【イノベーション・オブ・ライフ 要約】幸せな人生と経営理論|クレイトン・クリステンセン
クリステンセン教授のハーバードビジネススクールで受け持つ講義の最終日に取り上げていた、どうすれば幸せで充実した人生を送れるかについての書籍、イノベーション・オブ・ライフの要約です。
◾️幸せなキャリアを歩むには
・自分にとっての優先事項、意図的な計画と創発的な機会のバランス、資源配分と実行が組み合わさわり、戦略が形成される。
・困るのが、仕事で重要だと思うことは、自分を本当に幸せにしてくれることと、一致しない場合が多い。その上、食い違いに気づいた頃には、もう手遅れになってしまっている。
■私たちを動かすもの(優先事項)
・ハーズバーグの理論:衛生要因と動機づけ要因。
・衛生要因は、欠けてしまうと不満につながる要因。給与、仕事の安定、作業条件、企業方針、管理方法、上司との関係など。
・衛生要因を改善しても、仕事を好きになるわけではない。せいぜい、嫌いでなくなる程度。「仕事に不満がある」の反対は、「仕事に満足」ではなく「仕事に不満がない」。
・動機づけ要因は、仕事への愛情を生み出す要因。成し遂げる達成感、自己の仕事が認められた、有意義な貢献をする、やりがいある仕事そのもの、仕事を通じた成長実感、責任の重い仕事、自己裁量でのチャレンジなど。
・動機づけは、外からの働きかけや刺激は関係なく、自分自身の内面や仕事の内容と大いに関係がある。
●キャリア選択の間違った基準
・個人の仕事選択で、衛生要因を主な判断基準にしてしまう高学歴者が多い。特に収入を重視。
・ある時、間違った理由で仕事を選んだことに気づいても、身動きが取れなくなってしまっている。給料に見合った贅沢な暮らしを送る家族にとって、それを手放すのは並大抵ではない。動機づけ要因でなく、衛生要因につられて仕事を選んだ結果、罠から抜け出せなくなってしまったのだ。
・不幸な仕事の根本原因が給与だとは言っていない。問題が起きるのは、給与が他のどの要素よりも優先される時、つまり衛生要因は満たされているのに、さらに多くの給与を得ることだけが目的になる時。
●子供たちと作ったプレイハウス
・家の裏庭に、子供たちと一緒にプレイハウスを建てた。何週間もかけて材木を品定めし、屋根板を選び、土台から壁、屋根と建てていった。
・子供たちにトンカチで釘を打たせた。このやり方は時間がかかった。ノコギリを誰が使うか子供たちはいつも揉めた。
・子供たちは誇らしい様子を感じていた。家に帰ると、今度はいつ仕事ができるのかせがまれた。
・しかしいざ完成すると、子供たちは滅多にプレイハウスで遊ばなかった。
・彼らを動機づけていたのは、家を手に入れたいという願いでなく、家を建てるという行為と、自分がそれに貢献しているという自覚が、満足感を与えていた。
・大事なのは終着点だと思っていた。しかしそうではなく、そこに向かう道のりにこそ意味があった。
●幸せなキャリアを掴むために
・給与を追い求めても、せいぜい仕事への失望感を和らげるに過ぎない。
・本当の幸せを見つける秘訣は、自分にとって有意義だと思える機会を常に求め続けること。新しいことを学び、成功を重ね、ますます多くの責任を引き受けることのできる機会。
・幸い、動機づけ要因は職業や時間を経てもあまり変わらない。これを絶対的な指針としてキャリアの舵取りをしていけばいい。
・私たちは、金銭をもたらすものと、幸せをもたらすものの違いを、あっけなく見失ってしまう。気をつけなければならない。
・最も陥りやすい間違いは、職業上の成功を示す証に執着すること。もっと高い報酬、もっと権威ある肩書き。こういうものを追い求め、取り返しのつかない後悔をしてしまう。
■計算と幸運のバランス(計画と機会)
・願望や目標を追い求めることと、思いがけない機会を活かすことのバランスを図らなければいけない。
・戦略プロセスでも、特にこの部分を正しく行うことが、企業の成否を分けることが多い。自分自身のキャリアについても同じ。
●意図的戦略と創発的戦略
