったから。企業が、顧客ニーズを把握できていなかったのだ。
・顧客に焦点を定めた上で、顧客価値を把握するための言語とツールを共有し、価値を生み出すための体系的なプロセスを確立した企業は、顧客価値の創出に成功し、大きな成果を出す。「イノベーション5つの原則」は、こうした望ましい状態をチームや企業で実現するための方法論。

 

イノベーションの本質を知る

イノベーションとは
イノベーションとは、新たな顧客価値を創り出し、市場に送り届けるプロセスである。
・何かを発明したとしても、顧客にとって新たな価値を創出し、実際の市場に導入しなければイノベーションとは言えない。
イノベーションが成功するには、新しい顧客価値の創出が実現可能であり、継続的に利益が計上できることが必要だ。画期的な新製品の考案者は大勢いる。だが、市場導入に成功した人は少ない。
・影響度の大小にかかわらず、イノベーションは常に、新たな顧客価値を生み出している。

■価値提案(NABC)の重要性
イノベーションの価値提案は、この4点を簡単な言葉で説明できる必要がある。
①市場のニーズは何か?(Need)
②そのニーズに応えるために、どうアプローチするか? (Approach)
③そのアプローチの費用対効果は? (Benefits per cost)
④その費用対効果は競合と比べてどうか? (Competiton)

イノベーション5つの原則
イノベーション創出の際、いつも通りは通用しない。顧客価値にフォーカスするとき、次のような重要な問いへの答えを見出す必要がある。
・顧客は誰か?
・顧客にどのような価値を提供できるか?
・迅速かつ効率的、体系的に新しい顧客価値を創り出すために、どういう方法をとるべきか?

この重要な問いへの具体的な考え方が、イノベーション5つの原則
①真の顧客ニーズ:自分がおもしろいと感じることだけでなく、顧客と市場にとって重要な ニーズに取り組む
②価値創出:価値創出のツールを活用して、顧客価値を迅速に生み出す
③チャンピオンになる:「イノベーションを率いるチャンピオン」になって、価値創出プロセスを推進する
イノベーションチームの構築:様々な分野の専門家を集めた混成チームにより、天才レベルの集合知を実現する
⑤組織の方向づけ: あなたのチームを組織全体の方向性に合致させ、価値の高いイノベーションを体系的に生み出す

成功するには、5つすべてを満たす必要があり、それぞれに相乗効果がある。つまり「成功=ニーズ × 価値創造 × チャンピオン × チーム × 組織化」となる。

 

イノベーションか、死か

イノベーションとは、新しいコンセプトが顧客価値と企業価値の双方を徐々に高め、新しい顧客価値(新製品・サービス)として市場に送り出すプロセス。市場投入に至るまでに必要なのが価値提案であり、次の基本的質問に答えることで明確になる。
①まだ満たされていない重要な顧客ニーズ、市場ニーズは何か ? 
②そのニーズに応えるためにどのようなアプローチをとるか?
③そのアプローチの費用対効果は?
④その費用対効果が競合より優位なのはなぜか?

・価値提案は「新しいコンセプト創出」から「新製品・サービスの市場投入」へと向かうあらゆる段階で役に立つ。それは新たな顧客価値の創出に向けた事業活動の核となる。
・「技術主導型」や「結果は後からついてくる」的アプローチは、単に新製品を開発するものであり、顧客ニーズに対する理解が欠如しているため、こうした手法がうまくいくことは滅多にない。
・素晴らしい技術的発明を数多く成し遂げたが、最終的に顧客ニーズを満たせなかった失敗事例は、顧客ニーズの軽視と非体系的なイノベーション創出手法が、失敗と企業の崩壊を招いた。

■新製品・新サービスイノベーションの起こり方
・魅力的で新しい顧客価値を体系的に創出する方法は、"市場・顧客ニーズ”と"新しいアイデア"の源に相互作用を起こすこと。
・常に市場と接して "満たされていない重要な顧客ニーズ・市場ニーズ" を把握し、その市場環境・競争環境への理解を深めることが必要で、同時に新技術や新ビジネスの "新しいアイデアの源" にも継続的に接して、何が可能かを見極め、新しいイノベーションのコンセプトを開発するのだ。
・新しい顧客価値は、種々様々な方法から誕生する。たとえば、革新的な技術やスマートな製品デザインが、新製品やサービスの元になることもある。だが、イノベーションの多くは、新しいビジネスモデルから生まれている。

■指数関数的な進化を生み出す、4つの必要条件
・指数関数的な進化を生み出すために、次の4点が大切となる。
1重要度の高い顧客ニーズ・市場ニーズに取り組む。
2新しいアイデアを多数収集し、段階ごとに最大限の改良を施す。
3責任者「チャンピョン」とチームによる循環的な増殖プロセス。
4予算や人員など適切なリソースを調達して、プロセスを推進する。

 

■原則1:真の顧客ニーズ

■おもしろさとニーズ
・「イノベーション五つの原則」の1つ目「自分がおもしろいと感じることだけでなく、顧客と市場にとって重要な ニーズ」に取り組む。
・市場で長く利益を生み出し続けられるようなイノベ ーションにつなげるためには、重要度の高い顧客ニーズと市場ニーズに焦点をあてることが不可欠。

・未解決の課題は巻にあふれている。その中で、満たされていない顧客と市場のニーズを適切なタイミングで選び出すことが、全ての起点となる。
・その上で、そのコンセプトが実現可能か、必要インフラは整備されているか、必要なリソースが確保できるか、が問われる。

■重要度の高いニーズに取り組む
・新しい市場機会を開拓する際に留意すべき重要性は、顧客と市場のニーズに照準を合わせることの他に、あと2つ基準がある。市場の進化に飲み込まれないものであること、実現可能であることだ。
イノベーションは、製品やサービスの他に、インフラや必要な技術、リソースが揃って初めて可能になる。いつの時代でも、チャンスやアイデアはあっても実現しなかったアイデアは数多く存在する。

・重要プロジェクトの選別は、次の3点を考慮する。
①そのプロジェクトは、顧客に明らかな価値をもたらすものか?
②そのプロジェクトは、自社の目標と合致しているか?
③本気でそのプロジェクトに取り組みたいと思っているか?
・プロジェクトや発明に本気で取り組むつもりがなければ、イノベーションは生み出せない。天才的ひらめきを得ることは簡単だ。むしろ何年も全力で取り組み、イノベーションを実現させることのほうが格段に難しい。

■顧客価値を決めるのは「あなた」ではなく「顧客」である
・顧客価値を考えるとき、胸に刻むべき教訓は、価値を決めるのは「あなた」ではなく「顧客」だということ。
・顧客があなたの製品やサービスにお金を払うかどうかで、あなたの成功が決まる。顧客の行動によって、あなたが価値を創出しているかどうかわかる。

・顧客に、ニーズが満たされているかどうかを聞きもせず、顧客のニーズを誤解している人は多い。
・顧客を特定し、顧客のニーズを捉えることが、顧客価値創出の第一歩であり、最も重要なステップである。

■あなたの唯一の仕事は、顧客価値の創出
・企業は様々な価値を提供しようとするが、まず顧客価値が最重要。顧客ニーズを理解し、顧客にとって魅力的なプロダクトを開発しない限り、他の価値(企業価値、株主価値、従業員価値、社会価値)は生み出しようがない。
・CEOが株主価値を高めることばかり話しても、どうすれば良いかを社員に伝えたことにならない。CEOはじめ従業員全員が、顧客に、そして顧客ニーズに注力すべき。
・ただし、顧客価値の高いプロダクトを作っても、そのプロダクトが損失を出し続けては成り立たない。新製品発売時は、顧客にとっての価値と、自社にとっての価値が、少なくともなければならない。

 

■原則2:価値創出

■価値提案の「NABC」
イノベーションの目指すところは、競合や既存手段より明らかに優れた顧客価値を創り出し、市場に届けることにある。
・新たな顧客価値を構築するには、次の4つの基本的ポイントに答える価値提案からスタートする必要がある。
 ーN:重要な顧客と市場のニーズ(Needs)や課題はどんなものか?
 ーA:そのニーズに応えるための独自のアプローチ(Approach)は?
 ーB:そのアプローチの費用対効果(Benefits per costs)はどうなのか?
 ーC:費用対効果は、競合(Competition)や代替品と比べてどのくらい優れているか?

