出張レストランサービスのマイシェフ社長ブログ

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【新規事業の実践論 要約】新規事業の立上げ方

リクルート社にて新規事業立上げて子会社社長を務め、その後新規事業開発室長による、新規事業の実践論(新規事業立上げ手引書)の内容を要約します。

およそ5年強の間に、同社で1500件の新規事業支援、300社の起業家の卵の支援、独立後は大企業の25社500新事業の支援をした著者。
単純計算すると、1年間に450件ほど新規事業支援をしているとのことで、一つ一つ中身の深い支援やプロダクト販売開始前後の支援は非現実的と思われ、おそらく新規事業プランコンテストや企画支援の色が強めの内容だと想像します。

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■1章:日本人は「社内起業」が向いている

・日本の大企業311社の中で、その94.2%が中長期で取り組む重点テーマとして「新規事業」を掲げている。ただ、昨今の日本企業からイノベーションが生まれていないと言われて久しい。
・日本企業がイノベーションを生めなくなったのは、ここ20〜30年の話。1980年代までは、日本企業が世界で最もイノベーティブだった。
・ここ20〜30年、イノベーションが生めなくなった理由は、単に、新規事業をやらなくなった・新規事業に投資をしなくなったから。

・投資余力を持つ大企業がすべきことは、自らの社員への、社内プロジェクトへの新規事業投資である。
リクルート社は、1兆円を超える借金を返し終わった2000年代半ばから、膨大な金額が新規事業に投資され続けた。
リクルート社は新規事業が特別得意な会社だから、と言われるが、そうではなく、社内の新規事業に、大量の投資をし続けただけ。

・大企業で新規事業が生み出せるかどうかは、新規事業に取り組んでいるかどうか、新規事業に投資をし続けているかどうか、に尽きる。

私見著者は「全てのサラリーマンは、社内起業家として覚醒できる」と主張するが、私の見解は違う。
著者が接した人は、リクルート社で新規事業提案をするような人、起業家の卵、大企業の新規事業提案するような人。つまり、野心的な人を採用するので有名なリクルート社の中で新事業提案をするような人、自ら起業するような人、大企業で新規事業提案をするような人であり、その時点で普通のサラリーマンと随分違う。
一方、新規事業に適する志向性・素養を持つ人は、どの企業にも7〜9%くらい存在するらしい。私の考えは「サラリーマンの7〜9%くらいは、全て社内起業家として覚醒できる」というもの。その7〜9%は社内のエース級・優秀社員とは、やや異なる思考回路や物事の捉え方をする人が多い。
参考:成熟企業内で、新規事業に向く人の見分け方・選び方

 

■2章:社内起業家に覚醒するWILLの作り方

・普通のサラリーマンが社内起業家になるために、最初にやるべきはWILL(意志)の形成。
・WILLとは、①誰の、②どんな課題を、③なぜあなたが、解決するのか、について、あなたが力強い回答を持てる状態に至ること。
・①誰の、②どんな課題をは「取り組む領域の明確さ」であり、③なぜあなたがは「使命感や圧倒的当事者意識」である。

・WILLは後天的に形成することができる。「ゲンバ」と「ホンバ」に行くことで、それを私がなんとかしなければならない、という圧倒的当事者意識・内から湧き出るWILLが形成される。
・「ゲンバ」とは、課題の根深い現場のこと。「困っている人や現場を見てしまったら、放っておけない」という責任感を起点とするWILL形成方法。困っている現場は日本には溢れている。
・「やりたいことはどう見つけたらいいか」と言う人ほど、ゲンバに全く足を運んでいないことがほとんど。単に「見ていないから、知らない」ということ。
・「ホンバ」とは、新規事業開発の最前線のこと。ホンバの人や環境に触れ、刺激を受けることはWILL形成を大きく助けてくれる。

 

■3章:最初にして最大の課題「創業メンバーの選び方」

・新規事業リーダーの最初の課題が「創業メンバーを選ぶ」という意思決定。
・重要な観点は、人数と、役割の2つ。WILLが同じで、役割の異なる、少人数を選ぶのが王道。
・人数は3人までが良い。新事業開発では、メンバー間のコミュニケーションのスピードと濃度が極めて重要。事業立上げ時のコミュニケーションはリアルタイムが原則。メンバーの数が増えるほど、コミュニケーションのスピードと濃度を阻害する。
・新事業立上げは、チームとしての精神的回復力が求められる。失敗ばかりで、社内から否定に次ぐ否定があり、極めてストレスが大きいのが新事業開発。「絶対うまくいかない」と否定される状況が続くと、1人だと簡単に折れて挫けてしまう。
・過去の経験から、チーム人数は2人がベストだという感覚。それほどまでに、新事業開発ではコミュニケーションスピードは重要。
・4人を超えるチームはほぼ機能しない。それほどまでに新規事業の立上げ期に置いて情報共有は重要。