・戦略の選択肢は、2つの全く異なる。ひとつは予期された機会、つまり前もって計画し、意図的に追求することができる機会。意図的戦略の推進。
・ふたつ目は予期しない機会で、意図的な計画・戦略を決定して推進するうちに生じる、様々な問題や機会の混ざり合ったものをいう。
・予期されない問題や機会は、経営陣や従業員の注目、資金、熱意を得ようとして、意図的戦略と張り合う。ここで企業は、当初の計画に固執するか、それを修正するか、新しく生じた選択肢に完全に乗り換えるか、選択を迫られる。
・修正された戦略は、予期されない機会を追求し、予期されない問題を解決するうちに下す、日々の様々な決定によることが多く、このようにして形成された戦略は、創発的戦略と言われる。
・これは一度下されるだけのものではなく、持続的で多様で、無秩序なプロセスであり、何度も繰り返されて戦略を変化させていく。無秩序のプロセスだが、ほぼ全ての企業がこの方式で勝利を手にしている。
●キャリア形成における意図的戦略と創発的戦略
・求める衛生要因と動機づけ要因の両方を与えてくれる仕事が、既に見つかっているなら、意図的な手法を取るのが理に適っている。
・そういうキャリアがまだ見つかってない人は、道を切り開く新興企業のように、創発的戦略を取る必要がある。人生で実験せよということ。ひとつひとつの経験から学びつつ、戦略を修正していくことを、素早く繰り返そう。
●失敗するプロジェクトの起案ー承認プロセス
・欠陥あるプロセスは、大抵次のような経緯をたどる。
1新製品・サービスに関するアイデアを考案する。上層部に有望なアイデアだと納得してもらうには、見栄えの良い数字が並んだ事業計画が必要。
2顧客がアイデアにどう反応するか、コストがどれほどになるかは、その時点では、本当のところはわからない。そこで見当をつける(仮説を立てる)。
3計画は何度も予測を立て直すことが多い。それは、新しい情報や事実が判明したからではなく、提案にゴーサインを得るために、予測を「改善する」のだ。
4経営陣の説得に成功すれば、プロジェクト承認が得られる。だが数値計画に組み込まれた仮定のうち、どれが正しく、どれが間違っているか判明するのは、計画が開始した後だ。
5問題は、どの仮説が正しく、間違っているか知る頃には、プロジェクトは進みすぎていて、手の打ちようがなくなっている。
・こうしてプロジェクトは、間違った憶測をもとに承認される。成功確率が高いプロジェクトが選ばれるのでは、ない。
●これが成り立つためには、何が言えればいいのか
・もっと良い方法は、新しいプロジェクト計画を立てる際の、手順を入れ替えるのだ。
・新製品・サービスプロジェクトは、もちろん数値計画を立てる必要があるが、その予測が正確だとみなす代わりに、その時点では大まかな数字でしかないことを認めるの。
・有望に見せかけるための操作を、チームに暗に促すなどという茶番をやめる。
・代わりに、当初の予測の基礎となる仮定を全てリストアップさせ、その仮定を重要度と不確実性の高い順に並べる。(リストの上に、最も重要で最も不確実性の高い仮定を書く)
・経営陣は、全ての基礎的仮定の重要度を理解した上で、プロジェクトを承認する。
・そして、特に重要な仮説を、素早く、できるだけ費用をかけずに検証する方法を考案し、その検証作業を行う。
■口で言っているだけでは戦略にならない(資源配分と実行)
・人生に優先付け戦略を持ち、動機づけを理解し、目標と機会のバランスの大切さがわかっても、自分の時間とお金、労力を費やす方法を、それに応じて変えていかなければ、何も始まらない。
・最も肝心なのは、自分の資源をどのように配分するか。
●資源配分のパラドクス
・戦略プロセスの根幹をなすのは、何といっても資源配分。資源配分プロセスでは、どの意図的・創発的計画に資源が投じられて実行に移され、どの計画が資源が絶たれるか決まる。
・企業内のあらゆる戦略は、資源配分段階に到達するまでは、単なる意向でしかない。
・従業員の成功を測る尺度が、企業の成功を導く戦略と相反する場合、善意の社員に方向を誤らせる結果になる。
●時間枠を誤ることの危険性