・大切なのは4つ全て網羅することであり、目指すべきは、競合や代替品より優れた顧客価値ー費用対効果ーを提供する独自アプローチをとること。
イノベーション検討の初めのうちは、4つのポイントのどれもよくわからず、4つは互いに作用し合っている。他の人の意見や顧客の声を得ながら何度も見直すという「反復サイクル」を繰り返して、説得力ある価値提案を完成させなければならない。

■担当者と経営陣の目線を揃える
・価値提案の構築が難しい理由の一つは、誰もが自分の「アプローチ」を話したがり、他の要素を置き去りにしてしまうこと。「アプローチ」ばかりで、「顧客とニーズ」「費用対効果」「競合や代替品」はほぼ検討されないのが、よくある失敗例。誰もが、常にアプローチで頭がいっぱいだ。
・そうではなく、価値提案の開発に着手する際、重視すべきは「顧客とニーズ」「競合や代替品」である。まず顧客と競合の状況、つまり市場のエコシステムに対する理解が最初にあるべき。その後に新しいアプローチ構築・練り直しによって、競合に対して優位な費用対効果がもたらされる。

イノベーションのことになると、担当者と上層部は、文字通り言葉が通じなくなる。
・スタッフは「アプローチ」で頭がいっぱいだ。ニーズや費用対効果、競合は眼中にない。
・しかし、上層部がまず関心を示すのは「顧客とニーズ」「競合」である。未開拓の顧客ニーズを満たし、競合に競り勝ちたいのだ。ニーズと競合さえ理解できれば、あとは担当者が、アプローチや費用対効果を何とかしてくれるものと考えている。
・これを解決するには、「顧客とニーズ」「競合」→「アプローチ「費用対効果」の顧客価値という統一言語を共有すること。

■価値提案は複数が必要とされる

・価値提案は2つ以上必要になる。 
・1つは将来の想定顧客に提示するもの、彼らにとって重要な尺度は費用対効果で、それが競合や代替品より凄く優れているか。2つめは投資決定者(経営陣や上級マネージャー)に提示するもの、この場合の成功尺度は、市場規模や利益、増収率や投資収益率など。
・多くの場合、3つ以上の価値提案が必要になり、ビジネスパートナーも関わってくる。彼らの顧客に対する費用対効果や、事業の市場規模や利益などが魅力的でない限り、彼らの関心を得られない。

・価値提案の例

イノベーションの価値提案NABC

■優れたNABC作成のために
・優れた価値提案は、具体的かつ明確で、数値化される方が良く、物語がある。
・顧客とニーズに関して、見込み顧客の話を聞こう。市場に対する理解を深めること。
・アプローチは、できれなプロトタイプを作り、少なくともイラストやモックアップは必須。
・そのプロトタイプを使用する見込み客を、よく観察する。
・見込み客と話すまでは、どんなディスカッションやアイデアも、机上の空論に過ぎない。
・競合は、競合状況を把握し、あらゆる代替品を把握する。将来を見据えた新たな競合も想定する。
・反復が必要。いち早く成功するには、なんども失敗を繰り返す。

・多くの場合、何をすべきか判断するには、短い価値提案で十分である。価値提案のNABCのプレゼンテーションは1分〜4分に限定する。
・ただし、新規事業など多くのリソースを投入する判断の場合は、最終的には価値提案はイノベーションプランのあらゆる要素を網羅する必要がある。

■アイデアを集めて、価値提案をブラッシュアップする
・NABCは、改良プロセスを進める間は、新しい考え方や変更に対してオープンであること。最初に考え出したアプローチを、完全に断念する可能性も排除しないことが大切。
・顧客の話を繰り返し聞き、競争状況について十分に理解し、独自アプローチを練り上げなければ、優れた価値提案は生まれない。
・アプローチを説明する際は、イラストや絵、趣味レーションやプロトタイプを用意すると良い。そうすれば価値提案を、相手に瞬時に把握してもらえる。

・価値提案を、同僚や友人に見せて、アイデアの追加や練り直しに協力してもらおう。興味を示すポイントは人によって異なり、多様な視点を得ることは意味がある。ほとんどの人は、喜んで知恵を出してくれる。(その際、くれぐれもアプローチばかり主張しないように注意されたい)
・自前主義はやめよう。素晴らしいアイデアは、自組織から生まれないことの方が多い。

■顧客を観察し、顧客に質問し、顧客に話を聞く
・オフィスを出なければならない。価値提案が正しい方向に向かっているか教えてくれるのは、見込み顧客やパートナーである。あなたの妄想ではない。
・顧客を観察しよう。言葉を鵜呑みにするより、実際に現場で観察することだ。買い物カートを作りたいなら、スーパーに行って買い物客の行動を観察する。医療処理方法の改良を目指すなら、病院に行って患者を自分の目で確かめる。顧客のあらゆる体験を、自分の目で実際に観察すること。

・顧客に会う目的は、あなたが知らないことを教えてもらうこと。質問し、真剣に聞いて、理解しようとしよう。
・顧客への接触は、早ければ早いほど良い。市場と顧客のニーズについて、重要な情報を提供してもらえるから。将来の顧客とパートナーを巻き込んで、一緒に繰り返し価値提案を練り直そう。

■初期の価値提案NABCは、大抵間違っていて間違いもある
・初期の価値提案は、不完全で間違いもあるもの。成功への道のりは、まっすぐである方が珍しい。
・早く成功したいなら、何度も間違いを繰り返す必要がある。成功するイノベーションに必要なのは探求の旅で、市場の声を深く聞いて、それに応えなければならない。
・初期の失敗は避けられず、避けれると期待してもいけない。
・価値提案の修正は、一度や二度の見直しではなく、何度も繰り返し改良を続けるべきもの。修正回数の不十分、不十分なスピード、顧客やパートナーの声の軽視によって、本格的に失敗して潰れてしまう。

■エレベーターピッチで経営者の注目を得る

・新規事業推進で成功するには、アイデアの明瞭さと価値の高さで抜きん出て、社内で注目を得るしかない。
・プロジェクトを完成に導くには、社長や役員に、優れたアイデアを持つことを納得してもらわなくてはならない。明瞭で簡潔なプレゼンテーションで一線を画す必要がある。

・エレベーター·ピッチとは、1〜2分で伝えることができる「価値提案の核心部分」のこと。見込み顧客やパートナー、経営陣や上司の興味をかき立て、聞いた人の印象に残り、もっと知りたいと思ってもらえれば大成功。
・メッセージはできる限り短くすべき。提案は簡潔なものにしよう。核心部分を探し出し、聞いている人が忘れられないポイントを見つけ出すことが大切である。
・説得力あるエレベーターピッチができるということは、市場で価値創造するために対処すべき課題を把握していることの証で、そのビジョンを経営陣や投資家だけでなく、顧客や社員にも説明できる証明でもある。

・ある使い捨て補聴器の会社の、見込み客に対するエレベーターピッチ。
「聞こえづらいのは、あなただけではありません。
何千万もの人が難聴に苦しみ、補聴器の値段の高さに疑問を持っています。
世界で初めて、使い捨ての補聴器ができました。
この使い捨て補聴器は、1日あたりのコストが1ドル。最高のデジタル音質を提供するだけでなく、使用開始から1カ月後には処分するので、柔らかい素材でできています。
装着も快適かつ安心で、外からは見えません。ドラッグストアでお求めになれます。
本格的な補聴器は数千ドルするうえ、医師に調整してもらう必要があります。高価なものであるだけに、素材は耐久性があって丈夫ですが、耳に違和感が残り、フィット感もありませんし、音質も損なわれます。
使い捨て補聴器をご覧になってはいかがでしょうか?」

■エレベーター·ピッチは「つかみ」「核心」「結び」の3パート
・「つかみ」で相手の注意をかき立て、「核心」で数値を交えながら価値提案(NABC)のストーリーを語り、「結び」で次のステップへのアクションを投げかける。
・経営陣や投資家は、長くて複雑な議論を覚えていられない。
・エレベーターピッチを聞いた後、彼らがプロジェクトを支援する理由を簡潔かつ明瞭に言えなければ、それは失敗を意味する。

・相手の重視することと、アイデアをつなぐ「つかみ」は重要。好奇心や関心を掻き立てるか否か、つかみが左右する。
「聞こえづらいのは、あなただけではありません」
「毎年、薬の深刻な副作用で10万人が亡くなっています」
「特許を取得したネズミ取りは2000件を超えますが、実際に利用されているのは2種類だけです」

■エレベーターピッチの先
・エレベーターピッチを終え、イノベーションプランを精織化するフェーズに移ると、新製品や新サービスの価値を感覚的に伝える必要がある。イラストやサンプルを使い、顧客に提示しよう。新製品イラストやサンプルを用意しないプレゼンなどあり得ない。
イノベーション·プランができ、資金を確保できても、製品やサービスを市場に導入するまでの道のりはまだ遠い。プロセスのいずれにおいても、価値提案が重要なツールであることに変わりはない。