【新事業立上げチームに必要な3つの力】
・全ての新事業立上げチームに必要な3つの力は、異分野を繋ぎネットワークする力、あらゆる業務を圧倒的に実行しやり切る力、深く広い教養と知識。
・「異分野を繋ぎネットワークする力」昨今の世界では、新しい価値創造は「これまで交わらなかった組織・産業・セクターの "間"」で起こるケース増えている。
・産業の垣根の融解する部分こそ、ビジネスチャンスであり、新規事業が狙うべき領域。・産業の垣根を融解させる事業を立ち上げるために必要な力がネットワーク。
・「あらゆる業務を圧倒的に実行しやり切る力」どれだけ大きなビジョンを語り、魅力的な事業アイディアを考えても、それを形にする過程は、「あらゆる細かな作業」と「局地戦での勝利」の積み上げに他ならない。
・業務を圧倒的に実行し、やりきる力なくして、新規事業が形になることはありえない。
・「深く広い教養と知識」自分・自組織が「これまで手がけたことのない領域」にて何かを生み出す活動である新規事業開発は、「無知の知」つまり自分が「何を知らないのかを知る」ことができる力が重要となる。

 

■4章:新規事業 6つのステージ

・新規事業開発には、適切な手順・ステージがある。
・新規事業立上げでは、ステージによりやるべきことは完全に切り変わり、事業に対する判断基準も完全に異なる。
・そのステージでやるべきこと「のみ」やり、他のステージでやるべきことを、決してそのステージではやってはいけない。また、各ステージで目指すべきは「次のステージへの昇格」。そこには飛び級もなければ、近道もない。

新規事業の実践論 新規事業6ステージ

■1エントリー期
・このステージで目指すべきは「検証可能な事業仮説を構築する」こと。
・「事業仮説」とは、「顧客」「課題」「ソリューション仮説」「検証方法」の4点セット。

・「顧客」は、顧客は誰か、確かにそういう人や企業は存在するか。
・顧客は誰か。現実に存在する、その「誰か」を定義することが、全ての新規事業の出発点。雑な定義ではなく、具体的な人や企業の顔が見えるレベルの細やかな粒度であるべき。

・「課題」は、課題は何か、確かにそういう課題はあるか、どれほど根深いか。
・顧客候補が、お金を払ってでも解決したいと願う、根深い課題を捉えなければならない。
・「ソリューション仮説」は、その顧客のその課題はその方法で解決できるか、確かに解決できそうか、代替手段はないのか。
・顧客の課題を解決できるソリューション仮説を捻り出す。・解決策の検討時に、やってしまいがちな失敗は、「自社リソースでできること」を考えてしまうこと。エントリー期に大切なのは、実現可能性ではなく、「それをやったら本当に課題が解決できるのか」である。

現代社会では既に便利なサービスが豊富で、そんな中で、まだ解決されずに残っている課題は「すぐにできそうなことでは、決して解決されない課題」のはず。
・「検証方法」は、顧客・課題・ソリューション仮説が成立するための検証方法は何か、検証は期間・予算内でできそうか。
・仮説定義した「顧客の課題と、その課題を解決するソリューション仮説」のセットを、検証するためのプランを提示する。エントリー期の事業仮説は、極端なところ、ただの妄想や空想で構わない(顧客の観察やヒアリングをしていなくても構わない)。

・次のステージであるMVP期にて、その妄想や空想を、検証を通じて確証と現実に変える必要がある。
・検証方法の検討にあたり、予算と期間という制約条件をクリアしている必要がある。エントリー期には、検証そのものは不要だが、検証方法の方向性が見えていることは求められる。

【MVP期への昇格基準】
・「顧客」「課題」「ソリューション仮説」「検証方法」の4点セットの「事業仮説」が揃うこと。
・決裁者が質問しがちな、市場や競合、実現可能性、事業計画、収益性などの要素は、一切必要ない。これらは次ステージ移行で加えるべき内容。

私見このステージは顧客と課題を見出すのが大変。ソリューション仮説は、既存ビジネスと異なるモデルのソリューション案を大半の人が考えられないことを、どう乗り越えるかがキモ。この段階では、完全に机上の空論で、単なる妄想で構わない。
ただ現実には、顧客か、技術か、対応領域の方向性か、何かしらが多少なりとも具現化イメージが持てる状態にないと、4つセットの事業仮説自体が作れない。