・失敗した事業の根本原因を調べると、長期的な目標のための取り組みよりも、直ちに満足が得られるような取り組みに飛びつく傾向が繰り返し見られる。
・多くの企業の意思決定システムは、見返りがすぐ形となるような取り組みへの投資を促すようにできており、長期戦略のカギとなる取り組みへの投資がおろそかにされがち。
●自分の事業に、資源を配分する
・資源配分の仕組みは、私たちの人生やキャリアでも、だいたい同じようなもの。
・職場で就業間際に誰もが悩むジレンマにも似ている。あと30分残業してもう一つ仕事を片付けるべきか、それとも家に帰って子供と遊んでやるか。
・自分の人生戦略に対して行う投資、それが積もり積もって人生になる、は、私たちは、時間や労力、能力や財力といった資源を持っており、これを配分している。伴侶と実り多い関係を築く、立派な子供を育てる、キャリアで成功する、協会や地域社会に貢献する、といったことは、それぞれ資源を得ようとして競い合う。
・自分の資源配分プロセスは、意識して管理しなければ、脳と心にもともと備わったデフォルト基準に沿って、勝手に資源を振り分けてしまう。一度のことではなく、絶えず優先事項が取捨選択されている。
・達成動機の高い人が陥りがちやすい危険は、今すぐ成果を生む活動に、無意識のうちに資源を配分してしまうこと。これはキャリアである事が多い。自分が前進している事が最も具体的に見える分野だから。
・立派な子供を育てるといった、長い間手をかける必要があるもの、何十年も経たないと見返りが得られないものをおろそかにしてしまいがちだ。
・キャリアや給与といった即時的な見返りを手にすると、自分と家族の派手なライフスタイルに使ってしまう。困ったことに、ライフスタイルの欲求は、資源配分プロセスをたちまち固定化してしまう。
・仕事に劣らず、プライベートでも満足できる生活を築こうとして、家族に良い暮らしを与えるような選択をしたが、そうすることで知らぬうちに、伴侶と子供をおろそかにしてしまう。
・家族ほど大切なものはないと頭では思っているのに、かつて一番大事だといっていたものに、ますます資源を振り分けなくなってしまう。
■幸せな関係を築く
・人生の中の家族という領域に資源を投資した方が、長い目で見たら遥かに大きな見返りが得られる事を、いつも肝に命じなくてはならない。
・仕事をすれば確かに充実感は得られる。だが家族や親しい友人と育む親密な関係が与えてくれる、揺るぎない幸せに比べれば、なんとも色褪せて見える。
■時を刻み続ける時計
・家族や親しい友人との関係は、人生で最も大切な幸せの拠り所の一つだが、気をつけなくてはいけない。
・家庭生活がうまくいっているように思われるときは、家族との関係への投資を後回しにできると、ついつい考えてしまうが、大きな間違いだ。
・家族との強力な関係、友人との親密な関係を築くことに最も力を入れる必要があるのは、一見その必要がないように思われる時である。
●当初の戦略はほとんど失敗する
・最終的に成功した企業の93%は、当初の戦略を断念していた。その理由は、当初の計画に成功の見込みがないことが判明したから。
・言い方を変えれば、成功した企業は、最初から正しい戦略を持っていたからではなく、当初の戦略が失敗した後もまだ資金が残っていたために、方向転換して別の方法を試すことができたから。
・対して、失敗する企業のほとんどが、ありったけの資金を当初の戦略に注ぎ込んでいた。しかし、当初の戦略は、間違っていることが多い。
・新規事業の初期段階では、間違った戦略を推進して多額の資金を投じないよう、できるだけ早くできるだけ少ない資金で、実行可能な戦略を見つけること。
・初期段階の企業に、可能な限り「早く大きく」成長することを求める資本は、ほぼ例外なく、企業を崖に突っ込ませる。
・これが起きると、大企業でもあっという間に資金を使い果たしてしまい、組織が大きいほど方向転換が難しい。
・ただし、いったん有効で実行可能な戦略が見つかれば、今度はそのモデルを拡大展開できるかどうかが、成否を分けるカギになる。
●新規事業が全速力で崖に突っ込む、典型的な三段階プロセス