 

■原則3:イノベーションをリードするチャンピョン

■まずはチャンピオンが必要
・価値創造NABCは、顧客の立場に立って先を見据え、イノベーションが直面する資金・社内政治・人材・技術などの課題に対応していく「チャンピオン」の存在が必要不可欠。
・どんなイノベーションプロジェクトにも、プロジェクトを成功に導くスキルと決意、強固な意志を持つチャンピョンが必要。ビジョンを掲げ、チームメンバーやパートナーを触発し、全責任を負ってやり遂げる。
・チャンピオンとチームは、重要な顧客ニーズを特定することから始まる価値創出のプロセスに従って、成功に至る。価値提案の改良を続け、想定外の問題にも対応し、継続的に見込み顧客に接触し、プロジェクトを通じて得られる新しい情報を、価値提案に盛り込む。チャンピォンには、目の前の問題に真正面から取り組むと同時に、長期的ビジョンをしっかり見据える二つの視点が必要。
・チャンピオンは、組織の責任を負う。彼らは、組織のミッションにも忠実で、自らのアイデアと勝ち得た信頼と熱意を伝染させる力によって、組織から責任や支援を引き出す人物。

■チャンピオンへのアドバイス
・耳を傾け、そして学ぶこと。
・いち早く成功するには、何度となく失敗すること。アイデアを早めに何度もテストしよう。
・リソースを求める前に、アイデアを募ること。コストは引き下げ、関心を引き上げよう。
・熱意ある有志を集めること。熱意と好奇心、価値観で人を選ぼう。
・ビジネスモデルと財務モデルを早期に作成しつつ、懐疑的でいること。数値化はまずは見当をつけるところから始めよう。
・考える人に感謝し、参加者を賞替賛すること。功績は共有し、人の貢献に感謝しよう。
・プロセスを信じること、何度もプランを練り直そう。

 

■原則4:イノベーションチームの構築

■コラボレーションを促進するイノベーションチーム

・指数関数的な進化は、次の4条件が必要。①重要度の高いニーズに対応すること、②新しいアイデアがあること、③積み重なるな価値創出プロセスがあること、④人材や資金など必要リソースが入手可能であること。
・新しい技術やプロジェクト、ビジネス開発に必要なのは、新しいビジョンとビジネスモデル、そして型にはまらない解決策である。

イノベーションを進めるのに、コラボレーションは欠かせない。その基本的要素は、戦略ビジョンの共有、スキルの相互補完、報酬の共有。この3つが全て揃って初めて、人は手を取って協力する。
・第一に、プロジェクトのビジーンやゴールや目的が理解され、賛同されるべき。
・第二に、自分の役割と貢献がプロジェクトの成功に必要不可欠だということが明らかでなければならない。
・第三に、チームのメンバーとして受けるべき報酬がはっきりしていることが必要。
・さらに、相手に対する敬意あるコミュニケーションを続けることで、コラボレーションが成り立つ。

【戦略ビジョンの共有】
・チャンピオンとしてチームを集め目標の達成に向かうには、メンバーを一体化する明快なビジョンが必要。志は、高く掲げよう。
・チームのビジョンは、全社的なミッションやビジョンと整合しなければ、革新的なプロジェクトを進められない。また明快で説得力あるものでなければならな い。
・お金は、ビジョンにならない。成功したイノベーターは、金銭についてほとんど口にしない。彼らは高い志を抱き、世の中に大きな影響を与えるイノベーションを実現したいと考えている。

【スキルの相互補完】
・ジム·コリンズはこう語る「優れた人材を集め、そぐわない人材は排除し、適材適所を確実に実現することだ」。
・独自スキルを持ち、それを互いに補い合いながらコラボレーションできる人だけが、チームに参加するべき。
・各メンバーに重要な役割を与え、安心してもらうこと。各メンバーの役割を暖味にしておくと、成功に必要なコミットメントやコラボレーションを妨げてしまう。
イノベーションチームの原動力はメンバーの集合知で、メンバーが価値創出する反復プロセスをチームとして実践すれば、個人の数十倍、数百倍の顧客価値を生み出すことができる。
イノベーション開発では、アイデアは多くの人から積極的に集めるべきだが、チームは最小限のサイズにとどめておくべき。チームのコミュニケーションコストを最小限に抑えること。

【報酬の共有】
イノベーションチームのメンバーは皆、自らの貢献が報われるものと期待している。
・報酬には様々な形態があるが、最大の報酬は素晴らしい同僚とともに素晴らしいプロジェクトに取り組むチャンスが与えられることだ。

イノベーションの壁を乗り越える
イノベーションチームが信頼を築くために必要不可欠な要素は、他者への敬意、誠実さ、寛容さといった姿勢や態度。こうした資質がなければ信頼関係は生まれない。

■変化に対する抵抗
・変化は抵抗を生む。人が新しいビジョンに向かおうとすると、お馴染みの習性:懐疑的な態度と恐れ・不安・疑い、そして誤解 が顔を出す。
・チャンピオンは、ある程度の懐疑論や反発があるものだと、予め覚悟しておかなければならない。
・懐疑的な態度を示す人は当然現れるし、そうした懐疑論は必要不可欠だ。そのおかげで対処すべき課題を特定できる。懸念材料に対する対処法のカギとなる。
・チャンピオンは、チームの憂慮する声を積極的に聞き、人間関係を管理し、各メンバーの貢献を明確にし、結果として得られる恩恵を明らかにしなければならない。

・大きな変化に直面すると、恐れ・不安・疑いがよぎる。恐れ・不安・疑いに襲われると、それに怯え、ネガティブな発言をするようになる。
・反発がくすぶるのは、成功に至るプロセスの自然な成り行きであり、成功へのヒントがもたらされるとチャンピョンは認識すべき。
・表面的な言葉の裏を見抜き、問題を解くカギに変えていくこと。恐れ・不安・疑いと向き合い、発想を転換するところから始め、本人と話し合おう。
・人の懸念に対応するときは、常に感覚を研ぎ澄まし、じっくり耳を傾け、その人の支えとなり、理解する気持ちを持つこと。チャンピョンは、感情の爆発、挑戦的な態度、消極的な抵抗に、常に敏感でいることが必要。そして敬意を込めて、率直に人と向き合うことこそ、成功に至る唯一の道だと肝に銘じよう。

■許されざる行為
イノベーションプランの遂行の際、容認できない行為が存在する。批判的態度、消極的抵抗、陰口、告げ口といったもの(懐疑的態度、恐れ・不安・疑い、誤解 とは別のもの)。
・「批判的な態度」に直面したら、原因を特定(批判をばらまく個人)し、公にし、正面から対処すること。皮肉たっぷりの批判は、新たな取り組みに水を差し、無視していると成長して革新的アイデアを例外なく潰してしまう。
・シニカルな批判の問題は、あたかもそれが正しいかのように見えてしまうこと。
・「批判的抵抗」「陰口」「告げ口」は、本人と話して対処する必要があるが、チームを潰したかったり、イノベーションチーム構築に取り組む気がないならば、立ち去ってもらうべきである。

イノベーションの動機は金ではない
・優れた社員は誰しも、仕事を通じて何らかの形で社会に貢献したいと考えている。
イノベーションは、根源的な欲求が動機として機能することにより生まれる。根源的欲求は達成・権限・関与の3つ。
・人は仕事にポジティブな貢献をして価値を生み、「有意義な目標を達成したい」と考えている。重要度の高い顧客・市場ニーズに焦点を当てることで、チームは貢献を果たす。
・人は仕事上の自由が必要で、社員が抱く最大の不満は「事細かに管理されている」こと。チャンピョンは、「何を」すべきか明確にしたら、あとはメンバーの裁量に任せ「どうするか」を考えさせると良い。メンバーに責任と権限を与え、サポートすること。
・人は、自分に影響を及ぼす意思決定に関わりたいという強い欲求を持つ。メンバーに関わる意思決定の場に、彼らを関与させないのは極めて危険な行為。メンバーを巻き込めば、そのようなリスク回避できるだけでなく、ほぼ確実に良い解決策が生まれる。

■チャンピョンが注意すべき、チームマネジメントのポイント
チャンピョンが犯してしまいがちな、組織運営失敗の法則。注意したい。
・誰にも相談せずに、壮大なビジョンを持ち込む。
・影響を受ける人に話をせずに、何を変革するのかをいきなり発表する。
・上役とばかり話をして、一般社員をないがしろにする。
・「変革」のメリットしか見ようとせず、デメリットには触れない。
・象徴的で大きな変更だけ行う。例: 人員整理、組織再編、企業ロゴの変更
・抵抗する社員を異端者と決めつけ、動機を疑う。
・プランの各要素について個々の社員と協議・修正・検討する機会を持とうとしない。
・「支持者」とだけ話をして、「敵対陣営」は避ける。
・抵抗が生じたら、ミーティングを開かなくなる。