 

■2MVP期
・MVP期は、事業性を伴う魅力的な事業計画の提示を目指す段階
・MVP期でやるべきことは2つ。1つは「エントリー期の事業仮説を実証すること」、もう1つは「事業計画として成立させること」。
・MVPとは、Minimum Viable Productの頭文字で、検証可能な最小限の製品という意味合い。このステージではプロトタイプ(試作品)を作り、仮説検証を行う。

【事業仮説を実証する】
・エントリー期に構築した事業仮説は、どれほど検討されたものでも、ただの「妄想かつ空想」である。
・事業仮説の実証のためにやるべきことは2つ。1つは、課題を持つ顧客を実際に見つけてくること、もう1つは、その人や企業に対してソリューション仮説の検証をさせてもらうこと。

・エントリー期に考えた事業仮説が正しいならば、どこかにその課題を持つ顧客が存在する。MVP期では、その顧客が確かにいると証明(事実として存在すると実証)しなければならない(=存在しないならば、ただの妄想に過ぎなかったとわかる)。
・見つけた顧客に、ソリューション仮説の検証をさせてもらい、検証を通して、確かにそのソリューションにより課題が解決され、お金が支払われるかどうかを検証する。

【事業計画として成立させる】
・事業仮説の実証に加えて行うべきは、実証した事業仮説が、投資可能であり将来的には儲かる構造を持つものだと証明すること。つまり事業計画の作成。
・具体的には ①売り方の設定と値付け、②コスト構造の見積もり、③時間軸を入れて数値計算シミュレーションをする、の3つ。

・①売り方の設定と値付けは、顧客へのヒアリング・検証を通じて明らかにする。
・②コスト構造の見積もりは、そのソリューション提供のためにかかる費用構造。変動費と固定費、原価と販管費など明らかにし、値付けとのバランスが成立するか見極める。
・③時間軸を入れて数値計算シミュレーションは、どのくらいの顧客数になったら固定費をまかなえるか、利益が出始めるか、その顧客数は到達可能かなどをシミュレーションする。

【昇格基準】
・事業仮説が実証され、投資可能な事業計画が成立すれば、次のステージに進む。
・「顧客・課題・ソリューション仮説」が、確からしいと実証され、「顧客がソリューションに支払う金額が、コストより大きく、顧客数を拡大できれば利益を生み出せる」というシミュレーションが成立するかどうか。

私見このステージは、顧客と課題の定義(検証・実証)と、MVP作成と事業計画作成は、別ステージとして捉える方が良いと思う。
ほとんどの人は、顧客と課題の発見ならびに定義を、軽くみすぎる傾向にある。またソリューション検討は楽しいので、顧客と課題よりも解決策を考えたくなる人が極めて多い。その当然の帰結として、課題のない顧客に対して、ソリューションを作るから、売れないものが作られてしまう失敗が量産される。
上記の典型的すぎる失敗を回避するために、顧客と課題の定義を、敢えて別ステージに分ける方が良いと思う。

また、顧客と課題の定義期・MVP期は、実証されない(例:そんな顧客や課題は存在しない)場合や、プロダクト作る目処が立たない(例:現在の技術レベルでは実現不能)、事業計画が成立しない(例:原価超過で計画上でもずっと赤字)場合には、検討ストップの判断がなされ、振り出しに戻ったり、前ステージに戻ることも多いことは、織り込んでおく方が良い。

 

■3シード期
・シード期は、商用レベルでの事業の成立と成長ドライバーの発見を目指す段階。
・シード期でやるべきは、大きく分けて2つ。実際に商売を成立させること、グロースドライバーを発見すること。

【製品を開発し、販売開始し、商売を成立させる】
・実際にサービス・製品を開発し、新規事業として世の中にリリースし、販売を開始しましょう。
・MVP期に事業成立すると判断したものでも、いざ売り始めたら「買ってもらえない」「課題が解決されない」という事態に幾度となく直面する。
・感覚としては、MVP期を経て、シード期にてプロダクト販売を開始し、事業として成立しないとわかるものは、およそ半分ほど。
・販売開始後に直面した課題に対処したり、サービスや計画を修正して事業成立まで持っていけるケースもあれば、あえなく撤退となるケースもある。

・「どう提えるか」の問題だが、著者は、MVP期にて確かな実証を行い、シード期で撤退となったチームには、心からの賞賛を贈ってよいと思う。
・実際の販売開始に至る前に終わるケースが多い中で、「実際に販売開始し、そして成立しないと判明した」フェーズまで至ったことは、それ自体が大きな学びで、その後の会社の資産にもなり、その段階まで事業仮説を磨き上げたチームは人材として育っているため。