・この理論の教えが守られない事が最も多いのは、大手投資家や成功する既存企業が、新しい成長事業への投資を検討するとき。この失敗は次の予測可能な三段階プロセスを通じて起こる。
1新事業の計画がうまく行かない可能性が高いため、既存事業がまだ力強く成長している間に、次の成長の波への投資が必要。新しい計画に、有効な戦略を探す時間的猶予を与えるため。
2既存の主力事業が成熟して頭打ちになる。そこで気づく、数年前から次の成長事業に投資しておくべきだったと。だがそれを怠ったため、新しいエンジンはどこにも見当たらない。
3投資するすべての事業に、可能な限り「早く大きく」成長するようハッパをかける。リスクもプレッシャーも莫大になる。成長しようとして、計画に巨額の資金を注ぎ込む。十中八九、潤沢な資金に煽られて、間違った戦略を無謀かつ強引に推進する。かくして新規事業は、全速力で崖に突っ込む。
・新規事業への投資を怠ってきた企業は、新しい収益と利益の源が本当に必要になった時には、もう手遅れなのだ。
●将来の幸せに投資する
・まずいことに、将来への投資を怠った企業が受ける報いは、私たちの人生にも降りかかる。
・ほとんどの人は、家族や友人たちと深い愛情に満ちた関係を築くという、意図的戦略を持ちながら、実際には望みもしない人生の戦略に投資をしている。
・忙しさにかまけて、おそろかにしてしまった友情の一つや二つは、誰にでもあるだろう。自分の友情は、ほおっておいても壊れないと思うかもしれないが、そんなことはまずない。
・晩年になってから、かつてあれほど大切に思っていた友人や親戚と、なぜもっと連絡を取り合わなかったのだろうと嘆く人が多い。
・忙しくてそれどころではなかったのだろうが、そのまま放っておくと、深刻な影響が及ぶことが多い。
●子供への投資を後回しにするリスク
・若きエリートが陥りがちな間違いは、人生への投資の順序を好きに変えられると思い込むこと。
・「今はまだ子供たちは幼くて、子育てはそれほど大事じゃないから、仕事に専念しよう。子供達が少し成長して、大人と同じようなことに関心を持つようになれば、仕事のペースを落として家庭に力を入れよう」と考えがちだが、大間違いだ。
・子供が言葉に触れるべき最も重要な時期は、生後1年間である。次に重要なのは生後3年間。
・子供への話し方も重大な影響があり、「お昼寝の時間よ」「牛乳を全部飲んじゃいなさい」といった類いの「仕事の話」は重要ではない。
・一方、計り知れない大きな影響があるのは、子供と面を向かって会話をし、大人と同じように知的な言葉を使って、会話に加わっているように話しかける「言葉のダンス」。
・「今日は雨が降るかしらね」「今日は青いシャツを着る?それとも赤いシャツにする?」といった類いのもの。子供に問いかけをして、子供の身の回りで起きていることを、考えさせるような質問。
・簡単に言うと、親が「余計なおしゃべり」を子供にたくさんすると、その子供達は認知的に非常に有利な立場に立っていることになる。
・これほど小さな投資が、これほど大きなリターンを生む可能性がある。
・多くの親は、子供の学業に力を入れるのは小学校に上がってからで良いと考えるが、その頃にはもう、子供にとっての絶好の機会を逃している。
●家族や友人への投資を後回しにするリスク
・これは、友人や家族との関係への投資を、成果の兆しが見え始めるはるか以前から行わなくてはいけないと言う、数多くの例の一つに過ぎない。
・時間と労力の投資を、必要性に気づくまで後回しにしていたら、恐らく手遅れだろう。大切な人との関係に実りをもたらすには、それが必要になるずっと前から投資をするしか方法はない。
・家族や親しい友人との関係は、人生の最も大きな幸せの拠り所の一つだ。こうした関係に絶えず気を配り、手をかける必要がある。だがそれを阻む2つの力がある。1つは、あなたは直ちに見返りが得られるものに、自分の資源を投資したい誘惑に駆られるだろう。2つには、あなたの家族や友人は、あなたの注目を得ようとして声高に叫ぶことはない。
■そのミルクシェイクは何のために雇ったのか?