チャンピオンとして成功するには、チームの全員を巻き込み、メンバーからアイデアを集め、彼らからサポートを得ること。イノベーションを推進する、これほど確実な原則はない。

 

■原則5:組織の方向づけ

イノベーションチームに導入·展開されるべき「五つの原則」
1重要な顧客ニーズと市場ニーズにフォーカスすること。 
 理解度を簡単にチェックする方法は、自分たちの顧客は誰で、顧客のニーズは何か、チームメンバーに書き出してもらう。次に、顧客にも同じことをやってもらう。両者の食い違いの大きさを見れば一目瞭然。
2価値創出ツールを使って顧客価値を創造すること。
3各イノベーションプロジェクトに、チームを動機づけ、前進させ続ける「チャンピオン」を確保すること。
チャンピオンはプロジェクト全体に責任を負うことが大切である。
4適切なメンバーを選び、全面的にプロジェクトに関与してもらい、噴出する懸念を解決し、前進させていくこと。意欲的で献身的なチームの存在が何より大切。
5成功に向けてチームを結束させること。
そして成果が出始めたら、顧客価値を中心に全ての業務が回るよう、その考え方をチームの外にも少しずつ広めること。

イノベーションプロジェクトを妨げる障壁
・様々な障壁が成功を妨げる。例えば、部署内の既存製品と競合する新規プロジェクトは頓挫しかねない。組織内の利害対立は、プロジェクトの足を引っ張り、プロジェクトをつぶしてしまうこともある。
・新規プロジェクトのために、別組織を作ることが成功につながることもある。新会社設立が最善な場合もある。当初は組織内で育成し、イノベーションプランが完成し、必要リソースを確保できた時点で新会社としてスピンアウトする場合もある。
・当然ながら、チームの方向づけを阻害する要因は無数にある。大事なのは、それらを速やかに見つけ、必要に応じて組織的に取り除くこと。
・チームや組織の足を引っ張る自己防衛的な「障壁」だと思い込んでいるものの大半は、誤解に基づくものだ。・オススメなのは、気がついた障壁を残らず書き出し、プロジェクトの一環として、関係者とのディスカッション時に提示すること。障壁が明らかになれば、ほとんどの関係者は、それを取り除くことに協力してくれる。
・何かを不可能だと、勝手に決めつけてはいけない。やるべきことをしてから、聞いてみることだ。

・多くの企業は、新しいアイデアを導入する際に、組織カルチャーを変えなければならないと話す。しかしカルチャーの変化は、新しいスキルを開発したり、成果を上げたときに生じる副産物であり、「イノベーション五つの原則」によって最初に目指すべき目標ではない。
・目指すべきは、目覚ましい成果を上げることである。

 

 

【ナイキ 厚底シューズ イノベーション】常識を覆すイノベーション創出秘話

ランニング・マラソン界を席巻する、ナイキの厚底シューズ「ズーム ヴェイパーフライ4%」。

「靴」というアナログ商品に、圧倒的なイノベーションをもたらしたナイキの厚底シューズ。
ナイキの厚底シューズ開発秘話は、大企業がイノベーション創出するために何が必要か、参考になるでしょう。

 

■世界記録・日本記録を連発するナイキの厚底シューズ

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「ナイキの厚底シューズを履いた選手が、物凄い記録を出している。あのシューズはなんなんだ?」

2017年・2018年にケニアの選手が世界最高記録を更新し、日本では2018年2月に設楽選手が、10月に大迫選手が日本記録を更新。
それらの選手が履いていたのが、ナイキの「ズーム ヴェイパーフライ4%」という、ランニングシューズの常識を覆す厚底シューズ。

ランニングシューズの過去の常識の延長線上では、絶対に生まれない厚底シューズ。日本トップ選手が、自らの走り方を変えるリスクを冒してまで選んだナイキのシューズ。

それまでの常識を覆す、破壊的イノベーションの「ズーム ヴェイパーフライ4%」は、いかにナイキで生まれたのでしょうか?

 

■ズーム ヴェイパーフライ4%の常識はずれの特徴

ナイキ 厚底シューズ イノベーション
・レース用シューズなのに、厚い部分は約4センチもある超厚底。クッション性が高く足への衝撃が少ない。
(従来は、1グラムでも軽くて薄いシューズが常識だった)

・厚いソールには航空宇宙産業の特殊樹脂素材(多孔質ソール)が使われ、中に大きなスプーン状のカーボンファイバー製プレートを挟み反発・推進力アップ。
(同社で過去に使用したことのない素材を使用)

・選手が履くズーム ヴェイパーフライ4%は、市販されているモデルと全く同じ。
(トップ選手は契約メーカーの別注モデルを履くことが多かった)

・耐用距離はたった160キロ。
(かつては耐用性のある安価なシューズが支持され、耐用距離500-600キロが一般的)

https://images.wsj.net/im-122188?width=1260&size=1.5

 従来のシューズは「クッション性があるか」「薄くて反発があるか」のトレードオフだった。
しかしズーム ヴェイパーフライ4%は、「クッション性がありつつも、反発力がある」という従来の常識を覆す性能を実現した。

普通に考えれば、厚底になれば重要が増す。その問題を克服したのが、厚底の中に挟み込まれたカーボンファイバープレートと航空宇宙産業の発泡体フォーム素材。軽さとクッション性の両立を実現させ、プレートがバネのように屈曲し、それが脚を前に押し進めるエネルギーを生み出す。

コロラド大学の調査によると、当時のナイキ最速シューズなどと比較して、ヴェイパーフライを履いた選手のランニングエコノミーは4%強ほど改善した。

 

■厚底シューズ 開発秘話

【顧客の課題とニーズから始める】
・ズーム ヴェイパーフライ4%の開発のきっかけは、アフリカトップ選手の言葉。クッショニングがしっかり装備されたシューズが欲しいと要望があった。
・アフリカ勢は未舗装の道でトレーニングを積んでおり、薄底シューズだと足へのダメージが大きく、路面の硬いロードを嫌う。そのためクッション性を持ちつつ推進力もある、既存の常識はずれの "新発想のシューズ" 開発が始まった

【無謀な目標設定】
・ナイキ研究所(スポーツリサーチラボ)の研究員は、当初ランニングエコノミーの3%改善という、無謀な目標を設定していた。
・研究を行う中で、既存の延長線上で改善するのではなく、限界を破る必要性に迫られた

【常識に立ち向かい、既存常識を捨てる】
・軽さを出すと、薄くなる。薄くなると、足へのダメージが大きくなる。でも軽いシューズで走りたい。そんな矛盾する要望を実現するために、既存の常識の真逆である、厚底シューズの発想が生まれた
・レース用シューズは1グラムでも軽く、が従来の常識だった。しかしズーム ヴェイパーフライ4%は全く逆のアプローチ。シューズは薄い方がいいとの概念を捨てた

長年の技術の蓄積と新技術の融合
・その発想を具現化するために、軽くて柔らかく、反発性の高い素材探しが始まった。素材探索の結果、これまで業界で使われたことのない、航空宇宙産業で使われる素材に行き着いた。
・ナイキは過去に、カーボンファイバーを使用したシューズを出したことがあるが、うまくいかなかった。(その時の挑戦と失敗から、可能性と超えるべき課題をある程度掴んでいた可能性がある)
・カーボンファイバープレートと航空宇宙産業の発泡体フォーム素材の研究を続ける中、とある日の研究データが4%改善を示しており、研究者は間違いだと疑った。そのくらい、研究者の常識を覆すものだった。

【顧客との共創】
・アフリカ選手以外のトップアスリートも、数年にわたり開発段階から関与。クッション性やフィット感なども"アスリートが試行錯誤を繰り返した”ようだ。
・2016年のリオ五輪本番で、ナイキ契約選手がズーム ヴェイパーフライ4%の"プロトタイプ"を使用。

・従来の延長線上にない新たな形にたどり着き、耐久性は犠牲になるが、アフリカ選手の要望に応えたものが完成した。

 

 