・シード期にたどり着き、プロダクトを作り、販売開始し、顧客から売上が立ち、商売として成立させられること。この段階が、新規事業開発6ステージの「中間ゴール」である。

【グロースドライバーを発見する】
・実際に商売を成立させられた事業には、実際に販売されているプロダクト、初期の顧客、初期の売上があるはず。次に目指すべきは顧客数の拡大。
・より具体的には、「顧客を拡大するための方法=グロースドライバー」を見いだすこと。

・営業や広告宣伝を行う形だが、重要なのは「LTV>CAC」が成立する方法を見つけ出すこと。(LTV:顧客の生涯価値、CAC:顧客の獲得単価)
・最初期の顧客は、CACや採算度外視で買ってくれるだけで非常に大きな価値があるため、それでよい。しかしそれ以降は、CACを考慮して顧客を獲得していく必要がある。
・新規事業では、よほどの高単価・低原価率の製品でない限り、「LTV>CAC」が成立せず、営業や広告宣伝においても、何かしらの「発明」が必要になるケースが多い。
・ここまでは、新規事業とは「顧客・課題・·ソリューション」のセットを成立させることに集中してきたが、シード期以降は「営業・広告宣伝手法の考案」も加わる。
・製品やサービスと同じかそれ以上に、営業・広告宣伝手法にもユニークさが求められることも少なくない。

【昇格基準】
・実際に商売が成立し、グロースドライバー(成長のための拡大方法)が発見できていること。
・販売開始された製品やサービスが存在し、少数でも確かにお金を払った顧客が存在し、小さくとも売上が立っていて、それを拡大するための営業、広告宣伝手法が考案できていること。この基準をクリアすれば、大きな事業投資に踏み込む判断ができる。

私見このステージは、プロダクト開発&販売開始と、シード期は、別ステージとして捉える方が良いと思う。
プロダクト開発は確かに「一旦やるだけ」ではあるが、事前の見積もりの甘さから、発売開始で求める品質水準から「開発期間が異常に伸びる」「開発期間が以上に伸びる」「開発が途中で頓挫する」という失敗に陥りやすい。このステージで頓挫すると、精神的なダメージが大きくなるため注意したい。

成熟企業において難しい判断となるのは、リリース販売開始時点のプロダクトに、どこまでの品質と機能を盛り込むか(どこまで機能を外して、スピード重視でやれるか)。また、企業の考え方に加え、新規事業責任者の価値観や哲学が反映されるのが、どのレベルまで攻めるか・自制するか。画期的な事業であるほど、その線引きの判断は個人の哲学に依存するように思います。
余談ながら、スタートアップあるあるは、システム開発者が蒸発してしまいリリースが遅れる。

販売開始後は、幸いにして売れ始めると、問題が噴出するのが一般的。その問題を淡々と処理して進め、プロダクトや体制にフィードバックすることで、良い製品・サービスに変容なっていく。(売れないと、問題も噴出しない。)
発生する問題は多種多様で、プロダクトの品質に限らず、製造・提供体制、サポートや提供プロセス、システム不具合や使い勝手の悪さ、契約面や事務面の整備漏れなど、想像しうる以上の問題が発生する。(新規事業の経験者は、この辺りの勘所と不確実性への対処が強い。)

販売開始すると、当初想定してなかった顧客が、想定しない用途で使うことがわかることも少なくない。それを経て、もしくはそのサイクルが落ち着きはじめてから、ようやくLTVやCACなどを考えられる状態になっていく。

 

■4アルファ期
・アルファ期は、実際に大きく資金を投下して、顧客と売上・利益の拡大を実現することを目指すステージ。
・「LTV>CAC」が成立する手法に、資金投下すれば顧客拡大し、売上と利益が積み重なるはず。ためらわず資金投下し、ひたすら顧客数を拡大しよう。

・ただし注意すべき点が3つある。1つは、CACの悪化。顧客拡大につれて、CACが悪化するのが通常。
・2つ目は、組織の疲弊・成長痛。シード期はメンバー数は1桁だが、アルファ期には30人くらいになるだろう。組織の成長痛が起こるため、情報共有やマニュアル整備など、業務フローや機能を型化していくことが求められる。
・3つ目は、競合の出現。CACの悪化や計画の事業計画の前提が覆されることもあり、リスク察知とスピーディーな計画修正・意思決定ができる状態にしておくこと。

【昇格基準】
・事業が成長状態に入ったか、組織戦略と対競合戦略が現実的か。

 