●自分は何の用事を片付けるために、パートナーに雇われているのだろう?
・あなたが誰かに雇われる、最も重要な用事の一つが「伴侶になること」。これを正しく理解することが、幸せな結婚生活を維持するカギである。
・あなたも妻も、それぞれが個人的に片付けようとしている基本的な用事を、いつもうまく説明できるとは限らない。妻があなたを雇う理由を説明するとなると、なおさら難しい。
・さらに大事なことに、妻が片付けようとしている用事は、彼女が片付けたがっているとあなたが考える用事とは、かけ離れていることが多い。
・私たちは誰しも、伴侶がどんな用事を片付けようとするかを理解しようと心を砕く代わりに、伴侶が求めているものを、こうだと勝手に決めつけがちだ。
・妻のためを思ってどんなに尽くしても、妻が片付けようとしている用事に目を向けない限り、夫婦の関係に幸せを求めようとする取り組みは挫折する。
・これは結婚生活で一番理解しづらいことかもしれない。善意と深い愛情を持っていても、お互いを根本的に誤解してしまう事がある。
・お互いに対して最も誠実な夫婦は、お堅いが片付けなくてはならない用事を理解した二人であり、その用事を確実に、そしてうまく片付けている二人である。
●犠牲と献身
・「犠牲が献身を深める」。お互いを理解しあい、お互いの用事を片付けようとする努力は、その献身を不動のものにできるかどうかは、伴侶の成功を助け、伴侶を幸せにするために、自分をどれだけ犠牲にできるかにかかっている。
・この犠牲と献身が、深い友情や、充実した幸せな家庭生活、結婚生活の大切な土台だと信じている。
・愛する人に幸せになってほしいと思うのは、自然な気持ちだ。難しいのは、自分がその中で担うべき役割を理解すること。
・大切な人たちが、何を大切に思っているかを理解するには、彼らとの関係を、片付けるべき用事の観点から捉えるのが一番だ。
・そして、その用事を実際に片付ける必要がある。時間と労力を費やし、自分の優先事項や望みを喜んで我慢し、相手を幸せにするために必要なことに集中するのだ。
・相手のために価値あるものを犠牲にすることでこそ、相手への献身が一層深まるのだ。
■子供たちをテセウスの船に乗せる
・企業ができること・できないことを決定する要因、つまり能力は、「資源」「プロセス」「優先事項」の3分類のいずれかに当てはまる。
・これらのうち、最も具体的な形を取るのが「資源」。多くの資源は目で見ることができ、測定可能な場合も多く、経営者が価値を評価しやすい。
・組織が価値を生み出すのは、従業員が資源を使い、プロダクトを生み出すとき。この時の従業員の相互作用、連携、意思疎通、意思決定方法などが「プロセス」。プロセスは、バランスシート上には現れない。
・3つのうち、最も重要な能力が、組織の「優先事項」。企業の意思決定方法を決め、何に投資すべきか、すべきでないか、明確な指針を与える。
・企業が大きくなると、経営者が全ての意思決定はできず、経営幹部が従業員を教育して、自社の優先事項を浸透させ、自力で決定できるようにすることが重要になる。
●我が子にできること、できないこと
・親として、子供が正しい能力を身につけるよう、手助けすることはでき、資源、プロセス、優先事項の能力モデルが役に立つ。
・子供にできること、できないことを決定する要因の1つ目は、資源。金銭的、物質的資源、時間や労力、知識や素質、子供が築いた人間関係や過去から学んだことなど。
・2つ目の要因はプロセスで、子供が自力で新しいことを成し遂げたり、生み出したりするために、自分の持てる資源を使って行うこと。目に見えにくいが、子供の個性を作る大きな要素。