【大企業の新規事業】スタートアップの失敗理由から学ぶ、新規事業の成功率を上げる方法

新規事業はほとんど失敗し、新規事業の成功率は10%未満です。
新規事業立上げの試みは、10回中、少なくとも9回は失敗するのが普通です。

成功する新規事業は、その成功要因は様々です。
それに対して、失敗した新規事業は、失敗する理由は典型的なパターンがあります。大別すると「顧客・市場」に関する社外のもの、「組織・人・お金」に関する社内のもの。

成熟企業の新規事業の失敗事例は、あまり公開されませんが、
スタートアップの失敗事例は、共有・分析されるものも多く、特に米国では統計情報と共にまとめられています。

スタートアップの失敗理由から学ぶ、新規事業の成功率を上げる方法をまとめます。
(このブログエントリーは、前半は 米国cbinsightsの"The Top 20 Reasons Startups Fail"から、後者はスタートアップ支援の専門家 田所氏のインタビュー内容などをまとめます。田所氏は日米で起業や投資を経験した、スタートアップ支援のプロ。)

 

■スタートアップ(新規事業)が失敗する原因TOP5

米国cbinsightsの "The Top 20 Reasons Startups Fail"から、失敗理由トップ5を紹介します。
また、スタートアップ失敗理由の中で、成熟企業の新規事業と共通する点、違うだろう点も後述します。

新規事業 失敗理由トップ10

1市場ニーズがなかった
失敗理由ダントツ1位は「誰も買わないものを、作ってしまった」。
「顧客が実際に欲しがるものを作る」には、顧客と顧客の問題から始めるしかありません。「こんなものあったらいいよね」という、顧客不在のアイデアで、うまくいく確率は滅多にありません。

大企業の新規事業でも同じこと。顧客と顧客の課題にフォーカスせずして、新規事業がうまくいくはずがありません。「あったらいいよね」は、売れません。

2資金が切れた
スタートアップの失敗理由2位は、お金がなくなった。

大企業の新規事業は、幸いなことに、この理由で失敗することはありません。大企業では、新規事業の企画やプロトタイプ検証などの際も、会社から給料が支払われます。仮に事業立上げできずに失敗しても、毎月給料が支払われますので安心です。
(ちなみにスタートアップでは、立上げ時はCEOは給与ゼロから数万円のことも普通で、立上げ時は口座残高は減り続けます。社外への支払いが滞れば、自分で借金をして支払う必要があります。)

3チームが良くなかった
起業には3タイプの人間が必要と言われます。ハスラーハッカー、デザイナー。1タイプでも欠けると、難しい。
ハッカーは、テクノロジーに精通するプロダクト開発・技術者。
ハスラーは、ビジネス・顧客・市場を理解し、ビジョンを語り人間関係を作り、ビジョンとプロダクトを世界に売り込む人。
・デザイナーは、サービスの見た目や使いやすさ、顧客体験・満足度に心を注ぐ人。

大企業の新規事業では、この3タイプに加えて、社内政治家、オーガナイザーが必要と言われる。社内政治家は、社内の上層部や部署間調整をし、予算や人材リソースを確保し、大企業内で新規事業プロジェクトが支援されるよう振る舞う人。オーガナイザーは、現場レベルでプロジェクトへの支持を取り付け、事務管理面を引き受ける人。

大企業の新規事業の場合、上記の「スキルや経験」の観点と別に、不確実性に向く「素養・特性」を持つ人が取り組まないとうまくいきません。
参考:大企業の社内新規事業向いている人の見分け方・担当者の選び方

4競合に負けた
アメリカや中国はスタートアップ間の競争が激しく、競合に負けて失敗するケースもあります。

日本にて、大企業の新規事業の場合、スタートアップのパクリサービスを後発でやる場合は、注意が必要です。日本において、スタートアップと大企業の新規事業が競合すると、ほとんどの場合、大企業側が負けて事業撤退する結果になります。
パクリ新規事業をやる場合は、スタートアップが真似できない資金量・圧倒的な物量や人海戦術で、スタートアップを圧倒する必要があります(PayPay100億円キャンペーンが好例です)。

5価格設定の問題
過去にないプロダクト創出時、プライシングは極めて難しいポイントの1つです。

なお、既に競合プロダクトがある場合や、事業が成立しているビジネスを始める場合は、プライシング問題はありません。

https://www.cbinsights.com/research/startup-failure-reasons-top/

 

■スタートアップ・新規事業の失敗の90%を避ける方法

スタートアップ支援の専門家 田所氏のインタビュー内容などをまとめます。

・スタートアップが死ぬ理由は一つ、カスタマーが欲しがるものを作らないから。
・現金が尽きる前に、顧客が欲しがるプロダクトが提供できる状態(PMF:プロダクトマーケットフィット)に至れないと、会社が潰れる(スタートアップの93%は死ぬ)。

・失敗スタートアップは ①思い込みを信じて、②プロダクトを作り、ローンチ後に③見たいものを計測し、当然のように失敗する。
・「こういうプロダクトがあったらいいよね」という思い込みで、顧客が欲しがるかどうかを考えておらず、顧客にも会っていない。当然失敗する。

・スタートアップは「学習」にフォーカスする必要ある。
・やるべきは ①初期仮説構築し、②一次情報ヒアリングし、③仮説検証と修正。②と③を繰り返し、顧客の課題やペインポイントを捉える。
・これは、創業者メンバー全員でやるべきで、組織を分断してはならない。スケールする前は小さいチームが良い、学習が加速できるから。
・顧客の課題発見と検証を十分する前に、プロダクト開発に進んで失敗するケース多数。PMF前に、組織拡大して失敗するケース多数。

https://newspicks.com/news/3537922/body/

PMFは、顧客が欲しがる、マーケットにフィットするプロダクトを作ろうということ。
・ただ大企業は、人が欲しがるものではなく、会社が作れるものを作りがち(プロダクトカンパニーフィット)。その方が楽だし、社内コンセンサスも取りやすい。それで、誰も買わないものを作ってしまい、失敗する。

・顧客が欲しがるものを作るときに、加えて注意すべきは、立上げ時点のユーザーに最適化し過ぎてしまわないこと。それでは市場創造できない。未来がどんな世界かは断片的にしかわからないが、仮説によって紡ぎ、修正を繰り返しながら進むのが良い。

・大事なのは、自分たちの最初のターゲットとなるユーザーを明らかにすること。ユーザーはどういう不安や不満、不便の感情があるか。
・顧客が欲しがるものを作る必要があるが、ユーザーは潜在的ニーズを自分で顕在化して表現できない。顧客の声を聞くのはしんどいが、欲しいものがわかっていない顧客の声を聞くのは更にしんどい。それをやりきり、ユーザーインサイトを発見する必要がある。

・急成長型の新規事業を狙うなら、市場を創造する必要がある。
・市場を育てる観点ではなく、市場をクリエイトする観点。自分で市場を作り、事業が伸びつつ、市場全体が伸びるような状態が好ましい。

・新規事業の意思決定者が、起案者にPLを書かせようとするが、まだ存在しない市場を創造しようとする段階ではPLを書けない。
・ただ市場を俯瞰することはでき、大事なのは、まずどこを攻めるかというエントリー市場を選ぶこと。
・スタートアップの場合、小さな市場でいいので独占する。まだ存在しないけど、実はポテンシャルが高いのに誰にも気づかれていない市場を狙うと良い。そこで市場が創造できれば、大きく成長する見込みがある。

 

■スタートアップサイエンス 20ステップ

・成功するスタートアップを作るのはアートだが、失敗を避けるのはサイエンスである。失敗回避のための型がスタートアップサイエンス。この20ステップは万能ではなく、この20ステップは「守・破・離」でいう「守」の基本的な型。

・スタートアップサイエンス5つのステージ、20のステップ。
1Idea Verification:アイデアの創出と検証
2Customer Problem Fit:本当に問題が存在するのか?
3Product Solution Fit :問題に対してソリューションは適切か?
4Product Market Fit:ソリューション(プロダクト)に市場は存在するか?
5Transition to Scale:スケールするために

スタートアップの失敗を避ける方法

20steps https://www.unicornfarm.jp/startup-science

・5つのステージ毎に、チェックすべきこと。

失敗しないスタートアップ

5stages checkpoints https://www.unicornfarm.jp/startup-science

https://www.unicornfarm.jp/startup-science

 

 

デザイン思考 うまくいかない典型的な14の理由|新事業創出や新サービス開発で留意すべきこと

新商品・サービス企画や、顧客体験向上プロジェクトなどで、デザイン思考を取り入れる企業が増えています。
デザイン思考は、顧客の状況を観察して問題定義をし、顧客の問題を解決するクリエイティブなソリューション(商品やサービス開発・施策)を生み出すユーザー中心の問題解決手法。

