出張レストランサービスのマイシェフ社長ブログ

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【イノベーションパス 要約】成果を出すイノベーションプロジェクトの進め方

イノベーション教育・研究を行う東京大学i.schoolによる、イノベーションイデア創出するプロジェクトの進め方を要約します。東大の先生らしく多くのセオリーが引用されています。 

「成果を出す」とありますが、同社では「アイデア創出を0→1と定義」している(実現して市場投入までは 1→10)そうで、i.school・i.labではアイデア創出までを支援しているそう。アイデア創出に特化した書籍内容であることは、留意して読み進めるべきでしょう。

 

https://cdnshop.nikkeibp.co.jp/0000/catalog/255450/255450_thumb_pc.jpg

 

■1イノベーションの新潮流

イノベーション創出には、目的意識を持った創造性と、多様な協調性が鍵になる。
・創造的な活動の際、どのような社会を作り出したいか、どういう動機で自分やチーム、会社は頑張ろうとするかという、創造的努力の向かう先(目的意識を持った創造性)を設定することは、とても大切。

イノベーションとは「新結合」であり、必ずしも「技術の発明」ではない。
・しかし、特に大手メーカーは、高度成長期からのものづくり分野の「技術革新」での成功体験を引きずり、人間中心アプローチを軽視しがち。

・デザインシンキングは、ざっくり言えば「技術から発想するのではなく、まずはフィールド観察に出かけて、ユーザーを観察しよう。ユーザーへの共感からアイデアを生み出そう」というもの。「ユーザーへの共感」という、シンプルながら強力なもの。
・技術中心、人間中心のどちらが優劣か、という議論ではなく、技術中心で考えてきた新製品・サービス創出の取り組みに対し、イノベーションの意味合いに立ち返り、人や社会の洞察にも注力する捉え方が必要になってきている。

・技術中心に対する、人間中心の方法論の特徴は、次の表の通り。

https://businessecosystem.unisys.co.jp/wp-content/uploads/2017/02/re-5-2.jpg

イノベーション創出プロセスでは、実際の製品開発より上流工程の「コンセプト」創出が必要。しかし日本メーカーの弱点は、新しい市場創出するような「コンセプト」に踏み出せないところ。
・今の日本の大手企業に求められるのは、新しいコンセプトの事業を世界へ提案すること。

 

■2イノベーションを起こす人材に育つ・育てる

イノベーションの道のりは、アイデア創出:0→1、実現して市場投入:1→10、市場投入から普及:10→100と定義しており、東大i.schoolの教育は、アイデア創出:0→1を対象にしている。
・東大i.schoolでは、人間中心イノベーションを重視し、理解フェーズではフィールド観察などを行い、人々の行動や価値観、社会変化などに対する洞察を、アイデア創出や実現に生かすアプローチをとっている。
イノベーション人材の持つ能力は「価値発見力」が高い。挑戦する力、観察する力、関連づける力、人と繋がる力、捨てる力、試す力、おかしいと思う力が、平均的なビジネスマンと比べて高い能力を持つ。

私見この方の組織では、アイデア創出:0→1と定義しているが、私の定義では、アイデア創出からローンチ・プロダクトが売れ始めるまでを0→1と定義している。
私の定義の0→1と、この方の組織でいう0→15くらいまでが、同じフェーズを意味していると思われる。

 

■3既存事業とはコンセプトの異なるアイデアを生み出すには

■4つのアイデア創出アプローチ

・アイデア創出アプローチは4つあり、技術起点、市場起点、社会起点、人間起点。それぞれ一長一短ある。

【技術起点】
こういう技術があるから、そこからアイデアを考えようというもの。大企業メーカーでよく見られる、研究開発の文脈に合わせる形の新事業開発。エンジニア主導で検討する場合、概ねこの思考パターンになる。
メリット:技術的な優位性を確保しやすい。また、当たるとでかい。
デメリット:社会潮流やユーザーニーズを軽視しがちで、失敗する場合が多い。

【市場起点】
この市場がホットだからそこで何か考えようというもの。その市場が熱いですね、何かアイデアないですか?という言葉がお決まりパターン。戦略コンサルの得意方法で、経営企画系が主導する新事業開発の場合、概ねこの思考パターンになる。
メリット:事業性の見極めを早期に行う点は優れている。
デメリット:議論が抽象的すぎる場合が多く、いつまで経っても具体的な事業案にならない。
特徴:経営層には受ける。経営層が気にする規模感や市場トレンド中心の議論なので。(ただし、何も具体的なアイデアにつながらない)