■5ベータ期
・成長率を落とさず成長を続け、既存事業と比較議論できる最小規模に到達し、既存事業と遜色ないガバナンスをの構築を目指す段階。

【昇格基準】
成長率を落とさず成長状態が続くか、既存事業と遜色ないガバナンスか

■6イグジット期
・新規事業の枠組みを卒業し、成長投資を獲得し、企業戦略の一部となることを目指す段階。

【昇格基準】
・社内での位置づけ整理、IR方針、既存事業を凌駕する規模への投資戦略。

私見アルファ期を乗り越えてベータ期に至れるのは、おそらく1〜3%くらい (100立上げ中 1〜3回)と思うため、 最初から考えておく必要がない。 残念なほどに、このステージまで到達しない。もし到達できたら、諸手を挙げて喜べる。

 

■5章:新規事業の立上げ方(エントリー〜MVP期)

・エントリー〜MVP期は、とにかく重要なのは「顧客起点」であること。
・アイデアでも、ビジネスモデルでも、技術でもなく、「顧客」を中心に据えて進められるかどうかが、全てを決める。

【優秀な人ほどやってしまう、間違った新規事業開発作業】
・優秀な人ほどやってしまうのが「確認・事例・調査・会議・資料」を「社内・上司・先輩・競合」に対して行う。
・単語「確認・事例・調査・会議・資料」と、単語「社内・上司・先輩・競合」を結ぶと、無限に作業が生まれる。これをやると、一生新規事業は生まれない。
・既存事業では、これらこそが大事だが、新規事業開発の立上げ期では、これらは1つもやってはいけないことである。

【新規事業立上げ期にやるべき、仮説と顧客】
・仮説を顧客のところに持っていき、顧客の反応に応じて仮説を修正する。修正仮説を顧客のところに持っていき、再び仮説を修正する。そして再修正仮説を顧客に持っていき・・・。このサイクルをひたすらやるのが、エントリー〜MVP期にやるべき唯一のこと。
・「仮説を顧客に持っていく」を、300回やると、立ち上がる新規事業案が出来上がる。「300回 顧客のところに行け」。
・仮に与えられる期間が半年の場合、1ヶ月で50回顧客に会う必要があり(300÷6ヶ月=50回)、1日あたりでは2.5回(50回÷20営業日=2.5回)。これが、新規事業が立ち上げられるチームが目指すべき、平均的なペース。
・1日2.5回顧客に会い続けようと思ったら、上司と会議したり、競合を調べる暇などない。

・仮説と顧客サイクルを300回やると、導かれた新規事業案は、ほとんどの場合は、最初の事業仮説からは、原型を留めないほどに変化した案になっている。それが正しい進め方である。
・そのため、新規事業開発プロセスでは、手段(ソリューションやプロダクト)が固定されてしまうと、立ち上げられる確率は下がる。手段ではなく、顧客と顧客課題に対して強いWILLを形成できれば、WILLの範囲内で大きな仮説変更を繰り返していける。

【プロトタイプの6つのレベル】
・仮説検証では、MVP(検証可能な最小限の製品)に限定して作り、顧客にぶつけて検証する。
・仮説が緩い最初の段階ほど、高速かつラフなプロトタイプを作り、仮説が検証されるにつれ徐々に作り込んでいく。MVPにも6つのレベルがある。

レベル1:ペーパー
・「コンセプトを表した30文字の言葉」にして、想定顧客にぶつける。
・少し作り込む場合でも、画面を手書きで紙に書いたものなど。この段階では、とにかく高速で作れる形にこだわるべき。

レベル2:アナログ
・手作業で課題解決をしてみる段階。大切なのは、プロトタイプと言いつつ何も作らないこと。
・想定顧客を人力で集めて、課題に対するソリューション作業を全て手作業で行う。これにより、そのサービスが本当に価値があるか擬似的に検証できる。

レベル3:コンビネーション
・ありものを組み合わせてプロタイピングする。この段階でも自分では何も作らない。
・ありものとは、現存する他社製品で、FacebookやLINE、ブログなど。それらを組み合わせるだけで立派なサービスになります。

レベル4:ビジュアル
・レベル3のありものの組み合わせに、表面上のデザインをオリジナルにして提供してみる。ホームページのトップページだけ、デザインしたチラシを使って提供してみる。
・顧客からすると、最終プロダクトに近いイメージで捉えてもらえる一方で、裏側は人力やありものの組み合わせの段階。

レベル5:プロトタイプ
・この段階で、ようやく一般にイメージする「試作品」に近いものを作る。
・ただこの段階でも、できるだけ作らず済む方法を模索する。ワードプレスやペライチなど作成サービスを使い最低限のものを作る。かけて良い時間は、せいぜい3日ほど。