モノ売りのプロダクトアウト発想でなく、顧客課題から考えるため、うまく行きやすいと期待されますが、どうもうまくいかないケースも多いようです。

デザイン思考がうまくいかない典型的なパターンや理由と、どう留意すれば良いか紹介します。

 

■デザイン思考の基本ダイアグラム

https://empathizeit.com/wp-content/uploads/2019/06/dschool_ProcessHexDiagram_Tool_Behaviors_final_2019.png

 観察/共感、問題定義、アイデア創出、プロトタイピング、検証

1. 観察&共感(Empathize)
ターゲット顧客を、観察を通じて理解します。常にユーザー視点を持つことが大切。

2. 課題定義(Define)
ユーザーが抱える課題やその背景や理由を明確にします。適切な質問と傾聴により、より深い、より本質的な問題を特定します。

3. アイデア創出(Ideate)
見出した課題を解消するためのアイデアを出します。思いつく限りのアイデア出します。 

4. プロトタイピング(Prototype)
イデアの検証のために、プロトタイプを作成します。アイデアが目に見える形になることで、より具体化でき、ニュアンスやイメージを共有しやすくなります。

5. 検証(Test)
プロトタイプを用いて、ターゲット顧客に向けて検証・改善を繰り返します。試行錯誤しながら、ユーザーの問題解決につながるアウトプットに近づけて行きます。

 

■デザイン思考がうまくいかない、典型的な14の理由 

デザイン思考がうまくいかない場合の、典型的な理由リストアップです。

【観察〜課題定義まで】

① 想定顧客を定義していない
② 課題の発見・定義が重要だと理解していない
③ ユーザー視点でなく、自社視点になっている
④ 思い込みで課題を妄想する/顧客の観察をしていない
⑤ 自分たちはなんでもわかっていると勘違いしている
⑥ 課題の発見・定義ができていない/浅い

 【アイデア創出〜検証まで】

⑦ 自社商品やサービスなど答えありき
⑧ プロトタイプが、完成系だと思い込んでしまう
⑨ 何のために何を検証すれば良いかわかっていない 

【全体的に】

⑩ 手戻りを許容しない/プロセスは進むものと思い込んでいる
⑪ デザイン思考を使いさえすれば、うまくいくと思っている。
⑫ 試行錯誤や失敗が許容される雰囲気がない。
⑬ 発散型の思考や自分の頭で発想するクセがない
⑭ 意思決定者やリーダーが、変革や新事業創出するつもりがない

過去に自分がやってしまった失敗だ!と身に覚えあるものも、あるかもしれません。
うまくいかない理由と、そうならないような対処・留意すべきことを説明します。 

 

■ 観察〜課題定義

日本人・日本企業の多くは、与えられた課題に対して、課題解決方法を考えたり、期限を守って実行するのは、非常に上手と言われます。

その一方で、何が課題であるか捉えたり、一見問題がないように見える中から新たに課題を見出すのは、不得意・不慣れな人が多い。

解決すべき「課題の定義」が上手くできなければ、デザイン思考でも他の考え方でも、当然上手くいきません。解決する対象がありませんもの。

 

① 想定顧客を定義していない

デザイン思考 上手くいかない 想定顧客を定義していない

新規事業に取り組む際、「誰が想定顧客層か」を最初に定義することが必須です。これをせずに、事業開発が上手くいくケースは稀です。

既存事業の場合、「誰が顧客か」気にする必要はありません。"既存" 事業ですから、想定顧客やユーザー層は既に決まっています。
しかし新規事業の場合、「誰が顧客か」を定めるところから始まります。「誰が顧客か」の定義なしに、課題の調査さえできません。

起業経験者や新規事業経験者は、「誰が想定顧客層か」を定義する重要性を経験を通じて理解しています。

ところが、新規事業に初めて取り組む人は、この点に気づかず、肌感覚で理解することが難しいようです。その結果、想定顧客定義の検討することなく、無自覚のうちになんとなく既存顧客の課題探しをしてしまい、デザイン思考を用いても上手く新事業を作ることができません。

 

② 課題の発見・定義が重要だと理解していない

課題解決するには、その課題を見出して課題を明確にしなければ、解決しようがありません。

日本は成熟社会で、物質的に十分豊かで、多くのことは既にある程度以上に解決されています。また日本人は環境適応力や忍耐力が高いため、不満があっても「そんなもんだ」と仕方ないものと受け入れる傾向にあります。

そのような中で、生活者やユーザーの不条理や不満、イライラや堪え難いストレスなどを課題として見出すのは、多くの人にとっては容易ではありません。
これまで認識されなかったことを解決すべき課題として見出し、解決できるプロダクトやソリューションを作り、市場や顧客に受け入れられれば、それはイノベーションと呼ばれるようになります。

デザイン思考は「問題解決の手法」と言われます。しかし、多くの人たちが見落としているのが、デザイン思考は問題解決よりも前からスタートする、ということ。いくら問題解決が上手でも、まず「何の問題を解決すべきか」を分かっていなければ始まりません。
身の回りの世界を観察し、問題を発見するセンサーを磨く。この意識こそデザイン思考に必要なもの。
「課題解決」の前に「課題発見」の手法:日経クロストレンド

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デザイン思考とは解決策を探すためだけのものではなく、解決策を探すのと同じレベルで、正しい「問い」を見つけることがデザイン思考の真骨頂。正しい「問い」を見つけること、それ自体ハイレベルなクリエイティビティを要するプロセスです。
IDEO ティム・ブラウンに問うデザイン思考|センタードット

多くの例を見てきて言えるのは、「問い」自体が革新的であるほど、答えも革新的になります。反対に、つまらない問いは、つまらない解決策しか生み出しません。
多くの企業は、つまらない、誰でも思いつくような問いしか思いつかないので、つまらないありきたりな解決策に落ち着いてしまう。
デザイン思考の重要な技術は、革新的な問いを思いつくことにあります。
IDEO ティム・ブラウンに問うデザイン思考|センタードット 

ソリューションやなくて、問題定義の方で差別化するねん。
ソリューションが画期的かどうかはユーザーにとって関係ない。なぜなら、画期的ソリューションであっても、自分の課題を解決しないプロダクトにユーザーはお金を払わないから。
新規事業にて、差別化すべき点は「その目の付け所、画期的やわ〜!」という問題定義の部分なのだ。
ここがちゃうねんデザイン思考

 

③ ユーザー視点でなく、自社視点になっている

デザイン思考 上手くいかない 自社視点になっている

課題の検討をするとき、「ユーザーの課題」ではなく、「自社や業界の課題」の検討をしてしまう人が多いです。それが無意識のクセとして、染み付いてしまっているのでしょう。
「ユーザー視点になる」「顧客視点で捉える」というのは、一見簡単なように見えて、極度に難しい行為です。なぜなら、自社視点が普通の状態になっており、そうなっていることに気づくことさえ難しいから。

ユーザー視点になる、とても簡単で効果的な方法は、ユーザーに10人以上会って、困っていることを伺い、日常の様子を観察することです。10人より30人、30人より100人の方が当然良いです。
困った様子や悩みを10人以上から伺えば、その状況に共感したり、どうにかできないものかと感じるものです。(サイコパスな方は除きます)

ビジネスパーソンの考え方は、利益や売上など自分たちのメリットにフォーカスして、事業モデルやサービスを構築(デザイン)します。
しかし、デザイナーの考え方は違います。ユーザーが価値を感じそうなことや、悩んでいることを主軸にしてデザインを考える。ユーザー視点でアイデアを出し、検証と改善を繰り返しながらクオリティーの高いものを生み出すのが「デザイン思考」。
なぜ日本企業では「デザイン思考」が浸透しない?|HIP

 

④ 思い込みで課題を妄想する/顧客の観察をしていない

デザイン思考というと、必ず、この様子の画像を目にします。ポストイットを使って、アイデア出し。

デザイン思考 上手くいかない ポストイット

もしも、課題定義の段階で、この画像のようにやってしまっていたら、上手くいくはずがありません。

おしゃれなオフィスでリラックスしながら、社員とコンサル会社のモデレーターとともに、思いつく限り、ユーザーの課題を洗い出す。
そこで洗い出された課題は、全て、勝手な思い込みの妄想課題です。

妄想課題でなく、実際の課題を見出す方法は、極めて単純明快。おしゃれなオフィスを離れて、ユーザーに10人以上会って、困っていることを伺い、日常の様子を観察すること。
自社の会議室でインタビューより、ユーザーの生活環境に赴き、その様子を観察する方が、はるかに有益な情報を得られます。