・子供の個人的な優先事項が、3つ目の能力。大人が持っている優先事項とそう変わらず、学校やスポーツ、家族や仕事、信仰など。子供が日々決定を下す方法に影響を与える。どれを最優先するか、先延ばしするか、はなから行なわないかの決定。
・端的に言えば、資源は何かを行う手段、プロセスは方法、優先事項は動機に当たる。
●プロセスを養う機会を、子供から奪ってしまう親たち
・豊かな社会では、一世代前には家庭内で行われていた仕事が、ますますアウトソーシングされている。野菜づくり、衣服づくり、選択やアイロンがけ、庭の手入れなど。
・こういう仕事を業者にアウトソーシングした結果、やることがなくなった今の世代の親は、子供に人生を豊かにする経験をさせようと、献身的に走り回っている。いわゆる「サッカーママ」。
・様々な経験は、一つ一つとってみれば、子供成長できる素晴らしい機会であり、子供は難しい難問を乗り越え、責任を引き受け、チームプレーを学ぶなどの絶好の機会。
・ところが得てして親はそんなことは考えもせず、ただ子供たちに山ほどの経験を与えようとする。自分はこれだけの機会を子供に与えている良い親だと満足することが、親の目的になってしまっていることが少なくない。
・こうした雑念があると、要注意。子供は数々の経験を通して、奥深い重要なプロセスを養い、学んでいるだろうか? それとも、やりなさいと言われて、仕方なくやっているだけではないか?
●わたしの母がしてくれなかったこと
・子供に良かれと思いこうしたことをしていると、結果的に子供は、煩わしい責任を担ったり、複雑な問題を解決したりする機会を全く与えられないまま、大人になってしまう。
・自尊心、つまり自分には解決できるという自信を持って、問題に恐れず取り組む姿勢は、有り余る資源から生まれるのではなく、困難を乗り越え、大切なことを成し遂げてこそ生まれるものだ。
・子供の頃、転んでジーンズを破ってしまった。母に、直して欲しいと頼んだ。
・母は、ミシンの糸のかけ方と使い方を教えてくれた。縫い方と、自分ならこう直すとヒントを教えてくれた。そして自分の仕事に戻っていった。
・私は最初途方にくれたが、最後にはなんとかやり遂げた。
・今にして思えば、この些細な出来事は、人生の決定的瞬間だった。この時の経験から、自分の問題はできるだけ自力で解決することを学び、自力で解決できると自信を持ち、自分がそれをやり遂げたことに誇りを感じた。
・ジーンズの膝は、きれいに直せたはずがないが、それを目にするたびに、うまく直せなかったとは思わなかった。私が感じたのは、自分で直したという誇りだけだった。
・母はどんな気持ちで見守っていたか。たぶん母は、私がつぎ当てを見て思ったことを感じ取ったのだと思う。「この子が直したのね」と。
●子供は学ぶ時期が来れば学ぶ
・アウトソーシングは、子供のプロセスを養う機会を奪うことだけでなく、ずっと大事なもの、価値観、が危険にさらされる。
・子供たちは、学ぶ準備ができたときに学ぶのであって、親が教える準備ができたときに学ぶわけではない。
・優先事項は、子供が人生で何を最も優先させるかを決定づける。実際、これは私たちが子供に授けられる能力の中で、最も重要なもの。
・大切なのは、一つには子供が学ぶ準備ができたとき、親はそばにいる必要があること。二つには、それはいつか親にはわからず、親は普段からの自分の行動を通して、子供たちに学んで欲しい優先事項や価値観を示す必要があること。