レベル6:MVP(ミニマムバイアブルプロダクト)
・ここまで検証が進んだら、ようやく必要機能を揃える開発を初めて良い。
・それでも、「検証すべき項目を検証するため」に限定した開発にし、できるだけ作らず済む方法を模索する。

・プロトタイプといっても、段階がある。
・日本の新規事業を担当する人のほとんどは、顧客ー検証の回転速度があまりにも遅い。一つ一つの検証に、あまりにも時間をかけ過ぎている。
・いかに作らず、いかに高速に検証することが、新規事業立上げの初期ステージの要諦である。

【顧客へのヒアリング】
・顧客に会うとき、次に会うべき顧客を見つける力が求められる。ヒアリングを通じて、より課題を持っている対象顧客を見つけることもある。
・目の前の人の課題についてヒアリングすると共に、その課題の発生する構造や関係者が誰かも合わせて聞き出すことで、課題の理解をより深く進められる。
・対象関係者を広げるには、当事者の周囲を洗い出すのは有効。例えば、介護なら、介護当事者の周囲には、配偶者や家族、介護施設の経営者・職員・納入業者、薬剤師・医師、介護関係当局などがいる。

ヒアリングでは、相手の深い情報を引き出す。仮説を押し付けたり、相手を説得するのは厳禁。
・プロトタイプを見せ、反応をじっと見る。

私見優秀な人ほど「確認・事例・調査・会議・資料」を「社内・上司・先輩・競合」をやってしまうのは納得。優秀な人ほど業界ルールを深く知り、社内ルールをきちんと守る傾向にあるため、既存と異なる事業案が出ず、推進スピードが遅くなりがち。
また優秀な人ほど、考えを否定されること・邪険にされることに心理的拒否反応を示してしまいがち。

 

■6章:新規事業の立上げ方(シード期)

・シード期は、実際に商売を成立させ、グロースドライバーの発見を目指すステージ。サービスを開発し、実際に販売し、顧客に価値を届けていく。
・シード期に陥りがちな罠で、最も気をつけるべきは「サービスの販売開始しただけの段階で、成果を上げたと勘違いしてしまうこと」。

・販売開始直後は、マーケティング投資に力を入れてはならず、プロダクトをブラッシュアップし、LTVを高めなければならない。
・販売開始直後の新規事業が向き合うべきは、Primary Customer Success(最初の顧客の成功)である。プロダクトを修正し、一番最初の顧客が「買ってよかった」と感じる体験を作り上げること。

・Primary Customerは、他に誰も顧客がいない段階で、お金を払い、製品を購入し、顧客となってくれた、兆候リスクで何もわからない状態のものに手を出す、ある種クレイジーな方である。
・Primary Customerは、次の条件を満たさなければならない。身内や関係者でなく、初めてその商品を知り、正規料金で購入し、購入後に使用し、使った結果「支払ってよかった」と満足してくれること。

・新規事業リーダーが肝に銘じるべきは、販売開始直後の新規事業に対して「世間は驚くほどにネガティブ、もしくは無反応である」ということ。そういうものである。 

 

■7章:社内会議という悪魔を攻略する

【社内会議の意義と、そのための準備】
・そもそも「新規事業案を正しく評価する」ことは、誰にもできない。経営陣も投資家も、立ち上がっていない新規事業を正しく評価するなんて芸当はできない。
・自分たちが確信している可能性が「そのまま全て伝わることはあり得ない」という腹づもりで、社内会議に臨むのが良い。
・立ち上がっていない新規事業を評価できる唯一の存在は、経営陣ではなく「顧客」である。経営会議や事業化審査会の場には「顧客」はいないはず。だから正しく評価されることはあり得ない。
・社内会議には、社内会議を攻略するための準備が必要。新事業プランが良くて、社内会議が通らない場合は、ほぼ100%提案する側の準備不足が原因。
・新規事業が、投資を仰ぐための重要な決裁の場である社内会議には、これ以上ないほど入念な準備をして臨むべき。

・社内会議とは、重箱の隅をつつく会議である。
・多くのサラリーマンは、社内会議とは「よい提案をすると、それが評価され、決議される場」と、勘違いしている。社内会議の構造や位置付けを理解していなさすぎる。
・重要な会議にかけられる案が良いことは「当たり前」である、というのが前提。そのため「その案が良いかどうか」の質問は、当然出てこない。
・その案が「本当に良いのか」について質疑が少ないということは、その良さに対する疑義が少ないということ。むしろ、サービスモデルや顧客価値の質疑が多発する場合は、社内会議の前提である「提案の内容が良いこと」に疑義が生じている状態である。