優れた問いを見つける方法は、顧客の視点に立つこと。部屋の中に閉じこもっているのではなく、外へ出て顧客となる人々に会い、何を欲しているのかを理解するべき。
IDEO ティム・ブラウンに問うデザイン思考|センタードット

オフィスの外に出て、ユーザーと時間を過ごし、馴染みのないことにも挑戦する。自分たちの課題の世界に主体的に没入し、直感的にユーザーの体験を理解し、共感することが目的だ。
人間中心の「デザインリサーチ」とは|Forbes JAPAN

 

⑤ 自分たちはなんでもわかっていると勘違いしている

特に大企業の人は、自社は何でもできる、自社は何でもわかっていると、誤って思い込んでいる方が少なくありません。
"今までと同じこと" をする場合は、確かに何でもわかっているのでしょう。

しかし、新商品・新プロダクト開発や新事業に取り組む際は、未知のことが多いです。「わかっていないことが沢山ある」という態度で臨まない限り、どれだけ顧客の様子を観察しても、まともな洞察は得られないででしょう。

歴史と実績を誇る大企業の場合、社内にほとんどの知見や情報があると信じ、まっさらな状態でインスピレーションを求めにいくことを、無駄だと感じてしまう人もいるようだ。だが、同じリサーチを過去に誰かがやっていたとしても、自分自身が主観を持って新たなインスピレーション探しを行う過程で得られる学びは計り知れない。
デザイン思考を プロセスより大事なこと|Forbes JAPAN

 

⑥ 課題の発見・定義ができていない/浅い

既述の①〜⑤の理由により、課題発見や定義ができない、ありきたりな課題で浅いままのことが多いそう。課題の定義がまともにできていない状態で、その課題を解決しようとするアイデア創出に進むと、その後の膨大な作業は、ほぼ無駄になる可能性が高い。解くべき課題が定まっていないのですから。

革新的なプロダクトを作ろうとするのでなく、「なんでその問題は、21世紀の今でも放置されたままになってるんだ!」と感じるような課題を見出したいところです。

デザイン思考を使うには、解決するべき問題やテーマの存在が不可欠であるにもかかわらず、往々にして解決するべき問題やテーマが見つからないということが起きる。
IDEO ティム・ブラウンに問うデザイン思考|センタードット 

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新しい物事を生み出そうとするとき、何が課題であるか見えていないことがほとんど。最初からアウトプットを出すことに意識を向けず、本当の意味で解決したいこと、提供したい価値を考えることで、正しいスタート地点に立つことができる。
デザイン思考を プロセスより大事なこと|Forbes JAPAN

日本企業は、課題さえはっきりすればそれを解くことは非常にたけています。ところが今、IDEOへくる企業の話を聞いていると、そもそも「お題」が見えていない。例えば「モビリティで何かをしたい」といった抽象的なレベルで、まだ「お題」になっていません。 
日本には「変化のためのデザイン」が必要:日経クロストレンド

新規事業やイノベーションとなると、今までにない新しいものを作らなければ、新しいアイデアを考えなければ、と思い込んでしまうかもしれません。

しかし実際にはそうではなく、今まで解決されていない問題を捉え、それを既存より素晴らしい方法で解決できるプロダクト創出を目指すべきです。
集中すべきは、今までにないアイデア・プロダクトではなく、今まで解決されていない問題です。

未解決課題を解決できるプロダクトは、これまでの延長線上にない、今までにないプロダクトに、自ずとならざるを得ません。
それが市場や顧客に受け入れられたならば、結果として人々からイノベーティブなプロダクトと呼ばれるものになります。

 

■アイデア創出〜検証まで

⑦ 自社商品やサービスなど答えありき

成熟企業には多くの自社商品やサービスがあり、顧客はそれを買うものだという認識を、無意識のうちに思っている方が多いです。そのため、アイデア創出までは自由にできた場合でも、その後に具現化する段階で、無意識に自社商品ありきになってしまうことが少なくないようです。
"アイデア創出〜プロトタイピング〜検証" は、アイデアを素早く形にし、ユーザーに見せて/体験させて、そのフィードバックを得て検証と改善を繰り返し、よりユーザー課題解消につながるもの・クオリティーの高いものを生み出す狙いです。

デザイン思考を10年前から取り入れてきたのに、実業では直接目に見える成果が出ていない。
日本のメーカーは課題設定をした後、ある程度の答えを先に決め、一生懸命その答えに向かってアプローチしがちです。デザイン思考をやったつもりでも、実は表面的な問題解決にとどまってしまう。
話せば生まれるコラボ 富士フイルム流のデザイン思考|NIKKEI STYLE

新しいものを生み出そうとする取り組みは、事前に答えは分かりません。しかし日本企業では往々にして、先に「落としどころ」を求められます(落とし所があるものだと思い込んでいる)。落としどころが見えていたら、そもそもプロジェクトをやる必要がありません。
デザイン思考の実践へ、6つの壁を乗り越えろ:日経クロストレンド

デザイン思考 うまくいかない理由

 

⑧ プロトタイプが、完成系だと思い込んでしまう

課題解決のアイデアと、それをある程度の具体的な形にするプロトタイプは、「こういうサービス・製品だったら、ユーザーの課題解決できるのでは」という仮説、正確に言えば、妄想や思い込みを目に見える形にしたものに過ぎません。

人間は、目に見えないものにはコメントできませんが、プロトタイプにして目に見えさえすれば、様々な感想や意見、文句や感情表現をしてくれます。
ユーザーの感想や意見、文句や感情表現を引き出すために、目に見えるプロトタイプが必要です。上記の目的を達成できる最低限のレベルを、最小のコストと時間で作るのがプロトタイプ制作です。

日本人は完璧主義になりがち。日本の物作りの巧妙さや美しさは素晴らしいことだが、反面、て新しいことをやろうとする際には、足枷となる。
プロトタイプを展示会に出展しようとすると、日本人は不安な反応を示す。実験の意図はユーザーからフィードバックを受けること。本格的に製品化して市場に出す前に、改善すべき点を知れることは素晴らしい。
デザイン思考を プロセスより大事なこと|Forbes JAPAN

イデアを試すとき、プロトタイプに完璧を求めてしまう。「完璧なプロトタイプ」はそもそも矛盾しているんですけどね。原因の1つはプロトタイプにお金をかけすぎること。プロトタイプ製作に2000万円もかけてしまっては、もはや否定するわけにはいきません。
デザイン思考の実践へ、6つの壁を乗り越えろ:日経クロストレンド

もっと実験上手にならなければいけない。コストかけずに小さい失敗をしやすくし、実験の数を増やすこと。コンセプトやアイデアを試すプロトタイプ段階では、段ボールのモックアップでも意図するところは検証できます。仕上げやリスクなど、後で考えればよいことを早くから心配し過ぎ。
デザイン思考の実践へ、6つの壁を乗り越えろ:日経クロストレンド

 

⑨ 何のために何を検証すれば良いかわかっていない 

"検証"や"評価は"、その作業自体が目的ではなく、ユーザーの様々な感想や意見、文句や感情表現から情報を収集し、プロトタイプに修正を加え、それを繰り返すことで、販売できるレベルまでプロダクトをブラッシュアップします。

場合によっては、修正では済まず、アイデア創出フェーズまで戻る必要があるかもしれません。この段階まで来てから、そもそもそのユーザーにそんな課題はなかった、となってしまうのは、できれば避けたいもので、そのためには、最初のユーザー観察と共感・課題定義が極めて重要になります。

 

■全体的に

⑩ 手戻りを許容しない/プロセスを進むものと思い込んでいる

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デザイン思考の説明図がいつもこの六角形だからか、プロセスだと思い込む人が多く、プロセスが直線的に進むものだと勝手に思い込む人が多いそう。

既存事業では、何をやれば良いか決まっており、物事はプロセスに沿って、期限を守って進められます。
しかし、新しい取り組みは、新規事業のようなゼロイチはもちろん、あやふやな状況から始まり、時間通りプロセスに沿って物事が進む、いうことは現実にはありません。(時間厳守に進めることを目的・最重要とすれば、もちろん進みますが、その結果は推して知るべし。)

問いの定義づけをし、外へ出て顧客を観察したり、時にはリサーチします。こういう作業を繰り返すと、当初とは異なる問いが生まれることも。問いを進化させていくうちに、解決策にたどり着くこともありますし、更に新しい問いを発見することも。このように、解決策と問いの間を行き来するのが、イノベーションのプロセスには重要なのです。
IDEO ティム・ブラウンに問うデザイン思考|センタードット