・ところが、昔は家庭にいくらでもあった仕事の大部分をアウトソースすることで、子供の生活に空洞を作っている。その結果、子供がいざ学ぶ準備ができたとき、そばにいるのは、親の知らない人であることが多い。
・親が良かれと思ってやっていることでも、親が果たすべき役割をアウトソースするほど、子供は価値観を養う手助けをする、貴重な機会を失うことになる。
・子供が人生の困難に立ち向かうそのとき、あなたがそばにいなければ、彼らの優先事項を、そして人生を方向付ける、貴重な機会を逃すことになってしまう。
■経験の学校
・人の採用や抜てきにおいて、「正しい資質」は将来の成功を予測できない。
・「正しい資質」の考え方は、成功と相関性のあるスキルの羅列に過ぎない。そうではなく「経験したことがあるか」と問う。
●子供を正しい経験の学校に入れる
・あなたは親として、子供が早いうちに重要な経験の講座が取れるよう、ちょっとした機会を見つけてやれる。
・親が手を貸す機会は、いくらでもある。ただその全てが良いものとは限らない。
・例えば、夕食の席で、明日までに出さなければいけないのに、まだ手をつけてない宿罪があると、子供が突然言い出す。こんなとき、親はどうすべきだろう?
・多くの親は、夜中まで付き合って、子供の手助けをする。これにより、子供に与えた講座は「ズルをする」という経験の講座だ。手抜きする方法を学ぶ経験をさせたのだ。
・子供はこう学んだだろう。大変な問題が起きたって、親が助けてくれる。自力で解決しなくていい、努力することより、いい成績をとることの方が大事なんだ。
・親にとっては勇気のいる決断だが、子供に厳しくも貴重な人生の講座を受けさせよう。重要な宿題をおろそかにするとどうなるか、その成り行きを経験させる。夜中までかかって自力で終わらせるか、サボった報いを受けるか。
●設計講座
・子供が困難な状況に陥ると、親はただもう本能的に手を差し伸べようとする。だが、子供は困難に向き合い、ときに失敗することがなければ、困難から立ち直る力という、生涯を通じて必要になる能力を養うことはできない。
・経験をさせたからといって、子供が学ぶべきことを学ぶとは限らない。色々なアイデアを用いて、繰り返す必要がある。
・世の親は、良い学業成績やスポーツの実績など、子供の経歴を積み上げることにこだわる傾向にある。だが子供が生きているのに必要な能力を養う講座をおろそかにするのは間違っている。
・子供がぶつかる困難には、重要な意味がある。子供は大変な経験をすることでこそ、生涯を通して成功するのに必要な能力を磨き、養っていく。
■家庭内の見えざる手
・大抵の人は、自分の家庭がこんな風になってほしいという理想像を持っている。しかし子育てを経験した親は必ず、望んだからといって、それを手に入れられるわけではないと言う。
・自分の望む家庭像と、実際に手に入れる家庭のギャップを縮めるのに役立つ最強ツールの一つが、文化である。
●我が家の行動方針
・企業と同じように、親も優先事項を設けることによって、家族の一人一人が直感的に問題解決し、ジレンマに取り組むことを期待する。子供たちも、家庭の文化が定める「我が家の行動方針」に従って行動する。
・文化は望むと望まざるとに関わらず、生まれる。考えなくてはならないのは、それが生まれる過程に、どれだけ積極的に影響を与えようとするかだ。
・例えば、子供は兄弟を負かしてほしいものを手に入れたり、両親に口答えをして不当な要求を飲ませたりするとき、短期的に「成功」を感じるかもしれない。こうした行動をほおっておく親は、そう言う家庭文化を築いているも同然である。子供に世の中はこういうものだと教え、同じ方法でいつも目的を達成できると教えて居るのと同然だ。