【社会起点】
社会トレンドや社会課題にまず注目する思考パターン。これまでは行政やNPOの人の思考パターンだったが、最近ではグローバル企業の次期経営層が好む思考パターンでもある。
メリット:共感や市場性は早期に確認できる。
デメリット:その課題が複雑で解決しづらいから、社会課題として認知されているわけで、そうそう具体的なアイデアが出せない。

【人間起点】
ユーザーインタビューなどから、これまでの見方と異なる洞察を得て、アイデア創出につなげようとする思考パターン。ユーザーの潜在ニーズ発見を目的とすることが多い。デザインコンサル会社が得意とする方法。
メリット:最初からユーザー起点で考えるため、ユーザーにとって魅力的なアイデアが出るのが優れた点。
デメリット:ユーザー視点のため、特定企業でそのプロダクトを実現する必然性がない場合も多い。ユーザー調査から洞察を得る場合、デザインや使い勝手が良い既存プロダクトの改善アイデアになりがちで、既存と異なる潜在的な機会領域の中での新事業を見いだすのは不得意。

■アイデア創出する範囲の枠組み

・製品やサービスのアイデアは、目的と手段の関係性として存在する。
・例えば「目的:洋服の汚れを落とす」に対して、「手段:水と洗剤で洗い落とす」を取り、具体的な「製品アイデア:洗濯機」。仮に「手段:空気で洗い落とす」にすると「製品:空気オゾンで洗浄するエアウォッシャー」となる。
・アイデアに新しさを求めると、目的と手段のいずれか、もしくは両方が新しい必要がある。アイデア創出は、この「目的」と「手段」の情報を収集・分析・ぶつけあうことで、新しい結合「アイデア」を生み出す枠組み。

私見イデア創出は「目的」「手段」のいずれかが新しい必要があるという主張は、私とは考え方が異なる。「顧客・顧客の課題」が新しい必要がある。未解決な課題、捉えようとする範囲を変化・拡張する、など。

・アイデア創出する「機会領域」を設けるのは実務上有効である。アイデア創出時、いきなり具体的な事業アイデアを考えるより、「この辺り」と思考の方向性を指し示す「機会領域」を設定すると良い。
・「機会領域」を設定するメリットは複数あり、まずプロジェクトメンバーの意識の方向性、アイデア創出の方向性や範囲が揃いやすくなる。
・「機会領域」は、最終的な事業アイデアと異なり、論理的な事実の積み上げ・分析的な思考でも説明が可能。そこまで経営陣に説明して、機会領域を理解・共感しておいてもらうことを1つの中間ゴールに設定すると、その後も進みやすい。

■よく知られるアイデア創出方法論

1人間起点:エクストリームインタビュー
2未来起点:シナリオプランニング 、未来洞察、社会シフト
3市場起点:ブルーオーシャン、ブレイクザバイアス
4技術起点:先端技術の新たな価値を探索するテクノロジーシフト

私見未来起点の考え方は、私は反対派。未来を予見できる情報は人口動態だけ、とはよく知られるところ。また、専門家ほど未来予測を大きく外すのが、過去の実例(例:1980年代に、2000年のアメリカ携帯電話需要を90万台と予測したマッキンゼー。実際には、2000年の携帯契約件数は1億強)。
未来予測系の情報は関連書籍を2〜3つ読めば十分。また経営陣や中期計画を取りまとめる経営企画部には、事業周辺環境の将来見通しに関する情報はあるもので、それに目を通せば十分。

 

■4アイデアを収束させ、品質を高めるには

イノベーション創出プロジェクトでは、機会領域の検討、アイデア創出、アイデア品質向上の際は、常に「発散」と「収束」を繰り返す。
・収束プロセスは、本質的にとても創造的で、アイデア品質や実現性を大きく飛躍させるプロセスでもあり、アイデア発散よりも収束プロセスの方が難易度が高い。

【アイデアを選抜する】
・まず客観的観点で絞り込み、その中から主観的観点で絞るのが一般的。
・定番となる客観的観点は、新規性、有効性、実現可能性、賛否両論ある議論の発生、強い価値感の内包など。
・忘れてはならないのは、真に客観的な評価はあり得ないと理解しておくこと。評価の観点は客観的に設定されても、その観点での評価は極めて主観的にならざるを得ない。
・よくあるパターンは、プロジェクトメンバのお気に入りのアイデアが評価を得ず、無難だと思っていたアイデアが評価を得るケース。意思決定者の評価に依存する。
・主観的な観点は、メンバーの思い入れそのもの。

【アイデアを精錬する】
・最初のアイデアは、コンセプチュアルで具体的に欠けるものがほとんど。アイデアの具体性を高める作業を通じて、アイデア品質を高める。
・アイデアの早い段階で、プロトタイプにして形に見えるようにするのが良い。プロトタイプを、製品だけでなく、サービスやビジネスも拡張して利用する。