・社内会議とは、何を議論する場であり、どんな基準で決議されるのか。それは 「決議したことを、上司に説明できること」である。
・会社とは「所属する全ての人に、上司が存在する」という組織形態。社内会議の決裁者にも、必ず上司が存在し、その上のレイヤーの意思決定機関が存在する。だから全ての決裁者は常に「自分が決議した案件を、上司に説明できるか」を念頭に置いて決議を行う。経営会議や取締役会、社長でも同じである(オーナー社長除き)。
・上位レイヤーの会議になると「議事録」が存在するから、なおやっかい。審議内容に対して、誰がどう発言し、どう決議されたか議事録が残ってしまう。だから「重箱の隅をつつく」わけである。
・社内会議の「重箱の隅をつつくような質疑」は、質問する方も「本当はそんな重要じゃないかもとわかっていても、聞かざるを得ない」ことも多い。
・これら質問に対して重要なのは、明確に回答できること、そのための準備が万全であること。「誰にでも説明可能である」という状態が作れれば決議されるもの、それが社内会議。

 

【社内会議を通すための準備6点セット】
・特に、MVP期とシード期の境目で設けられる「事業化判断を行う審査会議」において機能する6点セット。

1数値口ジック
・重箱の隅をつつこうとする人にとって、もっとも指摘しやすい材料が「数字」。
・数字とは、事業案や顧客の中身がわからずとも、誰でも指摘が可能なものである。質問に対する回答が不明瞭なら、それだけで「通さない理由」となるほど強力。だからまず、数値ロジックを入念に準備する必要がある。
・立上げから数年の損益計算を作っているはずだが、用意すべきはその数値自体ではなく、「その計画を作った数値ロジック」。
・「数値ロジック」とは、全項目の数字の理由。「なぜその数字なのか?」という質問に「〜〜だから」と答えられる日本語を用意しておくこと。
・具体的には「売上の根拠は?」「人員計画の根拠は?」「家賃はどういう数字か?」「広告宣伝の内訳は?」などの質問に答えられること。
・最も汎用的で有効なのは、数値を分解しておくこと。例えば売上について聞かれたら「売上は、顧客単価と顧客数に分けてシミュレーションしている」「顧客単価は、基本料金とオプション課金から構成される「顧客数は、店舗当たり来店者数と店舗数から構成している」と答える。
・数字に関する「重箱の隅をつつく」質問に対しては、きちんと考えていること自体を示すのが有効。きちんと考えていることを印象を与えるのに「分解という数字ロジック」は有効。
・数字の分解は最終的には「非常に細かい現場の数字」に行き着く。細かい数字に質疑を持ち込めれば、実証実験で得た顧客インサイトの話になり、事業の本質に関わる議論に持ち込むことができる。
・作り上げた事業計画の、全数値項目を分解して説明できるようにしておく必要がある。エクセル参照せず、把握していることを見せることも、安心材料になる。

2顧客の生の声
・立ち上がっていない新規事業を正しく評価できるのは、顧客だけ。顧客では内情長や経営陣が「実感が持てない」のも当然。
・上長側も、実はツライ。なんとなく理解でき、信じてあげたい気持ちもあるが、自分は詳しくない領域だから、実感が持てない。納得がいっていないものを決議するわけにもいかない。納得してないのに決議したなんて、上司に説明できないから。
・この状況で有効なのは「顧客の生の声」。
・映像や手紙で顧客から応援メッセージをもらうなど、「顧客の生の声」をプレゼンに持ち込むべき。

3リスクシナリオと撤退ライン
・事業進捗の計画スケジュールはきちんと作る上で、その上で、「それでも遅れたらこうなる」というケースをシミュレーションしておくと良い。
・「遅れないから大丈夫」とアピールするのではなく、「遅れた場合の策も想定している」と示せることが重要。

4関連諸法規の提示
・新規事業の場合、会社にとって新しいことのため、過去事例が参考にならず、商習慣や法規制などに関する知識も不足する。「不足している」状態自体が「説明できない」に繋がり、却下の理由になる。
・自主調査、社内法務部、社外の専門家にアドバイスもらうの3段階で、新事業が抵触する可能性のある法律や規制を調べる必要がある。
・これら調査内容は、そのままプレゼンの添付資料に加える。量が多ければ良く、「必要十分なだけ、ちゃんと調べている」と伝わることが社内会議攻略上は重要。