プロセス重視はプロセス厳守とはちゃうねん。
プロセス定義されていると、プロセスをフォローすることに気持ちが行ってしまうが、プロセスをこの順番通りに行えという訳では無い。実際は、このプロセスを行き来することもあれば、全く違うプロセスに飛ぶことだってある。デザイン思考の原則を重視して取組でいるのであれば、何も問題はない。
ここがちゃうねんデザイン思考

プロジェクト体制が「リレー式の役割分担」になってしまう問題があす。仕事の結果だけを次プロセスに渡し、最初に関わった人は「手離れ」する。しかし新しいものを生み出すには、異なる立場の関係者を、初めから終わりまで巻き込む方がうまくいきます。視野を広げる上でも効果的だし、後工程の関係者とプロセス共有することで意識を共有でき、共感による大きな波及効果を望めます。 
デザイン思考の実践へ、6つの壁を乗り越えろ:日経クロストレンド

 

⑪ デザイン思考を使いさえすれば、うまくいくと思っている。

デザイン思考は簡単に身につき、簡単に使え、簡単に上手くいくと思い込んでいる人が多いそうです。

ものごとの考え方・取り組みの考え方ですから、ワークショップ参加や本を読むだけで、使いこなせるはずがありません。何度何度も実地で経験し、失敗を繰り返しながら、身につけていくものです。
ゴルフやテニスなどのスポーツも、楽器や絵画や書道も、テキストを読むだけで、体験スクールに参加するだけで、十分上手になりませんよね。デザイン思考もそれと同じです

デザイン思考 うまくいかない

書籍を読んで、ワークショップに1、2度参加して、次に自分でやったらうまくいかなかった──それで当たり前。
ワークショップがデザイン思考そのものだと思わないでほしい。ワークショップは、人工的なセッティングで、仮想テーマによる実験で、リハーサルです。肝心なのはそれを、自分の現業に生かしていくこと。
デザイン思考使いこなすのに時間がかかる:日経クロストレンド

理解することと実践することの間には、大きなギャップがあります。デザイン思考はあくまで道具。よい家を建てるためには、よい大工道具は大事ですが、それ以上に腕のよい職人、正しい道具の使い方、ハードワークが必要なのです。
何回か実践して、小さな成功体験を重ねていくことが大事です。
デザイン思考は使いこなすのに時間がかかる:日経クロストレンド 

デザインシンキングのワークショップが流行っており、「ブートキャンプ」と呼ばれる1〜2日間の催しに、企業は何百ドル、何千ドルも払って参加している。
こんな短期間に容易に学べるメソッドで、参加者は本当に問題を解決できるのでしょうか? 私にはまるで、トレーニングはしたくないけれど、オリンピック選手になりたいと言っているように聞こえます。
「デザインシンキングなんて糞食らえ」|AXIS

 

⑫ 試行錯誤や失敗が許容される雰囲気がない。

既存事業では、何をやれば良いか決まっており、失敗が許容される雰囲気ではないでしょう。当然です。効率的に進めて合理的に判断し、90-100%の成功率が求められて当然です。

一方で、新しい取り組みは、何が正しいかわかりません。例えば新規事業のようなゼロイチは、そもそも成功率は10%未満と言われます。

参考:新規事業の成功率は10%未満 ◉新規事業 成功確率を上げるため大切なこと

失敗が許容される雰囲気かというレベルの論点ではなく、そもそも90%は失敗。普通にやったら90%は失敗です。
10%未満の成功率を、何とかして高めようとする試みです。アイデアを素早く試して、アイデアの拡散と収束を繰り返して試行錯誤する以外に、選択肢がないという状況があります。

日本企業の多くが、初期段階で最も抵抗を感じやすいのが「不確実な状況」をよしとすること。デザイン思考において、様々なインスピレーションを得る過程で生まれる非連続の思考を大切にし、結論を急がない。
デザイン思考を プロセスより大事なこと|Forbes JAPAN

「デザイン思考」で大事なのは、「失敗する自由」「探検する自由」を与えること。新しい価値がどこにあるのかは、誰にもわからない。勇気を出して踏み込んでも、見つかる保証はありません。それでもチャレンジしなければ、新たな発見を見出すことはできないのです。失敗は新しい価値を生み出すプロセス。
だからこそ、日本の企業には、もっと失敗を許容する土壌が必要です。
なぜ日本企業では「デザイン思考」が浸透しない?|HIP

デザイン思考はメソッドちゃうねん、マインドセットやねん。
デザイン思考は、プロセスや「メソッド(やり方)」と捉える人も多いが、読んで字のごとく「思考」のこと。つまり「マインドセット(考え方)」のことを指している。
ここがちゃうねんデザイン思考

現在の組織の多くが、組織体制から評価方法、意思決定の手順まで、すべてロジカル思考、つまり「絞り込む」ための手法に合わせて出来上がっている。その環境の中で新しいアイデアを出しても適切に評価されず、つぶされてしまう。
日本には「変化のためのデザイン」が必要:日経クロストレンド

難しいのは中間層と、中間から少し上にいる人たち。今までずっと上から「本当にうまくいくのか?」「裏付けは?」「実例は?」と言われ続けてきたのに、急に「もっと実験せよ、失敗を積め」と言われても、動けませんよね。上からは「新しいことをしろ」、下からは「あなたのやり方は古い 」と言われて、今、最もつらい立場の人たち、かつ変わることを求められている人たちです。
デザイン思考の実践へ、6つの壁を乗り越えろ:日経クロストレンド

 

 発散型の思考や自分の頭で発想するクセがない

大企業に勤めると、"上司が答えを持っている"と思い込む、外注先企業に企画から丸投げするクセ、外注先から複数提案された中から"選べば良い"という思考回路になるのが、典型的だそうです。
また、成熟した事業では様々な業務内容やプロセスは、ほとんど20世紀のうちに整備済みで、その業務やプロセスがなぜそうなっているか考える必要がなく、既存ルールを遵守するよう指導教育されるそう。

どれだけ優秀な人であっても、そのような環境に数年いると、それが当たり前になります。むしろ環境順応性も高いから、優秀なのです。そのような中で "自由に発散して考えろ"、"自分の頭で考えろ"、といきなり言われても、何をどうすれば良いかわからないのは無理もありません。

デザイン思考(クリエイティビティに必要な発散型)を進める大きなネックになっているのが、これまで収束型の行動原理を身につけてきた人たちが、なかなかそれを変えられないこと。特に意思決定の仕方が問題です。
日本には「変化のためのデザイン」が必要:日経クロストレンド 

インプットを咀嚼してインサイトを導きアイデアにつなげる際には、抽象的なふわふわした思考が必要です。ところがそこで「これ本当に着地するの?」と不安になってしまう。あいまいさが苦手で、具体的な結果を急いでしまう。
 デザイン思考の実践へ、6つの壁を乗り越えろ:日経クロストレンド 

 

⑭ 意思決定者やリーダーが、変革や新事業創出するつもりがない

"デザイン思考 うまくいかない典型的" に限らず、手法や目的が何であれ、新しい取り組みがうまくいかない典型的な理由です。

ただ実際には、社長など経営トップが事業変革や新事業創出するつもりがないことは少なく、その下の執行役員・事業部長・部長クラスがそのつもりがないことが多いそう、失敗すると昇進に響くからです。

あなたの変革や新事業創出への熱意が本物ならば、直属の上司や意思決定者がやる気なくとも、変革や新事業創出のあなたの熱意は消えることはないでしょう。経営トップや変革に熱意ある別部門の役員・部長クラスと連携を図りたいですね。

参考:イノベーション創出に必須の 失敗・継続性・独創性・異端

組織のリーダーが強い信念を持つことです。リーダーが本心から変革が必要だと思っていなければ、実現することはできません。リーダーは、変革が必要だという信念を、はっきり表明する必要があります。
IDEO ティム・ブラウンに問うデザイン思考|センタードット

イノベーション創出プロジェクトには、うまくいくものも、途中で頓挫してしまうものもある。頓挫してしまうケースは、決定権者が不在の場合がほとんど。リーダー不在のイノベーションの実現はありえない。
IDEO ティム・ブラウンに問うデザイン思考|センタードット

新しいアイデアを生むのはそれほど難しいことではありません。一方で、それを実行に移すのは時間もリソースも必要ですし、リスクを伴った行為なので、多くの会社が躊躇してしまう。実行に移す勇気が必要です。
IDEO ティム・ブラウンに問うデザイン思考|センタードット

経営層の関わり方は、一番良いのはトップがプロジェクトの一員として参加する形。フルコースでの参加が難しくても、少なくとも「トップは最後に評価・判断を下すだけ」という形は崩していく必要がある。 
デザイン思考の実践へ、6つの壁を乗り越えろ:日経クロストレンド