■プロトタイピングの4つの観点

・プロトタイピングは、ヒト(ユーザー像)、コト(利用シーン、体験)、モノ(製品・サービス内容)、ビジネス(モデル、関係や、規模感)の4つの観点。
・「ヒト」プロトタイプは、アーリーユーザー像、ユーザーの課題認識、アイデア利用でユーザーの感じる価値、ユーザーの行動や価値観の変化、を具体的に妄想する。
・「モノ」プロトタイプは、拘り出せばキリがない。ユーザーから手にとって目で見て解釈できる、実用最小限のプロトタイプに留めるべき。
・「コト」プロトタイプは、ユーザーがそのアイデアを、どのようなシーンで、どう利用し、どのような関係者で、その利用体験がどのような流れかを、可能な限り具体的に書き出す。

・プロトタイプができたら、想定アーリーユーザーにインタビューを行う。プロトタイプは、仮説アイデアという名の単なる妄想の塊。ユーザーから様々なフィードバックを得ることがインタビューの目的。
・インタビュー対象者は、プロジェクトメンバーが直接探すべき。調査会社などに丸投げすべきではない。

・「ビジネス」プロトタイプは、ビジネスモデルキャンパスは使い勝手が良い。
・ビジネスプロトタイプの検証は、社内の専門家やキーマンへのインタビューや相談となる。

■意思決定者への上申

・経営層は、本来は10年以上先を見据えた会社の持続的成長に責任を持つ立場だが、現実には、無意識のうちに既存事業や比較的短気に成果創出が見込めるプロジェクトを優先しがちになる。
・経営層にプレゼンする際は、事業の経済的規模感や見通しに関して「経営層が自分自身の肯定的な意思決定を後押しできる理屈を提示する」というやり方は、テクニック的に有効な場合がある。
・人は必ずしも合理的な理由の積み上げで意思決定するのではなく、意思決定後に、それをサポートする合理的な理由を探す場合も結構ある(つまり、自分の意思決定は正しいものだと、後から思い込みたい)。

・イノベーティブな新事業が、本質的に不確実なことは当然としても、それでも、経営上の意思決定の際には、定量的な議論は避けて通れない。
・期待市場規模と、期待売上は推計しておきたい。仮説の精度や数字は粗くなるが、精度よりも、「自分自身を納得させられる理屈を見つけてもらう」ことも意識したい。

 

■5イノベーションプロジェクトの設計

・i.labは、東大ischool教授によるコンサル会社。一般的な経営コンサル会社は、課題解決のプロジェクト設計とマネジメントをするが、i.labはアイデア創出も範囲とする。プロジェクトごとにプロセスを個別設計せず、アイデアを成果物として提案することを得意とする。
・i.labプロジェクトで多いのは、新市場・新カテゴリーを生み出すような新コンセプトを持つ製品・サービス・ビジネスのアイデア創出を狙うもの。

三菱重工グループでの事例

・「未来の都市生活において循環型で高効率のエネルギーライフを実現する製品やサービスを考え出す」ことを目標に、30代中盤社員がリーダーの、8ヶ月プロジェクト。
・生活者視点と、技術視点の評価を並行して行い、新事業アイデアを創出。

【課題の洗い出しと、機会領域の判断】
・生活者調査では、国内4カ所と海外3都市でフィールド調査し、生活者視点から未来の都市生活の課題を洗い出した。
・技術視点調査では、社内外の先端技術・製品を300品目ほど分析。プロジェクトで注目した技術テーマに関連する先端技術・製品を人間側から見た価値と、それを実現している機能・形状の概念に分解・分析した。
・技術や製品分析は、後続の創造作業に使えるよう、1つの技術・製品につき写真やシステム図・キーワードからなるカードとして整理を実施。その思考作業を通じて、技術や製品の本質的価値が頭の中に体系的に整理された状態で、後続フェーズのアイデア創出に臨むことができた。
・人間側、技術側から調査するプロセスを通じて、最も有望な機会領域は「未来の新興国都市部の急速な人口過密化に伴う種々の課題」と判断した。

【ビジネスアイデア創出】
・生活者視点と技術視点の調査と分析を行い、具体的な未来の都市生活像と活用可能な技術の掛け合わせで事業アイデアを発想した。
・起業の成功率「千三つ」にちなみ、1000個アイデアを考え出せば3つは成功するはずだと考え、1040個のの事業アイデアを創出し、40人の社内部門のレビューを経て、先に設定した機会領域「未来の新興国都市部の急速な人口過密化に伴う種々の課題」は、「成長および縮退する都市における小規模分散型のフレキシブルなインフラ」という表現に、発展的に精錬された。
・日本の地方都市のような所には「縮められるインフラみたいなものがあると便利」となった。逆にジャカルタなど人口急増地域は「増えたら増えただけ増設できるインフラ」が良いとなり、より具体的に考えてみることになった。