5社内キーマン・社外権威者のコメント
・出島や別組織で新事業を進める際、「既存事業の事情を考慮しなくて良い」わけではない。
・関連する既存事業部があれば、その事業部長には事前に話をしに行くべき。応援されることも、妨害されることもある。
・それをそのまま「社内キーマンコメント」として、プレゼンに加えるべき。既存事業を無視しておらず、やりとりしていると伝わることが重要。
・実際には、社内キーマンはネガティブな反応を示すことも多い。その状態を考慮し、社外権威者のコメントも得ておきたい。社内の閉じた話でなく、会社を超えた社会的な動きを捉えて意思決定するために、気持ち的に材料になる。

6空気を読んだ戦略図
・「その新事業を自社でやる意義」に答える為に、会社の戦略的な意味合いとの連動が求められる。
・事前に、戦略部門や経営企画メンバーと議論し、自社の全社戦略や長期ビジョンと、新事業のどういう点が強い意味合いを感じるシナリオにできそうか、議論をしてプレゼンに加えたい。

 

■8章:経営陣がするべきこと、してはいけないこと

【画期的な新事業は、経営陣には判別できない】
・新規事業創出には、新規事業の担当者の頑張りと同じか、それ以上に重要なのは、新規事業が生まれる気運に対して、経営陣が呼応し、適切に判断を行い、仕組みを作っていくこと。
・経営陣がなすべきことをなされなければ、社員が可能性あふれる新規事業を提示し、立ち上げようとしても、それを形にしていくことはできない。
・新規事業アイデアは、画期的であるほど理解できない。
・そもそも、世界にまだない画期的なアイディアを、「説明できる」と思っていること自体が大きな間違い。実際に、世界を変えた画期的事業の多くは、世界を変える前には、ほぼ事業内容は理解されない。
・「画期的なアイデア」は、画期的なほど、そのアイデアは理解されない。しかし、その画期的かもしれないアイデアが「世界を変える前」に、「画期的だと評価してくれる人」が1人だけ存在する。それが初期顧客である。
・世界の誰も解決してくれない課題を抱えた顧客だけは、そのアイデアを素晴らしいと評価してくれる。
・上司も、会社も、同僚も、チームメンパーも、もしかしたら新事業リーダー自身でさえ、半信半疑でしっくりこないそのアイデアの価値を、顧客だけは「画期的で価値がある」と評価してくれる。

【経営陣は、事業アイデアを評価しないでほしい】
・画期的なアイデアは幻想に過ぎず、説明も評価もできないものであるにも関わらず、未だに根強く存在するのが「立ち上がっていない事業アイデアを良し悪しを、経営陣が評価してしまう」という問題。絶対やめてほしい。
・立ち上がっていない新事業の価値を、適切に評価できる唯一の存在は、顧客である。顧客ではない経営陣には、評価できなくて当然なので、評価できるフリをして、それらしい質問をして、「評価したつもりになる」のをやめてほしい。
・別の観点では、「顧客のところに300回行く」中で、アイディアは顧客との対話を通じて見る影もなく形を変えていくものである。だから、最初のアイデアを評価をしても、そもそも意味がない。
・最初段階の新規事業プランで評価すべきは、アイデアではなく「人と領域の相性」である。

【決裁権限を降ろしてほしい】
・経営陣にとっていつもの「社内会議」を新規事業開発プロセスに持ち込むことは、「本質的でない非常に大きな負荷」を、現場に押し付けることになる。
・新規事業開発における決裁権限を、できる限り、経営会議からその下に降ろしてほしい。事業化判断や追加投資決裁といった大きな意思決定にまつわることだけでなく、事業化判断後も絶え間無く訪れる予算執行・契約締結・採用や評価・広報や会計ルール策定など、事業を立ち上げて運営するために必要なあらゆる事柄に関する権限。
・決裁権限を降ろすポイントは、個人決裁権限として降ろすということ。できる限り「新規事業担当役員」か「新規事業開発部長」の個人決裁権限として降ろすこと。
・決裁権限を降ろす単位とタイミングは、個々のプロジェクトに対してではなく、新規事業開発部全体に対する形が良い。

【新規事業に規模を問わないでほしい】
・巨大な事業を営む大企業にとって、新規事業とは、単体では小さくて当然の活動なのである。・例えば「日本で新規事業を最も成功させた企業たち」と言えるマザーズ上場企業群を見ると、「創業から上場までは12.3年」「上場直前期の売上46億円」「上場直前期の営業利益は3.3億円」。
・つまり、全く新しいビジネスをゼロから立ち上げ、10年強かかって、ようやく年間3億円ほどの営業利益。これが、日本で最も成功した新規事業の水準。