【ビジネスモデル構築】
・絞り込まれた事業アイデアの中の1つは、都市部における数千人規模以上のビル・宅地を対象にした、民間事業会社による未来型上下水道インフラ。
・アイデア作り込みの最終局面でも、そのアイデアによって人々の考え方や行動をどのように変え、社会にどのようなポジティブな変化が起こるのか、その変化を実現する具体的製品やビジネスの仕組み、事業戦略が何かを複合的に考えて洗練させていく。
・事業アイデア2つに対して、国内で20件の特許出願を行い、15件の権利化が確定している。
・プロジェクトはメンバーは延べ32人、レビューは40人に実施し、多くの社員が関わった。社内広報活動を積極的に行った。プロジェクト規模感を小さくするとスピード感は出るが、組織としてのモメンタムはいつまでたっても大きくならないため。

 

 

■6イノベーションプロジェクトで成果を出すために

■必要な権限とリソースを、事業責任者に十分与えるべき

経産省による大手企業向けの新事業調査(2012年)によると、「新事業創造の推進体制」は、「社長直轄で推進:20.6%」、「経営層の責任下で推進:54.5%」、「事業部長クラスの責任下で推進:13.9%」とのこと。
・新事業創出の取り組みに対し、トップマネジメントである社長がコミットしている割合が少なすぎ。わずか2割の企業のみ。
・新事業創出を任せた人材に与える権限は、「社長に提案できる:78.5%」、「プロジェクトや業務への担当者の配置・割当をする権限:50%未満」「社外の協力者と協働する権限:50%未満」。わかりやすく解釈すれば、社長としては「とりあえずアイデアは持ってきていいよ」ということかと。

【著者はこのように解釈する】
・ほぼ全ての社長は「イノベーションが大事」と発信するものの、ほとんどの社長は自分ではコミットせずに他の経営層に任せている。
・他経営層は社長にアイデアを持っていく「権限」が与えられるも、プロジェクト実施に必要となる充分な権限が与えられているわけではない。
・他経営層は責任はあるが権限がないので、同様に部下に「イノベーションは大事。いいアイデアが出たら持ってきて」というメッセージを発するか、自分の権限の範勝で少しだけ着手してみる。
・結果として、「アイデアを提案できる権限」だけが連鎖し、現場社員から「いいアイデア」が上がってくるのを待ち続け、組織としての新事業創出の仕組みはいつまでたってもできない。

→ 経営トップの責任下で新事業創出に取り組むか、他の経営層に任せるならば、アイデアを提案する権限だけではなく、プロジェクト立上げや人材配置、社外協力者と共同するための権限とリソースを配分すべき。

■新事業創出のための組織・ルール・体制・プロセス

・既存企業と新規事業開発のマネジメントは根本的に異なっており、別組織を作ってでも、別にマネジメントする方が良い。

・ただし組織が別なだけではダメで、よくある失敗は、新事業開発組織を新設して優秀な社員を集めたものの、何をすれば良いか分からず、立ち往生してしまう。
・組織だけ先にできて、配属された人が充分モチベーションが見出されてない状況では、あまり良い結果を期待できない。社長もしくは経営層がリソースとともにコミットする形で、まずはプロジェクト型の取り組みを立ち上げると良い。
・そのプロジェクト実績と経験を基にして、徐々に組織体制を構築するアプローチが適当ではないか。初めは、モチベーションやマインドが適切水準にある人材が、まずは既存業務の兼務として集まり、組織的モメンタムが生まれた結果として、正式部署として本格スタートを切るのも遅くはないだろう。

私見プロジェクト的な兼務で集まって始める形は、私は異論あり。このような取り組みは、楽しいだろうが、いつまで経っても成果(新事業の立上げ)は生まれない。
どの企業にもイノベーター人材(新規事業に適した志向性で、かつ何かしら挑戦を起こしている人)は 100人中2人ほどいる。その2%の人材を、できれば2〜3人以上、新事業部門に異動させたい。加えて、イノベーター候補人材(新規事業の資質はあるが、未経験者)は 社内の5〜7%くらいを占めるので、その人たちを新事業部門に異動させたい。
逆に言えば、新事業に向かない90%以上の人を、誤って新規事業部門に異動させると、本人とチームのモチベーションを下げてしまい、失敗のリスク要因となる。
参考:成熟企業内で、新規事業に向く人の見分け方・選び方